インタビュー

執筆のために知識と経験が必要だっただけなんです――復活したゼロ年代作家、覚悟の告白
撮影:松本 順子 取材・文:おーちようこ
西尾維新、舞城王太郎、佐藤友哉……2000年代初頭にムーブメントとなった“ゼロ年代作家”たち。その中心に屹立していた滝本竜彦が、長年の沈黙を破り新作『ライト・ノベル』を上梓した。「読むと幸せになれる」という小説の新フォーマット、「光の小説」の論理を初めて本格的に導入したという話題の最新作を著者自らが読み解く“光のインタビュー”!
『NHKにようこそ!』から17年、ゼロ年代の旗手、滝本竜彦から届けられたのは、新たな「ライトノベル」のフォーマットだった。
闇の作家だったけれどずっと光の小説を書きたかった
── : 『ライト・ノベル』という、すでにジャンル名として定着している単語がタイトルに掲げられていることに驚きました。どんな意図があったのでしょうか。
滝本: 正直に言ってしまうと、実は未だに自分でもなにを書いたのかわからないんです。 ただ、目指していたのは「光の小説」であり、読み終えた人たちが本を閉じたその瞬間、幸福に包まれる小説です。でも、そういう小説を書くことができなかった、僕自身の力不足をずっと悔やんでいたんです。
── : どういうことでしょう。
滝本: 昨今のライトノベルのフォーマットのひとつに、現世でダメな自分が転生した先で美少女をはじめ、いろいろな存在に助けられて幸せになるというものがあります……。 誤解を恐れず言葉にします。それでは辛いばかりです。その世界に浸っているときは幸せかもしれませんが、現実が変わるわけではありません。そうではなくて、読んだら楽しくなって心が解放されて、読み終わったらハッピーになれる、そんな小説を書きたかったんです。
── : 失礼ながら、そういった作品群が生み出されフォーマット化していく流れは、ご自身をはじめ、佐藤友哉さん、舞城王太郎さん、西尾維新さんといった2000年代デビューの、いわゆる「ゼロ年代」の方々が先鞭を付けられたかと……。
滝本: はい。だからこそ、僕は僕自身のためにも責任を取ろうとあがきました。なぜなら、実は僕自身がかつて「本を読む」という体験でものすごく幸せになったからです。僕の母は、僕を作家にしようと誘導していたみたいで、幼い頃からいろいろな本を与えてくれました。 そのなかで、ある日読んだ『ドラゴンランス戦記』という物語にとてつもない衝撃を受けたんです。あれは、まごうことなく衝撃で、読み終えたときには僕は作家になることを決めていました。
── : いくつのときでしょう。
滝本: 当時、小学生でした。読み終えたときに現実に引き戻すのではなく、ものすごいプラス効果があって、こんな小説を書きたいと思ったんです。
── : 結果、2001年に作家デビューを果たします。デビュー作の『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』、続けて『NHKにようこそ!』は読者に広く迎え入れられました。
滝本: でも、そこが限界でした。本当はもっと読者を幸せにしたかったんですが全然足りなかったんです……。 よく、作家は想像の翼を羽ばたかせ森羅万象を描くと言われますが、僕はダメでした。当時の僕はものすごく暗くて自分の持つ感情の幅の限界を超えることはできない、と思い知ったんです。だから共感してもらえても、ハッピーな気持ちにまで読者を連れていけなかった。書くためには僕自身がハッピーな気持ちを知らなければならない。だから修行を始めました。
自分が足らないと思い知ったからナンパを始めました
── : どんな修行でしょうか。
滝本: ナンパです(きっぱり)。それまで他者に受け入れられたことがなかった僕は、その次に書いた『超人計画』のように、自分自身を改造しようと試みたんです。 そこで、まずは他人と関わろうと決めて、外に出て女の子に声をかけることを始めました。もちろん最初はうまくいきませんでした。100人のうち100 人に無視される日々が続きましたが、だんだんと話を聞いてくれる人が現れて、最近ではときどきお茶をして楽しく話すことができるようになりました!
── : 「小説家になろう」と決めて実際になったこともですが、「ナンパしよう」と決めて、行動に移し成果をあげることがすごいです。
滝本: 僕自身が変わるために必要なことはなんだろうと考えて、辿り着いた結果ですから、実行するのは当然です。こうして、僕は僕がハッピーだと感じられる経験を手に入れました。なので、さらに修行を進めました。
── : どんなことでしょう。
滝本: 先にも言ったとおり、僕が経験したように、小説で読者の精神構造にまで影響を与えたいという願いがあったので、そういった精神世界や瞑想について、あるいは多次元的な世界の有り様について学び始めました。だって、知らないと書けないから。最近では作曲も手がけていて、物語にふさわしい曲も模索しています。 ただ、それらの修行に入り込んでいたために、いつしか世間では「滝本竜彦が次々と付き合う女性を替えている」とか「どこかの宗教に入信したんじゃないか」といった誤解を招いてしまうんですが……(笑)。でも、実はひとえに僕は僕自身の目指す小説を世に出すために努力していただけなんです。
── : 今、誤解を解きましょう!
滝本: はい。僕は宗教には入っていません!! 執筆のために知識と経験が必要だっただけなんです。

『ライト・ノベル』は研究開発みたいな一冊
── : 語るとおり、『ライト・ノベル』には、いわゆる「ライトノベルの要素」が詰め込まれています。舞台は木造の旧校舎、部室棟一番奥の部屋。アイテムは唯一の鍵、異界に通じるロッカー。登場するのは母親との関係に悩む不登校気味の高校生男子、天空から地下世界へと旅する天使、メガネっ子の同級生。チラシの裏に書き殴られた小説、多重構造で語られる世界……そしてクライマックスは文化祭!
滝本: リスペクトも込めて、思いつく限りのことを詰めました。自分でもまさかこんな文化祭の風景が書けるとは思いませんでしたが(笑)、書けるようになったんだと感慨深かったです。 さらに徐々に部室棟が埋まっていきますが、各部の部活にも僕の読者の方には楽しんでいただける仕掛けがあります。もしかしたら……そんな時系列もあったかもしれない、的な。そういった部分も含めて、隅々までライトノベルを意識しました。
── : ですが、読み進むうちに不可思議な感覚に囚われます。なにを読んでいるのかわからなくなってくる快感というか……言語化が難しいのですが……。
滝本: だとしたらうれしいです。物語を追いかけてもらうだけでなく、読んでいるうちに脳の状態をちょっと変えてもらえるような試みも詰め込んでいて、トリップ感というか酩酊感みたいなものも楽しんでほしいんです。だから、最初に言ったとおり、まだ、僕自身、これがなにかはわかりません。言えることは、これは「光の小説」であり、今現在の僕の研究開発の発表だということです。 なので、改めてお伝えするなら、僕はこの小説を、新たなライトノベルのフォーマットのひとつとして提示したい。だからこそタイトルは『ライト・ノベル』でしか、ありえなかったんです。
── : なるほど! すとんと腑に落ちました。
滝本: もともと、この小説の原案は2010年刊行の『カドカワキャラクターズノベル ACT』に掲載した未完の短編でした。そのときから「光の小説」としての構想はあって、担当編集K氏からも「ぜひ、完結を」と辛抱強く待っていただき、10年近くかかりましたが、ようやく世に出すことができました。装画もデビュー作と同じ、安倍吉俊さんにお願いしたいと希望したところ、とても多忙な方なのですが、ご快諾いただけて、感謝しています。
── : 今日はお話を伺え、誤解も解けて(?)なによりです。最後に一言、お願いします。
滝本: めっっっちゃ、おもしろいんで読んでください。癒やしと希望にあふれた気持ちのいい世界が待っています。読んでいただけたらプラスの効果が現れると信じています。さらに『NHKにようこそ!』と読み比べていただくと、作家である僕自身が当時、抱えていた心の闇から現在へと至る、ダイナミックな変化も娯楽のひとつとして味わっていただけると思います。