インタビュー

驚きのしかけ絵本『あけてびっくりしかけえほん ふたをぱかっ』発売! 新井洋行さんインタビュー
撮影:後藤 利江 取材・文:大和田 佳世
あかちゃんとママ&パパに喜ばれる絵本を、数多く生み出している絵本作家、新井洋行さん。『れいぞうこ』など「あけて・あけてえほん」シリーズ(偕成社)や、『ひだり みぎ』(KADOKAWA)といった読者参加型の絵本作りに定評がある人気作家さんです。さて、そんな新井さんが語る、新作絵本の見どころは……? 『あけてびっくり しかけえほん ふたをぱかっ』(KADOKAWA)についてお話を伺いました。

【ふたをぱかっ。湯気がぼわっ!】
── : 表紙の赤いお鍋がとっても可愛い! 『あけてびっくり しかけえほん ふたをぱかっ』を思いついたきっかけは何ですか?
新井: もともと僕は、赤いモノに顔が描いてあるのが好きで……(笑)。赤い鍋のふたをあけたら「湯気がぼわっ!」「おいしそうな匂いがふわ~っ」とするような絵本を作れたらいいなと思ったのがきっかけです。
── : 昨年発売された『あけてびっくりしかけえほん いっせーの ばあ』につづき、大きく開くしかけページがダイナミックですよね。

新井: 『あけてびっくり しかけえほん いっせーの ばあ』も、新刊『あけてびっくり しかけえほん ふたをぱかっ』も、しかけを開くと、絵本を左右に開いたページの、さらにその2倍になりますからね。がばっと絵が大きくなる気持ちよさがいいですよね~。 前作は、いっせいに物がわっと飛び出す面白さを描きました。今回は、鍋やフライパンのふたをあけるときの“わくわく感”と、あけた瞬間においしそうな湯気や匂いが立ちのぼる“感動”を描きたかったんです。

── : 描かれている湯気もこだわりの見どころなんですね。
新井: そうです(笑)。湯気とともに閉じ込められたものが、ふたをあけたとたん目の前に広がるのを表現したいなと。ふたをとった中身の食べ物がいかにおいしそうに見えるかにもこだわりました。

【おでん、餃子、カレー! 子どもの好きなものばかり】
── : 鍋の中はシチュー、おでん、カレー。鉄板の上のハンバーグや、フライパンでじゅうじゅうぱちぱちと音を立てる餃子……。子どもが大好きなものばかりですね。
新井: 最初のラフ絵の段階で、鍋のふたをあけたら、おいしそうな料理があらわれるというイメージはあったんですけど、料理の中身をどうしようかというのは決まるまであれこれ考えました。はじめは“世界各国の鍋料理”もいいな、と思いました。インド風のターバンを頭に巻いた鍋を描いて、ターバンのふたをあけたら辛そうなカレー!とか、コック帽をかぶった鍋のふたをとったらシーフードのトマトスープパスタ!とか。
── : それもおいしそう……。
新井: でも最終的には、読む子どもの年齢にあわせて、子どもにとって身近な料理を入れることにしました。鍋にこだわらず鉄板にふたがあってもいいじゃないかと、「こんがり おにくの いい におい」「ぱりっと じゅわー みんな だいすき ハンバーグ!」なども入れていきました。
── : ちなみに新井さんはどんなハンバーグが好きなんですか?
新井: 僕はあんまりタマネギを入れない派ですね。お肉100%のもっちりした食べごたえのあるハンバーグのほうが好きです(笑)。子どもの頃から、僕はけっこう自分でも料理をするんですよ。
── : いつもお料理をされる新井さんだから、余計に食べ物がリアルでおいしそうなのかも!? おでんのページの具材はどんなふうに決めたんですか?
新井: これも僕が好きなもので、家でよく食べる具材です(笑)。うちは串に刺した牛すじが人気かなあ。あとは昆布、餅巾着、ちくわ、こんにゃく、卵、はんぺん……。あっ、しらたきも好きだな……絵の中に見えないけど、鍋の奥のほうに隠れているということでお願いします(笑)。

── : 「ほくほく じっくり おだしで にこんだ いい におい なべなべ なあに?」しかけページをめくると「はふはふ しみしみ おでん!」……。ふぅふぅしながら食べたくなるこの言葉もたまらないです。
新井: 食べ物の絵本を描いているとすごくお腹が空きますよ(笑)。子どもたちがけっこう好きなんですよね、おでん。寒くなってくると必ず食べたくなりますもんね。やっぱりおでんを絵本に入れられてよかったなと思います。
── : カレーも子どもが好きな定番メニューですね。
新井: せっかくなので野菜をいろいろ入れて、野菜カレーにしてみました。ナスやズッキーニ、アスパラも入っていますよ。うちで僕が作るカレーもだいたい野菜入りのカレーです。鍋から野菜がぴょんと飛び出しているのも楽しそうでしょう(笑)。

── : どんな野菜が入っているのか一目でわかります! 最後は男の子と女の子が、野菜カレーを「いただきます!」。野菜が苦手な子が、絵本を見て「食べてみようかな」と思ってくれたら、お母さんやお父さんもきっと嬉しいですよね。
【食感やおいしさを色で表現】
── : 実は、(取材でお話を伺う前に)見本を事前にいただいて、2歳の息子と読んだのですが、「○○(名前)のすきなぎょうざ~!」と大喜びで、絵本からパクパク食べるまねをしていました。その様子を見ていたら、私も餃子が食べたくなっちゃって、その日の夜ごはんは急遽餃子になったんですよ。
新井: おおっ、それは嬉しいですね。絵本を読んで食べたくなって、実際に作ってもらえるなんて最高です。

── : 餃子の焦げ目がおいしそうで、我慢できなくなったんだと思います(笑)。
新井: 実は、おいしい餃子を描こうと思ったとき、決め手になったのが色でした。自然界に無限に色があるように、餃子も、ぱりぱりに焼けたところから、半分透き通ったジューシーなところ、皮が白っぽいところまでたくさんの色があります。「ぱりぱり」と「もっちり」両方を出すにはどんな色で表現すればいいのか……。色の明度の違いでも、やわらかさや質感を表現できます。光と影のコントラストに気を配りながら、試行錯誤で描いていきました。
── : 「おいしそう」の裏に、緻密な色彩設計があるのですね。
新井: 絵を見たとき、餃子を口に入れたときの食感や、「ぱりぱり」という音の記憶がよみがえってほしい。味、あたたかさ、匂いをすべて表現したいと思いながら描きました。
── : ちなみに新井さんのお気に入りの餃子はどんなものですか?
新井: 豚ひき肉に、海老と白菜、ネギ、ニラ、ショウガ、ニンニクです。刻んだ海老が入っているとぷりぷりした食感になりますよね。あと、キャベツよりは刻んだ白菜を入れるほうがジューシーになる感じがするんです。よかったら今度試してみてください(笑)。
【キャッチボールの中から生まれる絵本作り】
── : 「あやしい けむりが もくもく ぐつぐつ」「ふつふつ どろーり まじょの なべ!」ちょっとこわい鍋が登場するのも見どころですね。
新井: 編集者さんが「闇鍋を入れたい」というので(笑)、それじゃ絵本らしく魔女の鍋にしましょうとこの場面を入れました。ラフの段階では木の根っこや葉っぱなんかも入っていたんですけど、やっぱり子どもが見つけて楽しめるものを入れようと、バナナとかキャンディーとかいろいろ入れました(笑)。 電車みたいに食べられないおもちゃを鍋に入れるのは抵抗がありましたが、魔女の鍋ですから。湯気も紫だし、おばけもいるし、「え?」という違和感がドキドキにつながったらいいかなと。
そもそも「あけてびっくり しかけえほん」シリーズの形状が絵本に使われるのは同シリーズが“初”なんです。ダイナミックにページが広がる気持ちよさを存分に味わいつつ、子どもたちに何度も遊んでもらうためにはどうしたらいいか、こちらからアイディアを出し、編集さんと意見を出し合い、キャッチボールをしながら作っていくのは楽しかったです。
── : だからきっと『あけてびっくり しかけえほん いっせーの ばあ』も『あけてびっくり しかけえほん ふたをぱかっ』も、飽きない楽しさが詰まった絵本になっているのですね。
新井: 『あけてびっくり しかけえほん ふたをぱかっ』は、鍋の中身や食材の当てっこクイズもできるお得な絵本ですから、ぜひ低年齢のお子さんから小学生まで楽しんでいただけたらなと思います。 『あけてびっくり しかけえほん いっせーの ばあ』とあわせて、2冊セットでクリスマスプレゼントにもおすすめです。ぜひ手にとってみてくださいね。

新井 洋行(あらい・ひろゆき)
1974 年東京生まれ。二人の娘の父。絵本作家、デザイナー。
絵本に『れいぞうこ』(偕成社)、『いろいろ ばあ』(えほんの杜)、『おやすみなさい』(童心社)、『ツリーさん』(講談社)、『カラフルアニマル』(コクヨ S&T)、『おばけと ホットケーキ』(くもん出版) 、『ひだり みぎ』(小社)など多数。
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