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特集

人づきあいに悩む背中をそっと押してくれる7つの物語。『それでも空は青い』

撮影:洞澤 佐智子  取材・文:高倉 優子 

多様なジャンルの物語を生み出し続ける荻原浩さん。最新作は、家族以外の近しい人間関係をテーマにした「非家族」短篇集です。
なぜ「非家族」小説が書きたくなったのでしょうか? また短篇集を書く際の苦労や楽しみ、タイトルの意味などについてもお聞きしてきました。

期待は〝裏切り〟たい

── : 最新刊『それでも空は青い』は、「小説 野性時代」に不定期掲載された短篇六話に、書き下ろし一話を加えた全七話で構成されています。雑誌掲載時は、どのようなことを意識してお書きになっていたのでしょうか?

荻原: 連載を短篇集にする場合、最初から具体的なテーマがあるわけではありません。一作目の「スピードキング」(「スピードスター」改題)は、「ヒーロー特集に合った短篇を」というお題をいただいて書いたものなんです。その後、「ご自由にもう一作」という依頼があったので、同窓会を舞台にした「妖精たちの時間」を書きました。  三度目からは、さすがに短篇集にしていただけることを意識していました。二作続けて同級生の話を書いたので、「同級生シリーズ」にするという手もあったのですが、それでは普通だなと思いなおして。それならば家族以外の、近しい人間関係を軸にした話を書いてみようと思ったんです。

── : どうして「家族以外」と限定されたのでしょうか。

荻原: 「スピードキング」を書いたころ、僕は「家族小説を書くやつ」と世間から言われ始めていた気がするんです。あと、「ハートウォーミングな作風」とか。そういう作品ばかり書いてきたわけではないので、僕としては「そうじゃないよ」と言い返したくもなるけれど、世間にそう思われているというのであれば軌道修正しなくちゃいけないし、何冊か読んでくれた人が飽きないように工夫しなくちゃいけないと思ったんです。

── : 「○○である」と言い切られるのが、あまりお好きじゃない、と?

荻原: そうですね。だって期待は裏切りたいじゃないですか(笑)。ただ、家族小説から逃げてみたものの、逃げきれないところもありました。それでも血の繋がりがない疑似家族の話だったり、家族になる前の関係性であったりと、変化球的に「非家族小説」を書いたつもりです。

同窓会は人生の品評会

── : それでは順番にお聞きしていきます。まず一話目の「スピードキング」ですが、かつて同じ高校の野球部に所属していた、プロ野球選手になる夢を諦めきれない「俺」と、プロ野球選手として活躍している藤嶋をめぐる物語です。

荻原: 同じ目標を持った二人のうち、一人は成功し、もう一人は挫折する。挫折した側からすると応援はしたいけれど、自分が成し遂げられなかった悔しさもあり……。野球に限らず、どんな分野でもこういう関係ってあると思うんですよ。それが描けたらいいなと。

── : 荻原さんは、もともと野球がお好きなんですか?

荻原: 子ども時代は友人たちと原っぱで野球をしましたし、大人になった今ではプロ野球観戦を楽しんでいます。僕、阪神のファンなんですよ。  ただし、野球は男二人の関係性を描くための舞台装置ですから、野球をよく知らない人にも楽しんでもらえるように書くことを心がけました。

── : 次に、久しぶりに同窓会に出席した「僕」が、憧れのマドンナと再会する「妖精たちの時間」について。作中の、「同窓会というのは、人生の品評会でもあるのだな。自分の人生に『いいね!』をクリックしてもらうための」という文章が、強く印象に残りました。

荻原: 同窓会って六十くらいになると急に増えるんです。仕事も落ち着くし、みんなどうしてるのかな? と気になるんでしょうね。ちょうどこれを書いていた頃にもあったんですよ。 「いいねクリック」のことは、ある同級生が「ここには自分のことを語りたい人が来るんだよ」と言っていて、ハッとしたんです。確かにそうかもしれない、と。実際、スマホで「見る? 見る?」と孫やペットの写真をたくさん見せられました(笑)。

結婚前のカップルは究極の非家族

── : 「あなたによく似た機械」は、近未来を舞台にしたSF調の物語です。少し切ないお話ですね。

荻原: ある朝起きたら、足元に謎のネジが落っこちていたんですよ。「これ、俺のネジなんじゃないか?」「これを頭にはめたらシャキッとするかもしれない」などと夢想したことが創作のきっかけになりました。  余談ですが、「小説 野性時代」に掲載した時は、「ロボットは走れない」と書いたのですが、ニュースで、走れるどころか宙返りもできると知って、単行本ではその部分を取りました。少しの間に技術は驚くほど進歩するものですね。

── : 続いて、「僕と彼女と牛男のレシピ」。こちらはタイトルが非常にユニークです。「牛男って何だ?」と、気になりました。

荻原: まさにタイトルで騙されてほしくて付けたんです。また、「うしお」と聞いて、すぐに「牛男」という漢字を思い浮かべる純朴なバーテンダーと、もうひとり登場するインテリ男性とを対比させる効果もあるんじゃないか、と。

── : なるほど。確かに、漢字の使い方や言葉の選び方には個性が出ますよね。カクテルのネーミング、「ナースコール」も洒落が効いていました。

荻原: 人名や社名などはすごく考えるし、ネットで検索するようにしています。なるべく検索してゼロになる名称を選びたいんです。実在する名称をもじるのもあまり好きじゃない。たとえば、「角山書店」とかね(笑)。  この話は「連れ子がいる女性を愛せるか」というテーマで書きました。考えてみたら結婚前のカップルは究極の「非家族」なんじゃないかと思って。

小説を視覚で楽しむ

── : ちなみに、作品の並びは執筆された順番と同じですか?

荻原: 少し入れ替えました。何回か書いていくうちに、編集者から女性視点の話が少ないという指摘をもらい、後半に書いたものを前に持ってきたりしています。そのひとつが「君を守るために、」です。

── : こちら、他の作品とは違う読み応えで、ユーモアもあり、楽しく読みました。

荻原: 短篇集って全体のトーンを崩さないと一冊の本として面白くないと思うんです。全部、ウェットな話になりそうだったから、後半からはそれを崩しにかかりました。短篇集を前提として書いていると、後半からどんどん苦しくなるんです(笑)。投げる球が限られてくるというか。 「君を守るために、」を書いたのは、まさにその辛い時期でした。女性視点という縛りもあったし、どうしたものかと悩んでいたら、「犬の監視カメラ」「誰かがいる」と書いたポストイットを壁に貼っていたことを思い出したんです。別にネタ帳みたいなものを作っているわけではないのですが、たまたまメモしていたそれを見て、「ストーカーの話にしようかな……」と、構想が膨らんでいったんです。

── : ちなみに、女性の視点で書く際に気をつけていらっしゃることはありますか?

荻原: そんなにないです。普段使う言葉って男女ともそんなに変わらないじゃないですか。立場が違うだけで考えていることは同じだと思うんです。時々、僕が女性から言われた言葉をひっくり返して書くこともありますね。

── : 「ダブルトラブルギャンブル」は双子が主人公ですね。

荻原: 双子って同時刻に離れた場所で同じことをしていたりと、シンクロニシティな現象があるとよく聞きます。それが面白くていつか書いてみたいと思っていました。意識したのは「文字で遊ぶ」こと。双子の台詞など、文字数をまったく同じにして、文章の長さを揃えるということをあちこちでやっています。校正の際に、改ページしてズレた部分を直したり、意外と細かい作業でした。でも内容だけじゃなく、見た目から小説を楽しんでもらえたらいいなと思うんですよ。

── : 「僕と彼女と牛男のレシピ」の作中、カクテルの絵文字がありますが、これは荻原さんの手作りだとお聞きしました!

荻原: 外国の文字を組み合わせて作ってみました。イラストを発注するとお金がかかるし、小説ってもっと文字を活用するというか、工夫して〝見せる〟ことができるんじゃないかと思っているんです。ちなみに、「スピードキング」では野球の白球、最後の「人生はパイナップル」では輪切りのパイナップルをイメージした絵文字があるので探してみてください(笑)。

── : それではその「人生はパイナップル」について。こちらは唯一の書き下ろしですが、着想は?

荻原: 最初が野球の話だったので、最後も意図的に野球の話で締めようと思いました。また、祖父と孫息子の組み合わせも書いていなかったのでちょうどいいかな、と。おじいちゃんがどこで野球をやっていたか考えていた時、ふと、パイナップル畑のイメージが浮かんだんです。そこから戦前の台湾で甲子園に出場したことがある人物という設定になりました。

── : おじいちゃんと孫がキャッチボールするシーンが心に残ります。

荻原: 「心のキャッチボール」とはよく言ったもので、キャッチボールをしているとよく会話するんですよ。個人的にも好きなシーンです。

「それでも」に込めた想いがある

── : タイトル『それでも空は青い』に込められた想いは?

荻原: じつは「スピードキング」を書いた頃、古い友人が亡くなったんです。ある日、彼から電話がかかってきたのですが、出てみたら声の主は奥さん。なんだか胸騒ぎがして話を聞いてみると「秘密にしておくように言われたんですが、じつは主人の余命がわずかなんです」と。その日の空はとても青かった。葬式の日も青くて……。その青さがずっと心に残っていたんです。 「それでも」には、「いろいろあるけど、それでも頑張ろう!」という意味もあるけれど、「こんなに悲しいのに、それでも空は青い」という世の無常さもあるんです。

── : なるほど。確かに、「スピードキング」の冒頭、「空がどんなに青くても、日差しが暖かくても、気持ちのいい風が吹いていても、人は死ぬ」と綴ってらっしゃいますよね。

荻原: その時のことを題材に書いたエッセイ(『極小農園日記』に収録)も同じタイトルなんです。気に入っていたこともあり、また短篇集全体の話にも共通する要素だと思ったのでこのタイトルにしました。

── : 完成してみて、いかがですか?

荻原: 僕は「最新作が自己ベスト」だと思っているので、自己ベストの短篇集ができたと嬉しく思います。


荻原 浩

1956年埼玉県生まれ。広告制作会社、コピーライターを経て、97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。近刊に『金魚姫』『逢魔が時に会いましょう』など。

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