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特集

子どもたちが夢中! 読み聞かせのプロ・保育士の翻訳絵本 『まいごのたまご』刊行インタビュー

取材・文:大和田 佳世 

ティラノサウルス、トリケラトプス、ブラキオサウルス、プテラノドン……子どもが大好きな恐竜がせいぞろい! 絵本『まいごのたまご』は、巣からころがり落ちたたまごが「ぼくのママは、どこ?」とお母さんを探すお話です。色あざやかな恐竜の絵、オノマトペが楽しい『まいごのたまご』を翻訳したのは〈聞かせ屋。けいたろう〉さん。日本で唯一の、絵本の読み聞かせプロである〈聞かせ屋。けいたろう〉さんが本書を翻訳したいきさつと、けいたろうさん流「絵本の楽しみ方」をお聞きしました。

●“読み聞かせ界のトップ・ランナー”が訳した絵本

── : 〈聞かせ屋。けいたろう〉さんは日本で唯一の、絵本の読み聞かせのプロですが、どんな活動をされているんですか?

けいたろう: 僕は、2006年から夜の路上で絵本の読み聞かせをはじめました。保育士をしながら、週末に路上で読み聞かせライブをしていましたが、その活動がだんだん広がって、今ではあちこちからお声かけいただき、公演家として全国各地を飛び回っています。保育園、幼稚園、絵本の読み聞かせイベント、保育者研修会など、年間約160か所で絵本の読み聞かせをしていますが、例えばここ半年では新潟、大阪、三重、北海道、埼玉、八丈島(東京)、静岡、福島、宮城、富山に出かけていって絵本を読みました。

── : まさに、絵本読み聞かせ界のトップ・ランナー! そんな〈聞かせ屋。けいたろう〉さんが翻訳した絵本『まいごのたまご』はどんなお話ですか?

けいたろう: 大むかし、風に吹かれて山からころがり落ちてきた、まいごのたまごのお話です。「ぼく、あなたの たまごですか?」とあたりにいた恐竜たちに話しかけますが、なかなかお母さんは見つかりません。ステゴサウルス、ブラキオサウルス、トリケラトプス、ティラノサウルスなど人気の恐竜たちが登場します。最後は家族の愛情を感じられる素敵な絵本ですよ。

── : 「ころころ」「ぽーん」「どしんどしん」といったオノマトペがたくさん出てくるのも楽しいですね。

けいたろう: 擬音語・擬態語を使うことで、お話が生き生きと進んでいくのを子どもたちに感じてもらえるんじゃないかと思いました。やっぱり僕は〈聞かせ屋。〉ですから、読み聞かせが楽しい絵本になるように、リズムのいい訳文を目指しましたよ。「ころころ ころころ ころがって」「いわに ぶつかり、ぽーーーんとはねて、ようやく、ストンととまりました」と、声に出して読んでみると気持ちいいでしょう? 思わず口にしたくなるような“心地いい音”を意識しました。

●色あざやかな恐竜にくぎづけ!

── : 南アフリカ在住の絵本作家であるアレックス・ラティマーが描く恐竜が魅力的ですね。子どもたちはこの絵本にどんな反応をするでしょうか?

けいたろう: 最初の恐竜、ステゴサウルスが出てきたページで、もう、子どもたちの目が輝きます。僕も最初に見たとき、この真っ赤なステゴサウルスの絵に「おおっ」と思いました(笑)。あざやかな色もフォルムも素敵ですよね。 そのあとも次々出てくる恐竜に、みんなの目が引きつけられているのがわかります。まいごになってしまったたまご……ちゃんとお母さんの元に帰れるの? と、ドキドキわくわくしながら絵本を見てくれていますよ。

── : まいごのたまごは、ステゴサウルスに「ツンツンはあるかい?」と聞かれて「ありません」と答えます。ブラキオサウルスに「くびはながいのかい?」、トリケラトプスに「つのはあるのかい?」と聞かれますが、長い首もツノもないみたい……。じゃあ一体どんな恐竜のたまごなの!? 子どもたちは気になってしょうがないでしょうね。

けいたろう: 原書では「ツンツンはないよ」「くびはみじかいよ」「つのはないよ」……と3回答えた後、4・5回目もやっぱり「ないよ」というシンプルな答えだったんです。でも僕は、4回目のたまごの答えに、子どもたちがドキドキするようなヒントがほしい!と思いました。そこで、編集者さんや恐竜絵本作家の黒川みつひろさんに相談して、4回目で「おやま みたいな とさかはないよ」「とんがりとさかは、あるけれど」と付け加えました。

── : 原文の要素に、日本の子どもたちが喜ぶようなヒントを付け加えたのですね。

けいたろう: 「ないよ」だけじゃなく、「おやま みたいな とさかはないよ」「とんがりとさかは、あるけれど」と、とさかの形状について踏み込んだ訳文にしたことで、思った通り、「とんがりとさか」のキーワードに反応した子から「プテラノドンじゃない!?」と声があがって、このページに来ると恐竜好きの子どもたちがガヤガヤ、ざわざわ騒ぎ出すんですよ(笑)。 そして5回目の「ぎざぎざの歯はないよ。ながいくちばしはあるけれど」で、「やっぱりプテラノドンだよ!」と大盛り上がりになります(笑)。「とんがりとさか」と「ながいくちばし」が、まさにプテラノドンの特徴をあらわすキーワードなんですね。

●恐竜の絵本作家もお墨付き!

── : 絵本作家の黒川みつひろさんには、どんな相談をされたんですか?

けいたろう: 黒川みつひろさんはプテラノドンも含め恐竜の絵本をたくさん描いている作家さんで、子どもが好きな恐竜の世界をよく知っている方です。翻訳にあたり、プテラノドンの特徴や、どんな生き物だったと推測されているのかを、自分でも出来る限り図鑑で調べたんですが、どうしても最後に疑問が残ったところがあって……。プテラノドンが巣に舞い降りてくる場面で「バサッ バサッ」と訳したところを、その訳でいいだろうかなどを相談しました。

── : 「バサッ バサッ」はどんな原文だったのですか?

けいたろう: 原文は「ドシン ドシン」と訳すこともできるような擬音語でしたが、プテラノドンは、体長が大型犬くらいしかなく、体重もそんなに重くないはずなんです。「ドシン ドシン」という重みのある訳は違うなと思いました。 黒川さんも、たしかにプテラノドンは翼を動かさずにスーッと滑空して飛ぶと思われているけれど、空中に止まるためにはバサッバサッと逆向きに風を送って、それから巣に舞い降りただろうから、「バサッ バサッ」でいいんじゃないかと。「いい訳をしたね」とお墨付きをいただいてうれしかったです。

●〈聞かせ屋。〉の財産が生きた訳文

── : そもそも〈聞かせ屋。〉であるけいたろうさんが、絵本を翻訳することになったきっかけは何だったのですか?

けいたろう: 編集者さんから「3歳の息子が、けいたろうさんの絵本『どうぶつしんちょうそくてい』『どうぶつたいじゅうそくてい』(共に、アリス館)の文章のテンポやリズムが大好きなんですが、絵本の翻訳をお願いできませんか」と依頼があったんです。それでこの本の原書を見せてもらうことになり、見た瞬間、恐竜の絵に目を奪われて「うわっ、いいなあ」と思いました。「この絵本を日本のみんなに知ってほしい」と思ったので、「ぜひ翻訳をさせてください」とお返事しました。

── : 初めての翻訳だそうですが、やってみて、いかがでしたか?

けいたろう: 楽しかったですよ! 初めてのことってドキドキして楽しいですよね。もともとアメリカで路上読み聞かせライブをしたこともあるくらいですから、英語を勉強するのは好きなんです(笑)。ただ今回は〈聞かせ屋。けいたろう〉の翻訳ですから、あえて、フォーマルな訳にとらわれすぎないよう、より自由にインスピレーションを働かせて訳すように心がけました。日本語のリズムが気持ちいい文になるように、いろんな角度から解釈を深め、ギリギリまで文章を削って、子どもも大人も声に出して読みやすい、絵本の文章を作ってきました。

── : 翻訳中に、読み聞かせの現場で、ためし読みをしましたか?

けいたろう: 非常勤で働いている保育園の3・4・5歳クラスで読んでみましたよ。子どもたちの前で読んでみると「ここは長いな」「意味が伝わりにくいな」とわかるので、反応を見ながら何度も修正して、より読みやすい訳文を作りあげていきました。読み聞かせイベントや、信頼している編集者さんが運営する絵本の研究会でも、参加者のみなさんに読んでもらいました。

── : 〈聞かせ屋。けいたろう〉さんならではの翻訳作業ですね。

けいたろう: 〈聞かせ屋。けいたろう〉として続けてきた活動の “財産”が生かされた翻訳になったと思います。保育現場の子どもたちや、読み聞かせの活動の中で出会った、意見やアドバイスをくれる方たち……。机の上での翻訳作業だけでなく、〈聞かせ屋。けいたろう〉だからこそ拾い集めることができた、リアルな声や反応を、文章に反映させられたと思います。 たまごを巣に戻すために、恐竜たちが山を登る場面で、「たまごが まいごだ、うんとこしょ えっちら おっちら どっこいしょ」と訳したのは、いちばん僕らしい、いい訳になったんじゃないかな(笑)。 韻を踏み、繰り返しがあり、「うんとこしょどっこいしょ」や「えっちらおっちら」の日本語のおもしろさが生きていますよね。歌に例えるなら「サビ」の部分で、絵本でいちばん盛り上がるところですから、声に出して楽しく読んでほしいです。

●絵本は、親子の肌が触れあう距離で読むのが一番

── : 〈聞かせ屋。けいたろう〉さんは、読み聞かせの絵本をどんなふうに選んでいますか? 選び方にコツがあったら教えてください。

けいたろう: たくさんの親子に向けて読むときは、対称年齢が幅広い絵本を選びますが、家庭では、大好きなお母さんお父さんに読んでもらって、子どもが楽しんでいるものならば、どんな絵本でもいいと思っています! 絵本は、親子の肌が触れあう距離で読むのがいちばん。声色を作ったり、上手に読もうとしたりしなくていいんです。膝の上にお子さんを抱っこして絵本を開けば、大好きな人が響かせてくれる声や、肌が触れあっているあたたかさや安心感が、子どもにきっと伝わると思います。

── : 『まいごのたまご』のように大判の絵本を、親子であじわうのも楽しいでしょうね。

けいたろう: 絵本はいろんな楽しみ方ができます。紙の手触りや、裏表紙に描かれているのはどの場面かを探したり、見返しで恐竜の名前クイズをするのもいいですよね。恐竜のまわりに描き込まれた植物や虫をじっくり眺めたり、「ここにバッタがいるね」と見つけあいっこするのも楽しいですよ。 僕は、文字が読めるようになった子どもにも、読み聞かせをしてあげてほしいんです。絵本を読んでもらっている間、子どもは何をしているかというと、絵に描かれているいろんなものをじっと見ています。文字が読める、読めないは関係なく、耳から言葉が入ってくることで、読み聞かせの間、絵をあじわう時間を子どもは約束されています。そういう時間がすごくいいなと思っているんです。 子どもが「絵本を読んで」と言ったときに、大人のみなさんは「もう文字が読めるんだから1人で読みなさい」なんて言わずに、「一緒に絵本を楽しみたいのかな」「絵を見たいのかな」「ただ、そばにいたいのかな」といろんな風に受け止めて、読んであげてほしいですね。絵本が親子をつなげてくれる時間、何かのきっかけをくれる時間は、すばらしいものですから、ぜひ気軽に絵本に触れてくださいね!

聞かせ屋。けいたろう
保育士。絵本作家。プロの読み聞かせ屋。2006年から、夜の路上で絵本の読み聞かせをはじめた。その活動が評判となり、現在は、絵本読み聞かせ界のトップランナー。年間約160か所で、絵本の読み聞かせイベント、保育者研修会など、日本全国で公演活動を行っている。


聞かせ屋。けいたろう

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