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特集

2023年が終わる前に、絶対に読んでおきたい小説6選【2023年KADOKAWA文芸書話題作まとめ】

ついこの間まで、いつから冬になるのだろう、なんて首をかしげていたのが、あっという間に冬になって、カレンダーを見ればもう師走。年の初めに立てた目標は、いくつ形になりましたか。年の初めなんてもう覚えていない、とすでに今年のことを忘れ始めている人もちらほら。忘年会などというものが開かれてしまえば、今年あった苦労の数々なんてもう……。
それでも、2023年という年の痕跡をもう少しだけ自分のなかに残したいあなたに、読んでほしい本があります。
今年も、誰かに届けたい本がたくさん生まれました。KADOKAWA文芸編集部より今年刊行した話題作の中から、「2023年も本を読んだ!」と満足して新年を迎えるために、読み逃せない6冊をご紹介します。大変だったことは言葉にして今年に置いておいて、楽しかったことは大切に来年へ持っていく。それから本も一緒に、何冊か、好きな数だけ。
新しい年も皆さんの隣に、すばらしい本がありますように。
(カドブン季節労働者W)

2023年の記憶に残る、絶対に読み逃してほしくない小説6選

吉川トリコ『あわのまにまに』(KADOKAWA刊)



 いまさらだけど、愛ってなんだろう。
 わからなくなると、最近、この本を読み返している。

 はじまりは、2029年のある家族の日々だ。
 変てこりんな家にひとりで住んでいたおばあちゃんが亡くなって、9歳の木綿(ゆう)たち一家と叔母さん一家は連れ立って、ごみ屋敷と化した家の片づけにゆく。そんなほんのちょっとの非日常の中に、浮かび上がってくるかすかな違和感。木綿はうすうす気づいていた。うちの家族はふつうとはちがう。
 そこから、物語は時を遡ってゆく。2019年のクルーズ船、木綿の父・悠和(はるちか)と母・いのりの新婚旅行、なぜかそこにいる「兄」のシオン。2009年のクリスマス、いのりに贈られたダイヤの指輪の行方、1999年、ノストラダムスの予言でも滅亡しなかった世界で、いのりのことが大好きな青年は苦悩する。1989年、いのりの母・紺の夫が死んだ日のこと。1979年、好きな人とずっと一緒にいるために、紺がした選択――。
 この長い時間を彼らと一緒に生きても、愛ってなんなんだかはよくわからない。なにが正しくて、何が間違っているのかは、さらにわからない。ただ、ぜんぶの登場人物が、誰かのことを全力で思ってきた。そこには時代ごとの限界や、彼ら自身の過ちや、そのせいで手の施しようもなく綻びた関係性や、歪んだ人生もあっただろう。
 それでも、誰かを一心に思うことは祈りに似ている。「光あれ」とでもいうような、原始的な、でも果てしなく切実な祈りが、どの時間にもあった。
 そして50年の月日は流れ。
 プリンをあげるから帰ってきてよ、と木綿は言う。夏休みのあいだ、あたしが働いて稼いだプリンを三百六十五日、ぜんぶあげる。だから帰ってきて、と。どれだけプリンを積まれたところで、もう帰らないとシオンはいう。幼稚なやりとりに紛らせて、互いへの思いをぶつけあうふたりの間には、カテゴライズできない、根拠もない、でも確かに未来へつながるものがあるのだ。それを「光」と呼んでも、いいのかもしれない。
(カドブン季節労働者K)

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木内昇『かたばみ』(KADOKAWA刊)



 読みながら何度も、本を閉じかけた。そのたび、ぎゅっと目をつむった。その時々で違った感情が流れ出し、涙があふれた。どれくらいそうしただろう。最後の一行にたどり着くと、本を閉じ、しばらく目をひらけなかった。
 太平洋戦争のさなか、肩の故障で槍投げ選手の夢を諦め、国民学校の教員となった悌子は、子どもたちを戦争へと駆り立てる国家の教育に疑問を抱きながら、彼らに正直に向きあおうと苦悩する。いずれは自分と結婚するものと思っていた幼馴染みは知らぬ間に嫁をとってしまい、生徒たちにかける言葉は国の方針と本音の狭間で揺れ動き、やがて広がる戦火は無情にも大切な人々の命を奪っていく。そんな、食べ物が、行動や言葉の自由が、さらには人の命が失われていく日々を、悌子と彼女の教え子たち、彼女が身を寄せる下宿先の家族たちが、もがきながら生きていく物語だ。悌子はその下宿先で、ともに生きる夫と、我が子に出会うことになる。
 本をたびたび閉じては目をつむったのは、悲しくつらい現実から目を背けたかったからではない。もちろん悲しい場面もあったが、むしろ前向きな瞬間や、何気ない日常の一幕に、胸打たれ、思わず目をつむった。
「さ、早く寝転んで」校庭に寝ころび、大きな声で本当の気持ちを叫ぶ子どもたち。「ひとりで食べるの、私は嫌よ」落ち込んだ同居人を夕食に誘う思いやり。「なんなんだ、この生き物はっ」いとけない子の愛おしさに打ち震える父親。「想像することを手放しちゃいけないよ」心無い他人の言葉に傷ついた家族への心配。「カタバミね。かわいいわね」我が子に何も押しつけぬ存在でありたいという、父と母の願い。
 派手な事件も大げさな振る舞いも一切なく、ただ丹念に綴られる戦中戦後の日常に、こんなにも心が満たされるのは、そうか、自分はどこまでも一所懸命に生きる人々の営みに、救われているのだ。互いの弱さを見せあいながら、思いやりあって、真っすぐに生きようとしている彼ら一人一人が、愛しくてたまらないのだ。
 大切にしたいたくさんの言葉と気持ちが詰まった、折々読み返すだろう一冊。
(カドブン季節労働者W)

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冲方丁『骨灰』(KADOKAWA刊)



 怖い、本当に怖い。
 主人公の松永光弘は大手ゼネコンのIR(投資家向け広報)担当だ。2015年のある日、再開発に沸く渋谷で、自社の工事現場に関する不穏なつぶやきがSNSに上がる。
「東棟地下、施工ミス連発」「いるだけで病気になる」「絶対に有害なものが出てる」「作業員全員入院」……「人骨が出た穴なのに誰も言わない」しかも、すべて異なる現場の画像付きで。上司の命を受け、光弘はただひとり、地下の現場へ向かう――。
 これだけでもう、多くの社会人にとって胃を絞るような怖さなわけだが、そこには骨を焼くような異臭とともに、大書された「鎭」の文字が。さらに下層では、ひとりの男が鎖につながれていた。この男に会ったことが、そして逃がしてしまったことが、本当の恐怖の幕開けだ。
 執拗に鳴り続けるドアチャイム(開けても、誰もいない)から始まり、光弘と家族になにかが迫ってくる。火と熱と、灰と、骨の焼ける臭いとともに。打つ手、打つ手、すべてが先回りされ、無効化される。やがてそれは、最も親しい者の姿をとって、心をも侵食し始めるのだ。
 逃げ場は、ない。
 冒頭から周到に、執拗なまでに積み重ねられるリアリティは、読む者全員にとってこの恐怖を他人事でないものにしている。もしかしたらこの物語こそが、我々の本当の「現実」なのかもしれないと思ってしまうほどに。
「知ってるか? おれたちみんな死者の上で生活しているんだ」
 ここ東京で、彼方の中東で、ヨーロッパで、アフリカで、そのほか世界中のあらゆるところで、ひとを焼く炎と煙は上がり続けてきた、そして今も、この先もきっと。闇に紛れひそやかに、或いは太陽の下で公然と、それだけの違いなのかもしれない。
 だから、 逃げ場は、ないのだ。
 極上のエンタテインメントでありながら、世界の裂け目に引きずり込む禍々しい力を放つ、これこそがホラー、と叫びたい1冊だ。年末のしずかな日になんの用事も入れず、携帯も切って、ぜひ一気読みしてください。
(カドブン季節労働者K)

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辻村深月『この夏の星を見る』(KADOKAWA刊)



 これは、私の物語だ。
 読む者にそう思わせる引力が、辻村深月作品にはある。特に青春小説において、学校の教室に置き忘れてきたような、疎外感や哀しみを読者は思い出すことになる。こんな感情、確かにあったな、ここで描かれているのは私自身の話じゃないか、と。
 辻村作品は人間を単純化しないし、世界を雑に捉えたりしない。複雑なものを複雑なまま描き出すことで、その物語は人の心を惹きつける。
 2020年、コロナ禍の青春を辻村深月がまっすぐに描いたのが『この夏の星を見る』だ。その眼差しはどこか冷静で、自分の周りの世界に起きることを一つも見逃さず、描き出す解像度を備えているように思う。理不尽なすれ違い、未知のウイルスへの恐怖、そしてコミュニケーションを分断されるようなもどかしさの中、少年少女は天文活動を通じて少しずつ繋がりを回復していく。
 友人と一緒に同じ星を見たいという、本当にささやかな祈りに、これほど涙が溢れるのはなぜだろう。私はこのシーンを読んで、「生きていて良かった」と思った。どうしようもないことも多い世界だけど、悪くない瞬間もあるじゃないか、と。
 『この夏の星を見る』は、私の物語でもあり、これから読むあなたの物語でもある。ここには、あなたの心を震わせる言葉がきっとある。
(カドブン季節労働者F)

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伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』(KADOKAWA刊)



 ちょっと待って。どういうこと——。これは、登場人物の一人の台詞だ。舞台は高級ホテル。2010号室にいる七尾は、不運ばかりの殺し屋。「部屋に行って荷物を渡す」だけの簡単な仕事を引き受けたはずが、ホテルから脱出できない事態に巻き込まれてしまう。1914号室にいる紙野結花は、どんなこともずっと覚えていて、忘れられない。その驚異的な記憶力のせいで、悪い奴らに追われてしまう。
 「どういうこと」と嘆きたくなる出来事に次々と遭遇し、目の前の危険を振り払うのに必死な彼らを、安全圏にいる僕たち読者は好きなだけ心配し、応援し、一方で次の展開に期待し、彼らがさらに大きな出来事に巻き込まれていくさまをついつい楽しんでしまう。けれど読者だっていつまでも安心してはいられない。読者自身が「ちょっと待って。どういうこと」と叫びたくなる展開が待っているからだ。
 読みどころは展開の楽しさだけではない。自分にはこんな個性があるから、こんな人生になってしまった。七尾と紙野に限らず、登場人物たちはそんな痛みや苦しみを抱えている。スロットマシンを回しても、ラッキーセブンが一つも出ないような人生だ。けれど彼らの人生には彼らなりの、彼らならではの、たどり着く先がある。ページをめくる手を止めて、「ちょっと待って。そういうことか!」とつい叫びだす、その瞬間を共有したい。
 新作を心待ちにしていた作家だけに、本を閉じてしまうと、なんだかとっておきのデザートを食べ終えてしまったようなさみしさが残る。だからと言って、読み終えずにはおられなかった。閉じた本を本棚に並べる。同じ作家の本が並んでいる。さあ、次の伊坂幸太郎はいつだろう。思いながら、並んだうちの一冊をそっと取り出して、また読みはじめる。
(カドブン季節労働者W)

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ニシダ『不器用で』(KADOKAWA刊)



「自分、不器用なんで」って、昭和のスターのキメ台詞だったっけ。
 それなりの人が口にすれば圧倒的なチャームとともに受容される不器用属性、だけど、そこいらへんのわたしたちが発する「不器用で」は概ね、言い訳だ。こんな自分であることへの。こんな自分から動こうとしないことへの。
 この小説集に出てくるひとたちも、たぶん同じ。変われない痛みを抱えた怠け者たちだ。
 ちょっと好意を持っていなくもない同級生のいじめになりゆきで加担したり、シラスに交ざったエビカニを仕分けながら誰かを見下げたり、明らかにもうそんなに自分のことを好きじゃない彼氏と終わるきっかけがみつからなかったり、生きてたくないけど死にたくないからせめて虫歯を治さなかったり、彼女が若くて自分が若くないことをくよくよ考えたり、している。
 そんなことしていてなんになる。なんにもならない。でも、ここから動けないんだ。
 だよねー。仕方ないよねー。
 ……と、いう魂の怠惰をこの小説はとことんリアルに描き、わたしたちの共感を呼びまくっておきながら、最終的には赦さないのだ。
 どの物語も、最後で主人公はそんな自分のどうしょうもなさと直面する。もちろんハッピーなわけはない、概ね、よりいっそうしんどいことになる。でもそこから感じるのは不思議な解放感と、もっとひどいかもしれない明日への、無根拠かもしれない期待感だ。
 そして、気がつくと小説から問いかけられている。逃げ続けていた自分と、見知らぬ明日にダイブする勇気があるかい? と。
 あるよ、と思わず答えてしまうではないか。
 ――身投げする勢いで飛び込んだ沼は、もがいているうち底に足がついた。でも鼻に水が入った。痛い、どうしてくれる。全身ぐしょぐしょのヘドロまみれだ。なんか寒気もする。死んじゃいない、けど、あっちもこっちも気持ち悪い、全面的にみっともない。ちくしょう、生きてるじゃないか、これが生きてるってことか。
(カドブン季節労働者K)

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322207000260/
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