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韓国の時を超える書簡体小説。二人の少女のすがすがしさにハッとする・第8回文学トンネ青少年文学賞大賞作――イ・コンニム『世界を超えて私はあなたに会いに行く』レビュー

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世界を超えて私はあなたに会いに行く
著 イ・コンニム



韓国の時を超える書簡体小説。二人の少女のすがすがしさにハッとする・第8回文学トンネ青少年文学賞大賞作

評者 黒あんず

 手紙を書く、それはどういうときだろう。二人きりなら、電話で話せる。短いやりとりなら、SNSで十分だ。では、手紙は?
 私が手紙を書くときは、自分の考えている不確かなことを迷いながら、形にしながら、伝えようとするときだ。自分でも自分の気持ちがわからないとき、ここにはいない誰かに助けを求めたいとき。
 イ・コンニム『世界を超えて私はあなたに会いに行く』は、41本の手紙だけで構成された韓国の書簡体小説だ。一番初めに「私へ」から始まる手紙があり、2016年で15歳になったウニュは「ゆっくり届く郵便ポスト」(実際に作者のイ・コンニムさんの住む蔚山に存在しているらしい)に1年後の自分に宛てて手紙を書く。それがどういうわけだか1982年を生きる同じ名前の10歳の少女・ウニュに届き、二人は疑心暗鬼ながらも時空を超えた手紙のやりとりを始める。現代に生きるウニュが1年を過ごすうちに過去に生きるウニュには10倍以上の速さで時が流れ、初めは姉と妹のようだった二人は、次第に同級生、妹と姉の関係に逆転していき…。というSFのエッセンスと成長のきらめきがつまった、第8回文学トンネ青少年文学賞大賞をみごと射抜いた、時を超える書簡体小説だ。
 まず二人の時空を超えたかけあいが、物語を思わぬ方向にパワフルに進展させていくのが楽しい。自らの出生に関する謎を抱えた現代に生きるウニュは、頑なにウニュを産んだ母親のことを話さず自分に無関心な父親に大きく失望している。そんなウニュを励ますため、当時の父親と母親の姿を探して突き止めてあげようと過去の時代を生きるウニュが奔走する。
 家族の謎に迫っていくこの物語の中心には、ウニュの父親ソン・ヒョンチョルがいる。彼を別の角度から見ることで、世界の解像度がぐんと上がって違う風景が見えてくるのがとても面白い。現代に生きるウニュはこう言う。「お父さんは父親をするのが初めてかもしれないけど、私も娘をするのは初めてなんです」。作者のイ・コンニムが「家族の話を書きたいと思いました」と明らかにしているように、この物語は、「家族」という最も身近でそれゆえに最も遠いミステリーを紐解いていく話でもあるだろう。
 それと同時に、1980年代を生きる少女と2016年を生きる少女の考え方の違いも新鮮でエキサイティングだ。大人に対する考え方の違い、家族や独立というものに対する考え方の違い。あるいは、時代が異なってもわかりあうことのできてしまう寂しさと孤独。私と違うのに、同じあなた。同じなのに、違っているあなた。二人のウニュはときに激しくぶつかりあいながら、心の距離を縮めていく。互いの声に耳をかたむけ、いたわりあい、成長していく。
 それだけではない。1980年代以降の激動する韓国社会の歩みが確認できるのもこの作品の特徴の一つだ。成長していく少女の目を通して断片的に描写される六月民主抗争、IMF危機、21世紀への期待…。俯瞰された歴史絵巻ではなく、一人の人間から見た現実のかけらがなまなましく私たちに迫ってくる。歴史も社会も数字ではない。怒り、悲しみ、喜び、その瞬間を生きた人間の現実として存在しているのだということ。『世界を超えて私はあなたに会いに行く』はそんな大切なことを、わかりやすく教えてくれる。
 二人のウニュは手紙を書く。迷いながら、形にしながら、自分の考えていることを相手に伝えようとする。自分でも自分の気持ちがわからないまま、秘密を打ち明け、見知らぬ相手を信じようとする。そしてその信頼に応えようとする。そのやりとりの、なんと苦しくてすがすがしいことか。二人のまっすぐさにハッとしてしまう。
 現在進行形の韓国の小説を読んでいてふと気づくことの一つは、他人を「信じること」が核になっているということだ。何の担保もなく、相手を信頼するということ。手紙の場合はさらに難しい。顔も見えない、声も聞こえない、届く保証もない。それでも相手を信じるとき、メッセージは思わぬ祝福をまとって届く。その瞬間が、この小説には力強く描かれている。

作品紹介



世界を超えて私はあなたに会いに行く
著 イ・コンニム 訳 矢島 暁子
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2021年10月29日

号泣度100%!ドラマ&映画化決定!第8回文学トンネ青少年文学賞大賞!
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【韓国で10万部突破】【ドラマ&映画化決定!】
2016年を生きる母のいない少女ウニュのもとに、1982年を生きる別の少女ウニュから手紙が届く。その手紙には母を探しだしてくれるとあるが…。失った家族を取り戻すタイムリープ物語。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000573/
amazonページはこちら


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