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カクヨム文芸部 「地方発ドラマ!」4選

気がつけば桜の青葉が黄に彩づいて参りました。ようやく長袖の服を引っぱり出してきた頃合いなのですが、季節はしっかりと秋なんですねぇ。
そういえば我が家の庭はさまざまな虫の生きる場所となっていまして、今日(この原稿を書きに出た日)は玄関先でカマキリとかち合いました。冬が来る前に、いろいろしておきたかったのかなと思います。季節によっては大型のクモの巣に突っ込むこともあります。カマキリもクモも私の襲来に超怒るのですが、私にも生活というものがありますし、生きることは戦いなので大目に見てほしいものですね!

さて。前述したことはなにひとつ関係ないのですが、今月は地方を舞台にした作品をピックアップさせていただきました。その要素を押し出すにせよ、設定程度に留めるにせよ、物語の端々へ土地勘ならぬ土地感が染み出してくるものです。ぜひ、そうした設定が作品に及ぼす影響についてを意識してお読みいただけましたらー。
(本記事は「カクヨム」に2021年10月22日に掲載された内容を転載したものです)

カクヨム文芸部 「地方発ドラマ!」4選

魅せられたものは、見知った男子の見知らぬ姿だった

「雪解けまで待って」
天崎 剣
https://kakuyomu.jp/works/1177354055468325691

冬の山形県酒田市。負けん気が祟って漕艇部の雪かきボランティアへ参加することになってしまった美術部の史乃は、その中で次第に意識するようになる。この苦行へ自分を陥れた原因で、普段は脳天気でありながら真摯に作業へ向かうタカ——高田哲治を。
こんなヤツだと思っていた男子が、それとは違う一面を持っていて。ふとしたきっかけで気づいた史乃さんは彼のギャップに惹かれていくわけですね。このあたりの機微が実に何気なく、それでいて印象的に描かれているのですよ。日本中で演じられているのだろう、でも当人にとっては唯一無二な出逢いの有り様、実にドラマチック!
しかもこの作品、標準語バージョンと庄内弁バージョンのふたつが同時掲載されているのです! 言葉はキャラクターに力を与えるものですが、方言によって醸し出される心情の色濃い鮮やかさ、これはたまりませんね。
なんでもなく、でもかけがえない出逢いの物語、標準語→庄内弁バージョンで読み進めるのがおすすめです。

10年を経た再会は、初めてよりも酷い代物だった

「初恋のための鎮魂歌」
森野きの子
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896347332

福岡県警察本部組織犯罪対策課に所属する刑事、高橋茉梨は東比恵駅から歩いて15分の位置にある赤川組の事務所へ踏み入った。捜査ではない。彼女は逢いに行ったのだ。10年前、ホストに狂って家を飛び出した姉を探していた高校生の彼女が出くわし、心を奪われた上瀧諒平というヤクザに。しかし、彼は再会した彼女を欠片も憶えていなかった。
警察官とヤクザの禁じられた恋——は燃え上がらず、あっけなく終わるのですが、ここから物語は始まるのです。事件と色恋と人間模様が交錯するあれこれが!
中でも目を惹かれるのはやはり、主人公の茉梨さんですね。10年前から今現在までの心情が濃やかに描き出されていて、だからこそ彼女の恋が特別であるのだと理解“させられる”のです。シリアスなのにコメディにしか見えない有様を女のかわいらしさに昇華しているところなんてもう、たまりませんよ。本当にキャラ力が高い!
彼女の恋の行方、ぜひ追いかけて、ご確認いただきたく!

もどかしさでゆるやかに加速する彼女と彼女の物語

「風を待つ街」
壱岐みぞれ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894081724

中四国で活動しているバンド、そのベース担当の高崎初音は、恋人である神瀬多喜と日々を過ごしている。特筆するようなことのない、しかしかけがえのない時間を味わい、噛みしめ、時に噛み殺しながら。
なにより初音さんと多喜さんの距離感に目を惹かれます。同性だからということもあるのですが、彼女たちは互いに対してなんともいえないもどかしさを感じているのですよね。彼氏彼女のような収まりのよさがないから、ふたりは収まりどころを探り合うのです。それを直接的な駆け引きでなく、煙草やひとつのワードを基にしていく。まさに匂わせるのですよ。それによって機微が表され、詰まりきっているはずの距離がさらに詰まって、溶け合う感じ。恋は付き合うまでが華となりがちなのに、ふたりの恋はさらに大きく花弁を拡げて匂い立つのです。これは愛だなと、思わずうなずかされました。
文章の香りをお楽しみいただけるこちらの一作、ずいとおすすめさせていただきます。

コロナ禍の今このときを切り取った、生者の記録!

「ここはディストピア——日本のとある地方都市で体験したコロナ禍——」
三日月 理音
https://kakuyomu.jp/works/16816700426149489367

地方都市に住む三日月理音がコロナ禍を過ごし、2度のワクチン接種を終えるまでを綴った記録。
というわけで、こちらは著者さんがツイッターに#コロナウイルスサバイバルとしてご投稿されたつぶやきを再掲し、ところどころに解説を加えたものとなっております。
つぶやきは短文に思いを詰め込む性質上、端的に状況や心情が表されますよね。著者さんのつぶやきは、最初の「んー?」という程度の違和感が速やかにパンデミックの恐慌へと変じ、生活が変わっていく様子をずばっと切り取っています。さらにはそこから続く日々の閉塞感、高齢な家族を持つ者の不安、コロナ疲れ中のもどかしさ等々が1コマずつ語られていくのですよ。
この2年半を客観視できる資料としても価値の高い一作ですが、端々に書き込まれた著者さんの「生きる!」という気持ち、本当に勇気づけられるのです。
辛い日々がまだまだ続きますが、強く生き抜いている著者さんの記録から力をいただき、もう少しだけがんばっていきましょう!


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