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連載

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。 vol.2

【『角川新字源』連載第2回】漢和辞典は漢字辞典とどうちがう?

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。

みなさまこんにちは。前回の記事を読んで『角川新字源』に興味を持ってくださった方。
あるいは前から『角川新字源』を使ってくださっている方。
大変ありがとうございます。

改訂新版は、10月30日の刊行日に向けて、ようやく編集部での作業が終わりました。
今は印刷所や製本所がフル回転でがんばってくれている最中です。
書店に並ぶ日が、待ちどおしいです。

さてさて、突然ですが、漢和辞典は、なぜ「漢和」辞典という名前なのか、疑問に思ったことはないでしょうか。
書店に行くと、漢和辞典とは別に「漢字辞典」も売られています。この二つは何が違うのでしょうか?

今回は、そんな不思議についてお話ししたいと思います。

>>連載第1回 「新字源」全面改訂! ~でも「改訂」ってなに?

[話し手]坂倉 『新字源』に関わる編集者。辞書編集部のなかでは未だに一番の若手。涼しくなったので衣替えをしようと思ったが、体重増加で着られる服が少なくなっていることに気づいた。好きな言葉は「発憤忘食」。

[聞き手]松谷 書籍をPRするパブリシスト。最近一番びっくりしたのは、和歌山県白浜で泊まったホテルの支配人が、たまたま昔勤めていた会社の上司だったこと。好きな言葉は「一期一会」。

【Q,なぜ「漢字辞典」といわないの?】

松谷: 秋やね。

坂倉: 唐突ですね。たしかに、もう秋です。

松谷: 秋やのに半袖やね。

坂倉: 着られる服がないんですって!

松谷: 秋といえば、いよいよやね、改訂新版の刊行。

坂倉: ふっておいてスルーですか……。でも、そうですね。ようやく校了して今はもう印刷に入っています。みなさんのお手元に届けるのがとても楽しみです。

松谷: ところで、今さらながら気になることがあるんやけど。書店で並ぶ辞典を見ると、「漢和辞典」と「漢字辞典」の二種類あるけど、何がちがうの?

坂倉: ん? どちらも漢字の辞典ですよ?

松谷: いや、『角川新字源』って「漢和辞典」でしょ? 「漢字辞典」とはいわへんの?

坂倉: ……ああ、ついに聞かれてしまった。実はそれ、辞典界最大級の闇なんですよ。

松谷: えっ。

坂倉: もちろん冗談ですが。ええとですね。今は、ちょっとレベル高めのものが「漢和辞典」、やさしいものが「漢字辞典」と呼ばれることが多いかもしれません。KADOKAWAからも、かつては「漢字辞典」が出版されていましたよ。

松谷: 言われてみれば、先日見た「漢字辞典」は、小学生用やったわ。

坂倉: でも内容が大きく違うかというと、そうでもないんです。五十音順の辞書もありますが、おおむね部首で分類された漢字が部首&画数順に並んでいて、親字(見出しとなっている字)と、読みと、意味が載っていることは共通しています。このあたりは漢字の「形音義」といって、基本要素みたいなものですね。引き方も、部首のほかは読みや画数で、だいたい一緒。

松谷: それなら、みんな「漢字辞典」にしちゃえばいいんじゃない?

坂倉: たしかに、そのほうがわかりやすい。でも「漢和辞典」という名前には、ある意味がこめられていて……。

【Q,漢和の「和」の字は英和辞典の「和」?】

松谷: いきなり見出しでネタバレしてるけど、大丈夫?

坂倉: まあまあ。ここで漢和辞典の歴史をしらべるために、ちょっとした参考書をご用意しました。

松谷: おおー、これは古い。昭和41年発行の『辞典のはなし』!

坂倉: 角川書店のつくった辞書事典についての小冊子です。おもに書店向けに配布・販売していたもので、いろんな辞書の歴史や使い方が載っています。 さてこれを見てみると、明治時代以後の近代的な漢和辞典で、最初期の名著として『漢和大字典』が出てきます。1903年というから明治の36年。ほかにも1916年の『詳解漢和大字典』、1959年の『角川漢和中辞典』などなど……おっとこれは弊社ですね。

松谷: この頃からもう「漢和」が使われてるんだ。※01

坂倉: そうなんです。中国はもちろんですが、日本の辞書がおおむね9世紀の『新撰字鏡』 からはじまるとして、明治時代以前にはそういう名前は見られません。では、この時期にあったこととは何か? それは、オランダ語や英語など外国語の辞書が次々とつくられた(紹介されたり、翻訳されたりした)ことです。

松谷: あ、「英和辞典」の「和」!

坂倉: そうです! 一般的には、英語英文を和語でしらべる辞書だから“英和”辞典。漢語漢文を和語でしらべる辞書だから“漢和”辞典とされています。

松谷: なるほど。だから、漢文を読めちゃうような詳しい辞書は「漢和辞典」と名付けてるんだ。

坂倉: ある種の慣習のようなもので、必ずしもそうではないんですけどね。でも、すくなくとも『角川新字源』は、大学生・研究者レベルの方にも便利な辞典で、まちがいないですよ。

 
>>第3回「ベテラン編集者に聞く! 漢和辞典のつくりかた」




【注釈】

※01
 実際には、「漢和」の付かない辞書もたくさんありますが、ここでは割愛してしまいました。


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