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レビュー

妄想に囚われて 『犯罪乱歩幻想』

 三津田信三みつだしんぞうさんの名を聞いて、まず頭に浮かべる作品は「刀城言耶とうじょうげんやシリーズ」です。
 怪奇趣味に充ちた本格、地方の旧家で起こる惨劇、必要以上に配置されたケレン味。シリーズ第一作を読んだときには「横溝正史の後継者が現れた!」と快哉かいさいを叫んだものです。
 その後、三津田さんがどこかで「ホラーと本格の融合を目指したらそうなっただけで、横溝を目指したわけではありません」的なことを語っておられましたが、僕は信用していませんでした。誰が何と言おうとそこに横溝を感じたし、そもそも作品をどう思うかは読者の自由だし、と。
 そして今回の『犯罪乱歩幻想』です。この作品集は乱歩に捧げたオマージュです。ほら見たことかと思いました。長篇で数多くの名作をものした横溝、不健全な短篇小説でその名を残した乱歩、の違いはありますが、両者は日本のミステリ界最大のスター。片方を愛する作家が、もう片方を愛していないワケがないではないですか。しかもです。刀城言耶シリーズは長篇。今回の乱歩オマージュは短篇集。ほらほら三津田さんはそこまでこだわっているのです。
 ところでその両巨頭を愛するミステリファンは常々思っていたことでしょう。横溝の映像化作品に名作はたくさんあるのに、どうして乱歩のそれは首を捻るものが多数を占めるのかと。それは横溝の小説がストーリー第一、乱歩のそれがイメージ優先だからです。横溝の小説は筋を追うだけで楽しめますが、乱歩のイメージは読者が頭の中で絵にしてようやく完結するからです。百人の頭に百種の乱歩があります。だから乱歩を映像化する監督は作家性を前面に押し出すしかない=結果玉砕する、ことになるのです。
 イメージ優先。映像化には弱点のそれが小説では最大の魅力となります。読むたびにこちらの想像力が刺激されて、自分ならどうするだろうと夢想してしまうからです。
「赤い部屋のメンバーに入るために何をする」
「莫大な遺産でどんな無駄遣いをしよう」
 中学生の頃、そして今でも、乱歩を読んだ後は蒲団の中でそういうことを考えてニヤニヤしました(最終的にはいつもいやらしい方向で着地しましたが)。
 三津田さんは小説家です。当然、同じだったはずです。
 子供の頃、かくれんぼで押し入れに逃げ込み、何気なく触った天井部分が開くことを知り、狂喜乱舞したに違いありません(僕はそうでした)。
 ミラーボールなどの球体反射物を見つめると発狂するかもしれないと恐怖したかもしれません(台所の調理用ボウルで頭を挟んだことがあります)。
 修学旅行の夜は夢遊病癖がある友人の発見に努めたことでしょう(翌日は寝不足で困りました)。
 この短篇集には三津田さんのそういう妄想が詰まっています。そしてそれを読んだ方は、きっとまた別の妄想をふくらませることでしょう。「僕等はアトムの子供さ」という歌詞があったように、僕らはみんな乱歩の子供なのですから。
 収録作で妄想に一番相応しいアイテムは「魔鏡と旅する男」でしょう。鏡で遊んだことがない人はいないでしょう。母親の三面鏡は本当に怖かったし、割れた鏡に映る世界に足元が崩れ落ちそうな感覚を味わったこともあるでしょう。そういうことをいろいろ思い出させてくれる美しい作品です。
 乱歩オマージュ以外の作品で好きなのは、現代日本のホラーアイコンである「貞子」トリビュートの「骸骨坊主の話」です。これを読んでしまった僕は、廃寺の土塀に出会う日が愉しみでなりません。
 最後に一つ。三津田さんに今度お会いしたときに忘れずに訊くことがあります。
 クラスの女生徒を眺めながら、パノラマ島での役割りを当てはめたことありますよねと。


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