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レビュー

はぐらかす森達也の強度

 映像にせよ原稿にせよ、ある対象へ没入していく森達也は、客観などあり得ない、全ては主観である、と繰り返す。世情を突く時には、主語のない述語は暴走する、と繰り返す。だが、森の主観がいかに蓄積されてきたか、「森達也」という主語の強度を外から問いかけようとすると、露骨に嫌がり、はぐらかす。数ヶ月前、森と対談する機会に恵まれ、その予習のために森の出演番組をYouTubeで漁っていると、ある番組のテロップに「タブーに挑むKY監督」と出てきた。或いは、この新刊のプルーフ(刊行前に宣伝用に作られる仮の本)には、ひとまずの宣伝文句として「タブーに抗い続ける監督の最新ルポ!」とある。曖昧なくせにいたずらなスケール感を持つ「タブー」という言葉が、自分に接続されるのを森は嫌うはず。様々なインタビューで、自分はタブーに向かっているわけではなく、そこから見たほうがよく見えるのではないかと思っただけ、などと言及してきた。なぜオウム真理教の内部に潜入できたのかとの問いには、手紙を出して施設内を取材させてくれと言ったのが自分だっただけ、と返し、なぜ佐村河内守を撮ろうと思ったのかを問われれば、むしろ騒動の最中にはちっとも興味が湧かなかったと返す。そして、そもそもタブーに「挑む」や「抗う」といった姿勢が自分には欠けている、と牽制する。
 自分の煩悶(はんもん)(という言葉を森はよく使う)が、眼前の事象と摩擦を起こす。その熱を撮り、書いただけであって、タブーに挑んだり抗ったりはしていない、と言う。プランなどないことを、ことさらに強調する。本書の「まえがき」のタイトルは「何を書けばよいのか悩みながら書き始めたまえがき」である。こうやって自分の煩悶を伝える。読者はそれを「果敢」や「勇敢」なんて言葉に変換し、やっぱり最終的に「タブーに挑む」方面のスローガンに行き着かせてしまう。で、そんなことないよ、と森が再び差し戻す。
 本書は、間もなく終わりを迎える「平成」という時代に、森のドキュメンタリー作品(未完含む)を照射しながら、表現者と対話を重ねていく趣向の一冊だ。かつての作品を、現代の問いとして再び引っ張り出す作業は有機的で、『放送禁止歌』について対話したピーター・バラカンと、「音楽に政治を持ち込むな」というバカげた声が出てくる現在を嘆き、『FAKE』について対話した長野智子とは、フェイクという概念が強くなることで、対峙するトゥルースの概念も強くなり、「心地いいトゥルースに埋没する」危険性を確かめ合う。他の対話も異様に濃い。
 今年に入って「忖度」という言葉が流行り、それは「KY監督」の「K」=「空気」であるとか、森がしきりに言う「同調圧力」の類義語と言えるのだろうが、自粛や萎縮に対していくら警鐘を鳴らしても、それらを問題視する人自体が少なくなってきた。森友学園問題にせよ、加計学園問題にせよ、政権をお守りするジャーナリストの皆様は、要約すれば「たまたま仲が良かっただけ」との分析を投げ続け、忖度を空気で解消しようと試みた。忖度を空気で解消って何だ。自分で書いておきながら、よく分からない。
 森はこの本での対話で、浮上した事象を理解することに慎重になっている。分からない状態を維持しようと躍起になる。簡単に分かってたまるか、理解してたまるか。その姿勢に賛同する。もとより森達也のことが好きな自分は、手放しでこの本を褒めそやす。心地いい、さすが森達也だぜ、と思う。ただし、それが、同調圧力に屈しない自分たちの再確認に留まるならば寂しい。限られたコミュニティでの首肯、に終わらないためにはどうすればいいのか。森達也に「別にそんなことまで考えてないよ」とはぐらかされるのはいつだって心地いい。はぐらかしているのに、強度がある。読みながら、この対話の心地よさを疑わないといけないのではないか、とは思う。でも、疑う方法が思いつかない。結局、今回も森達也にハンドリングされてしまったようなのが悔しい。


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