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特集

【新刊インタビュー 澤村伊智『予言の島』】スマホの普及した現代で、「外界からの孤立」を描く

撮影:ホンゴ ユウジ  取材・文:朝宮 運河 

『来る』のタイトルで映画化された『ぼぎわんが、来る』をはじめとする、〈比嘉ひが姉妹〉シリーズがヒットしている澤村伊智さん。待望の書き下ろし長編『予言の島』は、瀬戸内海の小島を訪れた者たちが、怖ろしい事件に巻きこまれる戦慄のホラー&ミステリです。怨霊伝説が囁かれる島で次々と起こる惨劇。その背後に隠された衝撃の真相とは――?

土俗性と現代性が絶妙なバランスで共存した未体験のエンターテインメントについて、お話をうかがいました!

念頭にあったのは〝霊能者の孫〟と『獄門島』

── : 『予言の島』は『ししりばの家』以来、約一年半ぶりとなる書き下ろし長編です。昨年(二〇一八)は『ぼぎわんが、来る』を映画化した『来る』が公開されたり、〈比嘉姉妹〉シリーズ初の短編集『などらきの首』が発売されたりと、充実した一年だったのでは?

澤村: そうですね。映画のお蔭で多くの方に作品を読んでもらえましたし、短編もあちこちに執筆できた。ありがたいことだと思っています。ただ本当なら去年は、もっとたくさん新刊が出るはずだったんです。今回の書き下ろしに時間をかけてしまい、結局出せたのは短編集が一冊のみ。デビュー三年にして、これまでにない苦労を味わいましたね。今はやっと肩の荷が下りたので、ほっとしているところです。

── : デビュー以来〈比嘉姉妹〉シリーズを中心に書き継いできた澤村さんですが、今回はノン・シリーズ作品。しかもホラー要素に加えて、本格ミステリのテイストが強く、新境地と呼べる作品になっています。

澤村: だとしたら嬉しいですね。今回、作品の出発点になったのはふたつの思いつきです。ひとつは〝有名な霊能者の孫〟が出てくる作品を書きたいというもの。『金田一少年の事件簿』にしても『ルパン三世』にしても、著名なキャラクターの子孫が登場する作品は、一定の人気がありますよね。その流れで、かつて一世を風靡した霊能者の家族を登場させたら面白いんじゃないかな、と思ったんです。

── : なぜ霊能者だったのですか? 比嘉姉妹も霊能力の持ち主ですし、澤村さんにとって思い入れのある職業なのでしょうか。

澤村: 小学生の頃、宜保愛子さんなどの霊能者がブームだったんです。ご多分にもれず僕もはまって、著作を読んだり、テレビの特番に夢中になったりしていました。ただし霊能者を登場させるのは、個人的なノスタルジーではないですね。霊能力が本当にあるかないか、という議論にもまったく興味がない。世の中には「霊が見える」と自称する人たちが一定数存在して、その言動が周囲に影響を与えている、という現象がものすごく面白いと思うんですよ。今回は宇津木うつぎ幽子ゆうこという、僕がまさに子どもの頃テレビで見ていたような霊能者を、キーパーソンとして登場させてみました。

── : ではもうひとつのアイデアとは?

澤村: 横溝正史の『獄門島』をやりたい、ということです。僕がホラーにミステリ的趣向を混ぜた作品を書いているのは、もちろん大好きな三津田信三さんの作品の影響もあるのですが、そもそも横溝正史を読んだのがきっかけなんです。横溝のミステリはどれも怖い。とりわけ『獄門島』は、これまで読んできたミステリの中で一番怖かった作品です。今回は自分なりに『獄門島』へのオマージュといえるものを書いてみたい、という思いがあって、瀬戸内海の小島を舞台にしてみました。

── : 執筆に苦労されたというのは、具体的にどのあたりですか?

澤村: 孤島が舞台で、霊能者の孫が出てくる。このふたつから作品の全体図はできあがったんです。ミステリ的なトリックの部分も、早い段階で決まっていました。ところが実際書き出してみたら、これが想像以上に手間のかかる作品だった。ゴールは見えているのに辿り着けない。そんなもどかしさがありましたね。仕掛けに関わってくるので説明しにくいんですが、一番苦労したのは文章表現。これまで使ったことのない筋肉を駆使して、少しずつ書き進めていったという感じです。『ししりばの家』が終わってすぐに取りかかったので、執筆に一年以上費やしたことになりますね。

横溝正史は土俗的か? ずっと抱いていた疑問

── : タイトルの『予言の島』とは、瀬戸内海に浮かぶ小島・霧久井むくい島を指しています。これといった観光地もないこの島は、霊能者・宇津木幽子がロケに訪れた土地としてマニアの間で有名でした。しかも幽子は死の直前、二十年後の夏に、島で六つの命が失われるという不吉な予言を残しています。

澤村: 予言といっても『ノストラダムスの大予言』と同じで、どうとでも解釈のできるものなんですけどね(笑)。そんな安っぽく曖昧な予言であっても、一度公にされると人々の記憶に残り、誰かの行動を左右することもある。僕は言葉の持っている、そういう性質に惹かれるんですよ。〈比嘉姉妹〉シリーズではお化けの名前にこだわることで、言葉のもつ奇妙な力を描いていますが、今回はそれを別の角度から掘り下げてみた、という感じです。

── : 少年時代、宇津木幽子ブームの洗礼を浴びた主人公のじゅんは、幼なじみの春夫はるお宗作そうさくとともに霧久井島を訪れます。職場でパワハラを受け、心を病んで故郷に帰ってきた宗作を励ますのが、旅の主な目的です。

澤村: 辺鄙な島にどうやって登場人物を集めるのかが、孤島ものの難しいところですよね。今回はあまりマニアックさが漂わないよう、淳たちには〝ゆるい〟動機を与えてみました。オカルトマニア的に予言の真偽を確かめようというのではなく、幼なじみを元気づけるために、共通の懐かしネタで盛りあがってみよう、というノリの休暇旅行です。

── : いくつかのトラブルに見舞われつつも、島の民宿に泊まることができた淳たち。同宿者は、宇津木幽子を崇拝してやまない占い師の霊子に、出航間際に船に乗り込んできた看護師の数美かずみ、異様に親密な晶子あきこ伸太郎しんたろうの母子など、一癖も二癖もあるメンバーです。

澤村: 仕掛けや構成を先に作るので、キャラクターは後づけで考えてゆくことになります。今回は数美の設定が定まるまでに、時間がかかりました。当初は今よりもっと〝病んだ〟性格だったんですが、改稿を重ねるうちにどんどん頼りないドジっ子に(笑)。こういう女性を描いたのは初めてで、結果的にはお気に入りのキャラクターになりました。外見でイメージしているのは、漫画家の東村アキコさんが描かれる自画像です。作者として動かしやすかったのは、占い師の霊子ですね。分かりやすい性格で、この場面でこう発言してほしい、ということを全部言ってくれるので大助かりでした。

── : 霧久井島では疋田ひきた山という山に潜む怪異「ヒキタの怨霊」の存在がまことしやかに語り継がれていました。住人たちはそれを怖れ、淳たちにも山には登るなと警告します。「くろむし」という魔除け人形があちこちに飾られた村は、不気味なムードが漂っています。

澤村: あからさまに土俗的・民俗学的なミステリをやってみました。『ぼぎわんが、来る』を読んだ方なら分かるでしょうが、民間伝承を扱った土俗ミステリはもともと好きなんです。このジャンルは魅力的な雰囲気を出せる一方、どこか遠くの土地で起こった他人事、と受け止められてしまうリスクもあります。それはなるべく避けたかったので、島での出来事や人間関係に現代性を与えられるように工夫しました。

── : 宿の主人・麻生あそうは都会からの移住者で、土俗的な世界にロマンを抱いています。幽子の予言に関心がある宿泊者と、そうした通俗オカルトを軽視している麻生、古めかしい怨霊話を怖れる島民たち、と価値観の違いが、物語に奥行きを与えています。

澤村: 通俗オカルトと土俗的なものが同時に出てくる作品は、あまり例がないかもしれませんね。僕はどちらも好きですが、世間では麻生のように〝マスコミで騒がれるような通俗オカルトより、昔ながらの土俗的な世界のほうが高尚〟と考えている人が多いように思います。でも本当にそうなのか、という疑問がありました。ミステリファンやホラーファンが「土俗的だ、かっこいい」とありがたがっている伝説や風習も、ルーツを辿ればそこまで古いものじゃないかもしれない。よく横溝正史は土俗的だといわれますが、『獄門島』で描かれる世界にしたって、終戦当時の社会風俗だったわけですからね。

真相に驚きながら、ゾッとしてもらいたい

── : 予言された日時が迫るなか、ある人物が無惨な死体となって発見されます。その後も相次いで事件が発生。幽子の予言は的中してしまうのか、ヒキタの怨霊は実在するのか。閉ざされた島での惨劇が、緊迫感たっぷりに描かれていきます。

澤村: ミステリに分類される作品だと思いますが、ホラー的な演出もたくさん使っています。特に前半部分では「こんなおかしな村があるのか」という部分で怖がってもらいたいですね。スマホの普及した現代では、外界から孤立した島、という状況を成立させるのが困難なので、できるだけ事件の起きる期間を圧縮して、スピーディに展開させるようにしています。それもあって緊張感が生まれているのかもしれませんね。

── : 台風に直撃された島内で、淳の身にも危険が迫ります。そして明らかになる霧久井島の秘密。ラストには読者の予想を裏切る、ショッキングな展開が待ち受けています。

澤村: 以前からミステリを書いてほしいと色んな方にいわれていて、今回初めて挑戦することができました。ミステリとしてフェアな叙述を心がけると、文章の細かいところまで気を配る必要があって、本格ミステリを専門にしている作家は大変だな、と痛感しましたね(笑)。メインのトリックはすでに先例があるもので、僕の尊敬する某作家が何度も使っているパターン。それをこういう料理の仕方なら許されるかな、というところまでアレンジしました。真相が明らかにされるシーンでは、「こんな話だったのか」と驚きつつゾッとしてもらえたら嬉しいですね。

── : 刻一刻と迫る死の恐怖。そのなかで変化してゆく淳と数美の関係性にも、スポットが当てられています。予言に呪縛された人たちが織りなすドラマも、大きな読みどころです。

澤村: 初稿の段階ではもっとごてごてした作品だったんですが、改稿を重ねるうちにこれは淳と数美の話だと気がつきました。煎じ詰めれば過去に縛られた女性と、ある問題を抱えた男性の関係を描いているんですよね。余計な要素をそぎ落としたことで、よりテーマが明確になったかなと思います。

── : ところで物語の鍵を握る宇津木幽子は、印象的なプロローグを除いて、作中に姿を現しません。幽子自身の生涯を描きたいとは思わなかったのでしょうか?

澤村: 重要な人物ほどあえて間接的な表現をしたくなるのは、僕の癖みたいなものです。プロローグでも幽子の外見は、決して正面から描いていないんです。ダフネ・デュ・モーリアの『レベッカ』という小説が好きなので、その影響が大きいでしょうね。『レベッカ』はすでにこの世を去った女性が、いつまでも登場人物たちを呪縛し続けるという話。『予言の島』に似ているかもしれません。

── : ホラー風味を残しつつ、ミステリ方向に大きく舵を切った作品として、読者の反応が楽しみですね。手応えはいかがですか?

澤村: いつものことですが、自信や手応えはまったくありません。やれるだけのことはやったので、皆さんの判断を仰ぐしかないですね。ただ『獄門島』へのオマージュとしては、狙ったところにちゃんと球を投げられたのかな、とは思っています。表面的なおどろおどろしさではなく、僕が横溝の怖さのポイントだと思っている部分に、自分なりに迫ることができた。澤村は『獄門島』のここに反応したのか、と読んでいただければ分かると思います。

── : もちろん『獄門島』を知らなくても楽しめますしね。土俗性と現代性がスリリングに交錯する、ホラー&ミステリの新機軸だと思います。では、読者へのメッセージを。

澤村: 昨年、横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞が統合されて、横溝正史ミステリ&ホラー大賞が創設されました。『予言の島』はそこに応募しても大賞を獲れるくらいの作品、という意気込みで書いたものです。〈比嘉姉妹〉シリーズとはまた違ったアプローチの、怖くて面白い小説になっていると思うので、ぜひ多くの方に読んでもらいたいです。

書誌情報はこちら>>澤村 伊智『予言の島』


澤村 伊智

1979年大阪府生まれ。2015年、『ぼぎわんが、来る』で第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞。同作は中島哲也監督によって18年、『来る』のタイトルで映画化された。

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