「ピアノの森」「ハイキュー!」「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」「キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series」など数々の話題作に出演している、人気声優の斉藤壮馬さん。このたび、声優グラビア誌「ボイスニュータイプ」の連載エッセイに撮り下ろし写真をたっぷり加えたフォト&エッセイ集『健康で文化的な最低限度の生活』が刊行されます。
これを記念して、カドブンでは斉藤さんの特別インタビューを掲載。本書未掲載の撮り下ろしカットもカドブンだけで公開します!
筒井康隆や中島らもから影響を
── : 声優や歌手のお仕事は「演じる」ことがメインですよね。それと比べてエッセイを書くというのはどういう感覚でしたか?
斉藤: もともと文章を書くのが趣味でしたが、どちらかというと小説のようなものを多く書いていたので、エッセイを書くこと自体がなかなかない経験でした。特別なにか役を設定したりバイアスをかけたりすることはしていませんが、ふとしたときにさらっと読めるような内容になればいいと思っています。芝居というのは、クリエイターの方の世界観と受け手の方を繋げていく作業だと思っていますが、エッセイは自分の思考や感情をベースにアウトプットしていく行為なので、ふだんとはまた異なる頭の使い方ができて楽しかったです。一応締め切りもほぼほぼ守ることができてよかったですね(笑)。
── : 文章を書くのが好きとのことですが、なにかきっかけは?
斉藤: わりと小さいころから読み書きをするのが好きでした。幼稚園くらいのときは段ボールの切れ端で恐竜のおもちゃを作ったりしていたので、昔からなにかものを作るのが好きだったんでしょうね。小学生のとき、物語を書いてみよう、というような授業があって、雪が降った日にしか会えない不思議な青年とバスケットボールをする話を書いたんですけど、それを先生に褒められたのがとても嬉しかったのを覚えています。
── : 文体などで影響を受けた作家はいますか?
斉藤: 改めて改稿作業をして、文体の影響を受けているなと思うのは、日本の作家だと筒井康隆さん、中島らもさん、福永武彦さんあたりでしょうか。翻訳文体というか、たとえばカート・ヴォネガットや、柴田元幸さんの訳されている小説などの影響も感じます。「おれ」という一人称は、今回はあまり使っていませんが、完全に筒井康隆さんの影響ですね。気を抜くとすぐに冗長な文章になってしまうので、レイモンド・カーヴァーとか、藤沢周さんのような文体に憧れます。ユーモアエッセイでは大槻ケンヂさんの要素も感じるかな。初めて買った筒井さんの本の解説が大槻さんで、本編もさることながら、解説を何遍も読み返した記憶があります。でも、一番影響を受けるのは執筆時に読んでいた本の文体ですね。多くは説明しませんが、たとえば『我が愛しのバードランド』『in the meantime』などはポール・オースターっぽいなあと思います。
元ネタ探しも楽しんで
── : 本書掲載の文章はどんな風に生み出されたのですか?
斉藤: なんでもないときに思いついたものもありますし、その場で一気に書き上げたもの、うんうん唸りながら捻り出したものもありますね。最近はスマートフォンを使ってちょっとしたメモを取ることも多いです。改めて読み返してみると、自分のまなざしは過去に向くことがほとんどで、未来志向ではないみたいです(笑)。仕事で遠方へ向かう移動中に整理したりすることもあります。逆に書き下ろし『健康で文化的な最低限度の生活』はすべてPCで書きました。新しいソフトを入れてみたのですが、とても書きやすかったです。ブレインストーミングをするときは紙に書くことがほとんどで、自宅にも実家にも無数のメモがあります。壊れてしまったUSBメモリに10代のころのアイディアがたくさん入っていたはずなんですけど、なんとかしてサルベージしたいところですね。
── : 音楽もお好きな斉藤さんですが、BGMとして聞いてほしい曲はありますか?
斉藤: エピソードによってはこんなBGMとともに、と書いてあるものもありますが、基本的には想定していません。同じ文章でも、そのときの気持ちや環境によって感じ方がまるで変わりますよね。それも読書体験の醍醐味だと思うので。もともと声優を志す前には作家かミュージシャンになりたいと思っていたので、こんな組み合わせが心地よかったです、なんてご意見もいただけたら嬉しいです。とはいえ、あえておすすめするならば、しっとりした内容のものなんかは、ニルス・フラームやオーラヴル・アルナルズのような、歌のない曲と合わせていただくとするりと染み込んでくるかもしれません。あと、これはなぜか昔からそうなんですけど、スコット・ジョプリンの『メイプル・リーフ・ラグ』という有名な曲にとてもエンドロールっぽさを感じるので、読み終わったら奥付を見ながら聴いていただくと、映画の終わりみたいで面白いんじゃないでしょうか。
── : どんな人に手に取ってほしいですか。
斉藤: こちらもBGMと同様に、具体的には想定していないですね。あまり複雑な内容にはしていないので、いろんな方に読んでいただけるのが一番嬉しいです。あるいは、様々な固有名詞、引用が散りばめてあるので、これの元ネタはあれだな、という楽しみ方もしていただけたら。もしこの本を読んで、中に書いてある他の本や音楽、食べ物に興味を持っていただけたり、自分も文章を書いてみたいと思っていただけたりしたら、この上なく幸せです。
── : 今回「一冊の本をつくる」ということを体験してみて、特に楽しかったことや苦労したこと、「これは想像していなかった」ということはありましたか?
斉藤: 趣味で冊子を作ったりしたことはありましたが、製品としての本は初めて作ったので、とても貴重な体験をさせていただいたと思っています。改めて、本というものの多様な魅力に気づかされましたね。読み手としてではなく、作り手としてどのような点に気を配り、詰めていくのかという作業が刺激的でした。同じ話の中に同様の表現を多数使ってしまっていたり、慣用句の意味を取り違えていたり……ことばの奥深さ、面白さに深く感じ入りました。それから、紙の素材や色味といったマテリアル的な要素にもより興味が出てきました。そういうわけで、この本も本棚に飾りたい一冊になっていればいいな、と思っています。
★おまけの質問コーナー★
── : どこでもいい、と言われたら、どこに住みたい?
斉藤: すこし街から離れた落ち着いたところで、書斎と防音室、工房、秘密の部屋がある一軒家に住みたいです。本当はレトロカーなんかもあるといいんですけど、自分の運転する車には絶対に乗りたくないので、それは実現しないかな(笑)。階段の下に謎の物置があったりする家が好きで、落ち着けもするし探検もできるような環境に憧れます。あとは、チェコやドイツ、北欧諸国のような、街それ自体が美しいところにも惹かれます。願わくば、そんな環境でありながら、仕事にも行きやすいと最高ですが、贅沢な話ですね(笑)。究極的には、博物館や図書館、百貨店に住んでみたいです。ミルハウザーとか、ボルヘスの世界のような。
── : 死ぬまでに行きたい場所を3つあげて?
斉藤: うーん、どこだろう……。いっそ地球を離れて、銀河の外になにがあるのかを見てみたい気もします。月の裏側とか。地球、本当に丸いかわからないですもんね(笑)。海外には台湾しか行ったことがないので、ヨーロッパを中心としてゆっくり回ってみたいです。それこそ1年くらいの期間をかけて。今まで行ったことのある場所の中では、北海道が圧倒的に肌に合う空気を感じたので、北海道巡りもしたいなあ。あとは伝説上の場所……たとえばエルドラドとかアヴァロンとか、アガルタ、シャンバラ、ニライカナイ、桃源郷なんかにも行ってみたいです。
── : 自分に影響を与えた人を3名挙げるなら?
斉藤: 今まで縁あって関わった方々の影響をとても受けているので、なかなか絞るのが難しいですね。影響というのとはすこし違いますが、こうなりたいな、と昔から思っているのは、いわゆる多才な方で、たとえばジャン・コクトーのように、多様な分野で能力を発揮している人物に憧れます。たぶん、昔から自分は器用貧乏だなと認識しているからだと思います。もっとも、年々自分はなんて不器用で感覚的な人間なんだ、と認識を改めているんですけどね(笑)。口で言ったり、文字にするのは簡単ですが、人を尊重し、ものごとを慈しむことができるようになりたいと思っています。そのためには、日々の積み重ねと行動が肝要ですよね。感謝の気持ちを忘れずに、やさしさとゆとりを持って過ごしていきたいです。
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斉藤 壮馬(さいとう・そうま)
声優。4月22日生まれ、山梨県出身。第9回声優アワード新人男優賞受賞。主な出演作品は「ピアノの森」(一ノ瀬海)、「刀剣乱舞」シリーズ(鶴丸国永)、「アイドリッシュセブン」(九条天)、「KING OF PRISM」シリーズ(太刀花ユキノジョウ)ほか。現在、紀伊國屋書店新宿本店をはじめ、各地で選書フェア開催中。
詳細は特設サイトへ
https://kiki-voice.jp/event/soma/
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