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特集

第20回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』

一九九六年、夏。僕らの〝イケとる化計画〟が始動した——。
五人の中二男子が織りなす〝広島版スタンド・バイ・ミー〟を、圧倒的なリアリティで描き切り、第二〇回ボイルドエッグズ新人賞を受賞された黒瀬陽くろせよう)さんにお話をうかがいました。

── : デビューまでの経緯を教えていただけますか?

黒瀬: 中高生の頃は漫画家を目指していたんですが、画力に難があって断念しました。もともと物語を作るのが好きだったこともあって、二十歳の頃に村上春樹さんにはまったのをきっかけに、小説家を目指すようになりました。

── : 大学院の修士まで進学されたのですね。

黒瀬: 一度小説を離れて、研究者を志した時期もあったんですが、故郷の広島に帰ってから、再び小説を書き始めました。

── : ボイルドエッグズ新人賞でデビューされました。

黒瀬: それまでは村上春樹さんが好きだったこともあり、純文学系の新人賞にたくさん応募していました。でも全然結果が出なかったので、思い切ってエンターテインメントに初挑戦してみようと。もし、これでダメなら諦めようと思っていました。

── : 村上春樹さん以外に影響を受けた作家さんはいらっしゃるのでしょうか。

黒瀬: 村上龍さんや安部公房、江戸川乱歩の初期の短編はよく読みました。特に好きだったのが、サリンジャー。この本も『ライ麦畑でつかまえて』に、とても影響を受けています。

── : 今作では、一九九六年の広島を舞台に、中学二年生のぼくとタイ人の同級生・クルンを中心とした、五人組の友情が描かれています。何に着想を得て書き始められたのでしょうか?

黒瀬: 『新世紀エヴァンゲリオン』『行け! 稲中卓球部』など、中学生を描いた作品にずっと親しんできたことが出発点です。青春物も好きで、映画の『スタンド・バイ・ミー』もよく観ていたことから、広島弁で広島版の『スタンド・バイ・ミー』を書いてみたら面白いかな、と思ったのがきっかけです。

── : 書いていく中で特に苦労された点はありますか。

黒瀬: 男子中学生の漫才みたいなやりとりや、わちゃわちゃとした雰囲気を出すのに苦心しました。他には、九〇年代の空気感を出したくて、流行っていたサブカルチャーをたくさん盛り込もうとした時に、自分が詳しくない分野に関しては、当時の雑誌を買ってきて勉強したりもしました。

── : 男子中学生のやりとりは、とてもリアリティがありました。これにはモデルとなった人がいるんですか?

黒瀬: メインキャラクターにはモデルがいますが、かなり脚色しているので申し訳ないです。主人公は自分自身をモデルに書きました。元の原稿では七割が実体験だったのですが、書籍化にあたり、大きく書き直しています。

── : どのように書き直されたのでしょうか。

黒瀬: 全体の構成としては、主役の二人と他の三人で書き込みの量に差があったので、キャラを立たせて、全員を主役級に格上げしました。もともとはメインキャラクターが六人いたのですが、それだけ多いと影の薄いキャラも出て来てしまうので、五人に減らしたり。今まで小説講座のようなものにも通ったことがなかったので、編集者さんのアドバイスはいちいちなるほど、その手があったか、と思いながら受け取りました。また、実体験そのままだと盛り上がりに欠けるというのもあって、実体験が三割くらいになるよう、手直ししました。それでも、一人だけ、「これは広島の〇〇中学の話ですよね」って出版社に問い合わせてきた人がいたんです。話を聞いてみたら本当に同じ中学の同級生で、しかもいま、東京の出版社に勤めているというから驚きました。

── : 今後の展望を教えてください。

黒瀬: サリンジャーの「グラス家」ではないですが、今は家族小説ものに挑戦しています。犬をめぐる名門一族の話で、今度の舞台は群馬県の館林たてばやし)です。青春小説っぽい短編も書いてみたいんですが、将来的には幅を広げて、もっといろんなものを書きたいなと思っています。

── : 最後に、読者にメッセージを。

黒瀬: 同じ時代を共有した人に懐かしみながら読んでもらいたいんですが、同時に十代、二十代の方にも共感しながら読んでもらいたいなと思っています。気になったら、noteの早川書房のページでも試し読みが公開されているので、是非読んでみてください。 (『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』3章分試し読み:https://www.hayakawabooks.com/n/n3b327265a1d1


黒瀬 陽

1982年広島市生まれ。早稲田大学卒業。東京大学大学院修士課程修了。本作がデビュー作となる。

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