お墓が大好きだという著者自ら「さすがにこのタイトルはどうかしている……」とつぶやくほど不思議な小説が誕生しました。
まったく「仏教」の知識がないアナタでも楽しめること間違いなしの本作ですが、基礎知識を知っていればより奥深い世界へと旅立てるはず!
『知っておきたいわが家の宗教』『よくわかるお経読本』(以上、角川ソフィア文庫)など、仏教関連の著作が多数ある瓜生中さんにご協力いただいた仏教トリビアコラムを主人公の春馬と外場との対話形式でお送りします。これを読めばあなたもいままでふんわりとしか知らなかったお寺が身近になること間違いなし!
>>#1 お寺の仕事って儲かるの!?
●外場 薫(画像・左)
頭脳明晰、悟り系高校生。好きなものは仏教と和菓子。
●金満 春馬(画像・右)
意識低い系俗物高校生。将来に悩むお年頃。
1.ぶっちゃけ、仏教っていったいなんなの?
金満:金満寺(ウチ)は臨済宗のお寺なんだけどさ、そもそも仏教っていったいなんなの。
外場:そんなとこからですか……(虫けらを見る目)。
金満:(なんとも思ってない)(慣れた)
外場:仏教の「仏」は仏陀(ブッダ)の略。仏陀とは悟りを開いた人のことで、具体的には今から約2500年前に仏陀となったお釈迦様のことです。仏教の「教」は教えということ、つまり、釈迦の教えが仏教なんですね。
金満:お釈迦様って、実在の人物だって聞いてるけど、ほんとに居たのかなあ。
外場:実在の人物です。1898年、イギリス人の探検家がストゥーパ(仏塔)という釈迦の墓の一つをインドで発見したんです。そのストゥーパを発掘したところ、大理石の舎利容器(骨壺)が出てきて、中には人骨が入っていました。
金満:ひぇー! 人骨が!
外場:そして、舎利容器には釈迦の遺骨を葬ったという趣旨のことが刻まれていたんです。同じ言葉は仏典にも記されていて、その後の考古学調査なども経て、これが釈迦の本物の遺骨だということが分かりました。
金満:DNA鑑定だ!!一気に仏教がリアルに。 そもそもお釈迦様って何年前の人だったの?キリストよりまえ?あと?
外場:まえですね。釈迦がいた時代、仏教自体はすでにかなり多くの人々に信仰されて、ガンジス川中流域を中心に広まっていたんです。そして、釈迦が亡くなった後は弟子たちが布教に専念し、紀元1世紀にはシルクロードを経て中国に伝えられ、4世紀の終わりには朝鮮半島へ、それから六世紀の前半に日本に伝えられたと言われます。
2.「仏教」って一括りにしてもいろいろあるよね?
金満:なんかさー、世界にも仏教はいろいろあるって聞いたんだけど。宗派じゃなくて、なんかもっとでっかいカテゴリで。
外場:キンマンくんは、大乗仏教、上座部仏教という言い方に聞いたことありませんか。
金満:ああ、それそれ。そーいうやつ! でもよくは知らない(キリッ)。
外場:釈迦が亡くなってからしばらくの間、弟子たちは釈迦と同じ厳しい修行をして悟りを開こうとしていたんです。しかし、いくら修行を重ねても釈迦と同じ悟りの境地に達することはできなくて、ごくまれに達したとしても、釈迦のようにその教えを説いて人々を助けることはできませんでした。
金満:カリスマはカリスマってことかあ。でもさー、そもそも、悟りって何なの?
外場:「悟り」については、言葉での説明が本当に難しい。
金満:外場でも難しいんだ! 戒名探偵なのに!?
外場:(無視して)悟りのことをインドの古い言葉、サンスクリット語でニルヴァーナといい、「涅槃」と漢訳されます。涅槃は釈迦の死をも意味し、毎年、2月15日には釈迦の死を悼んで涅槃会という行事が営まれているんですね。
金満:へえー。ほおー、なるほどー、ふんふん?
外場:悟りには目覚めるという意味があります。何に目覚めるかというと、永遠の過去から未来永劫にわたって絶対に変わることのない真理に目覚めるということ。釈迦はそういう真理の総体を発見したというのですが……。
金満:(眠くなってきた)
外場:言い換えれば人々が目指すすべての道を発見するということです。だから、道が分からないときに釈迦に聞けば、正しい道を的確に教えてくれる、ということが仏教のそもその教えであり……。
金満:(寝息)
3.「悟り」に至る道のりはいろいろある!?
外場:先ほどの「大乗仏教」や「上座部仏教」に戻るのですが、釈迦はすべての人が救われる道を教えたのだから、誰もが釈迦と同じ悟りを開くことができるはずだと考える人たちが多く現れた。その人たちは、もっと簡単に悟りを開くことができる、さまざまな道を考えたんです。その人たちが創り出したのが大乗仏教です。そして、大乗仏教をとなえた人たちは、依然として釈迦と同じ厳しい修行をして悟りを目指す人たちのことを「小乗」と呼んだんです。「乗」は乗り物(船)のことで、大乗は大勢の人が乗って彼岸(悟りの世界)に至ることのできる大きな乗り物、優れた乗り物の意味。小乗は小さな、劣った乗り物という意味です。
金満:いまでいうdisってやつだ!
外場:そう、小乗という言葉は大乗仏教をとなえた人たちから浴びせられた蔑称だった。そこで、今では「上座部仏教」と呼んでいます。上座とは長老のことなんですが、保守的な長老たちは改革を嫌って、釈迦と同じ道を進むことにこだわったんです。上座部仏教はタイやミャンマー(ビルマ)など東南アジア諸国に広まり、中国や日本には大乗仏教が広まった。キンマンくんの金満寺が所属している臨済宗も大乗仏教です。
金満:うちはその大乗仏教の臨済宗だけど、なんで日本にもいろんな宗派あるの?
外場:大乗仏教が発展するにしたがって、悟りに向かう多くの道が用意されたんです。それが今、日本でも見られる多くの宗派に発展していったんですね。金満寺の所属する臨済宗は中国で開かれた禅宗の一派です。平安時代に弘法大師が開いたのが真言宗で高野山を大本山とします。同じく平安時代には最澄が比叡山を拠点に天台宗を開きました。また、鎌倉時代には南無阿弥陀仏の念仏をとなえる浄土宗、浄土真宗、時宗や臨済宗と共に禅宗の一派である曹洞宗、日蓮聖人の日蓮宗が開かれました。そして、最後に江戸時代になって伝えられたのが禅宗の一派、黄檗宗です。
金満:そんなにいっぱいあるんだ!?
外場:ここに挙げたのも一部ですが、日本にはたくさんの宗派があって、それぞれ拠り所とするお経や儀式、作法などが違っているんです。しかし、基本的には『般若心経』で説く「波羅蜜」など釈迦の教えに基づいています。ちなみに、波羅蜜とは修行のことですよ。
>>第3回では、【お寺のこれから】を解き明かす!(11/8更新)
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