お墓が大好きだという著者自ら「さすがにこのタイトルはどうかしている……」とつぶやくほど不思議な小説が誕生しました。
まったく「仏教」の知識がないアナタでも楽しめること間違いなしの本作ですが、基礎知識を知っていればより奥深い世界へと旅立てるはず!
『知っておきたいわが家の宗教』『よくわかるお経読本』(以上、角川ソフィア文庫)など、仏教関連の著作が多数ある瓜生中さんにご協力いただいた仏教トリビアコラムを主人公の春馬と外場との対話形式でお送りします。これを読めばあなたもいままでふんわりとしか知らなかったお寺が身近になること間違いなし!
●外場 薫(画像・左)
頭脳明晰、悟り系高校生。好きなものは仏教と和菓子。
●金満 春馬(画像・右)
意識低い系俗物高校生。将来に悩むお年頃。
1.お寺の仕事って儲かるの!?
金満:た、助けて、神様、仏様、外場さま~!!!
外場:帰ってください。キンマンくん。僕は今忙しい。
金満:あのね、前から言ってるけど、俺、かねみつだから。か・ね・み・つ。
ただし、名字ほど金に満ちてないのが、悲しき次男坊、扶養家族の実情だけど。だ-っておれ家業のことなんてなんにも知らないし!
外場:キンマンくんのご実家、金満寺は都内一等地に建てられた由緒正しいお寺でしょう。そもそもお寺というのは、どうやって収入を得ているか知っていますか?
金満:寺の収入源? 全然わかんないなー。うーん、お布施とか?
外場:半分は正解。お寺の収入源は、葬儀や法要のお布施、盆や彼岸の供養料、そして、檀家などからの寄進(寄付)です。最近では檀家離れと言われますが、東京などの中心部のお寺でも昔ほど捗々しい収入が得られなくなっているのが現状です。
金満:えー! んじゃあ、全国に檀家あるってきいてるウチ(金満寺)もヤバいってこと!?
外場:その可能性はあります。地方では廃寺になるお寺も多いですし、副業をもってなんとかやって行けているというお寺も少なくない。幼稚園を経営したり、マンションなどを建てたり、駐車場を作ったりして賃料を得られるのもほんの一部。中には都内の一等地に高層のインテリジェンスビルを建て、一部をお寺の本堂や庫裏などに使い、後は事務所やマンションとして貸しているケースもある。
金満:でもさ、お寺って税金払わなくっていいんでしょ? 宗教法人だから。んじゃあうまくやれば相当儲かるんじゃ……。
外場:そんな簡単なものでもありません。葬儀や法要などのお布施、土地に対する固定資産税は非課税ですが、マンションや駐車場の賃料、あるいはお寺とは関係のない事業などには税金がかかります。
小さなお寺でも都内の一等地に数百坪の敷地を持つところが多くありますから、これに対する固定資産税は巨額なものになり、まともに支払ったら潰れるお寺も少なくないと言われています。
金満:うちの先も思いやられるな……。戒名料が高いっていうけど、そもそも人口が減少しているから、死ぬ人間もどんどん減るしねえ。
外場:そもそもキミは、戒名料がなんなのか、考えたことはありますか。
金満:(あるわけがない)(突然の眠気)
外場:…………戒名料という言葉は昭和三〇年代の高度成長のときに葬祭業者が作ったと言わわれ、本来、戒名そのものに価格があるわけではないんです。
金満:えーーーーーーーー、本来プライスレスだったわけ!?
外場:「院号」や「院殿号」、「居士」「信士」などはもともとその家が武士であったか農民や町人であったかなどによって決まっているもので、お金を積んだからといって格式の高い戒名を付けてもらえるわけではありません。世間で戒名料といっているのは、お寺に対するお布施、葬儀に対する対価なのです。ただし、最近では戒名の価格表を用意して喪主などに提示するお寺も少なくありません。
金満:なるほどー。どこの世界もユーザーにわかりやすい商売が求められているってことかぁ。
2.お坊さんってどうやってなるの?
金満:ねーねー、そんなに詳しいなら、外場もお坊さんになればいいじゃない? っていうか実はそういうつもりとか? 親戚が寺とか?
外場:現在、お坊さんになる人の99パーセントはお寺の子弟なんです。まあ、お寺の子弟でもそうでない人でもお坊さんになるには同じプロセスを経ることになります。
金満:へー、プロセス! 大学でもあるの? 資格とか。
外場:まずは、お寺の子弟でもそうでない人でも、自分が指導をうけたいお寺を決めて出家をします。出家に際してはできるだけ紹介者(出家する寺と関係のある人)がいたほうがスムースです。伝統的には出家後は数年間の修行を積んで「得度」し、さらに修行した後に、受戒をして戒名をもらうことになります。得度とは彼岸(悟りの世界)に渡る資格を得ることで、得度までは寺での仏教の生活に慣れるのが目的だが、得度以降は本格的な修行に入ることになります。そして、出家をしてはじめて一人前の僧侶になる、つまり、職業としてのお坊さんになれるわけです。
金満:うちの哲彦(兄)、そんな真面目な職業訓練してたようにはとても見えないんだけど……。
外場:ただし、さっき挙げたのは伝統的なお坊さんになるためのプロセスで、現代では修行といってもお経を覚えたり、儀式の作法や進行を覚えることが主体になっています。つまり、プロのお坊さんとして自立できる技量を身に着けることが重視されるんです。もちろん、比叡山の千日回峰行のような厳しい修行を行っている人もいますが、そういう厳しい修行に耐えなければ僧侶の資格を取れない訳ではありません。ただ、法要などに必要なお経を覚えたり、複雑な作法などを覚えなければならないので、数年間の修行期間は必須でしょうね。
3.お坊さんってどんな仕事をするの?
金満:でもさ、うちの哲彦、たしかにボーサンなんだけど、普段何やってるかよくわかんないんだよね。お坊さんの仕事っていったい何なの?
外場:僧侶の仕事のメインになるのは、葬儀とそれに続く一周忌や三回忌などの年忌法要、お盆や彼岸、施餓鬼(浄土真宗では施餓鬼は行わない)、大晦日の除夜の鐘といったところですかね。日常的には朝夕の勤行(読経)、お参りに来た檀家の応対、檀家が持ちかけて来る仏事やさまざまな相談への対応、さらには人手を雇う余裕のない寺では本堂や墓地の掃除なども業務内容に含まれるでしょう。
金満:……哲彦、アイドルのライブ行ってるけど、それはどうなんだろか。オフ活だからいいのか。
外場:このほか、檀家さんを連れてその宗派の本山への団参(団体で参拝すること)や寺で行うさまざまなイベントの企画・実行なども僧侶の仕事のうちです。もちろん、戒名を付けることも重要な仕事のうちのひとつです。小説の中にもあるように戒名は、僧侶にとっていわば一世一代の大仕事なのです。付けた戒名によってその僧侶の品格や資質が問われることになるんですよ。
金満:げえ、責任重大! やっぱり俺よりもずっと外場が寺の仕事に向いてるんじゃ……。
>>第2回では、【仏教とは何なのか】を解き明かす!
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