山田孝之×菅田将暉のW主演、そしてハイクオリティな映像と展開で話題沸騰中のドラマ『dele』(テレビ朝日系毎週金曜よる11:15~ ※一部地域を除く)。最終回が迫る中、小説版1作目の試し読み公開につづいて、2作目の試し読みも実施します! 小説の著者は、ドラマ原案と3話分の脚本を担当したベストセラー作家の本多孝好。ドラマとは異なるオリジナルストーリーに注目!
>>試し読み第4回へ
あー、痛え、とのけ反りながら体を起こしたとき、声が降ってきた。
「そこ、止まれ」
見上げると、さっきの窓から背広姿の若い男が顔を出していた。警察だというのが本当ならば、刑事だろう。その背後から中年の男が顔を覗かせたが、すぐに消えた。表の階段を回ってこちらにくるつもりだろうと察して、祐太郎は走り出した。走りながらリュックを背負い直している間に、また声が降ってくる。
「あ、待て。こら」
直後に鈍い音がした。驚いて振り返ると、自分が落ちた場所に、自分よりも無様な姿で若い刑事が倒れていた。構わずに逃げようとしたが、できなかった。刑事はぴくりとも動かない。
「あのー」と祐太郎は声をかけた。「あ、え? 大丈夫っすか?」
やはり返事はなかった。祐太郎は恐る恐る刑事に近づいた。うつぶせに倒れた刑事は何の反応も見せなかった。祐太郎はかがみ込んで、刑事の体を仰向けに転がした。額が割れて、血が流れ出している。
「うわっ、痛そうだな、それ。意識、飛んでてよかったかも」
祐太郎は立ち上がり、尻ポケットに入れていたスマホを手にした。
「今、救急車、呼ぶから」
画面を電話にして、『1』を二度押したところで、足首をつかまれた。
「うぉっ」
思わず振り払い、その場を飛び退く。割れた額から血を流しながら、刑事が祐太郎を見据えていた。
「お前、顔、覚えたからな」
また足をつかもうと手を伸ばしてくる。なかなかホラーな光景だった。中年のほうの刑事がやってくるのが目に入り、祐太郎はスマホをしまった。
「やられたのか? 大丈夫か?」
遠くから走り寄ってきている中年の刑事が、吠えるような声を上げた。
「あー、いや、誤解です。俺、何にもしてないっすよ。してないっすからね。あの、救急車、まだなんで。必要なら、呼んでくださいね」
中年の刑事に叫び返し、足下の刑事には「あ、お大事に」と告げて、祐太郎は駆け出した。
「待て」という中年の刑事の声と、「待てえ」という恨みがましい声を背中に浴びて、祐太郎はフェンスとビルの間の細い路地を走り抜けた。
圭司は依頼人のノートパソコンに電源コードを挿した。
「充電が切れたというより、バッテリーがほとんど死んでたんだな」
圭司がボタンを押すと、ノートパソコンがうなりを上げ、画面上でOSがのんびりと立ち上がり始める。
「これじゃ、直接触らないとどうしようもない。取りに行かせて正解だった」
圭司は車椅子の角度を変えて、モグラの画面を開いた。
「正解って、ケイ、今の俺の話、聞いてた? それ、取りに行ったばっかりに、俺、刑事に追っかけられたの。刑事が勝手に怪我をして、それを俺のせいにして、お前の顔、覚えたからなって。何か、すごく根に持ちそうな顔してたけど、大丈夫かな。適当な罪状をでっち上げられて、逮捕されたりしないかな」
「大丈夫だ。その手の事件なら、舞は燃える。きっといい弁護をしてくれる」
天井を指して、圭司は言った。
「逮捕前提で慰めるなよ。もっと手前の解決方法を考えようよ」
「身元が割れなければ大丈夫だろ」
「身元が割れちゃったら?」
「どうやって割れるんだ?」
「それは、ほら、地道な聞き込みとか、人海戦術とかで」
「不法侵入で、そこまではしないだろ」
「業務中の事故だろ? もうちょっと親身になろうよ、雇い主としてさ」
詰め寄ると、圭司は鬱陶しそうに祐太郎を見上げた。
「どうしろっていうんだ?」
「部屋に刑事がきたんだから、依頼人の横田さんは、きっと何か事件に巻き込まれていたんだと思う。削除依頼があったデータ、見せてくれ。何かわかるかもしれない。警察に何か情報提供できれば、俺も恨まれずに済むと思うんだ」
「データは誰にも見せない。依頼人の死亡確認が取れたら、誰にも気づかれないように削除する。それがうちの仕事だ」
「いつもそう言うけどさ、これまでだって、データを見てよかったと思うこと、あっただろ?」
圭司が眉根を寄せた。しばらく斜め上を眺め、次に祐太郎の顔を見つめ、それから不思議そうに問い返した。
「あったか?」
「いやいや、あっただろ? むしろ、見ないほうがよかったなんてこと、なかったんじゃないか?」
圭司はまたしばらく考えてから、言った。
「見ても、結局は何も変わらなかったって場合がほとんどだったと思うがな。変わらないなら、あとは礼儀の問題だ。うちに託されるのは、その人の中の最も弱くて、柔らかな部分だ。みだりにそれに触れるのは、死者に対して礼儀を欠く行為だとは思わないか?」
「礼儀は、それは、まあ、わかるけど」と祐太郎は言った。「でも、ほら、刑事が怪我しちゃってるし」
依頼人のパソコンでようやくOSが立ち上がったのを確認すると、圭司はモグラのキーボードを叩いた。
>>(このつづきは本編でお楽しみください)
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2025年2月17日 - 2025年2月23日 紀伊國屋書店調べ
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