山田孝之×菅田将暉のW主演、そしてハイクオリティな映像と展開で話題沸騰中のドラマ『dele』(テレビ朝日系毎週金曜よる11:15~ ※一部地域を除く)。最終回が迫る中、小説版1作目の試し読み公開につづいて、2作目の試し読みも実施します! 小説の著者は、ドラマ原案と3話分の脚本を担当したベストセラー作家の本多孝好。ドラマとは異なるオリジナルストーリーに注目!
>>試し読み第3回へ
ヴェルデ目白は駅からほど近い場所にある古いマンションだった。ドアの間隔からするなら、各部屋の広さはさほどではない。郵便受けで『横田』の名前を探し、祐太郎は二〇一号室に向かった。インターホンを鳴らしたが、応答はなかった。廊下に防犯カメラがないのを確認して、ジーンズのベルトループに通したキーリングを手にする。リングには、家の鍵と一緒にピックとテンションが一本ずつぶら下げてあった。テンションを差し込み、ピックでピンを探っていく。三分ほど鍵と格闘してから、祐太郎は依頼人、横田英明の部屋に上がり込んだ。
こぢんまりとした1LDKだったが、場所柄、家賃は安くないはずだ。ベッド、デスク、椅子。家具は値のはりそうなものが多かった。多種の楽器が目につく。ノートパソコンにつなげられたキーボード。小さな機器につながったままのギター。他にもケースに入っているギターか、ベースが何台か。母親はこの部屋には立ち寄らずに帰ったようだ。衣服が脱ぎっぱなしになっていて、灰皿には吸い殻が残っていた。
部屋の棚に目をやると、楽譜の本が多く並んでいた。ほとんどがバンドスコアだった。海外のロックバンドのものが多い。
その棚に、埃
をかぶった写真たてが伏せてあった。祐太郎はそれを手にした。ずいぶん昔のものだろう。四十歳くらいの夫婦に男の子が二人。兄の英明が小学校高学年、弟のソウスケは低学年か。英明は、ぱんぱんの丸顔に、閉じているような細い目とひしゃげた団子っ鼻。おまけに分厚い唇がだらしなく緩んでいる。不細工な子供の理想形みたいな顔だった。隣にいる弟のソウスケがすっとした男前な分、余計に不細工さが際立っている。
「頑張れ、兄ちゃん」と微笑
んでから、祐太郎はその兄ちゃんがすでに死んでしまったことを思い出した。二人の子の後ろで微笑んでいる母親に目をやった。
『ありがとうございます。友達でおってくだっしゃって』
その言葉が思い出され、やり切れない気持ちで写真たてを棚に戻したとき、インターホンが鳴った。続けて、もう一度。祐太郎は息を吞んだ。立ち去ってくれることを期待したのだが、玄関ドアがドンドンと叩かれた。侵入したあと、確かに内側から鍵をかけたことを思い起こして、祐太郎は自分を落ち着かせた。相手が誰にせよ、すぐに入ってこられることはない。
音を立てないように気をつけながら、祐太郎はキーボードにつながっているコードを抜いて、ノートパソコンをリュックの中に入れた。近くに落ちていた電源コードもリュックに入れる。そっと玄関に忍び寄って自分のスニーカーを取り、部屋の中に取って返した。その間に、もう一度、インターホンが鳴らされ、スピーカーから声がした。
「警察の者ですが、どなたもいらっしゃいませんね?」
「警察?」と祐太郎は思わず呟いた。
「鍵、開けますよ」
「鍵、持ってんのかよ」
小さくぼやいて、見落としたことはないかと素早く部屋の中を確認する。見る限り、リュックに入れたノートパソコン以外にデータを保存できそうなデジタルデバイスはない。祐太郎は手にしていたスニーカーを履いて、裏手に向いた窓を開けた。途端、つい声を上げてしまった。
「うっそ」
二階だという思い込みがあった。だが、マンションは傾斜地に建っていたようだ。入ってきた表側よりずっと低い位置に地面があった。
「今、人の声がしませんでした?」
スピーカーからまた声が聞こえた。通話状態のままになっていたらしい。
「したよ。早く開けろよ。何で止まるんだよ」
隣のビルとの境にフェンスがある。それを確認して、祐太郎は背負っていたリュックを腹に抱えると、窓枠から身を躍らせた。狙い通り、フェンスの上に足が乗る。バランスを失った体が傾くのには逆らわず、体を丸めながら背中から地面に落ちた。衝撃は転がっていなす。すべて計算通りの動きだった。
「痛いな、それでも」
(第5回へつづく)
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>>本多孝好『dele2』 書籍詳細ページ
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