角川文庫より、2011年に発売された重松清の小説「とんび」。瀬戸内地方を舞台に、父と息子、それをとりまく周囲の人たちの人間模様を描いた本作は、同名でテレビドラマ化をされたことでもご存知の方は多いだろう。それがこのたび、阿部寛、北村匠海を父子役として、初の実写映画化を果たす。
今回は、場面写真とともに、撮影の様子を詳細レポート!
幾度途切れても必ず繋がってゆく親子の絆を描く、直木賞作家・重松清によるベストセラー小説「とんび」。昭和を舞台にしたこの物語を、今、この時代にこそ届けたいと、初映画化が実現した。
本作には、日本一不器用な父と、健やかに育った息子が登場する。父・ヤスは、酒が好きで喧嘩っ早くぶっきらぼうだが、本当は曲がったことが大嫌いな真面目な男。そんなヤスを演じるのは、『テルマエ・ロマエ』『下町ロケット』などの大ヒット作で、圧巻の表現力と存在感を放つ阿部寛。
そして、ヤスが男手ひとつで育てた息子・アキラは、素直にすくすくと育っていった。そのアキラの青年時代以降を演じるのは、『君の膵臓をたべたい』『東京リベンジャーズ』などで演技の才能を魅せる北村匠海。ほかにも、杏、安田顕、大島優子、麿赤兒、麻生久美子、薬師丸ひろ子といった豪華キャストが集結。監督は、数多くの人間ドラマを生み出してきた瀬々敬久。今回は、映画オリジナルということで令和時代のエピソードを加えて、過去と未来の人のつながりを描き出す。
美しい瀬戸内海で撮れた奇跡のシーン
映画『とんび』の撮影は、2020年11月から約1ヵ月間、原作の舞台である瀬戸内地方を中心に行われた。序盤の重要なシーンとなる夜の海は、岡山県浅口市の青佐鼻海岸で撮影された。ここでは、麿赤兒演じる海雲住職が、赤ん坊のアキラを抱いたヤスに向かって「(悲しみを飲み込んでいくような)海になれ」と言い放つシーンなどを撮影。この言葉は、妻を亡くしたヤスにとって、目指すべき理想の父親像を示しているのだが、瀬々監督自身が完成した作品を観て、「もっと広く大きなものも表している」と感じたほどの名場面となったという。そして、ラストの海のシーンは、淡路島の吹上浜で撮影が行われた。あいにくの暴風で撮影が危ぶまれたが、撮影監督の斎藤幸一が激しく波立つ海のキラキラと輝く美しい水面を捉え、結果的に穏やかな瀬戸内の海とは違った表情を観ることができる印象深い映像となった。
映画オリジナルとして父と息子が久々に再会する秋祭のシーンがあるが、これは、岡山県の地域住民の方にエキストラとして参加してもらい、賑やかなシーンが誕生した。時は平成元年、いわゆるバブル期となり、衣装の
活気あふれる昭和30年代の人々の暮らしを丁寧に描く
ヤスをはじめとする町の人々の暮らしの中心となる商店街は、映画の中でも重要なロケセットだ。毎日のようにヤスが通う小料理屋・夕なぎも軒を連ねている。ここは、長い間ロケハンを重ねて、岡山県浅口市金光町商店街での撮影が決まったのだが、瀬々監督がこだわった高度成長期以降の活気のある力強い空気感の息吹が残っていたという。美術の磯見俊裕と装飾の龍田哲児のチームが膨大な資料をリサーチしながら、店先や看板を作り替え、道路のアスファルトに土をまくといった大改造を行ない、昭和30年代の商店街を見事に再現。時系列順に撮影が行われたが、それにともなって、町の変化も緻密に調整しながら撮影が行われたという。
阿部寛&瀬々監督が、濃密な撮影時間を振り返る
撮影を振り返って阿部は、「町の人々皆が支え合いながら生きていく姿が、この映画の魅力だと感じました。ヤスにとっての"家族"は、アキラだけではなく登場人物全員です。人々の間に距離が生じている、そんな時代だからこそ、人々が助け合って生きるこの物語が、皆様に届いてくれればいいなと思っています」と語る。そして、瀬々監督は、こう締めくくる。「重松さんの物語の強さを、映像にすることができました。どのエピソードも熱く、それでいて情感たっぷりで、素晴らしいシーンの連続となり、自分たちが撮影したことも忘れて魅入りました。ヤスを中心にしながらも、すべての登場人物が抱えている物語がどれも濃厚で、人の心を惹きつけます。誰を主人公にしても、一編の映画が出来るのではないでしょうか。間違いなく、おもしろい作品です」。
今も昭和時代も変わらない、家族の大きな愛を描く本作を、ぜひ劇場で堪能してほしい。
映画情報
『とんび』
監督:瀬々敬久
原作:重松 清「とんび」(角川文庫 刊)
出演:阿部 寛 北村匠海 杏 安田 顕 大島優子 麿 赤兒 麻生久美子/薬師丸ひろ子
配給:KADOKAWA イオンエンターテイメント
4月8日より全国公開
https://movies.kadokawa.co.jp/tonbi/
©2022『とんび』製作委員会
STORY
舞台は瀬戸内の町。不器用な男・ヤス(阿部)は、愛する妻・美佐子(麻生)の妊娠にも上手く喜びを表せないでいた。幼い頃に両親と離別したヤスにとって、家族は何よりの憧れだったからだ。時は昭和37年、アキラと名付けた息子のために、運送業者で懸命に働くヤス。だが、ようやく手にした幸せは、妻の事故死によって打ち砕かれてしまう。悲しみに沈むヤスだったが、人情に厚い町の人々に叱咤激励され、彼らの温かな手を借りてアキラを育ててゆく。時は流れ、高校3年生になったアキラは、東京の大学に行くことをヤスに相談する。するとアキラは「一人前になるまで帰ってくるな!」とヤスを突き放してしまうが……。
原作情報
重松清、永遠のベストセラー「とんび」
とんび
著者 重松 清
定価: 704円(本体640円+税)
発売日:2011年10月25日
父親は、悲しみを飲み込んでいく海になれ――
昭和37年、瀬戸内海の小さな街の運送会社に勤めるヤスに息子アキラ誕生。家族に恵まれ幸せの絶頂にいたが、それも長くは続かず……高度経済成長に活気づく時代と街を舞台に描く、父と子の感涙の物語。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/201101000078/
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