──水鳥が運んだウイルスが、アヒルやガチョウ、豚など、家畜をとおしてヒトに感染すると言っていいのでしょうか。

石:そうです。記憶にも新しいと思いますが、2001年には鳥インフルエンザというのがありました。世界で4億羽を超えるニワトリやアヒルが処分され、日本でも182万羽が処分されました。人間にも広がり、2013年の世界保健機関(WHO)などの調べでは、世界で630人が発病し、374人が死亡しました。死亡率は6割近くになります。これらの死者はほとんど、ニワトリとの接触で感染したことが明らかになっています。
2009年には豚インフルエンザがメキシコやアメリカで発生し、世界199か国・地域で感染者は6100万人、死者は1万8000人を超えた、と米国室病予防管理センターは発表しています。日本でも原因が確定できない人も含めて203人が亡くなりました。

──今ではタミフルやリレンザで一週間もすれば治りますから、御しやすい病気と考えてしまいますが、とても怖いのですね……。

石:14~15世紀には、スペインのある都市そのものが消滅したという記録が残っていますし、1977年のソ連かぜでは約10万人が死亡しました。
 戦争を止めたこともあります。第一次大戦は1914年にアメリカがドイツに宣戦布告して始まりましたが、緊急動員された兵舎はどこもごった返しており、感染が一気に拡大しました。
 大流行したインフルエンザでアメリカは5万7000人、ドイツは20万人の将兵を失い、戦争どころではなくなってしまったのです。さらに感染した兵士が本国にウイルスを持ち帰り、インフルエンザのグローバル化まで起きました。人類史上最大の死者と感染者となってしまいました。『スペインかぜ』と呼ばれる大流行です。
 長い歴史を見て、人類を最も殺した病気がインフルエンザなのです。

スペインかぜの最初の発生地として疑われているアメリカのカンザス州ファストン基地で集団発生した患者

スペインかぜの最初の発生地として疑われているアメリカのカンザス州ファストン基地で集団発生した患者

──な、なるほど。ところで今は特効薬的な薬、タミフルやリレンザがありますよね。

石:タミフルが何からできているか知っていますか。中国料理や漢方薬でなじみの深い八角なんですよ。感染の起源も中国ですが、治す生薬がとれるのも中国というわけです。

──ちなみに石さんは、感染症の危険を考えて動物との接触を避けたりしていますか。

石:生肉を食べるときは考えます。感染症の研究者は、たとえばユッケは食べませんよ。以前、中国で歓迎の印としてヘビの生き血を出されたことがありました。ヘビが持っているウイルスが頭の中に次々と浮かびまして、丁重にお断りしました。(笑)

書籍

『感染症の世界史』

石 弘之

定価 1166円(本体1080円+税)

発売日:2018年01月25日

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