お笑い芸人・ひろたあきらさんのはじめての絵本『むれ』がKADOKAWAから刊行されます。自作の手作り絵本だった『むれ』が、読み聞かせ会で子どもが“むらがる”人気絵本になったいきさつや、本の楽しみ方、絵本に込めたメッセージをお聞きしました。
【変な絵本との衝撃的な出会い】
――はじめに、お笑い芸人であるにも関わらず、なぜ絵本を作ることになったのか、きっかけをおしえてください。
僕は今29歳なのですが、もともとは愛知県出身で、デザイン専門学校を出たあとお笑い芸人になろうと思って、21歳で名古屋よしもとに入りました。4年くらい漫才コンビを組んで活動しながら、いつか東京に行きたいと思っていたら、相方が行方不明になってコンビ解消することになり、じゃあ単身で東京に行こうと。よしもとの東京所属となって再びコンビを組んだのですが、また半年くらいで相方が芸人をやめるというので解散することになりました。

芸人を続けていくために僕は何をしたらいいだろうと考えて、デザイン専門学校で絵を描いていたので、変な絵本を作ってピンネタをやってみようと思いました。それで、絵本にはどんなものがあるのかなと本屋さんに行ってみたら、長新太さんの『ゴムあたまポンたろう』を見つけて、すごい衝撃を受けたんです。
めちゃくちゃ自由で、変で、おもしろい。「こんな絵本があるなんて知らなかった」と思いました。長新太さんの作品が大好きになっていっぱい読みました。他の作家さんの作品にもおもしろい絵本がたくさんあることを知って、ますます絵本にハマりました。

長新太・作『ゴムあたまポンたろう』(童心社)
>>『ゴムあたまポンたろう』(童心社)
それが上京して1年くらい経ったときだから、24歳くらい。1冊ずつ気に入った絵本を買い集めるようになり、今はひとり暮らしの狭いワンルームに300冊くらいあると思います。
ツイッターで好きな絵本についてつぶやくようになると、だんだん芸人仲間や先輩たちに僕の絵本好きが知られるようになりました。よしもとの劇場である神保町花月で、絵本のライブをしたり、お笑いの活動の中で絵本のイベントをするうちに、お客さんとして来てくださった方の中に書店員さんがいたりして、書店の絵本コーナーでも読み聞かせ会を定期的にするようになりました。読み聞かせ会で読むために自作絵本『むれ』を作ってみたのがはじまりです。

花月のステージで当時をふり返るひろたさん。
【指をさして盛り上がって楽しむ『むれ』】
――最初から「むれ」というタイトルだったのですか。
『むれ』は最初から「むれ」でしたね。実はその前に1冊作った絵本がありました。それは男の子の首がとれて転がって……といったちょっとシュールな内容で、子どもも一応笑ってくれるんだけど、ちょっと反応が違ったというか……。どうせなら、子どもがどんどん身を乗り出してくれる、指さしに近づいてきてくれるような絵本を作りたいなと思って、すごく考えました。そうしてできたのが『むれ』です。画用紙でできたノートに、ペンと油性色鉛筆で、文章と絵を手描きで描きました。

左上の小さなサイズのものが、最初に作った『むれ』。
――描き文字も、絵の雰囲気も、ほぼ変わっていませんね。ページをめくるとひつじの絵があって、「ひつじのむれです。いっぴきだけ けがありません」。「えっ、ひつじなのに毛がないの!?」と大人でもつっこみたくなるのがおもしろいですね。
ひつじって、毛があってモコモコしているのに、1匹だけ毛がないとか、きりんは首が長いものなのに、1頭だけ首が短いとか、ちょっとだけ、ずれているんですよね。
キャラクターはそのままのものも、推敲で付け加えたり変わったものもありますが、「ひつじのむれ」「きりんのむれ」などの生きものと、「うんこのむれ」「あめのむれ」などの生きものじゃないものとを両方描いているのは一貫しています。
茶色いうんこの中にカラフルなうんこがあったり、おばけは足がないものなのに、1匹だけ足があるおばけがいたり……(笑)。
ページごとにちゃんとおもしろがってもらうために、ずらし具合を変えて、期待や予測を裏切っていくのは、お笑いのネタを考えるのと似ていました。

ニジノ絵本屋にて。絵本が好きになり、あちこちの本屋さんを訪ねていたときに、ニジノ絵本屋さんを知ります。ここを通じて出会った絵本作家・ふくながじゅんぺいさんに絵本の勉強会へ誘われ、『むれ』の出版につながりました。

ふくながじゅんぺい・作『うわのそらいおん』(金の星社)
>>『うわのそらいおん』(金の星社)
【自分だけの「ぴぽぷぽぺ」を探してもらえたら素敵だな】
――子どもたちの反応はどうでしたか。
最初に読んだときからすごく反応がよかったです。『むれ』を開くだけで、近づいてきて指さして「ここにいる!」とか、発見したことをいろいろ言ってくれるんです。自分でページをめくりたがったりしてすごいなと思いました。
たとえば「うちゅうじんのむれです。 ひとりだけ ぴぽぷぽぺです」みたいに、子どもにとってはよくわからないページもあるかもしれないけど、わからないのもいいんじゃないかと。どれが「ぴぽぷぽぺ」でもいいし、自分だけの「ぴぽぷぽぺ」を見つけてもらえたらそれも素敵なんじゃないかと思っています。

「うちゅうじんのむれ」の原画。この中のどこかに「ぴぽぷぽぺ」が……。
――いろんな仕草をしている「うちゅうじん」たちのどれが「ぴぽぷぽぺ」なのか、これは大人にとっても難しいですよね。
だんだんページが進むにつれて難易度が上がるんですよ(笑)。ネタバレすると、頭にある触角みたいなものが3つの宇宙人がひとりだけいるんです。「ぴぽぷぽぺ」は宇宙語であるという設定で、何をしゃべっているのかわからないけど、とにかくひとりだけ違う「ぴぽぷぽぺ」がいる(笑)。
「とうめいにんげんのむれ」も、透明だからむれは見えないんです。見えないところにも想像力をはたらかせてもらえればいいなと思っています。
【むれから外れた1匹のありは、最後に何に出会うのか】
――最後のほうに出てくる「ありのむれ」は、ぎっしりびっしり描かれている絵が壮観でした。
今回はじめて絵本を描いてみて思ったことの1つは、「こんなにペンを使うのか」ということでした。そもそも、絵に一番適したペンを選ぶために、ありとあらゆる黒いペンを試しました。太さ細さだけでなく、紙との相性や、インクののりや、色鉛筆で色をつけたときににじまないか……。ペン先のサイズも0.1、0.2、0.5と色々試したので30本くらい買ったと思います。さらにペンが決まってからも、1冊を描くために同じペンを30本以上使いました。「何回、画材屋に行くんだろう」と自分でも笑っちゃうくらい。
僕は下書きをしないので、バランスが悪かったり、線が納得いかない箇所があると、全部イチから描き直します。あるときふっと「うわ、おれ、うんこ1日1000個以上描いてる」と思ったことがあったので、うんこのページだけでも何枚も描き直しているんですよね(笑)。
ありが1ページに何匹いるのか数えたことはないんですけど、とにかく数えきれないほどの数のむれの中で、1匹だけ違う向きのありがいます。

――その1匹だけ違うありが、別の方向へ歩いていって……、別の「むれ」に出会いますね。
「ありのむれ」と違う方へ進んだありは、まったく違う「ありのむれ」に出会うんです。そして最後には一輪の花のもとにたどりつきます。
この絵本を描いているうちに、自分もこの1匹のありと同じなんだと思えてきました。工業高校に通い、みんな自動車関連の会社などに就職するのに、1人だけデザイン専門学校に進み、周囲がデザイン系の職種を目指す中で、1人だけお笑い芸人を選んでしまう。さらに、ネタだけでなく、絵本というジャンルにも飛び込み、芸人を続けようとする自分は、このありみたいなものじゃないかと。
――花にたどりつくありの姿に、深いメッセージを感じます。
「むれ」で1つだけ違うものも、ぜんぶが違う「むれ」の中に入ったら、それ自体の意味は変わる。ひとりだけ違う方へ歩いていったとしても、花にたどりつけたらいいですよね。
『むれ』を絵本専門店で読み聞かせしたときに、当時の副店長さんから「この本はすごくいい本だから、出版できるように頑張って」と真面目に言ってもらえたことがとても心に残っています。
絵本に詳しくなって絵本芸人としてがんばれと励ましてくれた山口トンボさんや、『むれ』を見せたときにおもしろがってくれたパンサー向井さんには勇気づけられました。しかも、本の帯に、ピースの又吉直樹さんから帯の文章をいただけるなんて、最高だなと。

本音を言えば、『むれ』を世界中の子どもに読んでほしい。大人も子どももすべての人に楽しんでほしいです。実は、絵をよーく見た人だけにわかる、ちょっとした「おまけ」みたいな絵探しもあるんですよ。いろんな「むれ」の中を探してみてくださいね。

ひろたあきら
1989年愛知県生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。
ライブなどで活動するほか、絵本を用いたイベントや読み聞かせ会を積極的に行う。本書が初めての絵本作品となる。
【今回撮影にご協力いただいた皆様】

ブックハウスカフェ https://www.bookhousecafe.jp/

ニジノ絵本屋 http://nijinoehonya.com/
