日経小説大賞受賞のデビュー作が話題の赤神諒さん。
弁護士、大学教員として活躍しながら作家を目指した理由とは? 多彩な顔をもつ大型新人にお話をうかがいました。
── : 小説を書いたきっかけは?
赤神: 祖父が英文学者で家の図書室には海外文学作品がたくさんありました。三歳からシェイクスピアの劇場に連れていかれたりもして、英文学者になるつもりで大学は文学部に進学しました。ところが人生には他の可能性もあるはずと思いたち、まずは世の中を知ろうと、大学三年のとき、司法試験に挑戦しました。弁護士になって多くの書面や論文を書くうちに、より多くの人に読まれ、後の世に残る文章を書きたいと思うようになりました。それで八年ほど前に小説を書き始めました。
── : 最初から歴史小説を書かれていたのでしょうか?
赤神: もともと、現代物と交互に書いていました。歴史物の方が応募結果がよくて、四年前に初めて松本清張賞の最終候補に残った「猛き名をとどめん」も歴史物でした。まずはデビューを目指すということで、デビューの直前は歴史物を中心に書いていました。
── : 影響を受けた作品・作家は?
赤神: 学生の頃から、司馬遼太郎の諸作品とシェイクスピア、特に史劇、悲劇を好んで読んでいました。ペンネームの「諒」の字の音は司馬先生のお名前から頂戴しています。私は重要な場面の台詞を先に書く場合が多いのですが、これは台詞だけで構成されるシェイクスピア劇の影響かもしれません。私の作品は、台詞の占める比重が少し大きいと思います。司馬先生に関しては、学識に差がありすぎて、努力して追いつける人ではないとよくわかりました(笑)。ただ、史実と創作のバランスの取り方や距離の置き方は、影響を受けているかもしれません。
── : 大友義鑑の跡継ぎをめぐる御家騒動で義鑑親子が館の二階で襲われる「大友二階崩れ」を題材にした理由は?
赤神: 有名な事件や人物を選ぶと、先行作品や研究を網羅するだけで膨大な時間がかかる上に、先行作品を何らかの意味で超えるものが要求されると思います。他方、マイナーな事件や人物を題材にすれば、読者も詳しく知らない話で、史実の空白も多いので、面白く作れば、どうなるか分からないワクワク感を持ってもらえるのではと思っています。 それで、大友氏の家臣だった高橋紹運を主人公にした話を書いて、松本清張賞に応募したのが「猛き名をとどめん」でした。その中で大友二階崩れのことを少しだけ書いており、この題材をもっと膨らませたいと思ったのが執筆のきっかけです。
── : 歴史小説ですが、組織小説のような読み応えもあります。
赤神: 本作は悲劇を書きたいと思って構想しました。悲劇を書くためには、主人公にとって不本意な状況をいかに作っていくかが肝で、そのために組織を使っているという部分があります。
── : 確かに主人公の吉弘鑑理は次々と不本意な状況に追い込まれます。
赤神: 悲劇の本質の一つは〝不本意〟なのではないかと考えていて、不本意な状況に置かれやすいのが、配下など組織の中で下の立場にある人なんです。
── : 脇役の戸次鑑連も存在感があります。
赤神: 彼は九州最強の武将とも言われ、非常に好きな人物です。私の中ではキャラクターが完全に出来上がっています。もの凄い能力があって組織でも不可欠なのですが、周囲としばしば衝突するので組織の中で浮いてしまい、普段は同僚や上司もあまり触らないようにしている。でもいざというときは非常に頼りになる。裏主人公のようなキャラクターでこれから刊行する大友シリーズで頻繁に登場させる予定です。
── : 執筆中、気をつけていることは?
赤神: エンタメ小説は面白くないと。理想は、筆者本人が書きながら泣ける小説です。あとは読みやすくするために、史実との兼ね合いを睨みつつ登場人物をいかに減らすか、歴史小説にふさわしい言葉をどう選択するかといった点も気をつけています。
── : 法律家・大学教員としてのお仕事との両立はどのように?
赤神: 朝型なので主に早朝と休日を執筆にあてています。
── : 次作以降で描きたい人物がいれば教えてください。
赤神: 死に方の恰好良い人物を書きたいですね。脱稿済みの山崎吉家もその一人です。朝倉義景の家臣で、信長との融和を懸命に説くのですが、いざ敵対すると信長相手に熾烈な戦いを展開し、最後まで忠義を尽くして主家に殉じる。その死に様をしっかりと描くつもりです。