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特集

ママたちの声から生まれた人気絵本 風木一人・たかしまてつを『いっしょにするよ』刊行記念インタビュー

撮影:後藤 利江  取材・文:加治佐 志津 

ママたちの声を取り入れて生まれた人気絵本『とりがいるよ』『たまごがあるよ』のシリーズに、続編となる新作『いっしょにするよ』が登場しました。1~3歳の赤ちゃんに向けた、音の響きが楽しい絵本です。刊行を記念して、作者の風木一人さんとたかしまてつをさんのお二人に、シリーズ3部作の制作秘話や新作の見どころについて、たっぷりと語っていただきました。

ギャラリーの片隅での運命的な出会い

――はじめに、シリーズ第1弾『とりがいるよ』のお話から伺いたいのですが、この絵本はどのようにして生まれたのでしょうか。

風木:僕の絵本作りは、自分が面白いと思えるものを見つけることから始まります。『とりがいるよ』の場合は、「たくさんの鳥の中に一羽だけ違う鳥がいる」という面白さです。たくさんの白い鳥の中に赤い鳥が一羽だけ混ざっていたら、とても目立ちますよね。大人でも子どもでも赤ちゃんでも、絶対その鳥が気になって見てしまう。そんな単純な面白さが原点となって、この絵本のアイデアが生まれました。

僕は絵本の文章作家なのですが、ラフの段階ではよく自分で絵を描いたりします。文章だけよりも、その方が伝わりやすいからです。『とりがいるよ』も、最初は自分で絵を入れて、絵本のダミーを作りました。ちょうど池袋のギャラリーで展覧会をやるタイミングだったので、ギャラリーの片隅にそのダミーを置いておいたんです。展覧会を見にきてくれた編集者の目に留まれば、というつもりでした。

―― その展覧会に、たかしまさんも足を運ばれたそうですね。

たかしま: はい。風木さんとは、お仕事をご一緒したことはなかったんですが、10年以上前からの知り合いで、このときも展覧会のご案内をいただいて、見に行かせてもらいました。そのとき、このダミーを見つけて。タイトルに呼ばれた気がしたんですよ。「とりがいるよ」「え、どこどこ?」みたいな感じで。 開いてみたら、詩のような味わいがあって、一気に引き込まれました。で、気持ちよく読み進めていたら、中盤で「ながーい とりが いるよ」という衝撃のページが! 足が長い鳥とか首が長い鳥とかはいるけれど、ただ「長い鳥」って聞いたことないじゃないですか。絵も、普通の鳥をきゅーっと引き伸ばしたような妙なフォルムで、思わず二度見してしまいました。もう一目惚れです。

風木:僕としては、大きな鳥、小さな鳥に続く、単純な形のバリエーションとして「長い鳥」としたんですけどね。たかしまさんがそんなに反応してくださるとは、思ってもみませんでした。

たかしま: 「いろんな とりが いるよ」の見開きもすごくよかった。カーブを描いて歩いているビジュアルがすごく気に入ったし、テーマとして、多様性、世の中にはいろんな人がいるよってことを表現されているのかな、とも感じました。 あとになって風木さんから、これは赤ちゃん向けの絵本なんだと知らされたんですけど、そのとき僕は、そんなことまったく思わずに読んでいたんですよ。だから、赤ちゃん向けと聞いて逆にびっくりして。赤ちゃんに限定しなくてもいいんじゃないかと提案したくらい、僕は純粋に魅力を感じていました。 それで、その後すぐに「僕に絵を描かせてください」ってラブレターを書くかのようにメールを打って、風木さんに送ったんです。

風木:すごくうれしかったですね。じつは、絵本のダミーを作った時点では、絵をどなたに描いてもらったらいいのか、まだ具体的に浮かんでいませんでした。だからこそギャラリーの片隅に置いて、偶然に委ねてみたんです。まさかたかしまさんがやりたいと言ってくださるとは思いもよらなかったんですが、たかしまさんの絵で想像してみたら、完成像がパッと浮かびました。

―― まさに運命の出会いですね。その後はどのように制作を進めていかれたのですか。

たかしま: 風木さんのラフをもとに、いろんな画材で鳥を描いてみました。手描きか、それともデジタルかと結構悩んで、いろんなバージョンの鳥を描きましたね。

風木:どの鳥も魅力的で未練もあったのですが、この絵本の面白さが最大限に生きる絵はどれかと考えた結果、この完成形のバージョンに落ち着きました。そんな風にして、たかしまさんと二人である程度納得のいく形まで進めたところで、たかしまさんのご紹介でKADOKAWAの編集者・鈴木敦子さんに見てもらったんです。

風木さんの描いたダミー本(左)と、完成した『とりがいるよ』(右)

たかしま: 鈴木さんは僕が長年、仕事でお世話になっている編集者さんなのですが、ちょうど児童書のセクションに異動されたばかりだったんですね。しかも子育て真っ最中ということで、絶妙のタイミングでした。

風木:赤ちゃんを持つママたちの感想をたくさん集めるというのも、鈴木さんの発案でした。3人で保育園に行って、試作品を読み聞かせしてもらったりもしましたね。

―― 読み聞かせの反応をもとに変更した箇所もあるのでしょうか。

風木:あります。『とりがいるよ』は、「たくさんの鳥の中に一羽だけ違う鳥がいる」シーンでできていますが、一番目立つ鳥のほかにも、おまけとしてちょっと変わった鳥が混ざっているんです。読み返したとき「あ、こんな鳥もいたんだ!」と見つけてほしいと思って。

作り手としては、めくったらまずメインの鳥に気がついて、それからおまけの鳥に気がついてほしいんですね。だから、おまけが目立ち過ぎてはいけないんですが、最後まで気がついてもらえないのもつまらない。このさじ加減を決めるのに、実際に子どもたちの反応を見たことが大いに役立ちました。

王道の展開、王道の正面顔で作った続編『たまごがあるよ』

―― 1作目『とりがいるよ』は発売後すぐに重版がかかる人気ぶりでした。続編の話はいつ頃上がったのでしょうか。

風木:編集の鈴木さんはわりと早い段階から、3冊作りましょうと言ってくださっていました。でもいざ続編を作るとなると、『とりがいるよ』のよさを引き継ぎつつ、続編として新しい絵本を作るにはどうしたらいいのか、かなり悩みましたね。

シリーズ続編としてよくあるのは、主人公が同じでシチュエーションだけ変えるというパターンなのですが、『とりがいるよ』は主人公のキャラがいるような絵本ではないので、その形は成立しません。メインアイデアを引き継いで、『ねこがいるよ』や『いぬがいるよ』のようにキャラを変えていく方法も考えましたが、これだと『とりがいるよ』を超えられる気がしない。

そうやって悩んでいるうちに、ふと「いる」を「ある」に変えてみたらどうか、と思いついたんです。「たまごが割れて何か生まれてくる」という面白さをアイデアの核とすることも、ほぼ同時に浮かんできました。

―― たまごからは、何ともかわいい鳥のひなが生まれてきます。

風木:たまごから何かが生まれてくるという絵本はすでにいくつも出ているので、それらと違うものにしようということは意識しました。鳥、カメ、ヘビ、ワニ、恐竜など、たまごからいろいろな生き物が生まれてくるという見せ方もありますよね。

でもこの絵本では、あえて鳥だけにしました。鳥だけでも十分面白いバリエーションが作れるというのは、前作『とりがいるよ』で経験済みでしたからね。

たかしま: 風木さんがうれしそうな顔でラフを見せてくれたときのことは、今でも覚えています。風木さんが描いた、生まれたばかりの鳥のひなの何とも言えないとぼけた表情に、僕はまた一目惚れしたんですよ。

完成した『たまごがあるよ』(左)と、風木さんが描いた鳥のひな(右)

やられたなと思ったのは、後半に出てくる「ながーい たまごが あるよ」のところ。『とりがいるよ』を読まれている方なら、きっとあの長い鳥が出てくるんだろうと期待しちゃいますよね。でも、その期待はみごとに裏切られるんです。どんな鳥が生まれてくるかは、ぜひ絵本を手にとって確かめてみてください。

―― たまごが出てきて、ページをめくると割れて鳥が生まれる……という繰り返しの展開がとてもリズミカルですね。

風木:2場面を1単位とした、赤ちゃん絵本としては王道の展開で構成しています。そういう意味では、『とりがいるよ』は王道ではない展開だったんですよね。出てくる鳥も全部、顔が横向きでした。赤ちゃん絵本の定石としては、ディック・ブルーナがそうであるように、基本は全部、正面顔なんですよ。その方がわかりやすいし、親しみも湧きますから。それをあえて『とりがいるよ』では、一切正面を向かせなかった。セオリーを外したところにある面白さを追求してみたんです。

でも正面顔に魅力があることは、僕ももちろんわかっているんですよ。だから『たまごがあるよ』では、今度は徹底して正面を向かせてみました。

たかしま: でも、鳥の正面顔というのが、じつはとても難しくて……。正面から描くと、どうしてもくちばしのあたりが漫画っぽくなってしまうので、そこをどうすべきか、とても悩みました。それで、いろんな鳥の正面顔の写真を見まくったんですが、じっくり見るうちに、くちばしの先端がV字型になっていることに気づいたんです。なんだか笑っているようにも見えるんですよね。これだ!と思って描き始めたら、かわいい鳥が完成しました。

―― 「とんとんって たたいてみて」と、読者に参加を促しているのもこの絵本の特徴のひとつです。

風木:2010年に出版された『まるまるまるのほん』(ポプラ社)を見てからずっと、自分もいつか参加型の絵本を作ってみたいと思っていたんです。7年たって、ようやくそのチャンスが訪れました。読者の方々からは、小さな子どもたちが夢中になって「とんとん」している様子をたくさんご報告いただいています。その姿を想像するだけで、とてもうれしくなりますね。

「いっしょにする」ことの喜びを分かち合おう

―― 『とりがいるよ』『たまごがあるよ』に続いて、このたび新作『いっしょにするよ』が出版されました。こちらはどんな経緯で生まれたのでしょうか。

風木:『とりがいるよ』と『たまごがあるよ』は、「いるよ」と「あるよ」でシリーズとしての連続性を出しました。「走る」「食べる」「眠る」など、「る」のつく動詞はたくさんありますが、「いる」と「ある」はその中でも明らかに特別な動詞です。英語で言うとbe動詞にあたるもので、「存在する」という、非常に根源的な意味を持っていますよね。

そして、もうひとつ特別な動詞が英語で言う「do」。ひとつの具体的な行為ではなくて、「勉強する」「食事する」など、さまざまな言葉とくっついて動作を表す「する」です。いろいろと考えるうちに、「いる」「ある」に続けるなら、この「する」がいいよなとひらめきました。そして「するよ」の前は何かと考えて、「いっしょに」がいいなと思いついたんです。

―― タイトルから決まっていったのですね。

風木:そうですね。順序としては、コンセプトを含んだタイトルが最初に浮かんで、そこから中身を考える、というような流れでした。

好きな遊びは一人でしたって楽しいし、おいしいものは一人で食べてもおいしい。でもやっぱり友達とか家族とか、誰かと一緒だと、楽しさもおいしさも倍化しますよね。それこそが「いっしょ」の力で、僕はたぶんそこを描きたかったんだと思います。

「鳥たちが一緒に何かをする」というコンセプトが決まると、一体どんなことをするかというのは、わりと自然と出てきました。一緒にお散歩して、どろんこ遊びをして、池に飛び込んで、ごはんを食べて……最後は一緒に眠ります。ちょっとしたストーリーになっているので、『とりがいるよ』や『たまごがあるよ』を楽しんでくれたお子さんが、次のステップとして読むのにもちょうどいいかもしれません。

―― その後はどんな流れで制作を進められたのでしょうか。

たかしま: 前2作は風木さんのラフをもとに絵を描いたのですが、『いっしょにするよ』のときにいただいたのは、テキストだけだったんです。一目惚れする絵がない状態で始めなければいけなかったのはこのときが初めてで、その分、絵を描く上で考えなければいけないことも多くて、かなり試行錯誤しました。

風木:鳥を5羽にしたのも、そのうちの1羽に色をつけたのも、お母さんが登場するのも、すべてたかしまさんのアイデアなんですよ。

たかしま: お母さんの登場は最後の見開きだけにしようとか、ねんねのシーンは、もっと包まれているような安心感を出そうとか、風木さんと編集の鈴木さんからさまざまな意見をいただいて、なるほどと思って描き直しました。 それまで以上に密度の濃い話し合いを何度も重ねて、ときには意見を衝突させながらも、よりよい作品を目指しました。おかげで納得のいくものができあがったと感じています。

風木:シリーズ3作を俯瞰すると、作者である僕がある程度のところまで作って、たかしまさんや鈴木さんにお見せする、その“ある程度”のボリュームがだんだん減ってきたんですよね。3人のチームワークがどんどん高まっていたので、その分、委ねる部分が多くなってきたというか。話し合いの際も、作・絵・編集というそれぞれの領域に関係なく、忌憚のない意見が交わされました。

たまたまなんですが、この絵本のテーマは「いっしょにする」。そのテーマと重なり合うような絵本作りができたなと感じています。

―― 「いっしょ」の力が絵本作りの上でも発揮されたということですね。

風木:そうですね。さらに言えば、制作途中で試作品を読んでくださった方々のご意見も、随所で生かされています。鈴木さんは1作目のときから、3人だけで作るのではなく、赤ちゃんとそのママの声を聞きながら作ろうよってことをずっとおっしゃってたんですね。赤ちゃんのいる友人知人に試作品を送ったり、直接見てもらったりして、その反応を吸い上げながら作っていきました。

―― 赤ちゃんの目線やママたちの声を大事に作ってこられたわけですね。シリーズの人気は、そのあたりにも理由がありそうです。最後に、『いっしょにするよ』の見どころについてお聞かせください。

たかしま: 僕が一番好きなのは、「いっしょに ぽっとん するよ」のページ。『いっしょにするよ』の中では唯一、鳥たちが正面を向いているシーンです。細部までこだわって描いたので、かわいいなって思ってもらえたら何よりうれしいですね。あとは、この子たちと一緒に遊んでいるような感覚で絵本を楽しんでもらえたらいいなと思っています。

風木: かわいい鳥が5羽いること。カルガモのひなって、たぶん1羽でもかわいいんですが、何羽か一緒に並んで歩いていると、もっとかわいいじゃないですか。同じように5羽が「いっしょにする」ことで楽しさが何倍にもなるのを感じてほしいです。

あと、もうひとつ、この絵本で大事にしたのは擬音語です。擬音語は意味よりも音、感覚的な言葉なので赤ちゃんとの相性がピッタリです。「ぱしゃぱしゃ」「ぺったぺった」「じゃっぼーん!」楽しい音がいっぱい入っていますから、赤ちゃんと触れ合いながら、全身で味わってもらえたらうれしいです。

日頃、赤ちゃんに触れる時間が短いお父さんも、仕事から帰ってきてからのちょっとの時間でいいので、ぜひ絵本を読んでみてください。赤ちゃんとコミュニケーションをとるのは簡単ではありませんが、絵本が一冊あるだけで、一緒に楽しい時間を過ごすことができますよ。

風木 一人(かぜき かずひと)
1968年、東京都生まれ。絵本の文章作家、翻訳家。主な作品に『ニワトリぐんだん』(絵・田川秀樹、絵本塾出版)、『うしのもーさん』(絵・西村敏雄、教育画劇)、『ぬいぐるみおとまりかい』(絵・岡田千晶、岩崎書店)、『ふしぎなトラのトランク』(絵・斎藤雨梟、鈴木出版)などがある。『ながいながいへびのはなし』(絵・高畠純、小峰書店)はフランス、韓国、台湾、中国で翻訳されている。小説、漫画、エッセイなどのコンテンツを配信するサイト「ホテル暴風雨」のオーナーとしても活動中。http://hotel-bfu.com/


たかしまてつを
1967年、愛知県生まれ。イラストレーター。1999年ボローニャ国際絵本原画展入選、2005年ほぼ日マンガ大賞受賞、2005年二科展デザイン部イラストレーション部門特選賞受賞。主な作品に『ブタフィーヌさん』(幻冬舎文庫)、『あすナロにっき』『あすナロびより』(共著・中村文)、『ねこはいじん』(KADOKAWA)などがある。イラストを担当した「ビッグ・ファット・キャット」シリーズ(幻冬舎)も人気。www.tt-web.info/


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