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特集

辻村深月×大島てる対談 事故物件があぶりだす闇

取材・文:朝宮運河    写真:川口宗道

辻村深月『闇祓』刊行記念 大島てる特別対談

日本最大の事故物件公示サイト「大島てる」。その運営者である大島てるさんは、イベントや書籍でも事故物件に関する情報を発信しています。10月29日に発売されたホラーミステリ『闇祓』に「大島てる」によく似たサイトを登場させた作家・辻村深月さんが、大ファンだという大島てるさんと事故物件について語り合いました。

「大島てる」は社会のインフラでありたい(てる)


辻村:今日はお会いできて光栄です。ニコニコ生放送の「大島てる×松原タニシの事故物件ラボ」が大好きで、いつも拝見しているので、ご本人が目の前にいらっしゃることが夢みたいです。


てる:こちらこそお声がけいただいてありがとうございます。『闇祓』読ませていただきました。


辻村:ありがとうございます。作品の中に「大島てる」によく似た事故物件サイトが登場するので、直接ご挨拶できればと思っていました。


てる:それはご丁寧に。『闇祓』にはLINEは実名で出されているのに、大島てるの名称はぼかされていますよね。


辻村:実名を出すのは大島さんに失礼かな……と思ったので、「大島てる」という名前は出さずに、事故物件を示す炎のアイコンもロウソクに描写を変えています。


てる:出していただいても構わないですよ。LINEは一種の生活インフラとして、今やフィクションにも当たり前に登場しています。LINEも「大島てる」も私企業のインターネットサービスという意味では同じですから。


辻村:インフラとおっしゃいましたが、現代のホラー小説や映画は「大島てる」の存在を前提として書かれているものが多いので、作り手にとってはまさにライフラインです。


てる:自分で言うのもおこがましいですが、今LINEの名を出したのは「大島てる」も社会のインフラでありたいと思うからなんです。いつでもそこにあって当たり前の存在。まあ空気のように素通りされるのは困りますが(笑)。


辻村:事故物件サイトといえば「大島てる」、というのが常識になっているのも、考えてみたらすごいことですよね。それまでは事故物件という言葉も一般的ではなかった気がします。


てる:わたし自身が大島てると名乗っているのは、サイトの認知度を上げるためです。運営している人間とサイト名が違うと、どうしても覚えにくくなってしまうので。最近は「事故物件」というワードも使わずに「大島てる物件」と呼ぶようにしているんです。



闇の増殖を可視化したくて、作中に事故物件サイトを登場させました(辻村)


辻村:『闇祓』は、コミュニティに侵入者がやってくることで闇が増殖して、人びとが不幸に巻き込まれていくという小説なんですが、コミュニティの変化をうまく可視化したいなと思って、主人公たちが事故物件サイトを開くというシーンを作りました。マップ上の変化でただならぬことが起こっているのが伝わるので、自分で言うのもなんですが視覚的なホラーとしての名シーンになったと思います(笑)。サイトのおかげですね。


てる:「大島てる」風のサイトが出てきたから言うわけじゃないですが、読んでいて第二章が一番力が入っているなと思いました。


辻村:嬉しいです。第二章は団地が壊れていく話です。今の団地はわたしたちが小さい頃のイメージとは違って、リフォームされてデザインの力が入り、お洒落になったところも増えていますよね。そこのコミュニティが怪異によって壊れていく。ある意味、事件の鍵になる場所なので、書く時は気合いが入りました。クライマックスの最終章でもまた同じ団地が登場します。


てる:個人的には会社でのパワハラを描いた3章も好きでしたね。会社組織はなじみのある世界なので、読んでいて興味深かった。


辻村:3章はハラスメントの話としては変化球なんです。親切そうな言動が誰かをモンスターにしてしまうこともあるんじゃないか、という可能性について書いてみました。


てる:わたしも「いい人」と言われることが多いので、耳が痛いというか(笑)。身につまされる部分がありました。


辻村:少し前まで大島さんってどんな方だろうと思っていたんですが、「事故物件ラボ」を見るようになって、大島さんが信念の人だということが分かり、お話ししてみたいと思ったんです。事件のあった部屋の番号を調べるために裁判の傍聴に行くというエピソードを聞いて、本当にすごいと感動して。そこまで厳密に裏取りした情報が、「大島てる」の炎のアイコンなんですね。


てる:もちろん自分一人で傍聴に行っているわけではないですけどね。全国に協力者がいますので、手分けして情報は確認しています。


辻村:デリケートな問題なので、いい加減にはできませんよね。


てる:もちろん今出ている情報が、100パーセント正確というわけではありません。紙の本と違ってネットの情報はいくらでも上書きできるので、未完成の状態で公開して、どんどん完成に近づけばいいと思っています。ただし事件は日々起こっているわけで、今日コンプリートできたとしても、明日にはもう記載漏れが出ることになる。わたしはよく「運動」という言い方をするんですが、「大島てる」は生きて動いているという表現がふさわしいと思います。


辻村:小説を書いていて疑問に思ったのは、たとえばマンションの室内で刺された人が病院で亡くなったら、事故物件扱いになるかどうかということです。大島さんの基準ではどうなりますか。


てる:人が死亡していると言い切れるのはお医者さんだけです。よくニュースで「病院で死亡が確認された」という言い方をしますが、あれは生きている人が病院で息を引き取った場合に限らず、死んでいることが確認されたという場合も含まれます。それでも大家などの利害関係者は、「病院に着くまでは生きていた、だから事故物件じゃないんだ」と主張してくるわけですが、その部屋での事件が死の原因なわけですから、事故物件扱いになります。これは私だけでなく、裁判所もそう判断しています。


辻村:法律的にも裏付けがあるんですか。


てる:よく揉めるのは『闇祓』でも描かれている飛び降り自殺です。都会のマンションは密集しているので、真下ではなく隣の建物に落下することがあって、飛び降りた部屋と落下場所のどちらが事故物件になるのか。両マンションの関係者が「大島てる」上で言い争いをしていて、まさに人間の闇だなと。



デマや誤解が広がるより、正確な記録を残したほうがいい(てる)


辻村:大島さんのお話は怪談ではないですよね。どんなに奇妙な事件が起こっても、大島さんはそれを怪異だと断定しない。あくまで事実に沿って、起こったことだけを記載し、話されています。その距離感が絶妙だと思います。


てる:わたしの怖い話はオチがないとよく言われるんですが(笑)、事実を語ることしかできませんから。5W1Hで言い表される事実の中でも、特に関心があるのは「どこで」の部分です。場所以外には興味が薄いので、あまり真に受けないでください。


辻村:ホラーにはよく事件や事故が絶えない、呪われた土地が出てきますが、そういう場所は実際あると思いますか。


てる:場所にこだわる活動を続けていて、あれっと思うことはあります。炎のアイコンを設置しようとしたら、すでに置かれている場所だったり、同じマンションの複数の階で事件が続くとか。山手線のとある駅の近くには、炎がずらっと並んでいる通りがあるんですよ。


辻村:実はわたしの家の近所にも、一時ニュースにもなった殺人事件の現場の家があるんです。「大島てる」に写真が掲載されているんですが、そういう目で見るからか、その家だけサイト上でも妙な風格が漂っている気がして……。


てる:「大島てる」に対して、人間は忘れることで生きていけるのに、過去を掘り起こしてくれるな、と文句を言う人がいます。しかしデマや誤解によって別の家が事件現場扱いされるくらいなら、正確な記録を残したほうがいい。人は思い込みを抱きがちなものですから。われわれがやっていることは、正確に歴史を記録することだと思っています。サイトに現場の写真を載せているのも、イメージを強化するためなんです。


辻村:それも大島さんの信念ですね。たしかに写真で見ると雰囲気があるんですが、一方でまわりの景色に溶け込んでいるのも分かるんです。まったく予備知識なしに見たら、現場とは分からないのかも。


てる:一目見て分かるようなら「大島てる」が要らないことになりますが、そうはなっていないですから(笑)。だからこそ記録し続けなければいけない、という立場です。



大島さんの姿勢はフェアなんです(辻村)


辻村:今日のお話をうかがっていて、どうして大島さんの活動に惹かれるのか分かりました。大島さんの姿勢はフェアなんですよね。超自然的な解釈や憶測は挟まずに、うちのサイトはこうだという指針に沿って炎のアイコンを置いていき、解釈は見る側に委ねる。その姿勢にファンは痺れるのだと思います。


てる:わたし個人のカラーがどうしても出ますから、フェアじゃないという見方もできます。「大島てる」では孤独死のあった物件も掲載していますが、殺人事件だけにしぼったほうがいいという声もある。わたしは人が亡くなったという事実でくくるのがいいんじゃないかと思いますが。正解は消費者が決めることですから、わたしは「大島てる」の方針に沿って、このまま更新を続けたいと思います。


辻村:ホラー作家同士の会話で「大島てる」の名前が出るのは当たり前ですが、そうじゃない友達でも「この前飛び降りがあったあの家、もう『大島てる』に出ているかな」と検索する人がいて、「大島てる」や事故物件という言葉が生活に溶け込んでいるのを実感します。パイオニアってやっぱりすごいな、と今日お話を聞いていて改めて感じました。


てる:わたしは色んな批判をされるんですけど、唯一言われたことがないのが「パクリだ」ということなんです(笑)。


辻村:(笑)。わたしは小説でも映画でも、「フェアさと美学と信念」が作り手にある作品が好きなんです。たとえばミステリでも著者が都合に合わせて描写を曲げるアンフェアな作品より、手がかりをすべて読者に提示したうえで驚かせてくれる作品が好き。わたしが大島さんのファンなのも、フェアで美学と信念があるからなんだと、今日お話ししてあらためて感じました。これからも「大島てる」の活動を追いかけようと思います。


てる:どんなに褒めていただいても、『闇祓』を読んだ後では居心地が悪いですね。つくづく怖い小説です(笑)。今日はありがとうございました。



辻村深月初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』冒頭試し読み



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辻村深月『闇祓』インタビュー



辻村深月、渾身の一作! 名前のないハラスメントが増殖する、戦慄のホラーミステリ『闇祓』インタビュー
https://kadobun.jp/feature/interview/61wgy1zc56w4.html

作品詳細:『闇祓』辻村深月



闇祓
著者 辻村 深月
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
発売日:2021年10月29日

あいつらが来ると、人が死ぬ。 辻村深月、初の本格ホラーミステリ長編!
「うちのクラスの転校生は何かがおかしい――」
クラスになじめない転校生・要に、親切に接する委員長・澪。
しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
唐突に「今日、家に行っていい?」と尋ねたり、家の周りに出没したり……。
ヤバい行動を繰り返す要に恐怖を覚えた澪は憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。
身近にある名前を持たない悪意が増殖し、迫ってくる。一気読みエンタテインメント!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000675/
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辻村深月

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『嚙みあわない会話と、ある過去について』『琥珀の夏』など著書多数。初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』が10月29日に発売された。

大島てる

事故物件公示サイト「大島てる」を2005年に開設。殺人、自殺、火災死、孤独死などがあった物件を“事故物件”として、日本全国のみならず海外まで扱い、WEB上で公示する。「大島てる」は英語版も存在する。

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