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特集

ただ百閒のことを喋りながら呑んでいた2年間について ~『百鬼園事件帖』誕生秘話そのほか~ #3

先日刊行された、三上延『百鬼園事件帖』には、作家と編集者、内田百閒好き同士の長い長い雑談の日々があった。
なぜ百閒の話、とりわけ悪口はそんなに盛り上がるのか。
たいへん小規模な百閒ファンの集いから、どうやって小説が誕生したのか。
三上延にしか書けない百閒の魅力とは?
などなど、ふんわりのんびり語りました。対談の模様を全4回にわけてお届けします。
前回はこちら

構成・文=カドブン編集部

三上延×初代担当K 対談
『百鬼園事件帖』誕生秘話そのほか #3

三上延にしか書けなかった百閒とは

編集K:『百鬼園事件帖』に描かれてる時代って、まだ百鬼園として世には出ていない頃ですよね。

三上:そうですね。『百鬼園随筆』がまだ出てない。本は『冥途』が出ていたけど絶版になって、売れてなくて。

編集K:『百鬼園事件帖』の主人公の甘木くんはその時代の百間に何となく惹きつけられて、何となく後をついてっちゃうっていう。読めば読むほどなんでそんなおっさんについていくのかが本当にわからないんだけれども、でもついていかざるを得ない、甘木くんの気持ちだけはすごいわかるっていう、不思議な始まりです。(注:『百鬼園事件帖』の登場人物としての表記は、作中の表記であり昭和初期当時の表記である「百間」としました)

三上:なんかぐちゃぐちゃ自分のことで悩んでるし、あと暇なんですよね。
甘木ぐらいの年代の若い人って暇だから、ちょっと変わった人とか、自分にないものを持ってる人に惹きつけられるんじゃないかなと思って。

編集K:下手をすると百間って、そんな学生たちと同じぐらい暇なんだと思うんですよ。気持ちの上では。

三上:そうですね。忙しいはずですけどね。

編集K:はずですけれども。付き合いがやたらいいっていう。

三上:そう、意外と面倒見もいい方なのでね、ご飯一緒に食べたりとか、変ないたずらしたりとか。

編集K:そして、『百鬼園事件帖』で私が一番びっくりしたのは、第3話の「竹杖」で、追悼文の名手・百閒を三上さんがこういうふうに書かれたところです。お前は結局人の死を餌にして生きてるじゃないかということを、自分自身に言わせる……よくこんな恐ろしいことを書きましたね。

三上:多分百間の中にこういう葛藤があったんじゃないかなっていう。

編集K:ここのシーンは、なんだろう、100%三上さんの小説なんですけれども、埋もれていた真実を掘り出してきたような、鬼気迫るリアルがありました。

司会:そうですね。百閒先生がキャラクター化によって隠しているというか、あまり外には出していない部分まで踏み込んだのではという感じがしますね。

編集K:本当に最初期からご一緒してる人間としては何か、嬉しいのを通り越して恐怖みたいな感動がありました。こんなことまで書けてしまうんだ三上さんは、と。でも、ここからのリカバリーをするのが甘木っていうね。

三上:そこはちょっと書き直したんです。やっぱり、甘木が物語にもうちょっと関わった方がいいんじゃないかという話をいただいたんで。読み返してみたんですよね。そうしたら、甘木が何のためにいるのかっていうことが腑に落ちた。百間を正気の方に引き戻すためにいるんじゃないか。自分を見てくれる人っていうのを百間も必要としてたんじゃないかって。特に何かできるわけじゃなくても。

編集K:こんな夜があったわけではないんだけれども、なかったとは言いきれない。実際にこんなことがあったとして、百間を引き戻したのは、甘木くんのような他人じゃなくて、自分自身なのかもしれないし、亡くなった芥川なのかもしれない。これは本当に凄い回でした。

三上:芥川と百間の関係について書くかどうかって結構迷ってたんですね。やっぱり覚悟が要るなと思って。でも、ある日ふと、やっぱりここには、今できることを全部詰め込まなければ駄目だと思って。自分の中にある百閒的なもの、今までに持っているものもこれから調べることも、全部つぎ込んで書かないと駄目だなと思って。

司会: 多分どこかのインタビューでもおっしゃってたんですけど、ちょっと三上さん自身にも百間の言葉の矛先は向いているというか。

三上:そうですね。今の自分ぐらいの年代になると、やっぱり周りの人でちらほら亡くなる人とか出てくるので。そういう思い出を活かして、とか考えるんですよね。ちらっと。でも、それって許されるべきことなのかと。

編集K: 死だけじゃなく、実人生の中にいろんな理不尽なこととか残酷なことってありますよね。そういう、出会った他者の人生の苛烈さみたいなものに作家として影響されないわけはなくて。

三上:ここ何年かでつらつら考えていたこと、人が死ぬことも含めた、人間同士のどうにもならない部分について――実体験をそのまま反映させてるわけではないんですけど、これは今自分が言いたいことだっていうのを、そのまんま書いちゃったのがいくつかありますね。この話の中では。

編集K:やっぱり書き手の栄養になっちゃうじゃないですか。いろんなことは。

三上:そうですね。

編集K:良きことも、往々にして悪しきことも。百間も、自分はこんなことを望んだ憶えはないって言うんだけれども、語調が弱々しくなっちゃう。

三上:自信がないんですよね。本当に望んでいなかったかどうか。

編集K:これは本当に恐ろしい、作家が書いたものとして空前に恐ろしいなって思うんですけど、その恐怖を突破するのが甘木くんっていうのが、エンタメ小説の甲斐がありますね。
で、宮子もいいんですよね。周り全員が人間ではなくなっているような、本当に恐ろしい局面で、ありえないほどの緊張感のなさ、怪異に向かって、人手足りないから手伝ってくれる? みたいな。


実はカバーにも登場している宮子


司会:オリジナルキャラクターの人たちがいい具合に動いてくれて。

編集K:宮子、本当にいてよかったですね。

三上:あつらえたようでしたね。

編集K:やっぱり甘木くんは真面目な人なので、甘木くんと百間だけだと深刻になって戻って来れなかったかもしれない。

三上:そうですね。

(つづく)

作品紹介



百鬼園事件帖
著者 三上 延

〈ビブリア古書堂〉シリーズ著者がおくる文豪×怪異×ミステリー!

舞台は昭和初頭の神楽坂。影の薄さに悩む大学生・甘木は、行きつけのカフェーで偏屈教授の内田榮造先生と親しくなる。何事にも妙なこだわりを持ち、屁理屈と借金の大名人である先生は、内田百間という作家でもあり、夏目漱石や芥川龍之介とも交流があったらしい。
先生と行動をともにするうち、甘木は徐々に常識では説明のつかない怪現象に巻き込まれるようになる。持ち前の観察眼で軽やかに事件を解決していく先生だが、それには何か切実な目的があるようで……。
偏屈作家と平凡学生のコンビが、怪異と謎を解き明かす。

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プロフィール

三上延(みかみ・えん)
1971年神奈川県生まれ。2002年に『ダーク・バイオレッツ』でデビュー。11年に発表した古書をめぐるミステリー「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズが大ヒットし、12年には文庫初の本屋大賞ノミネートを果たすなど大きな話題に。同シリーズは第1シリーズ「栞子編」完結後、18年より第2シリーズの「扉子編」が刊行されている。他の著作に、『江ノ島西浦写真館』『同潤会代官山アパートメント』などがある。


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