KADOKAWA Group
menu
menu

特集

第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作 『をんごく』刊行記念対談 北沢 陶×黒川博行

構成/佳多山大地
撮影/小林川ペイジ

 第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞は、6人の選考委員(綾辻行人、有栖川有栖、黒川博行、辻村深月、道尾秀介、米澤穂信)が満場一致で『をんごく』の大賞受賞を推す! さらに、一般から選ばれたモニターが審査する読者賞と、Web小説サイト「カクヨム」のユーザー投票で決するカクヨム賞も獲得して話題沸騰のトリプル受賞作は、大正時代末期の大阪・船場が舞台の新鮮な驚きに満ちたゴーストハント小説だ。受賞作刊行を記念して、受賞者の北沢きたざわ とうと選考委員の黒川博行の対談が実現。『をんごく』について語り合ってもらった。



第43回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!
『をんごく』刊行記念対談
北沢 陶×黒川博行

黒川:会社の人に、小説を書いてることは秘密にしているの?

北沢:いえ、私がそういうことをしているのは必要な人には知ってもらっています。今日は仕事帰りですが、わりと時間に融通をきかせてくれてありがたいです。

黒川:居心地のいい会社なら、物書きが忙しくなっても辞めにくいなあ。もうぼく、KADOKAWA以外の出版社に、あなたを売り込んどいた。つき合いのある編集者に「今年の横溝賞はすごい」と。

北沢:(大物代理人の働きに絶句)……それは、たいへん恐縮です。

黒川:もちろん2作目はKADOKAWAからやと思うけど。きっとオファーが殺到するから覚悟を決めなあかん。サントリーミステリー大賞の佳作(1984年刊『二度のお別れ』)でデビューはしたけど、そのあと2年はどこからもオファーのなかったぼくとはずいぶん違うことになるはずです。二足の草鞋は、そのうちきっと履けんようになります。


露野目ナキロ改め北沢 陶


――今回、横溝賞受賞の報に接したときの率直な感想を聞かせてください。

北沢:4月27日(選考会当日)のこの時間帯に結果の連絡があります、と言われて、いつ電話が鳴るかと緊張しながら待っていました。いざ呼び出されると、「大賞受賞です」と告げられたのに続いて、「読者賞と、今回新設されたカクヨム賞の受賞も決まりました」と。電話を切って数分後には「三賞独占だなんて。これからも努力しなきゃ」と早くもプレッシャーと闘い始めていた感じでした。ですので、せっかく有頂天になっていいはずのタイミングを逃してしまいました(笑)。


――『をんごく』を横溝賞に投じたのは選考委員の顔ぶれを見て、でしょうか?

北沢:今回の選考委員の中に、好きな作家さんもいらっしゃるんですけど……どちらかというと皆さん、ミステリ畑のイメージがある。正直、ここに応募するのは不利なのかな、と思ったりもしたんです。

黒川:でも、横溝賞の応募作は、ホラーがすごく多いみたいよ。自分は最終選考まで残ったものしか読まないわけだけど、純粋なミステリの応募作のほうが少ないと聞いてます。


――応募時のペンネーム「つゆナキロ」が何だったのかを聞かなきゃいけません。受賞時のリリースも、その名前で大々的に出ましたから。

北沢:まず「露野目」という苗字を決めたんですけど、姓名判断に凝っていて、いい画数の名前をいろいろ考えていたんです。それで、小学生の姪っ子に「この苗字の下に、どういう名前がいいと思う?」と聞いたら、「なきろ」って答えられて(笑)。カタカナで「ナキロ」にすると画数がいいので、それで応募してしまいました。姪っ子には悪いけれど、デビューに際し「北沢 陶」に改めました。

黒川:選考会当日、あのペンネームだけは不評やった。奇をてらったペンネームは、やっぱり良くないです。運勢がどうこうやなくて、長く使うにはなるべく普通がいい。

横溝賞は関西出身者に有利!?


――選考委員の皆さんの『をんごく』に対する評価は、最初から頭ひとつ抜けていたようですね。

黒川:横溝賞の場合、それぞれ委員が候補作に点数を付けて選考会に臨むんやけど……結果は大差でしたよ。


――黒川さんが高得点を付けたとき、選考会場が沸いたという話を聞きました。

黒川:いつも付ける点数、からいからかな(笑)。『をんごく』は文章もセリフも上手い。それに「エリマキ」のキャラクターがなかなか大したもんです。


――エリマキは、浮かばれぬ霊を喰らうゴーストハンターですが、だいたいからアレが二本、びらびら出ているのが気持ち悪くて素敵です。

黒川:とにかく、似た小説がない。エリマキの顔が、最も強い感情を抱いている相手の顔に見えるという設定は素晴らしいな。もう一回、書いたらどうですか?
 
北沢:続篇の構想は、私の頭の中には、ぼんやりとはあるんですけど……それを書けるかどうかは別のハナシになってきます(笑)。


――今回、北沢さんの作品は大阪の船場が舞台で、奇しくも(?)選考委員の半数が関西の人間でした。

黒川:そうか、ぼくは同じ関西人が受賞して嬉しかったけど、委員の半分が関西か?


――黒川さんと有栖川さんが大阪。綾辻さんが京都。声の大きそうなベテラン勢が皆、関西人ですね。

北沢:関西の地元意識は、応募の際に、無くはなかったです(笑)。もちろん大阪が舞台というだけで贔屓してくれるわけはないけれど、この作品の舞台や言葉に、もともと馴染みのある方々だと。やましい気持ちはなかったはずですが……いや、正直ちょっとはあったかもしれないです。
(一同笑)

ヒット作を出す方法は?

北沢:気の早い悩みで、偉そうに聞こえるかもしれませんが、デビュー後の何作以内かで良い結果を出さなくてはいけないというプレッシャーも感じています。

黒川:ヒット作、というのは難しい。本が売れない時代ですから。『をんごく』は話題になると思うけど、2作目も同様にいくとはかぎりません。でも、書き続けるというのがいちばん大事ですね。書き続けていれば、いつかヒット作が出ます。でも、あなたの場合、作品も個性的やったし、文章もセリフもいいから大丈夫です。それに、取材はこれからしやすくなる。本が名刺代わりになるからね。

北沢:ありがとうございます。黒川さんはじめ、選考委員の皆さんの期待に応えられるよう頑張ります。

※今回の刊行記念対談の別バージョンが、「小説 野性時代」2023年冬号に掲載されます。だいたい8割は異なる話題をピックアップしていますので、そちらもぜひ一読を。

作品紹介



をんごく
著者 北沢 陶
発売日:2023年11月06日

第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!
嫁さんは、死んでもまだこの世にうろついているんだよ――

大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。
巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。
倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って腹を満たしていると言い、
倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。
壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する。

家に、死んだはずの妻がいる。
この世に留めるのは、未練か、呪いか。

選考委員満場一致、大絶賛!
第43回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322306001322/
amazonリンクはこちら

プロフィール

黒川 博行(くろかわ・ひろゆき)
1949年愛媛県生まれ。京都市立芸術大学卒業。83年『二度のお別れ』でサントリーミステリー大賞佳作。86年に『キャッツアイころがった』でサントリーミステリー大賞、96年「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2014年『破門』で直木賞を受賞。20年、第24回日本ミステリー文学大賞を受賞した。著作多数。

北沢 陶(きたざわ・とう)
大阪府出身。イギリス・ニューカッスル大学大学院英文学・英語研究科修士課程修了。
2023年、「をんごく」で第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉をトリプル受賞し、デビュー。


紹介した書籍

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2024年5月号

4月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2024年6月号

5月7日 発売

怪と幽

最新号
Vol.016

4月23日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

地雷グリコ

著者 青崎有吾

2

気になってる人が男じゃなかった VOL.2

著者 新井すみこ

3

ニンゲンの飼い方

著者 ぴえ太

4

気になってる人が男じゃなかった VOL.1

著者 新井すみこ

5

家族解散まで千キロメートル

著者 浅倉秋成

6

めぐむくんは隠したい

著者 WONPU

2024年5月13日 - 2024年5月19日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP