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特集

和嶋慎治×大槻ケンヂ スペシャル対談!『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』刊行記念

構成・文=朝宮運河
写真=川口宗道

作家を虜にする文学的ロックバンド
「人間椅子」のトリビュート小説集が完成!

江戸川乱歩、芥川龍之介などの小説にインスパイアされた、文学的な世界観で知られる唯一無二のハードロックバンド、人間椅子。11月2日に発売された『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』(KADOKAWA)は、このバンドに魅せられた作家たちが集ったトリビュート小説集。大槻ケンヂ、伊東潤、空木春宵、長嶋有という個性豊かな書き手が、人間椅子の名曲をモチーフにした作品を寄稿した、ロックファン&文芸ファン注目の一冊です。その刊行を記念して、人間椅子のギター&ボーカル担当で『夜の夢こそまこと』にも参加している和嶋慎治さんと、人間椅子とデビュー当初から親交のあるミュージシャンで作家の大槻ケンヂさんのスペシャル対談をお届けします。



和嶋慎治×大槻ケンヂ スペシャル対談


――大槻さんはどういう経緯で、『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』への参加が決まったんですか。

大槻ケンヂさん(以下・大槻):人間椅子のトリビュート小説集が出るので書きませんか、というお話をKADOKAWAの編集さんからいただいたんです。僕はもう長いこと小説を書いていなかったんですけど、人間椅子のアンソロジーだったら引き受けないわけにはいかないなあ、と思って。即決で「やります」とお返事したんですね。

和嶋慎治さん(以下・和嶋)​:いや、ありがたいです。大槻君が最近書かれていないことは知っていたので、無理にお願いする形になってしまったら申し訳ないなと思ったんです。ただ僕たちのアンソロジーがひとつのきっかけとなって、大槻君がまた小説を書くことになったら光栄だとも思いました。


――今回大槻さんが小説のモチーフにされたのは、筋肉少女帯と人間椅子の合体ユニット〈筋肉少女帯人間椅子〉のデビューシングル「地獄のアロハ」。この曲を選ばれた理由は?

大槻:いやまあ、そこはそうなりますよね(笑)。他にもいくつか考えたけど、合作の曲があるならこれだよなって。人間椅子って小説からタイトルを借りている曲が結構あるじゃないですか。それこそ(江戸川)乱歩の「陰獣」とか。ああいう曲を題材にするのは、どうなんだろうと思ったし。

和嶋:それは避けましょう、と一応最初に決めていたんです。「踊る一寸法師」や「悪魔の手毬唄」というタイトルで小説を書くのは、さすがに関係者の皆さんに怒られるだろうなと(笑)。


和嶋慎治さん

和嶋慎治さん

大槻:なるほどね、そういうルールはあったんですね。

和嶋:ただ僕らが小説をもとに曲を作る時って、小説の内容をそのままなぞることはしないんですよ。必ずそこにオリジナルな要素を付け加えるんだけど、『夜の夢こそまこと』の収録作品もそうなってるのね。僕らの曲が出発点ではあるにせよ、それぞれの作家さんの世界になっていて、そこが素晴らしいなと思いました。しかも小説を読んでから元の曲を聴くと、ものすごくいい曲に聴こえるんだよね(笑)。これは意図せざる効果だなと思いました。ファンの方はぜひ試してみてください。

大槻:それにしてもいい試みだなあと思って。バンドの楽曲をもとにしたアンソロジーって、これまでないんじゃない。少なくとも僕は聞いたことがないんです。

和嶋:僕も聞いたことがないんです。『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』というタイトルを見て、江戸川乱歩関係のアンソロジーだと思う人がいたら申し訳ないですね。

大槻:筋肉少女帯でもこういう本が出せたらいいなあ、とちょっと思いました。

和嶋:できるんじゃないですか。作家さんの中にも筋肉少女帯のファンは多そうな気がしますし。

大槻:何人かいるとは思いますけど。ただ人間椅子を聴いている人の方が、なんとなく全体の読書傾向は似ているような気がする。みんな乱歩とか横溝(正史)とかラヴクラフトとか、読んでそうですもん。


大槻ケンヂさん

大槻ケンヂさん

和嶋:みんながみんな本を読んでいるとは思わないですが、比較的読書好きのファンは多いかもしれませんね。もともと江戸川乱歩が好きで、その流れで僕らの曲を聴くようになったとか。特に初期の頃はそういう人たちが多かった気がします。

大槻:筋肉少女帯もアルバムには毎回、乱歩テイストを入れてたんです。でも最近はあまりやってなかったんだよね。人間椅子がやってくれるから、任せていたところもあって(笑)。

和嶋:以前に比べると、僕らもそこまで文学的な要素を打ち出さないようになりましたよ。そればっかりが前面に出ちゃうと、マニアックで閉じた世界になっちゃいますから。


――「地獄のアロハ」をお読みになっての和嶋さんのご感想は?

和嶋:こういう言い方は偉そうですが、さすがに上手いなあ、長年書き続けてきた人の作品だなあと感心しました。僕らも経験したバンドブーム(1980年代後半から90年代初頭にかけて起こったムーブメント)の時代がありありと目に浮かぶように描かれていて、懐かしくもありましたね。

大槻:僕は小説を書くときにひとつ決めていることがあって、「見てきたような嘘を書く」。これってオーケンの実体験なんじゃないの、と読者が一瞬信じてしまうような書き方を心がけているんです。梶原一騎(マンガ原作者。代表作に『巨人の星』、『空手バカ一代』など)イズムというか(笑)。

和嶋:こういう切ない恋物語は、自分には書こうとしても書けないです。大槻君の持ち味が出ているなと思いました。それにちょいちょい当時のバンドマン向けのくすぐりも入っていて、分かる人にはたまらないですね。高円寺の「石狩亭」とか。

大槻​:あ、気づいてくれた!?

和嶋:あれは重要なキーワードだと思いましたよ。当時杉並あたりに住んでいたロックミュージシャンは、みんな反応するんじゃないですか。

大槻:火事で焼けちゃったんだけど、高円寺に石狩亭っていう24時間営業の居酒屋があって、ものすごく安かったからバンドマンがみんな打ち上げに使ってたんですよね。出てくる人たちのモデルも、ワジー(和嶋さん)なら大体分かるでしょ?

和嶋:分かります。そういう実話調の部分と、虚構的な世界がミックスされていて、大槻ワールドだなと思いました。


――和嶋さんの初の小説「暗い日曜日」は、原曲のイメージとはがらりと変わって、SF的な世界を描いたものになっています。

大槻:読みましたよ。面白かったなあ。これはたくさん本を読んできた人の文章だなって思いました。それも上辺じゃなくて、ちゃんと文学を読んでいる人という感じがする。

和嶋:今回はおそらく皆さん、娯楽小説寄りの作品を書いてこられるだろうなと思って、自分も私小説的でないものを書こうと考えたんです。それでディストピアを扱うことにしたんだけど、現代を舞台にディストピアを描くのは色々まずいんじゃないか、洒落にならないんじゃないかという危惧がありまして、未来の話にすることにしました。

大槻:書くのにどのくらいかかりました?

和嶋:10日くらいで書けるだろうとたかをくくっていたんだけど全然駄目で、3週間くらいかかりました。小説ってこんなに疲れるものだとは知りませんでしたね。曲一曲作るよりはるかにエネルギーを使う。ミニアルバム一枚作ったのと同じくらい疲れました。

大槻:文章を書こうとすると、全身に変な力が入るでしょ。あれでまず疲れるんだよね。僕は一時期小説を書き倒していた時期があって、『ロッキン・ホース・バレリーナ』と『グミ・チョコレート・パイン』っていう小説を毎月25枚ずつ別々の雑誌に連載して、その他にも短いものも書いてっていうことをしてたんですけど、偏頭痛はするし、腰も痛くなるし。ボロボロでしたね。

和嶋:小説って音楽と違って、何日もかけてまずあらすじを考えないといけない。僕なんかあそこで怠けたくなります(笑)。心身が疲弊するし、腹は減るし。

大槻:腹は減るよね。一時期なんか、栄養を採るために糖分を囓りながら書いてたもの。それだけ苦労しても「大槻さんの小説は一冊も読んだことがありません」っていうリスナーが多くて、嫌になっちゃいました(笑)。

和嶋:それと小説っていうのは虚構の世界だから、いわば首尾一貫した大嘘を吐かなければいけないわけですよね。破綻のない完全犯罪をやり遂げるというか。それがいざやってみたら、めちゃくちゃ大変だった

大槻:たとえば「暗い日曜日」でいうと主人公が村から脱走しようとする場面。あれは大変だったろうなあと思いました。口ではうまく説明しづらい状況を、文章で書かないといけないから。

和嶋:あのシーンは時間がかかりました。虚構の中に自分を置いて、イメージを膨らませないといけない。それと言葉って、誰かを傷つけたり不快にさせたりするという怖さもあるじゃないですか。その怖さもあって、手が何度も止まったのもあって。


大槻:でもそれは音楽だって同じじゃない。

和嶋:音楽ではその問題がすでにクリアできているのかもしれないですね。今回、小説という新しい表現ジャンルだったから、腹をくくるまでに時間がかかったのかもしれません。


――お二人とも本好きミュージシャンとして知られていますが、読書遍歴について教えていただけますか。

大槻:このあいだワジーの自伝『屈折くん』が文庫になったでしょう。あれを読んでいて、読書歴がよく似てるなあと驚いたのね。柴田翔(作家。代表作に芥川賞受賞作『されどわれらが日々――』)なんて読んでるロックミュージシャンが、僕以外にも存在したのか! というのがすごく衝撃で(笑)。

和嶋:そういえば僕も会ったことがない。大槻君が初めて(笑)。

大槻:『UFOと宇宙』っていう雑誌の話も出てくるでしょう。あれは僕も好きでよく読んでいたんですよ。

和嶋:柴田翔のファンだった弘前高校時代の同級生が『UFOと宇宙』も好きで、バックナンバーを貸してくれたんです。あの雑誌、続けて読んでいるとちょっと変な感じになってきませんか。

大槻:なるなる(笑)。特に初期の号がヤバい。「踏切ですれ違ったあの人は宇宙人では?」みたいな体験談がバンバン載ってて、どこまでこれを信じるのかっていう話になってくる。僕は東京の中野出身で、ワジーは青森だけど、意外に同じようなものを読んでいたんだなあと。

和嶋:弘前は大学があったせいで比較的本屋が多かったんです。弘前大学の前にあった古本屋には筒井康隆がいっぱい並んでて、中学時代それを買いに行くと「中学生には分かんないよ」と店のおじさんに言われるんです。

大槻:筒井康隆とか星新一とか、当時本好きの子はみんな読んでましたよね。今でもよく覚えているけど星新一の『白い服の男』っていう本を読んでいたら、近所ですごい火事があって、それが筋肉少女帯のベースの内田君の家だったんですよ(笑)。

和嶋:星新一、眉村卓、小松左京、あのあたりのSFは面白かった。

大槻:筒井康隆だったら、僕は「七瀬シリーズ」が好きでしたね。あれはSFとの出会いでもあり、性の目覚めでもあって。もちろんそれ以前には、ポプラ社の江戸川乱歩シリーズを読んでいましたよね。

和嶋:基本ですね。

大槻:当時のポプラ社の乱歩シリーズは「怪人二十面相」ものだけじゃなくて、大人向けの作品も無理やり子供向けにリライトして入れてたじゃないですか。どれもグロいんですよ。『魔術師』なんて川を誰かが立ち泳ぎしていて、それを見た誰かが「違う、あれは生首だ」って気づくんです。よく見ると木で造った舟に生首が載って流れてくるのね。そしてその舟には「獄門船」って書いてある(笑)。あれを小学校2年で読んだことで、人生決定づけられたなあ。あまりに興奮して、すぐにバラバラ殺人が出てくる小説を書きましたから。

和嶋:2年生で!? それは早熟ですね。


大槻:親に見せたら「気持ち悪い」と言われましたけど、まあ当然ですよね。当時、僕は「滝田六助」っていう名探偵を考えたんですけど、そしたら兄貴も真似して書き始めて、探偵の名前が「コロッケ刑事」っていう(笑)。同じ兄弟でもクリエイティビティの差ってあるよなあ、と子供心に実感しました。

和嶋:僕も姉貴がいるんですけど、乱歩なんて全然読みませんでした。やっぱり家族でも明と暗、陰と陽みたいに趣味が分かれることがありますね。僕は乱歩からの流れでエドガー・アラン・ポーが好きになって、そこからラヴクラフトなどの怪奇小説も読むようになりました。

大槻:僕はラヴクラフトがよく分かんなかったんです。翻訳もののホラーはオチがなんだかよく分からないものも多くて。

和嶋:でも日本の怪談にはない雰囲気じゃないですか。僕はああいうムードがとても気に入って、ポーやラヴクラフトが孤独な最期を遂げたと知って、「かっこいい」と憧れていましたね。プロ野球選手がホームランを打ったと聞いても憧れなかったけど、怪奇作家のような非業の死には憧れた(笑)。今回の「暗い日曜日」にも、実はポーへのオマージュがいくつか入っているんですよ。

大槻:それだけ本が好きなら、自分でも小説を書いたりしたんでしょう?

和嶋:高校の頃に、文芸部の同人雑誌にいくつか。バンドをやっている若者の青春物語とか、心を病んだ女性と恋に落ちて、駆け落ちする話とか。弘前高校の図書室には、おそらく雑誌が残っているはずですよ。

大槻:おお、椅子マニアが弘前までチェックしに行きますよ。

和嶋:大槻君は筋肉少女帯でデビューして、割とすぐ作家活動も始めましたよね。きっかけは何だったんですか。

大槻:当時、『月刊カドカワ』っていう雑誌が、ミュージシャンに本を書かせようという企画をよくやっていて、その流れで声をかけられたんです。最初は「前田日明がタイムスリップして、力道山と闘う話なんてどう?」と言われて、いや、それはちょっとと(笑)。それで『新興宗教オモイデ教』という作品の冒頭をさっと書いて渡したら、「面白いから続きを書いてくれ」と。ワジーも気をつけないと、連載があっという間に決まっちゃいますよ。


和嶋:それはそれでありがたいというか、機会があればまた書きたいと思っているんです。大槻君もぜひまた小説に戻ってきてほしいし。読者として楽しみにしています。


――ぜひお願いします。

大槻:小説はいろいろ大変だからなあ……。でももし筋肉少女帯のトリビュート小説集が出ることがあれば、そのときは自分も書きますよ。ワジーにも参加してもらいたいですし。

和嶋:その時は必ず書かせてもらいます。どうせなら僕も「地獄のアロハ」で書こうかな(笑)。

大槻:(笑)。


『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』発売記念!
和嶋慎治さん&大槻ケンヂさんサイン色紙プレゼントキャンペーンが決定!

文芸作品をテーマにした楽曲など独自の音楽性を貫き続けるハードロックバンド「人間椅子」。その楽曲を錚々たる執筆陣がさらに小説化した異色の小説アンソロジー『夜の夢こそまこと』が刊行されました。
これを記念して11月16日(水)より、TwitterでKADOKAWA文芸編集部公式アカウント(@kadokawashoseki)をフォローし、該当ツイートをRTした方を対象に、人間椅子のメンバーで執筆陣の一人でもある和嶋慎治さんと、執筆陣の一人で、和嶋さんと長年の親交がある大槻ケンヂさんのサイン色紙のプレゼントキャンペーンを行います。

締切や注意事項はキャンペーン開始時に告知いたします。

『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』書誌情報



『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』
著:大槻 ケンヂ、伊東潤、空木春宵、長嶋有、和嶋慎治
KADOKAWA
定価1,870円(10%税込)

ハードロック文芸爆誕! 楽曲と小説が奏でる異色物語集登場。
江戸川乱歩をはじめとする文学、怪奇、幻想をテーマとした音楽性で注目され続ける人気ロックバンド「人間椅子」。国内外から高い評価を受ける彼らの楽曲を題材に、大槻ケンヂら各ジャンルから集結したトガり切った執筆陣が小説を執筆! 土俗ホラー、ディストピアSF、異形の青春――音楽と文芸の融合が奏でる、暗く、熱く、激しいビートがあなたを包み込む。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322109000595/
amazonページはこちら


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