対談 絵本ナビサイト 2016.11.17より

【対談】宮部みゆき×佐竹美保『悲嘆の門』文庫版刊行記念、作中絵本の制作秘話を公開!
取材・文:KADOKAWA編集部
宮部みゆきさんの、作家30年を迎える2017年。ラストを飾るのは、猟奇的連続殺人、ネット社会の闇を描いた『悲嘆の門』(新潮文庫)。今回は、同作中に登場する絵本を実際に書籍化した『ヨーレのクマー』について、著者の宮部みゆきさんと、画家の佐竹美保さんに伺った制作秘話を大公開! とうめいで目にみえない、やさしいかいじゅうクマーはどのようにして生まれたのか……。絵本ファンのみならず、原作ファンも必見の対談です!
*注意:対談中、やや結末に触れる内容が出てきます。
*この対談は2016年10月に行われたものです。
●絵本『ヨーレのクマー』ができるまで
・宮部さんと佐竹さんは、今回の対談が初対面。しかしそうは思えないほど、アットホームな雰囲気で対談は幕をあけました。まずは、お二人に絵本の制作を終えられた感想をいただきました。
宮部: 今回は絵本なので、私としては文章を書いてお渡ししてしまったら、何もできることがなくて……もう「どうぞよろしく」って佐竹さんにお願いするしかなくて(笑)、丸投げで申し訳ありませんでした。
佐竹: いえいえ。私も絵本はいくつか出してるんですが、原作が物語というのは初めてだったので、感無量でした。挿絵の仕事と比べると、やっぱり絵本って違うんですよね。
宮部: 絵本で物語るのは、八割がた絵ですから。文字の役割は小さいですから。
佐竹: 逆に、だからこそ自分で想像して絵に膨らませる楽しみがありました。文字が多すぎると、そっちに引きずられちゃうので。今回は、私としても挑戦した仕事で、すごく楽しい……苦労したけど、楽しかったです。
宮部: 作中作として『ヨーレのクマー』という絵本のことを書いたときは、あまり深く考えてなくて(笑)。だから、実際に絵本にしてもらえることになったときには、とても嬉しかったのと同時に、けっこう焦りました。「なるのかな、ホントに」って。「今こんな感じです」って進行状況を教えていただくうちに、だんだん「本当に絵本になるんだ」と思って、なんかもう冷や汗が出ました(笑)。
佐竹: 実は、今日これを持ってきたんですけれど……。
宮部: あー!
佐竹さんのかばんから出てきたのは、最初のサンプルとして描かれたカットの原画!

佐竹: 彩色もしてあります。
宮部: これが! アイディアの出発点なんですね。
佐竹: 編集部に、「こんなふうになるんだよ」と送ったものです。いろいろと試しに描くうちに、これが描けて、ようやく、「あ、(クマーの姿が)決まったな」って。
宮部: これのコピーを編集部からもらって、私、仕事部屋に貼ってあるんです。ずっと貼っているので、すごい日に焼けてきちゃって。
佐竹: 今日、宮部さんに差し上げようと思って。
宮部: まあ、嬉しい! ありがとうございます。この紫の色味がすごく好きなんです。
佐竹: ああ、よかった!
●小説の中の『ヨーレのクマー』
・『ヨーレのクマー』は、宮部みゆきさんのミステリ小説『悲嘆の門』の作中作がもとになっています。小説の中で書かれた時、絵本の原稿として書かれた時、それぞれのいきさつを伺いました。
宮部: (『悲嘆の門』の中では)物語を丸ごと載せてはいなくて。クマーという怪獣のことを書いたのは、「守っているはずのものが実は怪獣である」という、そのダブルミーニングの部分を使いたかっただけなんです。
佐竹: ええ。
宮部: 結局、あの会社(*1)を起こした社長がそのダブルミーニングを気に入って、「私たちもまた怪獣になりうる」と。「ネットの番人もまた怪獣になりうるけれども、だからこそ番人として守りえるのだ」という気持ちを持っています。もうひとつ、クマーが透明であるということ。「私たちは姿が見えない」「私たちは生の顔を見せない」ということで、社長は自分が好きだったクマーという怪物の名を、自分の起こした会社につけた、という設定なんです。だから、小説中に登場する絵本の内容は、大雑把でしたので、いざ絵本にしていただくとき、もう少し膨らませて書かせてもらいました。「(絵本の)表現が、ちょっと『悲嘆の門』とは違いますけど、いいですか」って(編集部が)気にしてくれたとき、「全然OK。こっちが正解だから。絵本として世に出るのはこっちだから」って言ったんです。
(*1)『悲嘆の門』本文中には、株式会社クマーという、サイバー・パトロール(ネット社会の警備)を行う架空の会社が出てきます。ネット上に潜む、実体の見えない危険、犯罪、悪意を取り締まる株式会社クマー。その社名は、社長が「子どものころ好きだった絵本に出てくる怪獣の名前」から取ったものだと知った主人公・孝太郎は、興味を覚えます。そして偶然、神田の古書店で見つけた絵本がノルウェーの翻訳絵本『ヨーレのクマー』でした。孝太郎は、絵本と社長の思いに心を動かされ、株式会社クマーでバイトすることを決めます。
(編集部)「クマー」という名前は非常に特徴的ですが、何か由来はあったのでしょうか。
宮部: いや、何だろう……ふっと思いついたんですよね。でも、どこかで聞いたことがあった言葉なのかもしれません。
佐竹: あ、そうなんですね(笑)。なんか熊のイメージ?
(編集部)たしかになんとなく、語感から毛のある生き物を想像しました。
宮部: でも、そうだったと思う。爬虫類的なものではなくて、もさもさっとした怪獣だと思っていたので多分、クマーにしたんだと思います。でも、じゃ、ヒグマーにすればよかった(笑)。
佐竹: なんかこう、クマーって、ちょっと不思議な感じ。
宮部: ねぇ。
佐竹: ヒグマーだと収まりすぎているし、クマーってちょっと余韻がありますね。
宮部: クーマでもないしね、なんでクマーなのか……いまだに自分でもわからないですね。ごくごく自然についちゃって。もしかしたら、昔何かで読んだ地名だとか、架空の町の名前だとか、ゲームの中に出てきた国の名前だとか、そんなことなのかもしれませんね。だから、意外に今後、読者の方から、「クマーって、あのクマーですか」ってお問い合わせがあって、「あ! それだ!」ってなるかもしれません。
●クマーの姿が決まるまで
・キャラクターラフが決まるまでには、たくさんの「クマー」たちがいましたが、どのようにして今の形になったのでしょうか。
佐竹: 怪獣だけど、きっとかわいいだろうな、って思ってたんです。なので、最初はこういうかわいらしい感じなんだけど……。
初期の構想ラフ

宮部: でも「怪獣」なんだと。姿が見えちゃったら……。
佐竹: 怖い。
(編集部)それで、今の顔にたどりついたんですね。
宮部: でも、この子(採用されなかったクマーのラフ)もかわいい。この、しおれてるのが(⑤)。いい子いい子してあげたくなる。

佐竹: いちばん最後にカバー絵を描いたんですが、その時に、このフィヨルドの風景丸ごとが多分クマーなんだなって思えたんです。そこまで行きつくのに何か月もかかりました。とにかく最初はキャラクターを決めるのに時間がかかって。
宮部: この子がこの形になるまで。
佐竹: どこかで勘違いしてたんでしょうね。途中で、これで進めていっても、しょうがないだろうと気がついて。編集者と話していて、ほかの怪獣たちと同じ怖さがある存在なんだというのが、はっきりしました。
宮部: 北欧にトロールっていますよね。
佐竹: そうそう。ちょっとそれも連想したりして。
宮部: ちょうど『悲嘆の門』を書いている時、『トロール・ハンター』という映画を観まして。そっちはすごく大きな怪獣だったんですが、こっちは、あそこまで大きくないし、怖くはない……でも、怖いんだけど、ちょっとかわいくてユーモラスっていう、漠然としたイメージはありました。
佐竹: でも、なぜクマーだけが透明なのか、わからない。
宮部: ですよね。説明もしなかったし。
佐竹: お父さんお母さんが「大事な角」と言ってくれたってことは、お父さんもお母さんもいたっていうことで、クマーのお父さんとお母さんも透明なのかなあ、とかいろんなこと考えて。
宮部: そう。一応、お父さんとお母さんも透明で――だから、何ていうんだろう、よいトロールみたいな。この一族、クマーの種族は、数も少なくて、大きなフィヨルドに一頭いるぐらいな感じで。だからこそ、主というか、守り神というか。でも、神様のように信仰される存在ではなくて、人々には知られてないっていう。
――クマーが最終的にどんな姿になったかは、絵本で確かめてみてください!
●「書き直す」勇気
・話題はクマー以外の怪獣たちに移り、そこから「書き直し」の大切さについてへ発展していきました。
佐竹: 出てくるクマーじゃない怪獣たちも、きっとそんなに悪くはないんじゃないかって、私、思うんです。すごく悪いように書かれているものでも、多分「何か」があるから悪くなると思ってて……
宮部: ですよね。
佐竹: 例えば、彼らにとって人間が餌だったら、襲ったりするのは普通のことで。
宮部: 実際これだけ豊かな自然の中だったら、他の動物もいっぱいいるはずですもんね。魚獲ったりして暮らしてるはずですから……。そこにあとから人間が住んだから、キャーっていうことが起こるわけで。
佐竹: そうですよね。だから、怖いのを、「醜く」怖くはしたくなかったんです。

佐竹: (この怪獣たちのシーンの)基本のブルーはノルウェー・ブルーを下地に入れて、重ねてあるんです。ほかのところもノルウェー・ブルーはかかってるんです。
宮部: 素敵ですね。幻想的でもあるし。
佐竹: フィヨルドはイコール、ノルウェーでいいかなと思って(笑)。
(編集部)夜のシーンが多かったので暗くなるのではとも思いましたが、カラフルで美しいですね。
佐竹: 日本画や墨絵でも、真っ黒じゃないけど月夜とか淡い感じで描かれてるじゃないですか。ああいうふうに暗くしなくてもできるかなって。
宮部: これは水彩画ですか?
佐竹: 基本、カラーインクなんです。私、ふだんあんまりカラーインク使ってないんですけど、足下にずっと置きっぱなしのがあって(笑)、それでなんとなく「あ、そういえば」と使ったら、なんか透明感が出て。
宮部: でも、インクだと、例えばちょっとトーンが違ったから直そうなんてときは、やっぱり描き直しになりますよね。
佐竹: そうですね。
(編集部)最初のシーン、何度も描き直されてましたよね。
佐竹: ええ。やっぱり最初の方は――そうそう、この場面。

宮部: えー。この絵は、何度も?
佐竹: (いちばん最後に描いた)表紙が、いちばん「やった!」って感じなんですが、この絵はまだ描き始めた頃で。
宮部: まだ魔法が効き始める前の世界でね。え、でも、これすごく素敵ですけど。
佐竹: 私いつも大体ケント系の紙を使って描くので、最初にケントを使っちゃったんです。そしたら、変な景色になっちゃって。
(編集部)全然変じゃなかったんですよ、その絵も。とても美しくて。「これでOKです」と言おうと思ったら……。
佐竹: あれ、ケントは合わないなと思って、それで、この水彩用の紙に替えて。
(編集部)佐竹さんは、描き直した絵を捨てようとなさってたので、「ください!」と言ってしまいました(笑)。
佐竹: あれが薄っぺらい紙だったらきっと破ってたけど、ボードだったんで。
(編集部)薄い紙だったら、危なかった(笑)。
佐竹: かなり以前の仕事なんですが、印刷所に行く寸前に、「違う」って思ったんです。年末ギリギリだったんですけど、「ちょっと待って。ストップして」って。三日でやり直して、正月に渡したんですが、それがけっこう売れたんです(笑)。なんかね、「違う」って思ったらダメですよね。
宮部: ね、ね! 我慢できなくなってきちゃって。私も、「別にプロット上はおかしくないんだよ。これで謎解きしちゃえばいいんだけど、でも、でもやっぱり嫌だ」ってなってしまったら、もうどうしようもないことがあります。
佐竹: そう。どこかでフッと俯瞰したときに、全体見ちゃうとダメですね。違うってとこが見えちゃって。
宮部: 今手掛けている(週刊連載の)仕事で、ほぼ大詰めに来てるんですが、すごく苦労していて。もう何回も何回も何回も書き直していて――二週間分、全取っ換えの書き直しをしているところなんです。私、来年で(作家デビュー)三十年になるんですけど、「まだこんなことやってる」って、自分が情けなくて、昨日ちょっとふて寝してしまったんです(笑)。書いた分が惜しくて、十分ぐらい、「どうしよう、どうしよう、どうしよう、渡しちゃおうかな」と思ってて。でも夕飯食べる前に、「やっぱりダメだ」と思って、全部消したんです。
佐竹: 素晴らしい。
宮部: 消さないと、何か使えないかと色気が残るので。
佐竹: すごい。
宮部: だけど、書き直すことは意味がありますよねって、今、勇気づけられました。
佐竹: あります、あります。もうしょっちゅうですよ。例えばそれで「まあ、いいか」って出したら、多分死ぬまで後悔するんです。
宮部: ね。結局あとあとまで、「あの時、あの時は」って思うんですよね。
佐竹: そうそう。だったらもう、やり直しちゃったほうがスッキリするんです。
●ちょっと意外な創作秘話
・今回の舞台は北欧の山奥。カバーを広げると、まさに絶景のパノラマが広がりますが、お二人は普段どのように想像世界を描かれているのでしょう。やはり外国をたくさん取材されているのでしょうか――?
宮部: 佐竹さんは、よくご旅行なさるんですか。
佐竹: 全然。外国行ったことないの(笑)。
宮部: あ!! 私もほとんど同じです!
佐竹: ちょっと前は、恥ずかしくて言えなかったんだけど、みんな聞くんですよね……。
宮部: 「いろいろなところに取材に行くんでしょう?」って。
佐竹: ええ。今はもう、堂々と、「日本から出たことないです」って。
宮部: 絵をお描きになる方は自分の目で見るとかってあるのかなと思っていましたけれど、やっぱり、それとこれとは別なんですね。
佐竹: 写実の作家さんならそうかもしれませんが、私が描くのは、想像の世界だから。国内旅行に行ったときに、山のどうでもいい写真を目一杯撮るんです……枯れたような。外国の風景を描くとなれば、その国に生えてる木は調べるんだけど、木の生え方なんかは、自然だから一緒。だから、資料は自分の撮った写真で、あとは想像。
宮部: 仲間だー!! 私も、自然の描写をしなきゃならないとき、夕方、公園にウォーキングに行くと、森の濃いところはこんな感じなんだな、と思ったり。たまたま遊びに行ったところで見たものが「ああ、いい感じ、いい感じ」「使える、使える」みたいな。もうそれで十分(笑)。
佐竹: そうですよね。
宮部: 新しく、こういうものを書きますって最初に担当さんと話してると、「じゃ、取材に行く必要ありますね。見なきゃいけませんね、こういうもの」って言われるんですが、(*囁き声で)「必要ない、必要ない」って言うの(笑)。「資料読んで、あとはもう想像で書くから。そんな全部行ってたら大変だから、行かない、行かない」ってなるんです。あー、ここに仲間がいた(笑)。
●いちばん気に入っているのはどこ?
・全ページにわたり壮大な風景が広がっていますが、中でも、いちばん気に入っていらっしゃるのはどこでしょうか。
宮部: もう、全部! 最初にコピーをもらって、足跡が出てきたとき、すごく嬉しかったですね。あ、クマーの足跡! 歩いてるー! って。本当に愛おしいですね。
(編集部)この足跡、裏面にも、うっすらと続いているんです。
宮部: あ、本当だ! こっちまで来てる。
佐竹: 遊ばないとね。せっかくなんだから。こういうとこで遊ぶの大好き。
(編集部)佐竹さんは?
佐竹: やっぱり表紙。
(編集部)クマーの顔が水面に映った絵も、とても気に入ってらっしゃると仰っていたような気が……。
佐竹: この絵もね、「うん、うまくいった!」ってところです。

宮部: この目が、もう泣いてるみたいに見えるんですよね。ショックが表れてる。
佐竹: 水モノを描くときは、やっぱり状況が大切。その水が、川なのか海なのか。湖には波はないわけだし、風でこう……。
宮部: こうザーッとはなってもね、寄せて返すわけではないですもんね。
佐竹: 琵琶湖とか瀬戸内海とか、静かな水面って意外と難しいんです。川の流れや荒れた海は調子でなんとか出せるけど。水モノを描くときの、ゆがみは難しい……。私、今、週六ぐらいで銭湯行ってるんです。銭湯につかりながら、みんな入ってくるとワーッて揺れるじゃないですか。それが意外とね、役に立って(笑)。水面に映ったものが、どういうふうにゆがむか。
宮部: なるほど。フィヨルドに行かなくても、大丈夫!
佐竹: そう(笑)。クマーが自分の姿を見る時も、水面が鏡のようだったらクマーのまんまだけど、ゆがみがあるからこそ、恐ろしい姿に映るというか。なので、きっとこれぐらいのゆがみ具合かなと。
宮部: 本当に、心の動揺、ショックがそのままこの絵に表れてる。
佐竹: あともう一枚は……この絵ね。これ描いた時に、あ、クマーは本当にこのフィヨルドが好きなんだなって感じたんです。

宮部: 寂しいですよね。本当に一人ぼっちの感じがする。
佐竹: ねえ。人間のために一生懸命、怪獣退治してきたのにね。
(編集部)文字の配置がだんだん下がっていて、「クマーが下りていって、岸辺に着く」様子を表しています。
宮部: うんうん。そうだね、配置がね。
佐竹: ああ。そうか、すごい。素晴らしい。
宮部: 絵本だと文章も絵の要素の一つなのね。
佐竹: そうだ、私、一番気に入ったの、このタイトルロゴ。
宮部: これ素敵ですよね。

佐竹: これで、バチッと突き抜けるんです。
宮部: うん。このフォントと配置。
佐竹: そうそうそう。
宮部: フォントがほかのものだったら違ってしまうんです。もうちょっと丸みのあるフォントだと、この作品の持ってる、何ていうんだろう、厳しさみたいなものがきっと出ないと思うんですよね。
佐竹: うんうん。すごいなって思った。
宮部: 鳥肌が立っちゃう。
宮部: 私は、こっちの絵も。これは本当に映画のよう。クマーの悲しみが出てますよね。それに、おじいさんの顔も何気に好きなんです。凛々しいですよね。

佐竹: ここ、塗るの大変でした。
宮部: ああー! 毛の、もふもふ感ですよね。
佐竹: 普通はマスキングして、それでジャーッとやっちゃうんだけど、それができなかったので。
宮部: で、この絵にも、またリスがいる(笑)。前のページでもビックリしてるし(笑)。木の葉の部分も、全部グラデーションが入ってて。

佐竹: この絵ね、私の住んでるビルの中庭――大家さんの中庭に、すごく大きな木があって。それが、窓から見えるんです。そうやって、なんとなく見えるいろんなものを参考にしながら。
宮部: 孫娘もかわいい。ふっくらした、このスカートがねぇ。
(編集部)この孫娘が大きくなって……最後のほうでお母さんになっているんです。
宮部: このお母さんになってるのね! クマちゃんにも子どもが……。
(編集部)フクロウにも子どもが(笑)。
宮部: わ、本当だ!
佐竹: よく探すと何かがいるっていうのが好きなんです。
――ぜひ、読者の皆さんには、こうした色々な“遊び”も探しながらページをめくっていただきたいですね!
●クマーにこめた思いと、これから
・最後に、この絵本にこめた思いを、お二人にお伺いします。
宮部: 私はこれが生涯二冊目の絵本なんですよ。一冊目は『悪い本』という「怪談えほん」という企画の中の一冊で、そちらも吉田尚令さんという大変な腕利きの絵本作家の方が描いてくださって。だから私、すごく恵まれてるんです。二冊とも、本当に大きなご褒美をいただきました。で、二度あることは三度あるというから、三冊目も絵本を出してもらえるように、何か絵本のタネがないかなって、今、思っています。
(編集部)佐竹さんはいかがですか?
佐竹: いや、本当に楽しかった。よくぞ私に描かせてくださった、というか。やっぱり絵本作家の方ってすごいなって心から思います。でも、私も挿絵をずっとやってきたからこそ、何かできる絵を描けたらなって挑戦して、失敗しなかった(笑)。
宮部: いや、本当に素晴らしいです。嬉しい一冊ですね。幸せです。長いことやってきてよかったなと思って。
佐竹: いや、そう思わないほうがいいですよ。
宮部: そうですか?
佐竹: これからです。絵本、もっともっとおやりになったらいいんじゃないですか。
宮部: 子どもたちにも読んでもらえるようにしようという意識が明確になってきたのは、二十一世紀に入ってからなんです。児童書のレーベルに既存の作品を出したりしています。まだまだこれからね、試してみたいこともあるんですけど。
佐竹: 子ども用だからかわいいとか、そういうんじゃなくて。もっとつっこんで、怖いものは怖いとか、今までにない子どもへのアピールをするのが面白いと思います。
宮部: はい、そうしたいですね。結局、長く残って読まれてるものって、実は児童書というかヤングアダルト作品が多いじゃないですか。私はスタートがミステリー作家で、今でもDNAはミステリー作家だと思うんですけど、もともとすごく自分が好きなものが児童書や、ヤングアダルト――挿絵がついているものも、好きなものですから。
佐竹: 私も、児童書から来たんじゃなくて、もともとはSFと怪奇。
宮部: あ、そうですか!
佐竹: 児童書出身じゃないので、児童書で怖い話や、怪物が出たり、本当に気持ちの悪い話、そういうのは私、容赦しないんですよね(笑)。でも、容赦はしないけれど、怖いものにも悲しい部分があるっていうのをちょっとにじませていきたいんです。これは、児童書で学んだこと。
宮部: 私も、英米の恐怖小説が好きで読み始めたのが一番最初でした。そういう部分が今でも残ってるので、江戸怪談もずっと書いてますし、『悲嘆の門』にも、かなりホラー的な部分も作ったんです。だから、もしかすると今回ご縁があったのは、そういうDNAで感応するものがあったからかもしれません。
(編集部)本当に今日は共通点がたくさんあって運命的でした。
宮部: 運命の出会いでした!
佐竹: 嬉しかった(笑)。結局、本当に何でも引き受けてるから、いろいろけっこう引き出しにあるというか。
宮部: 私、最近、「もう自分はトシだから」ってよく言うんですけど、それはね、むしろ、そういう今の自分が嬉しいからなんです。もう気分的に半分隠居のような感じ。仕事はしたいし、まだやりたいこともあるんだけど……ただもう、あんまり細かいこととか難しいことが気にならなくなってきて、「トシ取ると楽しいよ」っていう感じなんです。そうなってきて、こんな素晴らしい仕事ができると、本当にハッピーですね。
佐竹: 本当に、嬉しかった!
宮部さん、佐竹さん、長いお時間本当にありがとうございました!
●佐竹さんが描いたお二人のイラストを公開!
佐竹さんの描いた貴重な似顔絵イラスト(左が佐竹さん、右が宮部さん)。
対談でのお二人の和やかな空気が伝わってくるようですね。

聞き手・構成:KADOKAWA編集部
初出:絵本ナビサイト 2016.11.17