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特集

仕事のあらゆる悩みの答えは1300年前に出ている? 出口治明さんが座右の書『貞観政要』を解説

「1300年間、読み継がれている帝王学の教科書」といわれる中国の古典があります。その名は『貞観政要じょうがんせいよう』。稀代の読書家であり、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長である出口治明さんも「座右の書にしている」古典です。

『貞観政要』は、とうの第2代皇帝である「太宗たいそう世民せいみん)」の言行録です。
※「太宗」とは、太祖もしくは高祖(始祖となる皇帝)に次ぐ功績のあった皇帝に与えられる廟号びょうごう(死去した後に贈られ、廟に載せられる名前のこと)

「貞観」とは、当時の元号(年号/西暦627~649年)で、中国史上もっとも国内が治まった時代のひとつといわれています。そして、「政要」とは、政治の要諦のことです。
『貞観政要』は、貞観時代の政治のポイントをまとめた書物であり、その中には、貞観というまれにみる平和な時代を築いたリーダーと、そのフォロワーたちの姿勢が明快に示されているのです。

 では出口さんは『貞観政要』をどう読み、どのように活かしているのでしょうか?(今回の特別寄稿に続き、次回から出口治明さんの新刊『座右の書「貞観政要」』より一部の試し読みを連載します。是非チェックしてみてください)



リーダーは、感情のままに動いてはいけない

 感情と思考はつながっているので、感情の振れ幅が大きくなると思考の余裕がなくなり、正しい判断ができません。
 ですから、自分の心が波立っているときは、波が静まるまで待ったほうがいいと僕は思います。感情のままに動くと、判断を誤ってしまいがちです。

 太宗・李世民は、「世の中が乱れるのは、君主が喜怒哀楽に駆り立てられて行動するからだ」と述べています。

古来、多くの帝王は、自分の感情のままに喜んだり怒ったりしてきた。喜んでいるときは、それほど功績をあげていない人間にまで褒美を与え、怒っているときは罪のない人間まで殺してしまう。世の中の乱れというのは、多くの場合、こうした帝王の行いが原因になっている
(巻第二 求諌第四 第四章)

 人間は感情の生き物なので、喜怒哀楽をなくすことはできません。けれど、ほんの少し工夫をすれば、感情が振れても心をフラットな状態に戻すことができます。
 もっとも効果的な方法は2つ。「寝る」ことと「寝かせる」ことです。
 寝るとは、睡眠を十分に取ること。寝かせるとは、時間を置くことです。

 怒りや好き嫌いといった感情を抑え、元気で、明るく、楽しそうに振る舞うためには、毎日の体調管理をしっかりすること。人間は体調が悪いと精神状態が荒れやすく、不愉快になります。
 緊急事態に見舞われたとき、一般にリーダーは「不眠不休で対処する」のが正しいと思われていますが、僕の考えは、それとは違います。
 緊急事態だからこそ、ぐっすり寝て、しっかり食べて、体調を整えるべきです。
 人間は、ただでさえ、それほど賢くはありません。賢くない人間が疲れた状態で指揮を執れば、さらに能力が低下し、判断を誤ります。それこそ大惨事です。

外交も「寝かせる」ことで解決することがある

 国と国との外交においても、「寝かせたほうがいい」ケースがあります。たとえば、日韓の関係も寝かせて、ある程度の冷却期間を置いたほうがいいと僕は思います。
 子ども同士の喧嘩でも、夫婦喧嘩でも、最初は些細なことが原因です。そしてお互い売り言葉に買い言葉で、相手を責め立てる。これでは火に油を注ぐだけです。
 では、どうやって仲直りすればいいのかというと、ひとまず時間を置くことです。相手も自分もイライラしていたら、冷静な判断はできません。
 かつて、中国の指導者であった鄧小平とうしょうへいが尖閣諸島問題について「我々の世代は知恵が足りない。次の世代には知恵があるのかもしれないのだから、10年棚上げしても構わない」といった趣旨の発言をしているように、こじれたものはすぐには直らない。長いスパンで考えるしかありません。

 世界の歴史を見ると、長い目で見れば、どこの国も隣の国とは知恵を出し合って仲良く付き合っています。国は引っ越しができませんから、そのほうが互いにとってメリットがあるからです。日本も韓国も、今はできるだけ冷静になることが求められているのではないでしょうか。



今の時代に、名君となり得る可能性を持つのは誰か?

 唐の時代に貞観の治を実現した太宗・李世民は、まさしく名君といえます。では、今の時代に名君の資質を持つリーダーは誰でしょうか。

 僕が注目しているのは、フランス大統領、エマニュエル・マクロンです。
 マクロンは、「国とはプロジェクトである」と定義し、フランスの第5共和政は「人々をさまざまな制約から解放して自由にする」プロジェクトだと語っています。

 さまざまな制約から離れて、すべてのフランス人が好きなことを職業にできる社会を目指す。けれど、人間には能力差があるので、必ず落ちこぼれが出る。それを救うのが政府であり、「政府はもっとも弱い人の立場に立つ」とマクロンは言い切っているのです。

 マクロンについては、「頭でっかちで口ばっかり」とか、「イエロー(黄色)ベスト運動(フランス政府への抗議活動)をうまく抑えらなかった」という評価もあり、現段階では政治家としての内政手腕は未知数です。しかし、自分の政策のすべてを、明快な自分の言葉で定義できる政治家は、日本ではあまり見たことがありません。

 わが国では誰もがアメリカに目を向けがちですが、このような個性的な政治家を生み出すヨーロッパの懐の深さにも目を向けたほうがいいと僕は思います(マクロンが書いた『革命――仏大統領マクロンの思想と政策』〈ポプラ社〉は、政治を志す人や、リーダーを目指すすべての人に勧めたい良書です)。


座右の書『貞観政要』
 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
著者:出口治明
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000662/

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