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特集

芦辺 拓『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』 感嘆の声が続々!&著者ミニインタビュー

江戸川乱歩の未完の傑作「悪霊」。
同作を、『大鞠家殺人事件』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した芦辺拓が書き継ぎ完結させた『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』が2024年1月31日発売。
ただ書き継ぐだけではなく、更なる仕掛けをほどこした本作に注目が集まっています。

刊行に先立ち、ミステリー作家の有栖川有栖さんにお読みいただき推薦コメントをご寄稿いただきました! また、各地の書店員さんからも、感嘆・驚嘆の声が続々と届いています。
記事の後半では、芦辺さんのミニインタビューをお届けします。

芦辺 拓『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』
感嘆の声が続々!

有栖川有栖さんから、推薦コメントをいただきました!

突破口を拓く作家・芦辺拓がその美質を遺憾なく発揮し、〈乱歩が残した難題〉を思いもかけない形で突破した。これは驚きの超合作。
――有栖川有栖

書店員さんコメント

未完の推理小説を書き継いで完成させる、この試みがまず面白いのに、本作においては「何故未完で終わってしまったのか」にまで踏み込んでおり、非常に興味深い乱歩小説に仕上がっている。
原著の盲点やトリック、犯人の意外性に驚かされながら、昭和の薄暗く湿度を感じるおどろおどろしさも楽しめた。
小説家にして探偵役でもある江戸川乱歩の描写が良い。連載中止という悲しい愚行をやんわりと非難しつつも、作者の推理小説の大家への哀惜と敬愛が強く感じられた。この作品を機に乱歩作品に手を伸ばす若い読者もいることだろう。意義の大きな労作であることに心から拍手を送りたい。
――紀伊國屋書店 上智大学店 石澤さん
おどろおどろしく、淫靡な幕明けから引き込まれざるをえない作品、「悪霊」。登場する人物が哀しみを背負い、不穏で、謎めいていて、その姿を想像しました。なぜ途中で中断せざるをえなくなったのか。その全容を知りたくて知りたくてどうしようもありませんでした。芦辺拓さんがその世界を広げた悪霊は、自分自身衝撃的でなるほどの連発でした。乱歩のめざしたものがのりうつったような錯覚さえうけた悪霊。哀しくも恐ろしく美しさをも感じる作品にひれふすしかありませんでした。
――ジュンク堂書店 滋賀草津店 山中真理さん
江戸川乱歩の未完の「悪霊」を解決に導く作品。
独特の耽美性がふんだんに散りばめられており、その中に多数提示された謎を余すところなく拾い上げ、昇華させているよう。ならではの謎も含め多数明かされる爽快感は格別です。
言葉が適切かは疑問ですが、荒々しさと洗練さがハイブリッドに適合したミステリ。
――明林堂書店 南宮崎店 河野邦広さん
江戸川乱歩未完小説の解決とするだけでも、そんなこと出来るのですか?となる所、さらに、何故世に出さなかった?まで解決するとは二重の驚き。
乱歩当時の書簡から導きだす二転のトリックと悲しき背景。
密室、猟奇、怪しき団体、そして予言。
昭和初期から甦る悪霊は現代にも息づく問題を如実に暴く。
――未来屋書店 入間店 佐々木知香子さん
大変な葛藤や重圧、ご苦労があったことだと思います。この大変な偉業を成し遂げてくださりまずは御礼を申し上げたいです。
面白かったです。もう本当にゾクゾクして、まさに、江戸川乱歩の世界そのものだと思いました。
物語の終幕は、反転に次ぐ反転で、もう圧巻の一言でした。
この作品に出会えて、江戸川乱歩を再読しようと心に決めた次第です。
――六本松 蔦屋書店 峯多美子さん
2重の謎が絡み合い、江戸川乱歩が『悪霊』の続きを書くことが出来なかった理由さえも飲み込んで描かれる。2人の作家による見事な物語に魅せられました。
――くまざわ書店 岡崎北店 立川昇弥さん
日本ミステリ史に刺さった楔のような「江戸川乱歩の『悪霊』という未完の作品」を解決する――。そんな離れ業を、現代ミステリ的な方法で鮮やかにやって見せたのがこの作品だ。乱歩の怪奇趣味から逸脱することなく、設定も変更せず、「そんな方法が」と驚くやりかたですべてを解決してみせた手腕は、じつに見事という他ない。
――HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎さん
江戸川乱歩「悪霊」を読んだことはないのですが、どこまでが乱歩でどこからが芦辺先生なのか分からないくらい、元からこういう物語だったんだ、と思わせられました。すごく面白かったです。
そして、江戸川乱歩の他の物語も読みたくなりました。もちろん芦辺先生の物語も。
――紀伊國屋書店 あらおシティモール店 田中知夏さん
まず、私にとって初読みであった『悪霊』のおもしろさ! 連載当時、読者がどんなに続編を待ち望んでいたか、目に浮かぶようでした。そして、『悪霊』本文だけでなく、連載前の煽り文句から執筆の舞台、中絶の謝罪文、それらまでもが作品の一部として『乱歩殺人事件』を盛り立てていて、こちらもまたワクワクさせられました! 読み終えて、思いもよらない展開と構成、ぶっとんだ推理に脱帽……。大胆な謎解きはなるほどと思わせてくれるのですが、この自由な発想に、思わず私も私なりの謎解きと筋立てができないか挑戦したくなってしまう、そういう面白さもありました。
未完の作品の続編を書くのは勇気がいることだと思いますが、最後には誠実なぶっちゃけ話もあり、この挑戦に好感がもてました。見事に一つの作品として完成されていて面白かったです!
――紀伊國屋書店 京橋店 坂上麻季さん

芦辺拓ミニインタビュー

『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』、時代を超えたコラボ作品はどのように生まれたのか? 本の情報誌「ダ・ヴィンチ」2024年3月号(2/6発売)では、芦辺拓さんのインタビューが掲載。そちらの記事では収まりきらなかった舞台裏を、カドブンだけに特別公開します!

取材・文=朝宮運河 撮影=有村蓮



――昭和8年(1933年)に雑誌「新青年」がスタートし、未完のまま放置されていた江戸川乱歩の『悪霊』が、芦辺さんの手でついに完結しました。単行本巻末の「合作者の片割れによるあとがき」によると、完成までにはいろいろなご苦労があったそうですね。

芦辺:はい。執筆中、担当さんが亡くなるという悲しい出来事に見舞われました。3年前、僕の『奇譚を売る店』という短編集が好きだと言って仕事を依頼してくれた編集者で、まだ30代の若さということもあって非常にショックを受けました。ただ後を引き継いでくれた担当さんも熱意を傾けてくれて、書き下ろしの仕事というのはつい先延ばしになるんですが、数週間に一度、進捗うかがいのメールが届くんですよ(笑)。今、東京創元社の雑誌「紙魚の手帖」で『明治殺人法廷』という手間のかかる連載をしているんですが、その掲載がお休みになって時間が取れる機会があったので、一気に進めて脱稿しました。

――乱歩の『悪霊』は土蔵での密室殺人が起こり、次なる犯罪が予告される、というところで途絶えています。その先を書き継ぐのは大変だったのでは。

芦辺:ミステリー作家はよくリレー小説を試みるんですが、大変なのは最終回を担当する作家なんです。複数の作家が好き勝手に広げた話を、一回で畳まないといけないんですから。でもこれには秘策があって、最終回だけ長めに書かせてもらい、それまでの展開を強引に自分のテリトリーに引き込んでしまえばなんとかなるんです。『漂う提督』というリレー小説のアンカーを務めたアントニー・バークリーにちなんで、僕はこれを〈バークリー・芦辺の法則〉と読んでいるんですが(笑)、以前『堕天使殺人事件』というリレー小説の最終回を担当した際も、この手で物語をまとめあげました。今回もある程度の長さがあれば、未完の小説を終わらせられるという自信はあったんです。

――『乱歩殺人事件――悪霊ふたたび』には『悪霊』本文に加えて、当時の新聞広告なども引用されています。「眠れる獅子、突如沈黙を破る!」といった文章から、注目の高さがうかがわれますね。

芦辺:それだけ乱歩の新作が待望されていたということですよね。実は当時、乱歩はまだデビューして10年ほどしか経っていないのですが、全集が刊行されるなど、押しも押されもせぬミステリーの大家だった。ただ当時の「新青年」では小栗虫太郎がデビューしたり、エラリー・クイーンの翻訳が載ったりと、新しい作家の活躍も目立ち始めていた。乱歩には追われる側の辛さもあっただろうなと思います。

――結局『悪霊』はわずか3回で中絶してしまう。連載を途中で投げ出すというのは、よほどのことですよね。

芦辺:準備していたトリックに無理があることに気づいたのかもしれません。書いてみて初めて気づく矛盾点、というのもありますから。乱歩にとって不幸だったのは、物語の辻褄合わせのテクニックが当時は未発達だったことです。令和の作家だって書いていて矛盾に気づくことは多々あるんですが、それをうまく誤魔化すテクニックをいくつも知っています。誤魔化すというと言葉が悪いですが、それで案外うまくいったりもするんですよ。乱歩ももし現代に生きていたら、そこまで深刻にならずに、連載を続けられたのではと思います。

――矛盾といえば、執筆中『悪霊』のある矛盾に気づかれたそうですね。

芦辺:初出誌では、被害者の傷跡を説明する場面で、「左前上膊部」にあったはずのものが、その直後に「右腕の傷口からのものは手首に向って下流し」となっています。果たして傷口があるのは左腕なのか、右腕なのか(笑)。僕は左腕にあるという前提で推理を組み立てましたが、そのために両方が「左」で統一されている光文社文庫版を底本とするしかありませんでした。また「右臀部」の「右」に「ひだり」とルビが振ってある不可解な箇所もあります。ここは右臀部として推理しましたが、当時はルビ付き活字を使うことが多かったはずなので、どうしてこんな矛盾が生じたのか謎ですね。

――乱歩が『悪霊』の連載から逃がれて滞在した〈張ホテル〉も、重要な舞台として登場します。

芦辺:長らく実態が分からなかった麻布の張ホテルですが、国文学者の藤井淑禎さんによって正確な所番地や宿賃までが明らかになりました。今回作中に登場させられたのは、藤井さんの研究のおかげです。しかし張ホテルを登場させるだけでは、すでに久世光彦さんの『一九三四冬――乱歩』という先例があるので、新鮮味がない。そこで僕はもうちょっと踏み込んだ使い方をしてみました。

――『悪霊』は乱歩がある人物から提供された手紙を紹介する、という体裁の書簡体小説でした。芦辺さんはその構造を踏襲しつつ、さらに大胆なひねりを加えていますね。

芦辺:執筆にあたって「こういう作品にしたい」と担当さんにイラストを描いて見せたんですが、それは箱庭のごとき世界を乱歩が覗き込んでいるという絵でした。小説の内と外を繋げる『陰獣』という大胆な小説を書いた乱歩なら、このくらいの大仕掛けは用意していてもおかしくはないなと。もっとも書いているうちに、構想とはだいぶ違ったものになりましたけど。乱歩も書きながら考えるタイプだったので、ある意味乱歩的な執筆スタイルともいえますね。

――『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』というタイトルの真意も、読み終えると明らかになります。

芦辺:SNSで「乱歩が殺されるんじゃないか」と書いていた方がいましたが、そういう単純な話ではありません(笑)。乱歩作品の見立て殺人が起こるわけでもない。読めばなるほど、と感じていただけると思います。ちなみに僕としては始めは『「悪霊」ふたたび――乱歩殺人事件』という語順にするつもりだったのですが、担当さんの意見で『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』となりました。

――約200ページと、芦辺さんの本格ミステリー長編にしてはややコンパクトですね。

芦辺:乱歩は中編が得意なんですよ。大傑作『陰獣』にしても乱歩のフェイバリットだった『パノラマ島綺譚』にしても、これぞという乱歩作品の多くは中編です。長編になると小説作法がまた変わって、通俗スリラー的な展開のさせ方をあえてしている。『悪霊』がどのくらいの長さになる予定だったのか分かりませんが、そんなに長くなかったんじゃないかというのが僕の推測。中編を書くつもりが長編になってしまい、物語を支えきれなくなったというのも中絶の理由かもしれません。

――『乱歩殺人事件――悪霊ふたたび』はミステリー史に残る偉業だと思います。書き終えてのお気持ちは。

芦辺:『悪霊』を完結させると言ったら、ミステリー評論家の新保博久さんに「あんな誰でも真相を知っている小説の結末を今さら付けるんですか」と笑われたんですよ。後でそんなにきつい言い方はしていない、と訂正されましたが(笑)、メイントリックが知れ渡っている小説であることは事実なんです。本当は乱歩が想定していたとおりの結末にするのがいいのかもしれません。でも合作するからには、乱歩先生におんぶに抱っこではしょうがない。元々の仕掛けを生かしつつ、僕なりのアレンジを加えてみました。作業自体は大変で、気軽にやろうと言ったことを後悔しましたけど、挑戦してよかったと思います。この先何十年かは、誰も『悪霊』に挑戦することはできないでしょう。そう思うとやっぱり気持ちはいいですね(笑)。

*「ダ・ヴィンチ」2024年3月号(2/6発売)のインタビューもあわせて是非お読みください!

プロフィール

芦辺 拓(あしべ・たく)
1958年、大阪府生まれ。90年『殺人喜劇の13人』で第1回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。2022年『大鞠家殺人事件』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞。著書に『十三番目の陪審員』『鶴屋南北の殺人』『森江春策の災難』『大江戸奇巌城』など。

作品紹介



乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび
著者:芦辺 拓 著者:江戸川 乱歩
発売日:2024年01月31日

乱歩の未完の傑作が完結! 犯人・密室・謎の記号の正体とその向こう側
江戸川乱歩のいわくつきの未完作「悪霊」 
デビュー百年を越え、いま明かされる、犯人・蔵の密室・謎の記号の正体。
そして、なぜ本作が、未完となったのか――

乱歩の中絶作を、芦辺拓が書き継ぎ完結させる! そのうえ、物語は更なる仕掛けへ……。


 1923年(大正12年)に「二銭銅貨」でデビューし、探偵小説という最先端の文学を日本の風土と言語空間に着地させた江戸川乱歩。満を持して1933年(昭和8年)に鳴り物入りで連載スタートした「悪霊」は、これまでの彼の作品と同様、傑作となるはずだった。
 謎めいた犯罪記録の手紙を著者らしき人物が手に入れ、そこで語られるのは、美しき未亡人が不可思議な血痕をまとった凄惨な遺体となって蔵の2階で発見された密室殺人、現場で見つかった不可解な記号、怪しげな人物ばかりの降霊会の集い、そして新たに「又一人美しい人が死ぬ」という予告……。
 期待満載で幕を開けたこの作品はしかし、連載3回ののち2度の休載を挟み、乱歩の「作者としての無力を告白」したお手上げ宣言で途絶した。

 本書は、『大鞠家殺人事件』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した芦辺拓が、乱歩がぶちあげた謎を全て解き明かすと同時に、なぜ「悪霊」が未完になったかをも構築する超弩級ミステリである。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322310000776/
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