年間数百冊の作品を読んでいる書評家・大矢博子さんが選ぶ、海外の傑作ミステリー10冊をご紹介!今回は2018年のダ・ヴィンチ本誌から抜粋して、数多の中から選ばれた、はずれなしの作品をご紹介します!
※本企画はダ・ヴィンチ2018年1月号の転載記事です
選・文:大矢博子
ベストミステリー海外編10選
新時代の探偵に心鷲づかみ!
ジョー・イデ:著 熊谷千寿:訳『IQ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ロスに住む黒人青年アイゼイア、通称I Q。金が必要な彼は「犬を使う殺し屋を探せ」という奇妙な依頼を受けて……。アクションと哀愁がほどよく混じった、かっこいい頭脳派探偵の登場だ。バディものとしても楽しめる。
大興奮のサイコ・スリラー
J・D・バーカー:著 富永和子:訳『悪の猿』(ハーパーBOOKS)
シカゴを震撼させる連続殺人鬼「四猿」を追っていた刑事。だが突然「四猿」と思しき男が自殺して……。スピーディな展開とどんでん返しに大満足の一冊。翻訳ミステリーに「見ざる聞かざる言わざる」が登場するとは!
圧倒的なリーダビリティ
ハーラン・コーベン:著 田口俊樹、大谷瑠璃子:訳『偽りの銃弾』(小学館文庫)
夫を何者かに殺されたマヤ。しかし、娘のベビーシッターを監視するため隠しカメラをつけたら、死んだはずの夫が映っていた……? とにかく引きが強く、ぐいぐい読まされる。だがその中に伏線が潜んでいるぞ、気をつけろ!
本格ミステリーの醍醐味
アンソニー・ホロヴィッツ:著 山田 蘭:訳『カササギ殺人事件 上・下』(創元推理文庫)
人気作家の新作原稿『カササギ殺人事件』を読み始めた編集者。だがその原稿は……。作中作はクリスティばりの古典本格。二重のフーダニットが読者を翻弄する。伏線、目くらまし、遊び心。本格推理のすべてがここに!
舞台はなんと紀元前の中国
陸 秋槎:著 稲村文吾:訳『元年春之祭』(ハヤカワ・ミステリ)
前漢の時代、長安の豪族の娘とその召使い、俗世から離れた名家の娘ら少女たちが連続殺人事件に巻き込まれる。異文化に触れる興奮と、いつの時代も変わらない女の子の元気がたっぷり。読者への挑戦状(2 回)つき。
安心するのはまだ早い
セバスチャン・フィツェック:著 酒寄進一:訳『乗客ナンバー23の消失』(文春文庫)
5年前、豪華客船から忽然と消えた妻と息子。マルティンはその謎を解くために同じ客船に乗るが……。死体を海に捨ててしまえば何の証拠も残らない巨大な密室。スリリングな展開は、最終ページまで息が抜けない。
本格ミステリー+警察小説
ジョン・ヴァードン:著 浜野アキオ:訳『数字を一つ思い浮かべろ』(文春文庫)
「1から1000までのうちから数字を一つ思い浮かべろ」という手紙。何気なく浮かんだ数字をずばり当てられて……。雪上の殺人と足跡、犯人からのメッセージなど、ケレン味たっぷりの謎解きに退職刑事が挑む!
意外すぎる展開にドキドキ
ピーター・スワンソン:著 務台夏子:訳『そしてミランダを殺す』創元推理文庫
行きずりの女性と意気投合し、一緒に妻を殺す決意をした主人公。果たして首尾よくやり遂げられるか? 思いも掛けない方向から放たれる二の矢、三の矢に絶句すること間違いなし。個性的なダークヒロインにも注目だ。
小粋でしゃれた作品集
ロバート・ロプレスティ:著 高山真由美:訳『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』(創元推理文庫)
ミステリ作家のシャンクスとロマンス作家のコーラ。夫婦の行くところ事件あり? 読み心地のいいユーモラスな短編集。寝る前にゆっくり1 編ずつ読むのにぴったり。皮肉たっぷりの出版業界あるあるネタも楽しいぞ。
愉快、痛快、楽しさ満点!
ジャナ・デリオン:著 島村浩子:訳『ワニの町へ来たスパイ』(創元推理文庫)
正体を隠してルイジアナの田舎町に潜伏することになった女性スパイ。ところがいきなり人骨を見つけ、町を牛耳るおばあちゃんたちと調査に乗り出すハメに。とにかく笑えるミステリー。ちょっぴり苦い真相が胸に残る。
どの作品も読み応えのあるものばかり!ぜひ年末年始の新しい出会いとして手に取ってみてほしい。