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特集

刊行記念イベントレポート 『それいけ! 妖怪旅おやじ』の舞台裏を語る! 村上健司×多田克己×京極夏彦

刊行記念イベントレポート
『それいけ! 妖怪旅おやじ』の舞台裏を語る!
村上健司×多田克己×京極夏彦

取材・文=薮魚大一 写真=福島正大

妖怪界の名コンビ+αの〈おやじ〉たちが、伝説地を巡り歩く!

 日本各地には、妖怪にまつわるスポットが数多く存在する。伝承が残る神社仏閣はもとより、河童が退治されたという川、鬼が住んでいたという岩屋、狸に化かされた話がある坂、ダイダラボッチの足跡だとされる池、九尾の狐が変化した大岩……等々。

 「妖怪好き」といわれる人々の一部は、そういった妖怪伝説地を訪ね廻る旅に好んで出かけていく。メジャーな観光名所となっているところから、話があったというだけで何の痕跡もないところまで、妖怪に関連するとあれば喜び勇んで訪れ、見て心を震わせ、見るものがなくても伝説に思いを馳せてうっとりし、時には地元の人に話を聞いたりもする。そんな旅を仮に「妖怪旅」と呼ぼう。

 その妖怪旅に若いころから行き倒している、エキスパートともいえる〈おやじ〉が2人いる。それは妖怪ライターの村上健司氏と妖怪研究家の多田克己氏。共に多くの妖怪関連の著作を持つ、妖怪好きにはよく知られた人物だ。

 そんな、何十年にも亘って数多の妖怪伝説地を旅してきた2人と、雑誌「怪と幽」の編集長R氏が連れ立って、全国のさまざまな妖怪スポットを廻った探訪記が、「怪と幽」の創刊時から連載している名物企画にして、この度めでたく単行本化された『それいけ! 妖怪旅おやじ』だ。

ハードで楽しい妖怪旅

 去る10月30日、古書の街・神田神保町にて、この『それいけ! 妖怪旅おやじ』の刊行を記念するトークショーが行われた。登壇したのは著者である多田克己氏・村上健司氏と3人目の〈おやじ〉である編集R氏、さらに本書にゲスト参加をしている小説家の京極夏彦氏。


3人はユニット「妖怪馬鹿」でも知られている。(イラスト=鳥井龍一)

 イベントでは京極氏が司会役となり、主に多田・村上両氏の、〈おやじ〉になる前からの妖怪旅の思い出が語られた。2人が初めて一緒に旅をしたのは約30年前。その時の2泊3日の鳥取・出雲の旅は、東京から車でノンストップで移動し、朝から晩まで行けるだけの妖怪伝説地を巡り、夜は深い時間までお酒と麻雀に明け暮れ、起きればまた朝から駆けまわるという超強行軍だったという……。

 若いからこそ無茶ができた……と言いたいところだが『それいけ! 妖怪旅おやじ』を読む限り、〈おやじ〉となった現在でもそれは相変わらずな様子。本書でも毎回限られた日程の中、一つでも多くの場所を訪れようというサービス精神(?)により、必然的にハードスケジュールになりがちで、さらに急勾配の山道や長い石段を登るなど、体力的にもハードだったりする。そんな厳しめの行程を、けして体力がある方ではない〈おやじ〉たちがヒイヒイ言いながらも妖怪に魅かれて突き進む。そんな彼らの奮闘ぶりを読んでいると「こんなおやじが頑張れるなら」と励まされるし、本書を参考に妖怪旅をする人には日程的・体力的な参考にもなる。

 イベントで印象的だったのは、2人とも妖怪旅では「がっかりしたことがない」と答えたこと。苦労して行った先に石の一つでもあれば大満足、何もなくてもそこが伝説の地だと思えば「オッケー」なのだという。これを聞いて京極氏は思わず「キミらはどんだけ楽しい旅をしているんだ」と漏らした。


本書の「探訪記パート」を執筆した村上健司さんは、筋金入りの〈妖怪旅おやじ〉。


 『それいけ! 妖怪旅おやじ』には、14回に亘るそんなハードで楽しい妖怪旅が収録されている。例えば、記念すべき第一回には、茨城で「河童の妙薬」の伝説地を訪ね歩き、その妙薬を入手している。第二、三回は漫画やゲームでも人気がある鬼・酒呑童子と茨木童子の伝説地を探して新潟を廻る。その他、天狗、狐、小豆とぎ婆、日忌様など、有名無名のさまざまな妖怪をテーマに東奔西走、(取材当時コロナ禍に重なったこともあり、やや関東近郊に偏っているけれども)日本各地を訪れている。

 各回は村上氏による探訪記と、多田氏による解説の、2本柱の構成となっている。

 旅の行程と道中の様子が軽妙な筆致で書かれた村上氏の探訪記パートは、探訪地の情報が詳しく記されていて、ガイド的な利用にも有用だ。加えて3人の珍道中ぶりや、合間合間に挟み込まれるゆるくてグダグダぎみなやりとりも魅力だ。お寺に供えるお線香代の100円を無心しようとして断られたり、宿泊地で物音がうるさかっただのイビキで眠れなかっただのと文句を言い合ったり、オナラ一つでキャッキャウフフとはしゃいだりするなど、時には喧嘩し、時には喜びを分かち合い、『水曜どうでしょう』ならぬ「妖怪どうでしょう」ともいうべきドタバタ旅が楽しめる。

 一方、その後に続く多田氏のパートでは、その回の訪問地やテーマになった妖怪の詳細な解説がされている。もともと妖怪に関して豊富な知識を持つ多田氏が、改めて自身が納得するまで調べ上げたという情報に加えて、現地を訪れたことで得られた発見や考察も展開し、コラムの範疇を超えた非常に読み応えのあるものになっている。

 硬軟織り交ぜた二段構えによる、妖怪旅の魅力がぎっしり詰まった一冊なのだ。


多田克己さんは本書の「解説パート」を担当。探訪した妖怪伝説を深掘りする。


イベントで『妖怪旅おやじ』再現!?

 第四回の広島では京極夏彦氏がゲスト参戦し、江戸時代の妖怪遭遇譚『稲生物怪録』の舞台と、妖怪研究家・湯本豪一氏の妖怪コレクションを展示する三次もののけミュージアムを訪ねている。

 イベント中、京極氏からその回の内容についてクレームが入る場面が。京極氏はもともと別の企画のついでに個人的に広島に行ったはずが、せっかくだからと『妖怪旅おやじ』に合流させられたのだという。それなのに記事中に「セリフが一つしかない」と不満を訴えた。

 その唯一のセリフは、三次もののけミュージアムの敷地内にある通称「かに石」と呼ばれる「動かすとよくないことが起こる」という石を、多田氏から「持ち上げてください」と言われて「はい」と素直に応じようとした場面。そもそもの流れがヒドいが、京極氏は「カギカッコ付きのセリフがこれしかない」と憤慨。


本書にもゲスト出演している京極夏彦氏。イベントでは司会役を務めた。


 記事を書いた村上氏は「使える言葉を一言もしゃべってくれなかったから」と苦笑い。現場ではたくさん話をしていたが、とてもヒドくて書けないことばかりだったと言う。それに対し京極氏は心当たりがあるのか「そうか」とあっさり納得してしまうのだった。いったいどんなことを話していたというのか……。ちなみに、京極氏は失念していたのか、実は記事中には、もう一つセリフを発している(それでもたった二つだが)。それもそこそこヒドいセリフなので、本書を読んだ時に見つけて欲しい。

 さらに「書けない」という話題から、村上氏はオナラのエピソードについて明かした。実は、本書にはオナラについてのエピソードがわりと、いや結構あるのだ。そのことで村上氏は「オナラの話を書くと嘘だと思っている人がいるんですけど、全て本当のことですから」と強調した。むしろ逆に薄めて書いているのだという。

 しかし多田氏は「僕とR氏がオナラするのは書くけど、本人がした話は書かない」と村上氏に不満を漏らす。京極氏も「村上くんの方がしているよね」と援護し、それに対し村上氏は「それは認めます」と素直に肯定するのだった。

多田「だから(村上氏は)オナラが好きなんだよ」
村上「うん。嫌いとは言ってない」

 そんな脱力した会話に京極氏が「30年連れ添った夫婦のよう」と他人事のように言う。そして編集R氏は「大体取材中もこんな感じなんです」とまとめるのだった……。


左から、京極夏彦氏、「怪と幽」編集長R、多田克己氏、村上健司氏。

 このように終始『妖怪旅おやじ』の旅の様子を彷彿とさせるようなやりとりが繰り広げられる、笑いが絶えない刊行記念イベントだった。

 オナラはともかくとして、こんな〈おやじ〉たちのわちゃわちゃが好きな人はもちろん、妖怪好きにも、旅好きにも琴線に触れること間違いなしの『それいけ! 妖怪旅おやじ』。おやじも、おやじでない人も、この一冊を手に「妖怪どうでしょう」の旅に出てみるのも一興では?


「怪と幽」のオリジナルヒーロー・カイトユウマンも登場。イベント冒頭に颯爽と現れ、颯爽と消えていった。


書籍情報



『それいけ! 妖怪旅おやじ』
村上健司、多田克己
KADOKAWA 

鬼のスーパースター・酒呑童子と茨木童子の出生地を探して新潟へ。高い山が少ない房総半島で、あえて天狗を訪ねる。『稲生物怪録』の舞台・広島には京極夏彦氏も参加。九尾の狐と殺生石を求めて栃木と福島へ――。一喜一憂しながら「妖怪馬鹿」が各地を廻る。村上健司による探訪記&多田克己による解説で、ゆるく、深く楽しめる!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000662/
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