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特集

お気に入りの二人がきっと見つかる! 大沢在昌「相棒小説」5選(西上心太・選)

大沢在昌が書く〈相棒〉たちを、書評家・西上心太が紹介

1979年のデビュー以来、ハードボイルドを中心に、数多くの名作を生み出してきた大沢在昌さん。しかし名作揃いだからこそ、どれから読もうかと、迷う方も多いのでは?
気弱な観光ガイドと強すぎる元・女子プロレスラーのバディが活躍する、痛快エンタメサスペンス『熱風団地』のノベルス版刊行を記念して、書評家の西上心太さんに「相棒バディ小説」という切り口で、おすすめ作品を選んでもらいました。

大沢在昌の「相棒小説」5選

 相棒バディ小説が好きだ。
 似た者同士、対照的なコンビ、異なる性別など、さまざまなパターンがあるが、なによりも魅力的なキャラクターを最低でも二人創造しなければならないのだから、実はけっこう難しいジャンルなのではないかと思う。
 面白いエンターテインメント小説の条件は、ストーリー展開の妙と、印象的なキャラクター造形にあることは論をたない。どちらが主でどちらが従というのではなく、両方とも優れていないとどこか物足りなさを感じるものだ。ベテラン作家たちは誰もがこのことを身に染みつかせており、あえて意識しなくても両輪が備わった作品を完成させる。逆にいえばそれゆえにベテランと呼ばれるようになるまで、作家を続けられたのであろう。
 『熱風団地』のノベルス版が出たことであるし、数ある大沢作品の中から「相棒」というキーワードでシリーズも含めた5作品を紹介しよう。

1.『熱風団地』(KADOKAWA) 



 本書は南シナ海にあるという、架空の島嶼国家ベサールの政治問題が絡んだ物語だ。
 団体客を見送った成田空港ロビーで、ツアーコンダクターの佐抜克郎は、突然二人の男から声を掛けられる。男らは外務省の関連団体の者と語り、渡された名刺には「NPO法人南十字星 坂東武士」とあった。ベサールは13年前のクーデターによって王族が追放され、現在は首謀者のクワンが大統領となり、中国との関係を深めていた。ベサール王には日本人の第二夫人との間に男子があったが、第二夫人親子は日本に帰国し、夫人の実家がある千葉に住んでいた。だが16歳になる王子アリョシャ・ケントが家出してしまう。彼の行方を克郎に見つけてほしいというのだ。克郎がベサール語に堪能であるため依頼したらしい。彼のパートナーとなるのが、母親がベサール人で、16歳までベサールで暮らした経験があるヒナである。彼女はかつて南シナ海の女豹なるニックネームで有名な、レッドパンサー潮という実力派の女子プロレスラーだった。彼女の大ファンであった克郎の喜ぶまいことか。
 二人は房総半島にある多国籍の外国人たちが暮らす「アジア団地」に行き着く。どうやら王子はここにいるらしい。ところがこの団地は日本の法律が簡単には及ばない「自治区」になっていた。そして王子を政治的に利用しようとする者たちによる争奪戦に二人は巻き込まれていく。
 前半の二人による王子の追跡行。後半の自治区(現実の先取りのようでリアル感がある)におけるアクションと、王子の希望を最優先させた二人の戦い、という具合に読みどころがたっぷりだ。大沢在昌は強い女性キャラと、男のヘタレキャラを描くのが特に上手い。まさしくこの二人はその通りなのであるから、面白くないわけがないのである。ちなみに「克郎」という名は、新宿鮫シリーズで併走した某ベテラン編集者の名に由来するのだろう、たぶん。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322305000749/

2.「新宿鮫」シリーズ(光文社)

 おいおい、このシリーズは鮫島警部の独歩行を描いているんじゃないかというご指摘はごもっとも。でもね、彼がここまで好き勝手できるのも、桃井という上司がいたからだということを忘れてはならない。上司と部下ではあるし、一緒に行動することは滅多にないが、「相棒」と呼んでも差し支えないのではないか。妻子を事故で失ってからまるでやる気を起こすことなく、署内では死体を意味する「マンジュウ」と呼ばれ、鮫島という面倒な部下を押しつけられる。だが『新宿鮫』では鮫島の命を救う大活躍を見せる。
 ところでこのシリーズは第1作『新宿鮫』から最新作で12作目の『黒石』まで、実に32年にわたって書き継がれてきた。長く続くシリーズに、新たな読者を呼び込むことは難しいという話をよく聞く。実際に大沢さん本人からも聞いたことがある。そこでこのシリーズを読んだことがなく、最初から追いかけるのが億劫な方にお勧めするのが、11作目の『暗約領域』から試してみるという方法だ。それというのも10作目『絆回廊』では第一期の終わりというべき大きな出来事があるからだ。そして『暗約領域』からは鮫島に新たな上司(しかも女性)が現れ、鮫島の専売特許であった単独行動を禁じ、相方を付けるのである。彼女との間に桃井の時のような信頼関係が構築されるのかという興味も、第二期「新宿鮫」シリーズの読みどころなのである。その上で、原点である『新宿鮫』を手に取ってみても良いのではないだろうか(本当は順番に読んでほしいのですがね)。


3.『らんぼう』(角川文庫)



 これぞ究極の相棒小説だ。身長185センチ・体重100キロの巨漢で柔道の猛者である大浦(ウラ)。身長はウラより20センチは低いが、発火点もより低い空手遣いの赤池(イケ)。二人は東京下町の所轄署の刑事だが、とにかく喧嘩っ早いことで有名で「史上最悪のコンビ」「最も凶暴なコンビ」と呼ばれているのだ。検挙率もナンバーワンだが容疑者受傷率もダントツという二人の大暴れぶりをこれでもかと描いた短編集で、テレビドラマ化もされている。
 「ちきこん」「ぴーひゃらら」をはじめ、擬音語や擬態語などで章タイトルが統一されている。とにかく二人の暴れっぷりを読むだけでストレス解消間違いなし。大沢在昌がコメディも上手いことがよくわかるだろう。角川文庫の新装版には大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆきの三人がやっていた朗読会で披露された「ぶんぶんぶん」がボーナス・トラックとして収録されている。ところで「ほろほろり」ではウラのお見合いが描かれるのだが、腹の据わったお見合い相手とはどうなったのだろう。ぜひ続編書いてくれないかな。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321606000536/

4.「狩人」シリーズ(幻冬舎)

 このシリーズに共通するキャラクターは、新宿署の佐江という中年のマル暴刑事であるが、シリーズが進むに連れて、彼の立ち位置が変わってくるのが興味深い。1作目『北の狩人』、2作目『砂の狩人』では佐江は渋い脇役に過ぎなかった。『北の狩人』ではマタギの血をひく秋田県警捜査一課のホープ、梶雪人が主人公だ。12年前に、新宿から秋田まで犯人を移送中の秋田県警の刑事二人が、行方不明となった事件があった。その後、一人遺体で発見された刑事の息子が雪人なのだ。2作目の『砂の狩人』の主人公は狂犬と呼ばれた元刑事の西野である。警察庁刑事局の女性キャリア警察官の依頼で、西野は暴力団関係者の子息ばかりを狙った殺人事件の極秘捜査に赴く。ところが極秘にされていた被害者の情報が漏れたため、新宿で暴力団と中国人グループとの間の殺し合いが頻発していく。
 このようにアウトサイダーである人物が新宿に姿を現した結果、佐江の目に留まり、彼らと奇妙な関係を築きながら、彼らの行動や存在によってカオス化する状況に立ち向かっていくという物語だった。
 つまり主人公を1作ごとに交代させることで、主人公の命を担保しない緊張感ある物語を作ろうとしたのだろう。特に『砂の狩人』の西野は、暴力団と中国人グループだけでなく、警察からも命を狙われる羽目になる。数ある大沢作品の中でも、もっとも印象深いキャラクターだ。この作品が持つ緊張感はすごいぞ。そして「新宿鮫」シリーズでは書き得ない作品でもあるのだ。
 3作目以降は脇役だった佐江が前面に出てきて、相棒小説の趣が色濃くなる。すなわち元中国のエリート軍人だったマオとコンビを組まされて、相次ぐ中国人殺人事件の捜査に携わる『黒の狩人』、警視庁捜査一課の谷神とともに裏の組織が絡んだ開発計画を探る『雨の狩人』、某県警の若手刑事と組み、姿を消していた未解決事件の重要証人への接触と保護を担う『冬の狩人』という具合に。
 とはいえ、先の読めない展開と緊張感は変わらないし、佐江と組む相手がバラエティに富んでおり、佐江の魅力もシリーズが進むに連れて増していく点にも注目したい。

5.『アルバイト・アイ 最終兵器を追え』(角川文庫)
※『帰ってきたアルバイト探偵』改題



 現行の角川文庫版では改題されているが、もともと〈アルバイト探偵〉という表記で〈アルバイト・アイ〉と読ませていた。
 都立高校に通う冴木隆(リュウ)が、〈行商人〉(内閣調査室エージェント)出身で育ての親・涼介が経営する私立探偵事務所の助手として、アルバイト探偵を務めるというシリーズである。1986年から1991年にかけて5作が発表された。父親同様、酒と女と煙草に目がないリュウを語り手に、軽ハードボイルド風にスタートした物語は、いつしか某王国の世継ぎ争いやら、ネオナチやらが絡んだ国際的規模の荒唐無稽なスパイアクション──かつて石川喬司が評した「マンガスパイ」の系譜──に変貌を遂げていった。
 またリュウの能天気で大人をなめたようなキャラクターは、バブル真っ盛りな時代を背景としたシリーズにマッチしていたものだ。だがシリーズが進むに連れ、彼も挫折を味わい、己の弱さを自覚していかざるをえなくなった。大人でも子供でもないリュウのキャラクターをどのように成長させるのか、そのさじ加減が難しかったためか、本書によって帰って来るまで13年という時を待たなければならなかったのだ。
 本書の時代や風俗は現代(初刊の刊行は2004年)だが、物語の中では高校3年生だった前作(『アルバイト・アイ 誇りをとりもどせ』)から1年しかたっていない。高校を留年したリュウは、死の商人が残した置きみやげをめぐる各組織の争いに巻き込まれ、父親と共に命を懸けた冒険をくり広げていく。
 これまでと大筋は変わらない設定なのだが、何度も何度も危機的状況に陥るリュウと、それを飄々と助ける涼介の活躍、先が読めない展開など、ボリュームたっぷりでお腹がいっぱいになる。シリーズの集大成にふさわしい大作だ。
 そういえば本書や「狩人」シリーズの中で、鮫島らしき人物への言及があるのは、作者の遊び心に違いない。凄絶なハードボイルドも、軽ハードボイルドの系譜に入るコメディ・アクションの本書も、実は同じ世界であるのだろう。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321304000065/

 シリアスなものから、コメディタッチのものまで、大沢作品に登場するお気に入りの「相棒」を見つけられただろうか。


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