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特集

パニックSF『WALL(ウォール)』を10倍楽しめる! 周木律によるパニックSF名作5選&豪華ブックガイド

『眼球堂の殺人』でデビューし、同作を含む「堂」シリーズなどで人気を博す周木律さんが挑んだのは、触れた人間の肉体を消失させる謎の壁をめぐる、パニックSFミステリ『WALL(ウォール)』! シコタン島(色丹島)で始まったこの現象は、徐々に首都圏に近づき、日本中をパニックに陥れ……。
今回は、『WALL(ウォール)』をもっと楽しむために、押さえておくべきパニックSFの不朽の名作5作に加え、「作家・周木律を作った小説10選」も豪華にご紹介。『WALL(ウォール)』と共に、次に読む本が見つかること間違いなし!



『WALL』を楽しむためのブックガイド5選

文=周木律

『首都消失』小松左京

 日本、または世界が滅ぶことをテーマとした小説は多々あります。その代表的なものは小松左京先生の『日本沈没』でしょう。本作はざっくり「日本が文字どおり沈没する」という明確な地質学的現象があり、それが滅びに繋がります。一方『首都消失』は、解明されていない謎の現象により首都東京が隔離状態となり、そのメカニズムは不明です。なぜそうなったのかがわからないのです。つまり滅びには原因、メカニズムが明確なものと、そうでないものの二つがある。現実の滅びとしてあり得るのは、おそらく後者でしょう。人類はきっとその滅びのメカニズムを知ることもできないまま滅んでいくのです。少なくとも、一庶民たる我々は……。

霊長類 南へ』筒井康隆



 上述のとおり、我々はそれがどのようにもたらされたのかさえ知らないまま滅ぶと同時に、たぶん、その滅びに清々しさが伴うこともないと考えています。なぜなら我々は潔く絶滅させてもらえるほど賢くはないからです。筒井康隆先生の本作は、人類の絶滅を描いていますが、そもそも滅びに向かう契機からしてばかばかしく、その過程も結末もただただ滑稽で、そこには人類が滅ぶべき十分な理由すらありません。ただのエンタメ的誇張表現でしょうか。いえ、我々が現実の危機にきちんと対処できているかどうかを考えれば、つまり昨今の国際情勢などを見れば、残念ながら無様な点において本作と大して変わらないように思えます。このままいけば、我々を待つのは筒井先生の描いた世界そのものです。

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田隆将



 2011年の震災がいまだ現在進行形の災害であることは言うまでもなく、ここから学ぶことはまだまだ多いはずです。しかし当事者以外であのときのことを顧みている人が今、どれだけいるでしょう。もしあのとき何かのボタンが掛け違えられていたならば、日本は壊滅的な結末を迎えていた。そしてボタンは今もなお掛け違えられ続けている。やがてくるであろう災害の前に、その事実を認識するためには、今こそ、当時何があったのかを当事者の目線で追体験する必要がありそうです。本書とともに、本書が原作となった映画のノベライズ版である拙著『小説 Fukushima 50』もどうぞ。

災厄』周木律



 これまた手前味噌で恐縮ですが、拙著『災厄』は『WALL』に繋がる一作となっていますので、ご紹介します。『災厄』はミステリで言うところのハウダニットやホワイダニットに重点を置いて書きました。「そんなことが起きたメカニズムは何か」や「なぜそんなことが起きたのか」が主眼だったのです。一方『WALL』で問うたのは、そこから一歩進んだこと。つまり「だから、あなたは何をするのか」について、です。

『ペスト』アルベール・カミュ



 小説は未来を予見するとはよく言われてきたことですが、昨今の右往左往を見るに、どれだけ科学、医学が発達したとしても感染症に対して人類が無力であることと、その本質的な理由がすでに本書に示されていたことには、心からの驚愕を覚えます。今のこの状態はアフターコロナなのでしょうか、ウィズコロナなのでしょうか、それとも新たな災厄の予兆のただ中にあるのでしょうか。来るべき災厄の中で、誰もがたったひとつだけ平等に受け取れるものがあるとすれば、それは「死」である――この真理に抗うために、マスクやワクチンひとつ取っても足並みすら揃えられなかった我々が個のレベルでできることは、一体何なのでしょう。

「周木律」を作った本10選

文=周木律

『虚航船団』筒井康隆

 もし無人島に一冊しか持っていけないなら、僕は間違いなくこの本を選びます。書き出しからしてエネルギーが異様に大きく、読み進めるごとにそれはなお膨れ上がっていきます。延々と続く尋常ではない記述に脳が鈍化し、むしろこれが平常なのだとさえ認識するようになったころ突然章が変わり、物語の雰囲気もがらりと変化、今まで読んでいたものは何だったのか、そもそもこの物語はどこに向かうのか、自問を強いられます。戸惑いつつも物語を最後まで読み切れたようであれば、あなたと筒井作品との親和性は極めて高く、ぜひいくつかの短編、例えば「陰悩録」「顔面崩壊」「関節話法」「日本以外全部沈没」辺りを読んでいただくと、とてもハートフルな気分になれるのではないかと思います。

『魍魎の匣』京極夏彦

 私的な話になりますが、デビューする数年ほど前、仕事が非常に立て込んでいた時期がありました。夜遅くまで働き、土日もないような生活を送り荒んでいたとき、ふらりと入った書店で手に取ったのが京極夏彦先生のこの本でした。今にして思えば、忙しい毎日の中でそれでも何か別の世界に逃げ込みたかったのだろう、だからあえてとにかく分厚い本を選んだのだと思います。結果的に、この作品を手にしたのは正解でした。読み物といえば新書やノンフィクションばかりの僕を小説の世界に引き戻してくれたという点でも、『メフィスト賞』というその名のとおり悪魔のような新人賞の存在を知らしめてくれたという点でも、大きな契機となった一冊です。

『すべてがFになる』森 博嗣

 “THE・メフィスト賞”といえば、第1回受賞作にして森博嗣先生のデビュー作である本作です。「メフィスト賞がどういうものか知りたい? ならとりあえずこれを読んでおけ」というやつです。したがって僕が影響を大いに受けたのは言うに及ばず、メフィスト賞でデビューした作家は多かれ少なかれ「森チルドレン」の側面があるのじゃないかと思います。森先生はよく理系ミステリの枠で括られますが、個人的には理系らしさよりも夢想家としての作家性のほうをずっと強く感じます。まさしくミステリの枠すら超えていくような想像力。必ずしも方向性を定めない本作があったからこそ、続くメフィスト賞受賞作があれほど多様化できたのではないでしょうか。

『天帝のはしたなき果実』古野まほろ

 メフィスト賞の尊敬する大先輩のデビュー作です。この本が僕を形作ったというより、古野まほろ先生の考え方にいつも後押ししてもらっていると言ったほうが正確でしょうか。例えば「柔らかいもの(作品)ばかり食べていると歯(理解力)が弱る※」という古野先生のお話を聞いたことがあるのですが、心からドキリとしました。小説家はそれなりに歯ごたえのあるものを読まなければならないし、また書かなければならない。もちろん想定する読者にもよりますが、こうした小説に対する態度は、僕の中で間違いなくひとつの指針になっています。そして本作もその言葉どおり、実に歯ごたえのある作品となっています。(※記憶によるので、間違っていたらすみません)

『十角館の殺人』綾辻行人

 説明は不要かと思います。もし僕がこの本を読んでいなければ、そもそもミステリという枠組みで物語を書こうとは思わなかったでしょう。綾辻行人先生が1987年に植えたこの偉大なる種がどれだけの花を咲かせ、豊かな実をつけたか。したがって、読んでいない方は一刻も早く読んでください、この一言に尽きます。

『空想自然科学入門』アイザック・アシモフ

 科学に関することを人に伝えようとするとき、正確に語ろうとすれば煩雑になり、逆に平易に話すと誤解が生じるという葛藤が伴います。この難しさをほぼ完全に解消しているのがこの作品に連なる科学エッセイシリーズで、エッセイとしても、また科学教養を学ぶ読み物としても素晴らしく、これこそが科学を娯楽と結びつける最適解だと考えて差し支えないでしょう。ちなみにこのシリーズは題名のとおりSF要素も大いにあり、例えばチオチモリン(Thiotimoline)という物質に関する“論文”は一読の価値があります。

『数学をつくった人びと』E・T・ベル

 僕はデビュー作である『眼球堂の殺人 The Book』以降、数学をモチーフにシリーズを書きました。数学は、大多数の人が学生時代に悩まされ、それ以降アレルギー症状に陥ってしまう代物です。僕も数学について論じられるほどの頭はありませんので、執筆には少々苦労が伴いました。しかし、そもそもなぜ人は数学を嫌いになるのか。そうなる理由の大部分が「教え方のまずさ」や「計算の煩雑さ」のせいで、本質的には必ずしもそれほど毛嫌いされるようなものではないこと、むしろとても人間臭くて面白いものなのだということを、数学者自身のことや、彼らがどうやって数学を開拓していったかを通じてこの本は教えてくれます。この本もまた、数学を娯楽と結びつける最適解です。

『リングワールド』ラリイ・ニーヴン

 ハードSFからも一冊。いわゆるスペース・オペラに属する作品ですが、リングワールドという度肝を抜くSF的巨大構造物を舞台に、実はミステリ的要素もプロットされた、素晴らしいエンタメ作品です。人間の想像力はこれほど壮大なものを作り上げられるのかと大いに感心しますし、であればこそ「想像できることは必ず実現できる」とのジュール・ヴェルヌの言葉どおり、いつかはこんな世界も生まれるのかもしれないと思うと、心からワクワクします。宇宙エレベーターが計画されるなら、リングワールドだって作られて然るべきです。この「壮大さへの指向」もまた、僕の物語作りにおいて間違いなくひとつの指針となっています。

『小説十八史略』陳 舜臣

 中国の歴史は長く、さまざまな人々により多くの戦いが繰り広げられてきました。また司馬遷をはじめとする「命に代えても文字を残す」気質ゆえか、そのほとんどが克明かつ詳細に記録されています。そこに描かれているのは単なる出来事にとどまらない人間ドラマであって、何千年も前の人々が現代人と同じように生き、考え、苦悩していたのだということを今に伝えています。この本を僕は何度も読み返し、その都度、人間が人間である以上、時代や人種にかかわらずやることなすこと大して違うがあるものではない、つまり人間の普遍的な営みに差異はなく、だからこそ面白く愛おしいものなのだと、教えてもらったような気がします。

『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス

 神とは何か。それに従順であるにせよ、懐疑的であるにせよ、誰もがその実体を知ることができる書であり、かつ、僕の人生における基本的姿勢を形作るった一冊です。それが具体的に何かはあえて書きませんが、少なくともドーキンスが槍玉に挙げた『神』が、今の日本では何に相当するのか、僕はよくそんな思考実験をしています。

周木律、渾身の書き下ろし『WALL(ウォール)』がいよいよ発売!

「熱烈応援コメントが続々届いています!」

●凄かったです。
「WALL(ウォール)」という不確かな存在により、人間のエゴが浮き彫りになって。
でも絆と助け合う力もあって。
読後に、現実なのか物語なのか。しばらく考えました。
宮脇書店 境港店 林雅子さん

●一気読みしてしまいました!
周木さんの文章が合っていたのか、テンポよくサクサク進めることができました。
発想も面白く、設定もあり得るもので、もしかしたら実際にもあるのかもしれないと怖くなりました。ゾクゾクした刺激が欲しい方にはピッタリだと思います。
オックスフォード 福江店 山本聡さん

●えっ!?まさか!の連続です。考える暇を与えずに気が付いたらこんな結末が待っていようとは!
BOOKSえみたす 大口店 近藤俊和さん

●一時的とはいえ東京が無人になるかも? という状況にものすごい恐怖を感じました……。
未来屋書店 水戸内原店 大谷さん

書籍紹介



WALL
著者 周木 律
定価: 924円 (本体840円+税)
発売日:2023年04月24日

この巨大な壁は何? 人々を消失させる恐怖のWALLから逃げられるのか?
202X年のある夏の日、シコタン島(色丹島)の墓地で祈りを捧げていた ロシア人老夫婦が、丘の上から半透明のヴェールが近づいていることに気づく。不思議に思った二人が手をつないだままその壁に触れたとき、彼らの腕は「消去」した――。触れた人間の肉体のみが消去される「ウォール」と名付けられたこの巨大な壁は、1日に20km程度という遅さながら、やがて北海道に上陸、本州も射程に、徐々に西へと、人々を飲み込んでいく。本土上陸から首都圏到達まで1か月ほどしか猶予はない。真実とデマが入り混じりながら拡散され、日本はパニックに包まれていく。「ウォール」が暗示するものは、人類をな洛に突き落とす自然災害や疫病であり、経済格差によって人々を「分断」するものであり、無慈悲な「神の制裁」であり、極めて「平等な存在」である。唐突に出現したこの得体のしれない凶器に、人間は科学と人智をもって対峙しなくてはいけない。善悪を問わず本性をむき出しにする人間たちをあざ笑うかのような「WALL」。果たして結末は――。著者渾身の書き下ろし。一気読みのパニックSFミステリー。

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