【第2山 白馬三山から槍温泉】
こんにちは。カドブン編集長(甘党美女)の隙を伺いつつ短期集中連載2回めです。
さて、この広いインターネッツの野原には角川ebookというものがございまして、
https://bookwalker.jp/label/3569/
あの話題作が、文庫化まで待てないあなたのためにお手軽な値段で! というコンセプトのもので、いわば電子の新書版。わたくしはそのレーベル編集長で、このコーナーはいちおう宣伝のためにやっておりますが、ラインナップに関してはBOOK☆WALKERはじめ各サイトの書誌情報をご覧いただくのが一番、と思い。ここでは居直って自分の好きな……いやその「電書を読む環境」としての山歩きを語ってみようかなと。真面目に情報を求めてくださる方のため、最後にちゃんと新刊のリンクも貼ります!
そもそも、何で重い荷物を背負って斜面などを歩くのか、と問われれば、きっかけは8年ほど前のいまごろ、酔った勢いでやったこともない山登りに参加したこと、なのですが、続いてしまっている理由は間違いなく、今回ご紹介する「白馬三山」にあります。
初めて行った縦走(山から山へ稜線をつないで渡り歩くこと。なぜ「たてばしり」と書くのかは謎です)がたまたまこの山域で、その時にも・の・す・ご・くいい思いをしてしまったのですね。お天気よしコンディションよし、結構な高度感ですがあまりに景色が美しくて怖さが吹き飛ぶ。左に雲海と田園風景、右に日本海、世界はわたしのもの、みたいな気持ちで3日間を歩き通し、こんなところにこんな文章を書くような人間のいっちょ上がりです。
で9月下旬。今年最後の縦走に、数年ぶりであそこに行ってみようと思ったのです。
往路夜行バスの中ではずっと『いくさの底』を読み返していました。確かに魂をゆさぶる戦争文学なのだけど、その上でめちゃくちゃに面白いミステリなんですよね。最後のぐるん! と世界が反転するあの感覚を味わって、気持ちよく気絶するように眠る。
朝7時、栂池高原スキー場からリフトを乗り継いで登山口へ。お天気は下り坂の予報だけど、この日はまだ日が差していて、始まりかけの紅葉が鮮やかです(写真1)。ね、綺麗でしょうわたしの初恋の山!
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写真1
しかし、昼近くなって夜行の疲れが出始め、白馬大池まで来て、もうここで泊まっちゃおうかしら、と思いました。とりあえずなんか食べようと山小屋の食堂に入ったら、カップラーメンと冷凍のピラフしかない……これは夕食も期待できぬ……仕方ないのであと数時間がんばることにしました。さようなら大池。きみの近くで迎える朝も悪くなかったけど、人生の8割は食い意地でできているのだ、すまない……(写真2)
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写真2
ヘトヘトになりながらいくつかの小ピークを越え、4時近くに白馬岳に登頂した頃にはすっかり雲が湧いていました。まあ、でもとにかくここまで来たことに満足して、よろよろと小屋へ向かいます。…と、なんだろう、見たようなひとがいる!
「あっ! ス◯ームト◯ーパーだ!」
「すごい! 初めて正確に呼んでもらえた! ありがとう! みんな◯ースベイダーって言うんですよ」
しかし、高度2800メートルで何故ス◯ームト◯ーパーのコスプレ?
「意外と景色に合うんですよ」とのことでした。山で基本自撮りはしないのですが、あまりのことに記念撮影。(写真3)
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写真3 ※著作権そのほかごにょごにょ、の都合により写真を加工しております。
本日の宿、白馬館は巨大で、展望レストランまでついています。とりあえず向かいの剱岳を眺めながら、ココアとケーキでカロリー補充。おいしい夕ご飯もおかわりして倒れ寝る。
翌日はもう本格的な曇り空。人間不思議なもので、陽が出ていないとそれだけで怖気づきます。出かけたくないなー、と思っていたところに、こんなものを見てしまった。(写真4)
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写真4
そう、ここの雲海はわたしが知っている限りでいちばん素晴らしいのです。晴れていようが曇っていようが、美しい。一瞬で機嫌がよくなり、もりもりと歩き出します。杓子岳、白馬鑓、曇っていてほぼ展望はないんだけど、登ることに意義があるのだ。
稜線から森林限界を抜けてまた森に入り、このコース唯一の難所、鑓温泉前の岩場で死ぬ思いをし(めっちゃ滑る上に落ちたら死ぬ角度に岩が出ている。疲労が溜まったタイミングなのでいやが上にも凶悪なスポット)、なんとか昼前に鑓温泉小屋へ到着。
この小屋は雪崩多発地帯に建っているため、シーズンオフには解体されて谷底に収納されるのです。実は、この日は今年の営業終了3日前で、所々解体作業が始まっていました。何人もの「しまっちゃうおじさん」たちがドリルやらレンチを使っています。よく見ると小屋の壁には「東の2」「玄関上3」とかマジックで印が。次の夏はこれを頼りに組み立てるらしい。1/1プラモですね。
(このへん写真でお見せできればよかったんですが、ヘロヘロで撮り忘れました…)
しまっちゃうおじさんのお一人としばらくおしゃべり。元々は他県の方で、息子さんの進学を契機に移住していらしたそう。
「しばらくコンビニとか、バスの運転とかやってたんだけど、知り合った人に、あんた元々大工さんだろ? 小屋の組み立て手伝わねえか? って」
やってみたらこれが楽しくて、以後毎年参加することに。他の山小屋からもお呼びがかかって手伝ったりしているうち、あまり興味がなかった山がどんどん好きになり、今年、山岳ガイドの資格を取ったとのこと。酔った勢いから登り始める女もいれば、山小屋組み立てからガイドにまでなってしまう方もいる、山との出会い方もさまざまであります。
夜、雲の切れ間から奇跡的に姿を現した満月を眺めつつ、谷底の露天風呂へ。疲れてぼーっとしてるしいいお湯だし月はやたらに綺麗だし、いまがいつでここがどこなのかわからなくなってきました。幸せ……。
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『ヒストリア』池上 永一
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『いくさの底』古処 誠二
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『濱地健三郎の霊なる事件簿』有栖川 有栖
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『少女は夜を綴らない』逸木 裕
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