こんにちは。どこかで聞いたようなタイトルで恐縮ですが、カドブン編集長の隙を見て短期集中連載です。
ご存じの方はご存じで、ご存じでない方はご存じないかと存じますが(←悪文の例)、角川ebookというものがございます。https://bookwalker.jp/label/3569/
あの話題作が、文庫化まで待てないあなたのためにお手軽な値段で! というコンセプトのもので、いわば電子の新書版。わたくしはそのレーベル編集長で、このコーナーは宣伝のために始めたものですが、ぶっちゃけラインナップに関しては、BOOK☆WALKERはじめ各サイトの書誌情報をご覧いただくのが一番、と思い。ここでは居直って自分の好きな話をしようと思います……いや、待って画面閉じないで!……最後に今月の新刊リンクちゃんと張りますから!
というわけで、山です。実はわたくし山歩きを趣味としておりますが、電子書籍って行き帰りの列車と、山小屋宿泊時に読むことが一番多いかもしれないですね。昔は必ず文庫3冊持って出かけていたのですが、重いし、水濡れも心配だし。それならジッ●ロックに入れた携帯で電書、のほうが気楽ではないか、と気づいた次第です。なのでここではその「電書を読む環境」としての登山を語ってみようかなと。
角川文庫に『八月の六日間』という本がありまして、雑誌掲載時に取材をお手伝いしたことがありました。そのときに行ったここいらへんの山域が忘れがたく、毎年都合がつけば出かけて行っております。「黒部源流」の黒部は、そう、あの巨大ダム――その最初の一滴が生まれるところ、と言うとなんだか、ときめきませんか。わたくしはときめくぞ。
おおざっぱに言うと、富山から上がって岐阜に下りるルートです。まずは10日始発の北陸新幹線に乗り、富山で地鉄に乗り換えて、有峰口駅で下車、そこからバスで1時間で登山口である折立に到着します。このあたりで午前11時くらい。ちょっと曇っていますが、陽射しがやわらかくて丁度いい。2時間くらいで樹林帯を出ると、あとはこんな風景のところ(写真1)をひたすら歩きます。きつい。荷物重い。しかし気分がいい。まだ陽が長いのでおやつなど食べながら休み休み登ります。こういう時に自分の好きなお菓子を持っていると福音のごとき喜びが訪れます。この日はレオニダスのオランジェットとじゃがりこチーズ味でありました。15時22分に太郎平小屋到着。ジョッキのビールで本日のがんばりに乾杯します。
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写真1
翌11日は明け方から小雨と霧の中を黒部五郎岳へ向かいます。山って雨のときどうするの、とよく聞かれますが、多少の雨なら上下きちんと雨具をつけていればわりと快適に歩けます。が、この日は風邪気味でしんどく、黒部五郎岳頂上で一瞬だけ晴れたことをご褒美として早々に小屋に入って休むことにしました。端麗なカール(氷河地形)の中を下りてゆきます。(写真2)。へろへろになって黒部五郎小屋に到着したら、本棚に『八月の六日間』単行本版を見つけて嬉しくなったり。
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写真2
12日は今回のメイン、雲の平へ。黒部源流の上にそびえ立った溶岩台地で、風景はなんというか、スケールの大きい尾瀬(夏が来れば思い出すところ)を想像していただいたら近い……かもしれませんが、とにかく素晴らしい場所です。湿原と、お花畑と空と山と静寂……こんなところに人間が来ていいのだろうか、と訪れるたびに思っています。写真では美しさを伝えきれないので、せめて咲いていた花を(写真3)。半日、ぼーっと口を開けて四方を眺めておりました。
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写真3
翌日は雨の中、北アルプスの一大交差点に立つ三俣山荘へ。山文学の名作『黒部の山賊』はここの初代ご主人が書かれたものです。日本で、伝説がまだ現実の一部だった頃の野放図なロマンが堪能できますので、ご興味を持たれた方はぜひ。
小屋では鹿肉のトマトシチューが名物(写真4)。昨今、ニホンジカは増えすぎて環境破壊レベルの問題になっていますが、どうせ駆除せねばならないのなら、せめておいしく食べてやろう、という志のこもった一皿なのでした。身体の芯からあったまったら、ホットウイスキーをすすりながら携帯に入れてきた『あとは野となれ大和撫子』を読み返します。ずっと雨だったけど、よい山であったことだなあ。明日は下山の日。
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写真4
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『猟犬の旗』芝村 裕吏
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『明治ガールズ 富岡製糸場で青春を』藤井 清美
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『僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに』二村 ヒトシ
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『黄泉坂案内人 三条目』仁木 英之
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『深海大戦 Abyssal Wars』藤崎 慎吾
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『深海大戦 Abyssal Wars 漸深層編』藤崎 慎吾
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『深海大戦 Abyssal Wars 超深海編』藤崎 慎吾
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