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特集

『青くて痛くて脆い』刊行記念! 住野よる担当編集者座談会〈後編〉「作家と編集者の幸福な関係」

デビュー作『君の膵臓をたべたい』が250万部を突破し、一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たした、住野よる。「青春の終わり」を描いた最新作にして最挑戦作『青くて痛くて脆い』の成功により、作家としてさらなる注目を集めているが、その魅力を語る言葉はまだまだ足りない。そこで、4社(双葉社、新潮社、KADOKAWA、幻冬舎)から6名の担当編集者が集まり、住野ワールドの魅力、住野よるという作家の個性をみっちり語り合った。
>>【中編】「パワーワード」を生み出す作家

◎第5作『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)
人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学1年の春、僕は秋好寿乃に出会った。空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。それから3年。あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。「僕が、秋好が残した嘘を、本当に変える」それは僕にとって、世間への叛逆を意味していた――。「青春が終わる。傷つきながら。傷つけながら」。
https://promo.kadokawa.co.jp/kutekute/

主人公のキャラクター造形は大好きor大嫌い
これまでの作品とは違う種類の涙がこぼれる

——最新長編『青くて痛くて脆い』は、これまでとは書き方が違い、物語の立ち上げ段階から、住野さんが担当編集者の意見を積極的に取り入れていったそうですね。

角川K:お声掛けした時から実際に連載を始めていただくまで、少し時間があくことは最初から分かっていました。その間、「打ち合わせ」と称した「飲み会」を折々に開催したんです。たくさん時間をご一緒させて頂くなかで、その場で出てきたアイディアも多かったです。最初に幾つかご提案したうちのひとつが、「2人きりの秘密結社」というキーワードでした。それに住野さんが反応してくださったんです。

角川F:私たちのふわっとした雑談の中から、住野さんが使える部分をピックアップして、私たちには想像もできない物語を生み出していく。すごく不思議な感覚でした。

角川K:ある時、私が大学時代に、いわゆる「意識高い系」の団体の運営をやっていた話をぽろっとしたんです。そこから「我が物顔でキャンパスを練り歩く巨大団体は迷惑」という話で盛り上がって(笑)、作中の「モアイ」というサークルのイメージができていったんです。

角川F:大学時代の思い出を話していくうちに、泣き出したりして。

角川K:異様じゃないですか。午前3時の居酒屋で号泣しながら、女子2人がおしぼりで目をゴシゴシ(笑)。

——住野さんがインタビューで、担当さんが「5年間同じ人に片想いしていた」という話を聞いて、「人ってそんなに想い続けられるものなんだ!」と、新たな価値観に気付かされたとおっしゃっていましたが……。

新潮T:そっか、『青くて痛くて脆い』って、恋愛感情ではないけど、片想いの話ですよね。

角川F:長期間ずっと誰かのことを想い続けていると、だんだん像が歪んでくる。その人の現実の姿と自分の中にあるその人の姿がだんだん乖離していく、というお話をさせて頂いた記憶があります。それを物語の一部に昇華してくださったのかもしれないです。

双葉A:楓という男の子が、今までの住野さんの作品の主人公像とまったく違うじゃないですか。「お前、なんなんだよ!」みたいな。

一同:(笑)

双葉A:普通、主人公にそんな感情を持ったら、ページが進まないし読まないじゃないですか。けれどそう思いながらページをめくっている自分がいる(笑)。これが例えば、殺人事件を描いている話だったら、謎の答えが知りたいから読む、という動機付けができると思うんですね。でも、この作品の場合は、主人公なりの目的はあるけれども、それは読者にとっては決して大きな目的ではないんです。要は、「楓って人間はどうなっていくんだ?」という一点で、読者の心を釘付けにしている。しかも最後の一文が、最強のパワーワードになっている。

新潮T:この一文のためにすべてがあったのかな、って感じですよね。

角川K:私たちも結構ドキドキだったんです。今までの素敵なキャラクターたちの中に、この楓をぶちこんでいいのか、と。楓が読者のみなさんに受け入れてもらえるのか、作品としても受け入れてもらえるか。

新潮T:自分の「正義」のためにいろいろやらかしてしまうっていう、このチャレンジングなキャラクター造形で突っ走ることは最初から決まっていたんですか?

角川K:住野さんの中で、楓のキャラクター造形は早い段階で固まっていたように思います。ただ、楓がどういうふうに社会と折り合いをつけるのかは、連載中に探り探り進めていった感じです。

角川F:終盤で、楓がある人物と激しく口論するシーンがあるじゃないですか。初期の段階から、そのシーンを最終的には描きたいっていう話はありましたね。

幻冬H:あれは最初から決まってたんですか!

新潮T:この作品の泣きどころですよね。これまでの作品とは違う種類の涙が出ます。

角川F:「辛すぎる!」みたいな。

新潮N:思い出すだけでゾワゾワします。

幻冬H:私は、楓大好き派なんです。単純に私自身、ひねくれた男の子に対しての愛着があるんだと思うんですけど、それだけじゃなくて、「この醜い部分は、自分にもあるな」とか「この言動は痛すぎるけど、分からなくもないな」と、今までの作品とはちょっと形が違う共感もあったんです。そんな話を住野さんにお伝えしたら、「担当さんの中でも楓の評価は完全に二手に分かれてます」って。楓に対しての罵詈雑言が右側から、共感が左側から、みたいな(笑)。

角川F:私は共感派ですね。人に対する執着の強さとか、褒められた奴じゃないんですけど、人間臭さが愛おしくってたまらない。

角川K:……いや、最低男でしょ。

一同:(爆笑)。

角川K:同族嫌悪もあると思うんですよ。どこかで楓のことが「分かる」という部分があるからこそ、イヤだな、と。自分とまったく関係ない人のことは、ここまで嫌いになれない気がするんです。

新潮T:私は今まで、新しい作品を読ませていただいたらすぐ、住野さんにお電話差し上げていたんです。でも、この作品だけは電話ができなくて。すっごい痛くてすぐには消化できない大きな感情を受け取ってしまったから、「これを面白い、と言っていいのか分からないです」ってメールで感想をお伝えしたら、「その感想は嬉しいです」とおっしゃって。

角川K:読者の反応も二極化していますね。楓に関しても「大嫌い」と言う人と、「俺は楓だ!」と言う人と。意外だったのが、「青春はとっくに終わりました」とおっしゃられる世代の方から、「痛かった」とか、「自分のことのように感じた」という意見が結構多いんです。青春真っ只中の人に支持される作品なのかなと思っていたので、面白いなあと思いますね。

新潮N:わかります。私もそうですが、きっぱり捨ててきたはずの、もう関係ないと思っていたものが「自分の中にまだあった……」という感じなんでしょうね。

双葉A:うん、ありました(笑)。タイトルに全てが現れていますよね。自分の中の「青くて痛くて脆い」部分を、物語を通じて鏡のように、まざまざと見せ付けられました。

角川K:この間、「モアイ」のモデルになった学生団体で読書会をしたんですよ。本を片手に、OBも含め10人以上集まったんですが……。

一同:怒られませんでしたか!?

角川K:私も恐々行ったら、みんな「久しぶりに小説を読んだ。身に覚えがありすぎて、泣いた!」って。幅広い年齢の共感を呼ぶ作品なんだなというのは、その場でも感じました。

作家と編集者の間に
健康的で幸福な関係性が築かれている理由

——『青くて痛くて脆い』の衝撃によって、住野よるという作家がこれからどんなものを書くか想像できなくなった、何をしでかすか分からないぞというワクワク感が高まったと思うんです。そんな読者がまず手に取ることになる次回作は……幻冬舎さんの「麦本三歩シリーズ」になるかと思います。大学図書館で司書として働く麦本三歩をヒロインに据えた、連作短編ですよね。おすすめポイントを教えていただけますか。

幻冬H:「とにかくひたすら三歩が可愛い!」です。三歩の可愛さに酔いしれていただきたい、という感じですね。

新潮T:連載で拝読しているんですが、読んでいるだけで嬉しくなりますよね。

幻冬H:三歩は、住野さんが初めて真正面から書く、働く女性の話なんですよ。ちょっと格好悪いところもあれば、いわゆる「天然キャラ」みたいなこととはまったく違う、真面目だけど抜けたところもある。ものすごくリアルで、ものすごく応援したくなる女性なんです。

新潮N:言葉のリズムがすごく気持ちいいですよね。

幻冬H:これだけ短期間にいろんなタイプの作品を書かれてきたから、書く力もどんどん上がっていかれたんだと思います。さっきもお話ししたように、元は住野さんが「なろう」にアップしていた小説が原型なんですが、別物と言っていいぐらいの仕上がりですね。雑誌には3篇掲載したんですが、残りを書き下ろしていただく予定です。

——ところで、本日は仲のいい雰囲気でお話ししていただきましたが、実は他社の動向が気になっていたり、ライバル心を燃やしたりはしていないんですか?

角川K:他の著者さんであれば、あるかもしれません。でも、住野さんに関しては、他社さんの本が売れることも素直に嬉しいんですよ。「住野作品が売れることが嬉しい」。なんとなくその意識で繋がっていると勝手に思っています。

新潮N:『青くて痛くて脆い』が出た時に、全社で「いっせーの」みたいな感じで、全作重版しましたよね。繋がってるなあと思いました。

角川F:新刊が出るタイミングで、これまでの本と一緒に並べてくださる書店さんが多いこともあって。仲間とか、家族みたいな感じがするんですよね。

——以前、住野さんにインタビューをさせていただいた時に印象的だった言葉があります。「担当さん達は、他社の作品の感想もずばずば言ってくれる。彼らを納得させないと面白いものを出せた気がしないので、ある意味最大の“ライバル”です」と。健康的で幸福な関係性を築かれているな、と感じたんですね。その関係性はどのように構築されたのか、みなさんにぜひお伺いしたいと思っていました。

双葉A:書きたいものを書いてもらうのが一番ではあるんですけれども、編集者って一番最初に原稿を読む人間じゃないですか。そこで言葉を濁してもしょうがないし、ちゃんと思ったことはストレートに伝えるのが、礼儀でもあり信頼関係を築くことにも繋がるのかな、と。それを受けてどうするかは、最終的には作家さんの選択ですけれども。

新潮T:『か「」く「」し「」ご「」と「』に関しても、こちらからの提案に耳を傾けてくださったうえで、ちゃんと意見の取捨選択をされて、作品をブラッシュアップしてくださるんです。

角川F:とてもフラットにいろいろなお話ができますよね。

幻冬H:フラットですよね。感情のもつれがないというか、「そんなのヤだ!」みたいなことがない。

一同:(笑)。

幻冬H:クール&ドライ。作品に必要だと思われたら、躊躇なく採用してくださいます。

新潮N:読者ファースト、というのもあると思います。受け取る側のことを常に考えてらっしゃる人だから。

角川F:そうですよね。受け取る側を見据えつつ、「作品を良くするためには?」という目線に立っていらっしゃるから、編集者とフラットに意見を交わし合えるんだと思うんです。

角川K:しかも、こちらの小さな提案だとか雑談中のふわっとしたアイデアの断片を、住野さんなりのオリジナリティで捉えて昇華してくださるじゃないですか。

双葉A:作品の中にも如実に出ていますが、住野さんという人は言葉に対してものすごく真摯なんですよね。だからこそ、自分の作品について編集者から出た言葉もひとつひとつ、真剣に吟味する。言葉というものに対する真摯さが、編集者との関係にも現れているんじゃないかなと思うんです。

6人の共同声明、発信
「住野よるは、もっとすごくなる!」

――住野ワールドの魅力、住野よるという作家の個性についてたくさん語っていただきました。語り足りないところはありませんか?

双葉A:さっき『青くて痛くて脆い』の話をしていた時に、「ポンちゃんはあざといけど可愛い」「川原さんは無愛想だけど信頼できる」って、脇のキャラクターにみなさんの話題が膨らんでいったじゃないですか。住野さんの作品ってちょっと出てきただけのキャラクターでも、「あの人めっちゃ良かったよね!」みたいな感情になることが多い。それはキャラクター造形の見事さもあるし、物語の中で意味のある出方をしているからなのかなと思うんです。極端な話をすると、たった一言のセリフでもキャラクターの存在感を出せるのが、住野さんのすごさなのかもしれないなと思います。

新潮T:編集者として一緒にお仕事をさせていただくうえで、何よりの魅力だと感じているのは、住野さんが今まさに成長過程にいらっしゃるということなんです。『膵臓』を読ませていただいた時に、「これは現時点ではベストかもしれないけれど、彼の作家人生の中で一番の作品ではないはず」と思いました。だから、一緒にお仕事したいなと思ったんです。『か「」く「」し「」ご「」と「』をいただいても、これもすごく面白いけれども、「この先もっと面白いものを書いてくださるはず」って思わせてくれる、無尽蔵な感じがすごく魅力なんですよね。

双葉A:おっしゃることはよく分かります。「まだまだ何か持ってんじゃねぇのかよ!」みたいな。

一同:(笑)。

幻冬H:私が一番の魅力だなと思うのは、引き込まれるストーリー構成もそうですけれど、作品ごとに異なる文体をお持ちじゃないですか。ストーリーも良くって文章も気持ちいいって、最強ですよ。

角川K:住野さんが一文一文、一言一言に熱量を込めてくださっている。その熱量がやっぱり、並外れていると思うんですよね。どの一文も魅力的だからこそ、人によって刺さるポイントがぜんぜん違うし、不思議と「自分だけが発見できた!」という気持ちになる。そこが、住野作品を語りたくなる、住野さんの小説を通じて誰かと繋がれるポイントになっていると思うんです。

角川F:「発見できた!」っていう話と重なるんですけれども、私たちの人生に訪れる、言語化できないもやもやっとした感情を、素直な言葉で表現してくださる方だなって思うんですよね。これから住野さん御自身も経験を積まれていく中で、新しい感情がどんどん芽生えてくる。私たちにどんどん新しい言葉を届けてくださるんだろうな、というところが担当としても期待でいっぱいですし、いち読者としても楽しみでたまらないんです。

新潮N:私は『か「」く「」し「」ご「」と「』の本を作った時に、10代20代の若い人たちが、税込だと1500円を超える本をこんなに買ってくれるってすごいことだなと思ったんです。それはきっと住野さんが、彼らにとって「自分たちの物語だ」と思わせてくれる小説を書いてくださっているからで。そう考えた時に、住野さんのすごさを改めて感じました。

双葉A:個々の作品はもちろん、住野よるという作家にファンが付いている。今のご時世、本当にすごいことだなって思います。

角川K:そして、私たちも結局、住野よるという作家のファンなんですよね(笑)。

(文:吉田大助)


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