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特集

【イベントレポート】『ののはな通信』刊行記念 三浦しをん×梯久美子 トーク&サイン会

6月9日(土)丸善・丸の内本店にて、三浦しをんさんの最新刊『ののはな通信』の刊行を記念したトーク&サイン会が開催されました。三浦さんと共に登壇したのは、約10年前に新聞の読書委員を務めた時に出会い、それ以降親交を深めてきたノンフィクション作家の梯久美子さん。『ののはな通信』の創作秘話にくわえ、梯さんの感想や、それぞれの学生時代の思い出など友人ならではの赤裸々な「ガールズトーク」を披露してくださいました。大いに盛り上がった会の模様をレポートします!

和やかなムードの中、漫才のような掛け合い

会場となった丸善・丸の内本店 日経セミナールームには、約3年ぶりとなる三浦さんの新作を心待ちにしていたたくさんのゲストが集まりました。見渡してみると女性9割、男性1割という感じ。圧倒的に女性が多いのは、『ののはな通信』が少女たちの長年の絆を描いた作品ということにも関係しているかも……などと考えていたら、おふたりが登場しました。

まずは、出会いの場である新聞の読書委員時代の話からスタート。読書委員は大学教授などお堅い職業のメンバーが多く、三浦さんと梯さんは同性の作家同士ということで、お互いの存在を心強く思っていたのだとか。また、競馬場へ出かけたり、お酒を飲みながら著書の感想を伝え合ったりと、プライベートでも親睦を深めてきたそうです。

トークは、長年インタビュアーとして芸能人や作家の取材をしてこられた梯さんがリードする形で進んでいきました。「さて、そろそろ本の話をしましょうか。すでに『ののはな通信』を読んだという方はいらっしゃいますか?」とゲストに問いかける梯さん。2割くらいの方が手を挙げました。

「やっぱりこれから読むという方がほとんどですね。ネタバレしないように気をつけなくちゃ」と梯さんが茶目っ気たっぷりに言えば、「ネタバレなんて気にしなくていいですよ。最後には、主人公が死にますからね!」とジョークを飛ばす三浦さん。漫才のような楽しい掛け合いに、会場は笑いで包まれました。

太宰治の『女生徒』にインスパイアされた長編

『ののはな通信』は、頭脳明晰でクールな「のの」こと野々原茜と、外交官の家庭に育った天真爛漫な「はな」こと牧田はなはというミッション系の高校に通う女子高生が主人公。親友から恋人へと進展したふたりは、ある出来事が原因で別れることになります。卒業後はすっかり疎遠になり、再びメールを交わすようになるのは40代になってから。長い年月を経てなお色あせない愛と絆を描いた作品です。以下、当日のおふたりのやりとりです。

梯:雑誌のインタビューで読んだのだけど、最初「三島由紀夫っぽい作品を書いてほしい」というオーダーを受けて書き始めたんですよね?

三浦:そうなんですよ。編集さんに「女の子が主人公の、三島由紀夫っぽい作品をお願いします」と言われて、「わかりました」とは言ってみたものの何もわかっていなかったという(笑)。いろいろ考えるうちに、太宰治の『女生徒』みたいな作品にすればいいかな? と勝手に解釈しまして、書簡体小説を書き始めたんです。女の子って手紙やメモをよく書くじゃないですか? だからちょうどいいなと思ったんです。私も中学高校時代、毎日会っている友だちに、授業中メモを書いて回したりしていた。なぜあんなに書くことがあったのか不思議です(笑)。

梯:わかる! 私もしょっちゅう書いてました。大学時代の親友に、「昨日買った洋服、すごく似合っていたよ」とか。一緒に買い物に行って、その時も感想を伝えているのによ? なぜあんなに手紙を書いていたんだろう?(笑)。

三浦:たぶん女って、誰かと共有した出来事をもう一回言葉にして味わいたいと思うんですよ。きっとそう!

梯:おお、なるほどね(笑)。

深く語り合った経験が一生を左右する

梯:高校時代の、ののとはなは割と難しい話をしていますよね? 「ちょっと賢すぎるんじゃない?」と最初は思ったけれど、よく考えてみると私も高校時代、友だちとかなり深い話をしていた気がする。若さの叡智というか、経験値が低くても直観的に理解していることってじつは多いのかもね。

三浦:わかります。私が通っていた高校はキリスト教系だったので宗教の授業があったんですが、そのたび「先生はああ言ったけどさ、○○って、ありえなくない?」とか、友だちとよく議論していましたから。大人になると仕事関係の人と仕事の話はするけれど、身近な人と、たとえば死刑制度などの社会問題について深く語り合う機会が減りますよね」

梯:確かに。大人になると体調とか仕事とか具体的な話ばかりしがちですよね。でも大切なのは広く抽象的な話だと思います。誰かと深く語り合ったことが蓄積されていって、やがて人生を左右するような核を作るんじゃないでしょうか。そういう意味でも私自身、女友だちから受けた影響は大きいです。恋愛関係でも影響は与え合うとは思うけど。

三浦:本当にそうですよね。私も自分の感性や思考を築いてくれたのはやっぱり女友だちだったし、そもそも恋愛の盛り上がりなんてそんなに長くは続きませんからね(笑)。

女性ならではの正義感が世界を変える物語

梯:ののとはなは、別れた後も交流が続くでしょう。男女だったらこうはいかないですよね。40代になったふたりのメールを読みながら、同志愛みたいなものを感じて胸が熱くなりました。私自身も昔の自分を知ってくれていて、今の自分の基盤を作ってくれた女友だちがこの世界に存在するということに支えられている部分がある。女性同士って、女として生きていく大変さが共有できるでしょう? それもいいですよね。私、若いころ、女に生まれてソンしたな、と思っていたんです。小6くらいのとき、世の中には性暴力ってものがあって、自分もいつそういう目にあうかわからないんだ、って気づいて、それがすごく嫌だった。この作品の中で暴力が直接的に描かれることはないけれど、そういう気持ちも思い出しましたね。女性ならではの正義感で世界に立ち向かっていく話ですから。

三浦:今の時代、♯Me Tooなど人権運動がさかんですが、それは女性だけを守ることではないと思います。恐怖から発生するすべての暴力を防いだり、権力構造の中で弱者が苦しめられないための動きとなっているはず。この作品も女の子が主人公ではあるけれど、読者の性別を意識せずに書きました。だから男の人がどう読んでくださるか気になります。先日、ある男性編集者から長文メールが届いたんです。そこには、自分も小学校の頃からの友人がいて、彼が転校してからも文通を続け……と書いてありました。交流は続いているらしく、「小学校時代の○○くんは目がぱっちりした美少年だったのに、今では落ち武者のようになっています」と(笑)。作品の感想であると同時に、「僕と○○君の半生」みたいな感じで、とても嬉しかったです。

梯:男の人も文通するんだ。微笑ましいですね。やっぱりこの作品を読むと、誰かと語り合いたくなるんですよ。私も、しをんちゃんから本を送ってもらった時、原民喜の評伝の原稿で苦しんでる最中だったんだけど、脱稿して読み始めたとたん、あっという間に自分の人生に引き戻されたもの!

三浦:わあ、ありがとうございます。この小説をきっかけに「こういうことがあったよね」と友だちと語り合う機会を持ってもらえたら嬉しいです。そして、私も原民喜さんが大好きなので梯さんの新刊を楽しみにしています!

学生時代の忘れられない素敵な思い出

終始、ガールズトークよろしく大いに盛り上がり、まるで女子会のような雰囲気でした。ゲストから、「おふたりは、ののタイプですか? はなタイプですか?」と聞かれ、「ののですね」と答えた梯さんに続いで、「私もののです! はなは天真爛漫な女の子。中高生の時の私はだらっとしていて、明るい感じは一切なかったので。はなみたいになれたらよかったのにという憧れはあります。だから、ののがはなに憧れる気持ちもよくわかるんです」と三浦さん。

また別のゲストから、「学生時代の素敵な思い出を教えてください」と質問された三浦さんは、「全然、思い浮かびません……。あ、ひとつだけありました。中学生の時、友だちが校庭の隅に咲いていたシロツメクサで花冠を編んで頭に載せてくれたんです。すごく嬉しくて、キャッとなりましたね。ああ、思い出せてよかったー!」と、照れ笑いを浮かべていました。

トーク後のサイン会では、三浦さんを前にして「3年間、待ちわびていました!」という声が多数。「お待たせしちゃって、すみません」と笑顔を浮かべつつ、三浦さんは銀のマーカーでさらさらと名前を綴っていきます。丸みのあるかわいらしい文字。「ネイルアート、かわいいですね」「私も友だちと交換ノートを回していたので懐かしかったです」「今日は僕の知らない世界を垣間見た気がしました」など、緊張しながら感想を述べるゲストたちに、フレンドリーに(そして丁寧に)応えてらっしゃる三浦さんの姿が印象的でした。

そして私はというと、高校時代に膨大な量のメモや手紙を送り合った友人たちと無性に会いたくなったのでした。

文:高倉 優子


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