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特集

ニホンザルのしっぽが短い理由とは? 動物園でいろんな動物を見たらこの図鑑を開いてみてほしい 『角川の集める図鑑GET!』小菅正夫先生インタビュー

取材・文:加治佐志津 

角川の集める図鑑GET!』は、「考える力を育む“新しい”図鑑」をコンセプトに創刊された学習図鑑シリーズです。従来の分類別ではなく生息地域別による構成や、オンライン図鑑「GET!+(プラス)」との連動など、子どもたちの好奇心を膨らませる工夫が詰まっています。シリーズ第1弾として3冊同時発売された『恐竜』『動物』『昆虫』の中から、今回は『動物』の監修を務めた小菅正夫先生にお話を伺いました。

『角川の集める図鑑GET!』小菅正夫先生インタビュー

地域と環境によって、動物たちはこうも違う


――『角川の集める図鑑GET! 動物』は、分類別ではなく生息地域別で動物を紹介しているのが大きな特徴ですが、この見せ方についてどう思われますか。



動物園の展示について考えると、もともと古い時代の動物園は、サルはサル、クマはクマだけ並べていく、分類学的な展示が中心だったのですよ。そういう動物園は今もたくさんありますが、最近は欧米を中心に、生物地理学的見地の展示が主流になりつつあるのです。たとえば南アメリカ大陸にはこんな自然の特徴があって、そこに暮らしている動物たちにはこういうのがいて……というような紹介の仕方ですね。

日本で最初にそんな展示をやったのが多摩動物公園。アジア園、アフリカ園、オーストラリア園という名前で、まさに生物地理学的展示がなされています。それを大規模に実現したのがズーラシアで、最初からそういう考えのもとに作られています。

図鑑もほとんどのものが分類別で、サルはサルの仲間だけ、ずらーっと並んで掲載されていますよね。それはそれで、「こんなにたくさん似たような動物がいる」ということを知る面ではいいのだけれど、ちょっとした違いはどこから来ているのか、なぜこの違いができるのか、ということが、分類別の図鑑ではよくわからないのです。

ところが今回のこの図鑑のように生息地域別の構成だと、じつは動物の姿かたちや特徴的な行動というのは、それぞれが暮らす地域の環境や、ともに暮らす動物たちとの関わりによって決まってくる、ということがわかるのですよ。そういう意味でこの図鑑は、個々の動物ではなく、動物の世界を知るには非常に役に立つと思いますね。


――地域ごとでそんなにも特徴が違うものですか。

たとえばニホンザルのしっぽは短い。それは、とても寒いところに棲んでいるということが関連しています。しっぽが長いとそこから熱が奪われて、凍傷になってしまうから、短くならざるをえなかったのでしょうね。

それから、オランウータンはなぜあんなにお尻が貧弱なのか。人間のお尻は立派ですよね。チンパンジーはもう少し華奢だけど、オランウータンのお尻はただの腰骨みたいな感じなのです。それはなぜかというと、彼らはジャングルで樹上生活をしているから。いつもぶらさがって暮らしていて、地面に立つ必要がないので、立派なお尻は必要なかったのです。

あと、有袋類は一般的にオーストラリアに生息するものがよく知られていますよね。でも南アメリカと北アメリカにも有袋類のオポッサムの仲間がいます。ではなぜオーストラリアの有袋類の多様性に比べて、南アメリカ、北アメリカには特異な姿をした種類が少ないのか。それは、大陸移動で南アメリカと北アメリカがつながってしまい、北から有胎盤類が入り込んできたことで、南アメリカにいた大型の有袋類は生存競争に負けてしまったからなのですね。その前に、原始的な有袋類が南アメリカ大陸とオーストラリア大陸にはいたのですが、他の大陸と繋がらなかったオーストラリアでは今も多様性のある動物相になっているわけです。

こんなふうに動物の分布には大陸の移動も関係していて、ちゃんと物語がつながっているのですよ。面白いですよね。そんな壮大な生き物の歴史やドラマが、この図鑑から読み取れるのではないかと期待しています。

動物園から帰ったら、この図鑑を開いてみて


――この図鑑には、角川まんが科学シリーズ『どっちが強い!?』のキャラクターが登場し、プロローグとエピローグにコミックが載っていたり、吹き出しで情報を補完したりしています。



あれは子どもが惹きつけられますよね。子どもはキャラクターに自分自身を投影して読むでしょうから、一緒に世界中を旅して、動物を探しに行くという疑似体験ができると思います。

各章に載っている「GET!ミッション」も面白いですね。ミッションがあることで、受動から能動へと頭が働き始めるでしょう。読んできたことがちゃんと身についているかの振り返りにもなりますしね。


――その他にこの図鑑ならではの特徴として、どんなことが挙げられますか。

動物の行動についてしっかり書いてあることですね。爪やしっぽの長さみたいなところも細かく書いてあるし、他の動物との関わりについても、わかるところはきちんと書いてあります。

写真は飼育施設で撮ったものではない、野生そのものの写真を背景込みで使っています。自然界の中でしっかりと暮らしているところを撮影したものの方が、動物の生き様がわかりますからね。

それともうひとつ、徹底した裏付けです。常識的なことでもしつこいくらいに資料を集めて、科学的根拠を確かめました。研究者の論文を読んだり、海外の文献を探したりと、裏付けにはかなりの時間を費やしたので、内容の正確さには自信があります。まあそれでも絶対と言えないのが動物の世界で、今後もまた新しい発見があるとは思いますけどね。


――小菅先生と言えば旭山動物園、円山動物園ですが、図鑑と動物園を相互に生かしながら楽しむためのコツを教えてください。

動物園は、もともとが分類学的展示からスタートしていることもあって、キリンの場所にはキリンしかいないのですね。最近ようやく混合展示、つまりキリンとシマウマとヌーなど、同じ地域に棲むいろんな動物を一つの放飼場へ入れて見せている動物園が増えてきたのですが、残念ながらまだ全部がそうなってはいません。

だから動物園でキリンを見てきたら、そこでこの図鑑の出番。キリンのところを見れば、インパラやガゼル、ジェレヌクなど、同じ環境に生息するいろいろな動物が載っています。前後して肉食動物にはどんなものがいるか、どういう関わりがあるかということも載っているので、動物園で見たことをさらに膨らませることができますよ。



動物の暮らしを知るにはとても役に立つ図鑑だと思うので、動物園でいろんな動物を見て、帰ってからこの図鑑を開いてみてください。動物園では、動物の姿かたちは見られても、チーターが疾走しているところは見られないし、キリンとライオンの関わりもわかりません。そこのところを図鑑で補完すると、動物の世界への理解がぐっと深まるはずです。

動物を知ることで、人間とは何かが見えてくる


――この図鑑のどんなところに注目してみると面白いか、アドバイスはありますか。

生物地理区を見たらわかるように、環境が変わることでそこに棲む動物もがらっと変わっていますね。人が住めないような砂漠やジャングルにだって動物は暮らしているし、そこにしか棲めない動物がいるというのがわかります。地球にはいろんな生き物が暮らしているのだな、植物も含めて、さまざまな生物が作り出した世界なのだなということを、この図鑑を読むと実感できるのではないかな。

一番不幸なのは、人間の中だけで、人間以外のことに興味がないような暮らしをしてしまうこと。自分を知るためには、いろんな人と付き合う必要があるでしょう。他者との違いを見ることによって、自分自身が見えてくるのですね。それと同じで、人間だけで暮らしていると人間とは何だろうと考えないけれど、そこに違う動物がいると、人間とは何かということが見えてくる。人間自身を考えるときにヒントになるのは動物たちで、多くの動物を見ることで、人間というものの立体像が見えてくるはずなのです。

だから子どもの頃からいろんな生き物に関心を持って、さまざまな動物の姿かたち、行動、生き様を知ることは、とても重要なことだと思います。この図鑑がその助けになってくれたらうれしいですね。


――絶滅動物についても巻末で取り上げていますが、この問題を子どもたちにはどんな風に考えてもらいたいですか。

ニホンオオカミやエゾオオカミが絶滅してから、すでに100年以上経ってしまっています。北海道に住んでいても、北海道にかつてオオカミがいたことを知らない学生がたくさんいます。まずは絶滅してしまった動物がいるということを知ることから始めてほしいなと思います。この図鑑でそのことを知ったら、なぜ絶滅してしまったのか、自分で調べてみてほしい。絶滅してしまった動物がいることがわかると、種の解説の中に「絶滅危惧種」と書いてある、そのことの重みがより実感できるはずです。


――『角川の集める図鑑GET! 動物』を通して、子どもたちにどんなことを伝えたいですか。

世の中には不思議な形をして、信じられないような生き方をする動物がたくさんいる、ということを知ってもらいたいですね。この図鑑で初めて名前を知る動物がたくさんいると思います。子どもだけでなく、大人だって知らない動物がたくさんいるはず。それを知るだけでも、この図鑑には大きな価値がありますよ。

僕はとくにこの図鑑を、子育て中のお母さんばかりでなく、お父さんに読んでもらいたいと思っています。この図鑑がテーブルに一冊あれば、それだけでいろいろな話ができる。図鑑に載っている本物の動物を見に、たまにはお父さんと子どもたちで動物園に行くのもいいですよね。親子のコミュニケーションのためのツールとして、ぜひ活用してください。

この図鑑は、動物の写真がずらーっと載っているカタログ的な図鑑ではなく、読み物としても楽しめます。この図鑑を入り口にして、どうぞ野生動物の世界、自然の世界へ。図鑑を読んだ子どもたちが、多くの魅力的な動物たちと、いつまでもこの地球で生き続けていくために、自分に何ができるかを考え、実行してくれることを期待しています。

角川の集める図鑑GET! 動物



2021年5月28日発売
定価:本体2000円+税
A4変型/256ページ
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000679/
amazonページはこちら


小菅正夫(こすげ・まさお)

1948年北海道出身。北海道大学獣医学部卒業。在学中は柔道部に所属。獣医師、札幌市環境局参与(札幌市円山動物園担当)。旭川市旭山動物園元園長、北海道大学客員教授。10年以上続けているNHKラジオセンター「子ども科学電話相談」での回答は、ライフワークのひとつとなっている。著書に『生きる意味って何だろう?』『<旭山動物園>革命』(以上、KADOKAWA)など。

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