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特集

髙橋海人主演ドラマ『95』  原作者・早見和真が語り尽くす、小説に託した思いとドラマ化の裏話

テレ東系列で放送中のドラマ『95キュウゴー』(毎週月曜日23時06分〜)は、King & Princeの髙橋海人が主演を務め、大きな話題を呼んでいる。本作は『イノセント・デイズ』や『店長がバカすぎて』『笑うマトリョーシカ』などの人気作でも知られる早見和真が、2015年に刊行した青春小説が原作だ。
いまだからこそ語ることができる執筆裏話や、原作者としてドラマに託した思いについて語っていただいた。

髙橋海人主演ドラマ『95』原作者・早見和真インタビュー


――小説『95』誕生のきっかけを教えてください

小説家になる前から、1995年という年は「自分のテーマ」という感覚がありました。
たとえば昭和天皇の崩御やベルリンの壁の崩壊などがあった89年や、東日本大震災の起きた2011年などにも「時代の揺らぎ」みたいなものは感じましたが、前者はまだ小学生で到底手に負えるものでなく、後者はすでに大人になっていて、ある種の諦めの中で向き合っていました。
時代の転換点が数ある中で、なんとなくその流れの中にいて、かつ本当に自分事として捉えられたのが95年だったという感覚です。小説家としてデビューして以来、いつか書かなくてはいけないとずっと思っていました。


ドラマ『95』撮影現場にて


――現在とは異なる、95年だからこその空気感ってありましたか?

みんなが共有する大きな物語があったことですかね。音楽でいうところの小室哲哉さんのような確たる何かが、雑誌やマンガ、街にファッション、芸能人、テレビ番組なんかにもあって、それらへのカウンター的なカルチャーも強烈に存在しました。
現代はそれぞれが好きなものをより深く、煮詰めるように追い求めていく時代です。当然どちらがいいということではないのですが、たとえば今から30年後に『25』という小説が書けるのか考えてみると、少なくとも『95』と同じノリでは難しい気がします。

単純に「あの時代は良かった」と懐古できない空気感は間違いなくありました。そのあたりはドラマのスタッフのみなさんも共有してくれています。暴力をはじめとする違法行為があちこちに蔓延っていて、みんな刹那的に浮かれながらも、なんとなくうしろめたさを持ち合わせていた。僕はそういう捉え方をしています。


――作品の舞台である渋谷にはどういう思い出がありますか?

僕は一番遊んでいた街でしたね。今でも渋谷に行くと条件反射的にワクワクするくらいです。ドラマが始まってからは「Qちゃんたちのたまり場の『メケメケ』にモデルはあるんですか?」という質問をたくさんいただくのですが、あります(笑)。今はもうないから言えるのですが、消防署のあるファイヤー通りにかつて「モボモガ」というお店があって、そこにもロフトがあったんです。行けば誰かに会えるという特別な場所でした。


――『95』執筆にあたり取材はされましたか?

いっぱいさせていただきました。二十年前に援助交際をしていた女性から、センター街でヤンチャしていた男性まで。数十人という単位でインタビューさせてもらっています。
もちろん全員が全員というわけではないのですが、「あの頃の友だちには会っていないし、これからも会おうとは思わない」とおっしゃっている方がやたら多くて。『95』に通底する「うしろめたさ」や「キレイな思い出ばかりじゃない」といったテーマは、間違いなく一連のインタビューから導かれたものでした。


――95年頃の渋谷という街は、それほど特殊な場所だったんですね

そうですね。ある人にとっては憧れだったろうし、ある人にとっては憂鬱な場所だったろうし、いずれにしても無関心ではいられない街だった気がします。それと、すごく排他的でした。「来る者拒まず」みたいな顔をしているくせに、なかなか中に立ち入らせてくれないというか。そして何より本当にこわかったです(笑)。感覚的にはいまのトー横よりずっとこわい街だった。土曜の夜のセンター街なんて絶対に近づけませんでしたから。絡まれるし、殴られるし、お金も物も巻き上げられる。あの時代から何年か経って、夜のセンター街を母娘が楽しそうに歩いているのを見たときには驚くのを通り越して感動したくらいでした。


――やはり『95』は当時の渋谷に思い入れのある読者が多いのでしょうか?

僕もそう思って書いていたのですが、蓋を開けてみたら『95』の熱烈なファンは95年前後に生まれた方が多かったんですよね。「こんなこと本当にあったんですか?」とよく尋ねられる一方で、「あの熱量に対する憧れがある」と言ってくれる方がたくさんいました。
僕自身、俯瞰してドラマを観ていて「うらやましいな」と思う場面が多々あります。仲間たちといることで、それぞれの力が増すような無敵感。それがたとえ大いなる勘違いだったとしても、その勘違いが許される年代だとも思うんです。そういう時代は間違いなくありましたし。ホモソ的と断罪することもできてしまうと思うんですが、あの輪の中にいられることが本当にうらやましい。
実際は無敵でもなんでもなく、みんなといることで逆に脆くなることもあるんですけどね。そのあたりの機微は、中川大志さんが演じてくれている翔が体現しています。


翔役の中川大志さんと


――本作の主人公「Q」は早見さんご自身が投影されていると考えて良いですか?

そんなこと言ったら髙橋さんのファンに怒られてしまいそうですけどね(笑)。実際、書いているときはそんなつもりまったくありませんでしたし。でもドラマの脚本をいただいたとき、あらためて小説を読み返してみたのですが、作品の中にあの頃の自分は間違いなくいました。描かれているQちゃんの独白、迷う気持ち、突き動かされる気持ち、その多くにあのころの自分が投影されていた。17歳という多感な時期に、時代のうねりの震源地と言っていい渋谷にいたことの意味は大きかった気がします。
文庫に掲載されている妻夫木聡さんとの対談にもあるのですが、あの時代に中学生でも大学生でもなく、高校生でいられたことも大きかった気がします。社会に半歩だけ近いという特殊な年頃でしたから。


――作品のなかで、Qは何度も「カッコいい大人になれただろうか」と振り返ります。早見さんにとって、「カッコいい大人」とは?

これはハッキリと言葉にできるのですが、言い訳しない人ですね。昔から「家族のために我慢している」とか言う人が苦手でした。かつて「俺自身が楽しく生き抜いた先には、家族の幸せも当然ある」と言い切っていた方がいて、その方は当然すべての責任を引き受けていたんですよね。土壇場で逃げない人でした。カッコ良かったです。


――ドラマ化の話を受けたときの感想を教えてください

『95』に関しては、これまでも何度か映像化の話をもらっていました。中にはいい企画もあったのですが、多くはキラキラしてばかりの青春群像劇で、僕が書きたかったあの時代特有の「エグさ」や「えげつなさ」を描こうとはしてくれていなかったんですね。僕自身は『95』をある種の社会派小説だとも思っているので。
今回のドラマ『95』は、そこから目をそらさずに映像にしてくれました。これは原作者としては本当に幸せなことですし、簡単に他に企画を預けないで良かったと心から思っています。ともすれば「あの頃は良かった」という輝かしい懐古話だけにされてしまいそうでしたから。


レオを意識したヘッドホンはオーディオテクニカ製のATH-HL7BT


――実際に撮影が始まってからは、どのような思いでドラマに向き合われたのでしょうか

このことはちょっと腰を据えて話させてもらってもいいですか?
今作のクランクインの前後に、マンガ原作のドラマを巡るあの痛ましい事件がありました。それを受け、いわゆる原作者の扱いが変わるであろうことを肌で感じました。より気を遣って扱われることになるだろうし、一方でより表層的な、ご機嫌うかがい的なやり取りが増えていくであろうことも予想しています。心を砕くわけじゃなく、ただの言質取りみたいなことが今後きっと増えていくのではないかと。問題の本質とは正反対なんですけどね。

ドラマ『95』に関しては、まずプロデューサーの倉地さんを信用することができました。本当に小説を大切に扱ってくれているのがわかって、はじめて会った日、僕が書いた作品を、まるで自分が書いたかのように嬉しそうに説明してくれたのを覚えています。
その倉地さんの気持ちにまず応えたくて、原作者が気を遣われてしまうこんな時代だからこそ、今回だけは可能な限り自分が声を上げようと決めました。本来、原作者は映像化されたものについて口を閉ざしている方が正しいのかもしれません。僕自身の美学にも反しますし、正直Xでドラマのことをつぶやくのも、このインタビューを受けるのも浮かれているみたいで本当に恥ずかしいんです。出版関係者は頼むから僕のポストを見てくれるなと(笑)。でも、今回だけは原作者という立場の人間が音頭をとることに意味はあると信じていて。
現場に見学に行かせていただいたときも、ふらっと差し入れをして、ふらっと帰るようなことは絶対にしたくありませんでした。現場に行った以上は、スタッフの一人としてその日の最後までいなきゃいけないと思った。その気持ちにはキャストやスタッフのみなさんも応じてくれたと思っています。


――主演の髙橋海人さんの印象を教えてください

僕はもともと役者としての髙橋さんが好きでした。『だが、情熱はある』や『Dr.コトー診療所』でもそうでしたが、表情や目の動きで演技できる稀有な役者さんだと思っています。
『95』では、仲間たちが全員同じクラスになったのを知ったときに、いわゆるドン引きした顔をしますよね? あの髙橋さんの表情を、僕はこれから何年も忘れない気がします。
『ストフリ』編集長の殿内さんに「星学の子?」と話しかけられるシーンも見事でした。あのとき、Qちゃんは2、3回しか殿内さんの顔を見ていないんです。テンパっている心の内が目の動きだけで表現されていて、ああ、見事だなと。この表情に、目の動きに、自分は文章で闘わなければいけないのかと思わされました。


――他のキャストのみなさんの印象は?

キャストのみなさんとは面白い思い出があります。現場にお邪魔した際、最初に挨拶に来てくれたのがマルコ役の細田佳央太さんで、次に来てくれたのが髙橋海人さんでした。場所を変えて小屋に行ったら、そこでドヨン役の関口メンディーさんが挨拶してくれて、一番深い話ができました。翔役の中川大志さんとは撮影が終わったタイミングでお話しさせてもらい、レオ役の犬飼貴丈さんとは挨拶だけでほとんど話ができませんでした。
これって、まさに星学のメンバーの立ち位置そのままだと思うんですよね。僕がお話しさせていただいたのは、マルコであり、Qちゃんであり、ドヨンであり、翔であり、レオであって、それぞれの役者さんではなかったというような。もちろん考えすぎとも思うのですが、なんか妙にしっくり来てしまうんです。

もう一つ「このドラマは面白くなる」と確信したエピソードがあって。僕が現場に入ったとき、最初は5人のうち誰ひとり現場にいなかったんです。しばらくするといっせいに戻って来て、理由を尋ねたら「みんなで中華料理屋に行ってました!」って。「何それ! めちゃくちゃ星学じゃん!」って思いましたね。あのときもうらやましいと感じました(笑)。


ドヨン役の関口メンディーさんと


――スタッフのみなさんの印象は?

城定秀夫さんはもともと好きな監督でした。『ビリーバーズ』は大傑作だと思っていますし『アルプススタンドのはしの方』も好きです。『95』を監督が撮ってくれると聞いてからは、初期のピンク映画も何本か拝見しました。
脚本の喜安浩平さんは、青春期特有の心の機微を描くのが本当に上手だと思います。たまたま主宰されている劇団の舞台を見たこともあり、言葉で闘っている人という印象がありましたし、やはり全幅の信頼を寄せることができました。
若いキャストだけでなく、スタッフのおじさんたちも当時の痛みから目をそらさず、ちゃんと闘おうとしてくれています。その意味では『95』はカッコいい大人たちに委ねることができたと思っています。


――現場の雰囲気はいかがでしたか

すごく個人的なことなんですけど、良い現場って早く帰って小説を書きたくなるんです。自分だけが仕事をしていないような焦りが生じて、とにかく不安になる(笑)。
見学の日は最後まで現場にいましたし、そのあとに編集者たちとご飯を食べて、家に着いたのが深夜1時くらいでした。で、そのまま8時くらいまで書いていました。『ぼくたちの家族』という映画の現場でも同じことが起きました。あのときは3時くらいに家に着いて、やっぱり気が昂ぶって朝まで小説を書いていました。
ちなみに強引にこじつけるつもりはないんですけど、そのときに書いていたのはおそらく『95』だったと思います。


マルコ役の細田佳央太さんと


――最後に、読者・視聴者のみなさんに一言いただけますでしょうか

今後、物語はまだまだきつい展開も待っているかもしれませんが、僕はそこから逃げまいとするキャストとスタッフのみなさんを信頼しています。必ず良いラストに誘ってくれるはずなので、視聴者のみなさんもどうかついてきて欲しいです。最後まで一緒に盛り上げてください。
そしてもしドラマが面白いと思ったら、その上でたまには小説でも読んでみようかと思っていただけたら、ぜひ『95』を読んでみてください。キャスト、スタッフのみなさんにそこだけは負けない熱を込めて書いた小説です。何とぞよろしくお願いいたします。


――長時間お付き合いくださり、ありがとうございました

作品紹介



95キュウゴー
著者:早見和真
定価:704円 (本体640円+税)
発売中

『イノセント・デイズ』の著者が描く、最強青春エンタテインメント!
1995年、渋谷。平凡な高校生だった秋久は、縁のなかった4人の同級生から突然カフェに呼ばれ、強制的にグループへ仲間入りさせられる。
他校生との対立、ミステリアスな女の子との出会い……。秋久の経験したことのない刺激的な毎日が待っていた。
だがある日、リーダー的存在だった翔が何者かに襲撃されてしまう。秋久は真犯人を捜すため立ち上がった――。
激動の時代を駆け抜けた少年たちの心の叫びがほとばしる、熱烈青春ストーリー。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000544/
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