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特集

今月のおすすめ文庫「時代小説・恋物語」 鷹井伶が語る、時代小説の魅力とは? 『わたしのお殿さま』発売記念インタビュー

毎号さまざまなテーマをもとに、おすすめの小説を紹介する「今月のおすすめ文庫」。今月は、江戸時代の恋愛模様をテーマとした「時代小説・恋物語」。
身分の差や戦など、歴史の波に揉まれながらもお互いを想い合う、心がきゅんとする作品をご紹介!
また、2023年10月24日に『わたしのお殿さま』を発売した鷹井伶さんに、最新作と時代小説の魅力についてお伺いしました。

取材・選・文:皆川ちか

今月のおすすめ時代小説・恋物語

『わたしのお殿さま』(角川文庫)鷹井伶



名刀匠である祖父を継ぐべく、男装して生きる少女・美禰。七夕祭りのさなか熊に襲われそうになったところを、伊勢に配流されてきた“殿さま”こと松平忠輝に救われる。殿さまは何者かに命を狙われているようで――!?  運命に抗う2人の物語がはじまる。

『義妹にちょっかいは無用にて』 (双葉文庫) 馳月基矢



手習い所の師匠、将太の家に美しい娘・理世が養女としてやってくる。義妹となった理世に一目惚れしてしまう将太だが、理世は嫁ぐ相手が決まっている身。しかし結婚が破談になり将太の心はいよいよ乱れる。兄妹となったのも何かの縁、よき兄たらんと努めるが――。人気シリーズ「拙者、妹がおりまして」の続編。時代小説の新旗手が描く「兄と妹」のラブコメ時代劇。

『荒城に白百合ありて』(角川文庫)須賀しのぶ



会津藩士の娘・鏡子と、薩摩藩士の俊才・伊織。安政の大地震のさなかに出会った二人は、互いの中に似通うものを感じ、惹かれあう。しかし会津と薩摩は敵同士。それぞれの道を歩むものの、徳川の世に終止符を打つ戦い、戊辰戦争で再び人生が交錯する――。幕末という「世界の終わり」を背景にした烈しくも悲痛なメロドラマ。

『蝉しぐれ』(文春文庫)藤沢周平



幼なじみのふくと淡い想いを寄せあう文四郎。父が政争の犠牲となって命を落とすも、逆境を糧に逞しく成長する。再びお家騒動に巻き込まれるが、その渦中にいるのは藩主の側室となったふくだった……。著者の代表作にして時代を超えて愛されるロングセラー。蛇に噛まれたふくの指を文四郎が吸う少年時代の一場面が印象的。

『深川恋物語』(集英社文庫)宇江佐真理



大店の娘おけいは縁談が決まるが、初恋相手の面影が心から去らない……(「下駄屋おけい」)。大工の女房お新は絵心を活かして絵師になるが、人気が上がるにつれて夫婦間がぎくしゃくする……(「さびしい水音」)。恋と愛にまつわる様々な悲喜劇が著者ならではの温かみのある筆致で展開。江戸深川を舞台にした6つの物語。

歴史的事実の隙間を自らの想像で埋めていく――
鷹井伶が時代小説の魅力と最新作『わたしのお殿さま』を語る

「鬼っ子」の異名を持つ流刑となった殿さまと、男として育てられた刀鍛冶の少女。生まれも育ちも背負うものも、何もかも異なる二人が出逢ったとき運命が動きだす――。
お江戸やすらぎ飯」シリーズをはじめ数々の時代小説を発表してきた鷹井伶さんによる新シリーズ「わたしのお殿さま」第1巻が2023年10月24日に発売された。新作の話題を中心に時代小説の魅力、歴史上の人物を描く醍醐味、“ラブストーリー”に初挑戦した心境などを伺いました。



――本作の男性主人公は、徳川二代将軍・秀忠の弟で、父の家康から「鬼っ子」と呼ばれた逸話を持つ松平忠輝です。なぜこの人物を書こうとしたのでしょうか。

鷹井:最初に担当編集者から「殿さまとの恋物語を」というオファーをいただきまして、真っ先に浮かんだのが忠輝だったんです。私のなかでの忠輝像は、敬愛する隆慶一郎先生の『捨て童子・松平忠輝』からきています。時代に収まりきらないスケールの大きな人物で、そのため「鬼っ子」呼ばわりされていたのではないか、という解釈がされていて。それが非常に魅力的で、いつか自分なりの忠輝を書いてみたいとずっと思っていました。


――史実では、忠輝は25歳で改易(領地や身分を取り上げられる刑罰)され、伊勢へ配流されています。この物語はそんな、忠輝の人生においてどん底状態から始まっています。

鷹井:『捨て童子・松平忠輝』の他にも忠輝の出てくる小説は幾つかあるのですが、それらのほとんどは改易されるまでの話で、そのあとの後半生に焦点を当てたものはなぜかないんです。忠輝は長命でしたし、流刑になってからこそ人生を深めていったのではないかなあ……と考えまして。


――「お殿さま」こと忠輝、とても魅力的ですね。飄々として大らかで情味があってクレバーで……その器の大きさゆえに将軍である兄の秀忠から恐れられた、と作中で書かれていますが、それも納得の人物像です。実在の人物を小説のキャラクターとする際、どんな点に気をつけていますか?

鷹井:家康や信長、秀吉など、歴史に残る偉人たちには、やはりすごい熱量のファンがいらっしゃいます。そのような方がたが読んで納得できるキャラクターにするようにしています。悪役や憎まれ役にあたる人物にもリスペクトを忘れずに。


――時代小説はどの人物の立場から描くかによって、善と悪がくるりと裏返ります。

鷹井:そうですね、歴史というのは勝者がつくった側面が大きいので。本作では秀忠や柳生宗矩は敵ポジションですが、柳生一族にしても作品によっては正義の味方として描かれることもあります。これからどんな風に魅力的な悪役としての柳生を描こうか、わくわくしています。


――その他、どんな点に気を配っていますか?

鷹井:私は人物設定をする際、必ず年表を作成します。この事件が起きたとき、この人はこんな行動をとっているけれど、それはどうしてだったのだろう……と年表を眺めながらひたすら想像していくと、ある時ぱちっと分かることがあるんです。ジグソーパズルのピースがはまるみたいに。歴史的事実の隙間を自らの想像で埋めていく――時代小説を書く醍醐味の一つで、その瞬間が生まれることを願いつつ、励んでいます。


――このキャラクター、掴んだ!という感じでしょうか。

鷹井:実際にその人がどういう性格だったのかは知る由もありませんが、物語のキャラクターとして立ち上がってくる感じはあります。私が時代小説を書いているのは、この瞬間の楽しさを味わいたいからなのかもしれません。


――忠輝に惹かれるヒロイン・美禰は、刀匠になるべく育てられた16歳の少女です。恋する感情はおろか、まだ女性としての自覚もないような女の子ですが。

鷹井:忠輝と対になるのは、彼とは真逆な子がいいんじゃないかと思いました。山深い里で生きてきて、刀のことしか知らない美禰。そんな娘が、忠輝みたいなスケールの大きな男と出逢ったらどうなるのか。恋を通して広い世界に飛び込んでゆく彼女を見守っていきたい気持ちです。実は今回、小説家になって初めて出逢いから恋に落ちてゆく過程を一から書いていきました。いわば“ラブストーリー”初挑戦でした。


――初めての“ラブストーリー”、いかがでしたか?

鷹井:恋の始まる瞬間って難しいですね。ただでさえ美禰はちょっと子どもっぽいところがあるので。でもだからこそ、奇をてらわず王道でいこうと肚をくくりました。まっすぐ忠輝にぶつかって、どうして自分はこの人が気になるのか、そのくせ、この人がそばにいるとつんつんしちゃうのか……。そんな初めての恋心を素直に、丹念に、新鮮な気分で書いていきました。


――今後の忠輝と美禰の関係性、柳生一族の暗躍、そして美禰の出生にまつわる謎と、続きが楽しみです。時代小説のどんな点に魅力を感じられますか?

鷹井:葛藤が作りやすいところですね。身分差や制約が現在とは比べものにならないくらい大きかったので、思いきった舞台設定にしても許される。そこは作家として非常にそそられます。それと、日本人としての在り方を深く問いかけることができること。ケレンミのある台詞が、しっくりくるのもいいですね。終盤のアクションシーンで忠輝が「抜苦与楽」という仏教用語を口にして剣をかまえるのですが、こういう演出ができるのは時代劇ならではだと思いますね。


――鷹井さんの作品は子どもから大人まで実に幅広く読まれています。様々な世代に届く時代小説を書く秘訣はなんでしょう。

鷹井:荒唐無稽になりすぎないうえで、のびのび書くようにしています。あまり時代考証的に正しいかどうかというのには拘りすぎず、だけど最低限の作法はしっかり踏まえて。
例えば、今回のヒロイン・美禰は男装していますが、実はこの設定にはヒントが。近年日本でも人気の韓国ドラマには、ヒロインが男装して男社会の中に入り、ヒーローと出会う……という設定の作品があります。日本でも非常に人気のある設定なのですが、日本の時代劇(ドラマ)や時代小説ではあまり使われていません。あっても女剣士など、その場限りで誰もがすぐにわかるものです。なので、このような物語があっても良いのではと思ったことが、今回の作品のきっかけにもなっています。
また表現の面では、背の高さを記すときは「六尺(約一八〇センチ)」というふうに、丸括弧の中に現代表記を入れることで、イメージがすぐに浮かぶような工夫をしています。


――昔の単語や用語の後ろに現代表記を入れる。それだけでぐっと読みやすくなりますね。

鷹井:時代ものを読み慣れていない方は、まずそこでつまずいちゃうんですよね。なので、できるだけ分かりやすく。専門用語も必要なところでは出すけれど、できるだけ今読んでも通じるような言葉づかいや表現を意識しています。なにしろ時代ものって読まない方は本当に読んでくれませんので(苦笑)、そういう方たちにどうアピールしていくかが、やり甲斐にもなっています。

プロフィール

鷹井伶(たかい・れい)
兵庫県出身。脚本家としてTVドラマ、舞台、ドキュメンタリー番組の構成などを経て2013年より小説家として活動を開始。主な著書に「廓同心雷平八郎」「お江戸やすらぎ飯」「家康さまの薬師」シリーズ。


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