孤島で美女たちが殴り合うバイオレンス婚活小説『婚活島戦記』で『このミステリーがすごい! 』大賞の隠し玉を受賞、衝撃的なデビューを飾った柊サナカさん。書き下ろし最新作『ひまわり公民館よろず相談所』は、一風変わった老人たちが縦横無尽に活躍する、笑って泣ける人間ドラマです。本作の魅力を徹底的に掘り下げてみました。
『ひまわり公民館よろず相談所』柊サナカ インタビュー
――『ひまわり公民館よろず相談所』の刊行おめでとうございます。
ありがとうございます。「赤ちゃん寝かしつけ屋」「ちくわとマカロニ笛の三好(二重奏)」「犬校長」「だじゃれ屋」とか「お断り太郎」などなど、いろんな珍特技をいくつも考えるのは書いていて楽しかったです。
――本作は、公民館に集まった老人たちが、小さな特技を活かして様々な町のお悩みを解決していく人間ドラマです。構想のきっかけは、どこにあったのでしょうか。
わたしは、天才的な探偵がすべての謎を華麗に解決する話も好きで、よく読みます。それと同じくらい、一つの技能や特技だけに優れた人が、集まって謎や問題を解決する話も大好きです。例えば、鶏の鳴き声だけがうまい男が、ピンチで大活躍したりする展開とか。
わたしの人生で最初に書いた小説は、残念ながら未完のまま終わってしまったのですが、ある島に閉じ込められた人たちが、奇妙な特技を組み合わせて、どうにか島から脱出する話でした。ある意味、デビュー前からずっと書きたかったテーマでもありますので、今回『ひまわり公民館よろず相談所』で書くことができて嬉しいです。
ちなみに「赤ちゃん寝かしつけ屋」は、泣き止まぬわが子を抱いて右往左往しているときに、こんな仕事の人いて欲しい……! 近所にいて欲しい……! と心から思っていたので、本の中だけでも実現できてよかったです。
――主人公の八山友里は、自分にこれといった特技がないことに悩んでいます。「小説を書くこと」はなかなかない特技だと思いますが、文章を書くことは昔からお得意だったのでしょうか。
クラスの中でもまったく目立たず、石の下の虫みたいな学生生活を送っていたところ、高校の時の担任の先生が、クラスで交換ノート(テーマはなんでもいいから、エッセイ的なものを一ページ書いて、次の人に渡す)ということをやりはじめました。わたしのような陰気なタイプは、そういった場ではがぜん張り切るものです。思い切り弾けたエッセイを書いたところ、先生を笑わせることができ「柊さんは将来文章を書く仕事をしたらいい」と褒められました。先生は何気なく言ったのかもしれませんが、その一言が(ウケた)という思い出とともにずっと心に残っていました。
世の中には面白い本が多いし、読み手として幸せだったので、自分で小説を書かなくてもいいやと長い間、満足していました。でも結婚して子が生まれ、第一子がイヤイヤ期に突入、第二子がお腹の中に。家にずっといるのに、育児に追われて好きな本も読めず、友里のように育児にいっぱいいっぱいになっているときに、ふと「本を読めないなら、自分で書こう」と思い立ったのです。
赤ちゃんの誕生前には赤ちゃんのおくるみなどを編み物する母親も多い中、わたしはせっせと女の子たちが孤島で殴り合うバイオレンス婚活小説を書き上げ、原稿送付の翌日に第二子が生まれました。その原稿でデビューしました。
――柊さんの作品の魅力は、ユニークな設定とクスッと笑える軽やかな文章にあると思っています。沢山のジャンルの作品をお書きになっていますが、ご自身では創作の軸はどういうところにあるとお考えですか。
読んだ人の心をどうにかして動かしたいな、振り回したり、揺らしたりしたい、と思いつつ書いています。しんみりとした展開も好きですが、高校の担任を笑わせた時みたいに、隙あらば笑いも挟みたいですね。
――柊さんご自身がお考えになる、本作の読みどころはどこにあるのでしょうか。
小さな特技×特技のかけ合わせで、不可能が可能になったりするのを、主人公の友里とともに楽しんでいただけたらと思います。友里は、他の人に比べて、自分はなんにもできないと思っているのですが、実はそうではないということがわかります。同じように、わたしたち一人一人の中にも、思わぬ特技が眠っているのではないかと思います。
――柊さんはお着物、カメラ、水槽など、非常に多趣味でいらっしゃるそうですが、作品づくりにはどのように影響したのでしょうか。
何かをテーマにするとそれに深くはまり込んでしまう癖があって、どうしてもやってみたくなり、今に至ります。ちなみに友里の伯父、田中五郎の謎のペットもわたしが実際に飼っていたペットですので、何事もやってみるものだな、と思っています。
――担当編集としては、珍妙な趣味に没頭して親族を困らせる主人公の伯父・田中五郎が大好きです。特にお気に入りのキャラクターなどはいますか。
本作『ひまわり公民館よろず相談所』で、わたしの書いた本は十五作目となりますが、初めてあて書き(先に実在の俳優をイメージして書くこと)をしてみました。それぞれ誰か予想してみてください。でも田中五郎は、誰しも親戚に一人はいる、困った感じの人の象徴でイメージを作りました。
作者のお気に入りは、マナー講師の舟木先生です。
――いまご興味をお持ちのことや、次回作の構想などがございましたら、教えてください。
植物は前から好きなのですが、最近サボテン系の植物の良さを再認識して、狭いですがせっせと庭の一角にドライガーデン用の土を入れ、砂漠のようにして柱サボテンを数本植えてみました。
フルクルエア・マクドガリーなる、小ネギみたいなかわいい苗も買って植えましたが、よくよく調べてみると15メートル以上の木になるとあり、今からちょっと心配しています。
次回作としては、まだまだ書きたい珍職業があるので、世に出せるよう頑張りたいですね。
――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
「子供が泣き止まない」「元気が出ない」「犬がいなくなった」そんな日常の困りごとを、変わった特技の相談員みんなで解決するエンタメにしてみました。読んで、わたしも体操してみようかな、などと、前向きな気持ちでほっこりするような内容に仕上げてみました。どうぞお楽しみください。
プロフィール
柊 サナカ(ひいらぎ・さなか)
1974年、香川県生まれ。日本語教師として7年間の海外勤務を経て、2013年「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉として『婚活島戦記』でデビュー。近著に『天国からの宅配便』、『お銀ちゃんの明治舶来たべもの帖』などがある。
書籍紹介
ひまわり公民館よろず相談所
著者 柊 サナカ
発売日:2023年08月24日
あなたのお悩み、公民館のヒーローたち(全員お年寄り)が解決します。
夫の転勤で向日葵町に引っ越してきた八山友里は、慣れない育児に四苦八苦していた。泣き止まない息子・蒼を抱いて迷い込んだ町の公民館で、凄腕の元保育士“寝かしつけのお園”と出会う。この町では、クセのある特技を持つ老人たちが集まって、よろず相談所を開いていた。サイキック後藤、犬校長の竹田、ちくわ笛の三好……?どんなに小さな特技でも、きっと誰かの役に立てる。公民館を舞台にした、癒やしとぬくもりの物語。
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