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特集

沁みだす恐怖。あなたの夏が「凉しく」なる。山岸凉子『ゆうれい談』新装版&初の電子化記念インタビュー

本当にあった怖い話をまとめた山岸凉子の『ゆうれい談』の新装版が角川ホラー文庫から刊行された。これまでに体験してきた怖い話を、あらためてたっぷりと語っていただいた。

取材・文=瀧晴巳

『ゆうれい談』山岸凉子インタビュー

 かつて山岸凉子の仕事場を訪れた者は皆、自ら体験した怖い話を持ち寄っては、夜な夜な語り明かしたという。萩尾望都、大島弓子はじめ、そうそうたる面々から聞き出した体験談をまとめたのが『ゆうれい談』である。
「漫画家というのは徹夜続きの過酷な職業ですから、ちょうど修験者の荒行のような状態になるのでしょうね。不思議な体験をする人が多かったのです」
 エッセイ漫画ならではの軽いタッチで描かれているが、細かなデティールにも実話ならではの真実味がある。そもそもこの企画をやることにしたのは「私自身が幽霊を見てしまったから」と言うのだから、それだけでもうゾクリとさせられるではないか。
「幽霊を見たのはその時が初めてでした。アシスタントさんの親戚の家に泊まっていたのですが、眠っている時にがしっと肩をつかまれたのです。見た時のあの恐怖は何と言ったらいいのか……凍りつくというのはこのことという感じで、見る前と見た後ではまったく変わってしまいました」
 どんな幽霊を見たのか。あまりにも異様なその姿はぜひ読んで、確かめてみてほしい。
あれはもう「本当に見た」としか思えない。
「私も自分で見るまではそういう話は全然信じていませんでした。というのも、うちは母親がそういう話をありえないと笑い飛ばす人だったのです。母親の父方の先祖は金沢のお寺の血筋で、檀家さんが“こういう写真が撮れました”と亡くなったおばあさんが写っている写真を持ってきたことがあったそうなんです。いわゆる心霊写真ですよね。私はびっくりして“えっ、それってどういう写真だったの?”と聞いたけれど、母親は“そう見えるだけよ”と笑って、受け流して、おしまい。写真に霊が写るというのを私はその時に初めて知ったのですが、母親の子どもの頃の話ですから、写真は残ってはいませんでした」

本当の怖さを理解できるのは、
私なのにと悔しかった。

 初めて漫画を描いたのも、中学1年生の時に「顔のない眼」というホラー映画を観たのがきっかけだった。
「荒俣宏さんに“山岸さん、あのB級映画を観たの?”と言われたのですが(苦笑)、とにかく荒俣さんぐらいしか観たことがある人に会ったことがない、とてもマイナーな作品です。事故で顔にやけどを負った娘のために、父親が美女を殺しまくっては、顔をはぐ……という、とんでもないストーリーで、ノートに鉛筆でコマ割りをして漫画にしたのを憶えています。なぜそんな作品が琴線に触れたのか。今思えば、人間の異常心理と言うものに興味があったのだと思います。とにかく興味があるものが全部それでした。子どもの頃、妹が「化け猫映画」に連れていってもらったと聞いた時も、妹に「化け猫映画」がわかるはずがない、妹より私の方が本当の怖さを理解できるのに、と悔しかったくらいです。実は兄も見える人なんですが、当時は母に言われ、“熱があったから自分は幻覚でも見たんだろう”と笑い飛ばしてきたのです。私が幽霊体験したことを話しても“お前の勘違い”と全然相手にしませんでしたから。ある時、幽霊が出るという噂のホテルに兄が泊まったと聞いて、そのことは言わずに、あとで何か変わったことがなかったか尋ねてみると“そう言えばこんなことがあった”と今更青くなって言い出すしまつ。知らないはずなのに、なぜ同じ場所で同じ怪異が起きるのか、理屈では説明がつかないですよね」

子どもの頃に体験したあれもこれも、
思えば不思議なことでした。

 信じていなかったはずが、自分が体験したことで、世界の見え方まで変わってしまう。 幽霊より怖いのは、自分の中でふいに目覚めた不穏な力の方かもしれない。
「血筋で言ったら父親の方だったんじゃないかと思っています。父の母、私の祖母が見える人で、でもその話をすると母がバカにするから、父も私たちの前でその話をすることはあまりなかったのです。そういう話をしてくれたのは母が入院して家にいなくなったあとですね。たとえば、父の妹にあたる○○叔母さんがお嫁に行ってしばらくした頃、祖母は“○○が帰ってきた!”と言って飛び起きて玄関まで行くのだけれど、誰もいない。みんなは寝ぼけたんだと言うのですが、祖母は頑として“いや、絶対に○○だった。玄関でうなだれて立っていた”と言い張るのです。そういうことが何回もあったので、父親も強烈に憶えていて、叔母が離婚して戻ってきた時に尋ねたら、当時叔母は嫁ぎ先でつらい想いをして、うちに帰りたい帰りたいと毎日夜中に布団をかぶって泣いていたことがわかったのです。そうやって魂が抜け出て来ることを<歩く>と言うんだそうです。父曰く“叔母さんは歩くんだよ。それをお母さんが受け取ったんだ”と」
 あとになって振り返ると、子どもの頃に体験したあれもこれも、思えば不思議なことだった。
「今でも憶えているのは、当時住んでいた社宅の出窓から外を見ていたら、全然知らないおじさんが通りがかりに“あんたのとこね、仏壇の置いてある場所が悪いよ。移しなさい”と言ってきたことがありました。家の中なんて見えるわけがないのに。帰ってきた父にそれを伝えました。調べてみたら確かに北東に置いてあったので、あわてて大きな仏壇を兄とふたりで運んで位置を変えました。見知らぬ人がいきなりそんなことを言うのだから、見える人には見えるのでしょうね。今でもテレビの心霊特集などを観ると実話か作り話かすぐにわかってしまうのは、子どもの頃にそういう体験をしてきたからだと思います」
 聖徳太子を異能の人として描いた『日出処の天子』のキャラクター造形の根底にも“見える人”としての実感があったことは想像に難くない。
「今はすっかりそういう経験はなくなりました。私としてはチラチラと見えた事を自分でも驚いて描いただけなのです。それを“怖い”、つまりホラーとだけ受け取られるなら、私は罪作りなことをしました。でも、その中に何かがあると、少しでも感じてもらえたなら、マンガで伝えた意義があったと思えるのですが」

作品紹介『ゆうれい談』

全部、本当にあった怖くて摩訶不思議な話。
漫画家にとって最大の敵は睡魔。山岸プロでの眠気ざましの話題は“ゆうれい談”。萩尾望都、大島弓子など著名漫画家たちの不思議体験談を始め、アシスタントさんが経験した怪異譚、著者が旅先や自宅で遭遇したほんとうにあった怖い話や魔訶不思議な話を満載。怖いけれど怪異を蒐集せずにはいられない著者のゆうれい談。表題作ほか、「読者からのゆうれい談」「蓮の糸」「ゆうれいタクシー」「タイムスリップ」の5作を収録した新装版。解説:小野不由美
※紙・電子同時発売
詳細はこちら:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302001011/
(KADOKAWAより刊行)

著者プロフィール

山岸凉子(やまぎし りょうこ)
1947年北海道生まれ。69年『りぼんコミック』5月号に掲載された「レフトアンドライト」でデビュー。71年『りぼん』10月号より連載が開始されたバレエマンガ『アラベスク』の大ヒットにより人気マンガ家となる。83年『日出処の天子』で講談社漫画賞少女部門を、2007年『テレプシコーラ/舞姫』で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。ほか『白眼子』『レベレーション(啓示)』など多数。最新刊に『艮(うしとら)』がある。


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