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特集

第10回『幽』文学賞、選考委員満場一致で大賞受賞。受賞作「やみ窓」を収録し書き下ろしを加えた『やみ窓』、ついに文庫化! 篠たまきインタビュー

2015年、第10回『幽』文学賞短篇部門で選考委員満場一致で大賞受賞作となった「やみ窓」。同作を含む連作短篇集『やみ窓』でデビューし、その後も『人喰観音』『氷室の華』『月の淀む処』など着実に新作を発表し続ける、岩井志麻子の東北版と異名を轟かせ、「中井英夫や赤江瀑、あるいは皆川博子や小川洋子といった文学的系譜に連なる逸品だろう。(東雅夫氏 本作選評より)」と評価の高い篠たまき。
窓の向こうの闇から、訪れる何者かを待つ「やみ窓」始め、生の人間の怖さにじわじわ迫る官能的背徳ホラー。文庫化にあたりお話を伺いました。

篠たまきインタビュー


――文庫化おめでとうございます。文庫化にあたり、改編のご相談をした際、最初に相談いただいたのが「やみ窓」という受賞作の改題でした。「序」にしたいということでしたが、こちらは以前からお考えだったと思いますが、どういったお考えなんでしょうか。

どうもありがとうございます。

受賞作の短編「やみ窓」は元々、長編の序章のつもりで執筆したものでした。

そのため、連作短編となった時、受賞作「やみ窓」の部分を「序」とし、全体タイトルを『やみ窓』とできればと考えたのです。

ただ、単行本上梓の時は、版元様の「受賞作のタイトルを変えるのはまずい」とのご判断により、受賞作のタイトルは変えられませんでした。
この点は理にかなったご判断だと思いますし、不満はありませんでした。

今回、受賞からすでに数年が経過しておりましたので、「受賞作のタイトル変更できますか?」と、ダメ元でお願いしてみたら受け入れていただけた、という経緯です。


――文庫版に収録となった書き下ろし「やみ花」について伺います。このお話はどこから思いつかれて書かれたのでしょうか。

「やみ花」は単行本執筆の時、ページ数の関係から執筆に至らなかった複数の短編のうちのひとつです。
数年前の発想なので、どこから思いついたか、という詳細ないきさつは失念してしまいました。すみません。

ただ「動植物の絶滅は絶え間なく起こっている」「『やみ児』の後、義母との関係に落ちをつける必要がある」といったいくつかの要素が原点だったように記憶しております。
当時(『やみ窓』単行本執筆時)、現代の人身売買、臓器売買に関する取材をしていたことも影響していたと思います。


――本作は、非常に官能的ともいえますし、内臓に関する グロテスクな描写もあります。主人公の柚子が以前よりも強くなったような、覚悟を決めたような作品になっています。作品の読みどころについて教えてください。

主人公が以前より強くなった、覚悟を決めた、と感じられるのは、「環境への適応」を外から見るとそのように捉えられるからではないかな、と考えています。

異様な環境下に置かれると、多くの人は戸惑い、慌てふためいても、それなりに受け入れ、適応するしかありません。
それが第三者からは「強くなった」「覚悟を決めた」と見えることもあるのではないかと思います。

例えば4~5年前に自分が「じきに疫病が蔓延して数百万人が死亡し、ロシアが戦争を始めて核兵器使用が懸念され、安倍晋三氏が暗殺される」と言われたらパニックになったと思います。けれども実際に起こってみると、それなりに適応して生活しています。
自分では特に強くなった気はしませんが、数年前の自分が見たら「強いなあ」「覚悟を決めてるなあ」と思ったかも知れません。

『やみ窓』の主人公にしても同様だと思います。
異常な状況に人が適応し、自らを変えてゆくパターンのひとつとして読んでいただければと思っております。

主人公が環境に適応する様子や義母との関係への決着の付け方が読みどころかも、と思います。


――書き下ろしの「やみ花」ですが、花という字が、章タイトルに入ることによって、今までと違う、植物の毒性というか、色彩が増したように思いました。このモチーフを思いつかれた背景にはどんな狙いがありましたでしょうか。

「供えられた植物」のモチーフは数年前に決定していた内容ですが、「花」としたのは文庫化のオファーをいただいた後です。
共通するタイトルの「やみ」の下につけた時にしっくりする、植物にまつわる単語の中から選びました。
「供えられた植物」が主軸になるので、「やみ葉」「やみ藁」「やみ果」「やみ蕾」などの候補の中で「やみ花」が一番、無理がなく、艶っぽいしきれいっぽいから、という割と単純な理由です。


――作品掲載の順番についてはどのようにお考えだったのでしょうか。

「序」は全体の状況を示すものとして冒頭に置きました。
「やみ織」~「やみ花」は時系列に沿って並べたものです。
「祠の灯り」は窓の向こう側から見た世界を入れる必要性を感じ、5番目に配置しました。

「祠の灯り」はふたつほど準備した「窓の向こう側」から見た話のひとつです。

元々、「窓のこちら側」から見た話だけでは一元的で薄いと感じていたので、「窓の向こう側」の視点は必要不可欠と考えていました。
ただ、視点キャラを頻繁に入れ替えるのは読みづらく、煩雑になるリスクがありました。そのため「窓の向こう側」から見た話はまとめて、一人だけにスポットを置く方がわかりやすいし印象的と判断し、この順番にしました。


――この作品を通して、どのキャラクターに一番愛着がありますか? その理由もお聞かせください。

すみません。選べないです。全員に愛着があります。

執筆の時はざっくりした流れのようなものを作り、次に主要キャラのビジュアルモデルというかイメージモデルをさがし、そこから話を動かします。必要があれば(というか私自身の好みで)モブのモデルも設定します。
ビジュアルモデルは自分の好きな作品から出て来ますので、どのキャラクターに愛着があるかは選べないのです。

例えば「祠の灯り」の沼の主のビジュアルモデルはクラーナハの「正義の寓意(ユスティティア)」ですし、義母のビジュアルモデルはあるお寺の鬼子母神の絵です。
別作品になりますが『人喰観音』のスイは鏑木清方の「妖魚」です。

主人公の柚子だけは特にビジュアルモデルはなく、私の周囲にいる比較的一般的な女性をイメージしているため、別の意味で愛着を感じています。


――本作で読者に一番伝えたかったことは何でしょうか。読者に向けてメッセージをお願いします。

『やみ窓』を読まれる読者様の多くは、窓のこちら側、つまり主人公に感情移入されるかと思います。
もしかしたら自分は窓の向こう側の人間になるかも知れない、という感覚も味わっていただければと思います。

ほんの70数年前日本人は戦時下で死と隣り合わせの生活を送っていましたし、90年ほど前の昭和東北大凶作の時は農村の人々が普通に餓死していました。
現代もまだ「窓の向こう側」に近い地獄を経験した人々が存命中ということです。

窓の向こうの出来事は史実や事件を参考にしたものが多いのですが、自分がそこに生まれていたら生きるために環境に適応し、受け入れていた可能性が高いと思います。

同じ人間が見方によって女神にも山姥にもなるように、自分自身も取り巻く環境によって「窓のこちら側」にもなりうるし、「窓の向こう側」にもなりうるという不気味さを感じてもらえたら嬉しいです。


――最後に篠さんのオススメのホラー本を5冊、教えていただけますでしょうか。

簡単に好きなポイントもご紹介いただけましたら幸いです。

『闇に蠢く』(江戸川乱歩)
女体のなまめかしさ、ふくよかさの表現が美しくもいやらしく、それを愛で、味わう者達がむしろ崇高に感じられます。
残酷さと色っぽさが何の違和感もなく一体化する陶酔に誘ってくれる作品です。

人間腸詰』(夢野久作)
エログロナンセンスの結晶のような作品と思っています。
ひらがな表記の英語が呪文にしか見えない、という文字並びの妖しいビジュアルも気に入っています。
高橋葉介さんの『腸詰工場の少女』と併せて読むのが好きです。

『殺人勤務医』(大石 圭)
次々と行われていく行為の残忍さ、濃厚さが味わいどころだと思います。
猟奇的な主人公がどこか哀しげで、自分の価値観への諦念を漂わせる哀愁にも惹かれます。
動物を大切にする、という要素もあるので安心して読めます。

クリムゾンの迷宮』(貴志 祐介)
状況設定も怖いのですが、食べ物によって変わってゆく人間の描写が恐ろしく、人々の性格の些細な醜さが拡大され、徐々にグロテスクになっていく様子もおぞましいです。
主人公と共にいた女性が今後、辿るであろう運命を想像すると身の毛がよだちます。

タラニス 死の神の湿った森』(内藤了)
藤堂比奈子シリーズの中で、恐ろしいほど印象的だった「彼」の来歴の幻想性、むごたらしさに魅了されます。
霧が立ち込めるウェールズの風景や風俗を描く文章も耽美的です。
大好きな『暗い森の少女』(ジョン・ソール)を思わせる重たさ、陰鬱さがたまりません。

単行本時の推薦文

自分も誰かにとっては祀られる神になり、
誰かにとっては汚らわしい物の怪となる。
そして自分の正体は……この本の中に書かれている。
(岩井志麻子氏選評より)

カバー装画:塩野ひとみさん
HP https://www.shiosio.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/shiono_hitomi/

受賞時インタビュー ダ・ヴィンチWeb
https://ddnavi.com/news/354234/a/

作品紹介



やみ窓
著者 篠 たまき
定価: 814円(本体740円+税)
発売日:2022年10月24日

第10回 幽文学賞短篇部門 大賞受賞作品に書き下ろしを加えた連作短篇集
2年前に結婚し、夫と死別した柚子は昼間はコールセンターのシフト制で働くフリーターだ。義理の母は柚子に息子を殺されたと罵倒する。柚子が味わった地獄は、別の形となって続いていた。それは何の前触れもなく突然やってくる異界のものたちとの闇の取引だ。いつ蹂躙されるともしれない危険と隣り合わせだが、窓の外の哀れな貧しい物の怪たちの来訪を待ちわびる柚子なのであった……。(「やみ窓」)

 ほか、亡き夫の死因が徐々に明らかにされ、夢と現の境界があいまいになっていく眩暈を描いた「やみ児」、そして連作中、唯一異界の者の視点で描いた「祠の灯り」でついに物語は大団円に。色気と湿気のある筆致で細部まで幻想と現実のあわいを描き、地獄という恐怖と快楽に迫った傑作。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000281/
amazonページはこちら


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