インタビュー 「野性時代」2018年1月号より
深刻な事件を解明したのは、小学生の“ゲーム”?Kindle発の著者、待望の二作目!『滑らかな虹』
取材・文:小説 野性時代編集部
傑作青春ミステリ『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』で鮮烈なデビューを飾った著者の、待望の第二作が登場。小学生たちの〝ゲーム〟が深刻な事件の真相解明へとつながる、渾身の大作に込めた思いをうかがいました。
── : デビュー作は、まずKindle Direct Publishing(KDP)という電子書籍の自主出版の形で発売されました。どういった経緯だったのでしょうか。
十市: ちょうどKDPのサービスが始まった頃、応募していた新人賞にひっかからなかった原稿なんです。選考で一人か二人にしか読まれず眠らせるよりは、読者の反応を直接見たくて公開しました。そしてそれを読んだ出版社の方に声をかけていただいたんです。
── : 二作目となる本作は、小学校のクラス内であるゲームをすることが物語の軸となります。執筆にあたり、まずどんなものを目指していましたか。
十市: 自作が重い話になりがちだと自覚していたので、当初はもっと明るい物語を書こうと思っていました。能力バトルのようなものをまず考えて、現実ではありえないからごっこあそびにしよう、この題材なら比較的軽めで楽しい物語になるかも、と思っていました。
── : 子供たちがそれぞれ自分で考えた能力を「認定」し、誰かが能力を発動したらみんなが従う。ゲームを終わらせる方法は、先生が任命した「エンド」が誰かを指摘することだけ。ニンテイゲームの設定の面白さはもちろん、ゲームに対する子供たちの感情の動きの描き方にも引き込まれました。
十市: 能力の設定は、触ったものを凍らせる能力とか、小学生が考えそうなものをいくつも書き出し、使えそうなものに絞っていきました。子供の描き方は、自分の小さい頃の経験や、街で子供を見かけたときに、「この子はなんでこういう行動をしているんだろう」と観察してきた蓄積が活きたのかもしれません。
── : 主人公の百音が小さなきっかけで香住と仲良くなり、「二人」でいることを大事にし合う、女の子同士特有の関係性が瑞々しく描かれています。
十市: 普段から、女性が描いた漫画や小説が持つある種の鋭さ、物事の見方や切り取り方を吸収できないかなと思っていて、今回はそこを目指した部分があったと思います。
── : ゲームを続けるうちに、クラスでは一人を標的としてからかう、不穏な空気が漂い始めます。ささいな理由でいじめが始まり、関係性が変化していく様がとてもリアルでした。
十市: いじめ自体は特別に書きたいという意識で入れたわけではなく、学校内のできごととして自然な流れで入ってきたものです。ただ、いじめられっ子だからいじめられ続けるというよりは、その時その時、何かのきっかけで変わっていくものだと思っているので、そうした流動的な関係性の変化は描きたかったところではあります。
── : 後半、百音たちはゲームがきっかけとなって別の事件に関わっていきます。犯人を追い詰める子供の純粋さと残酷さが熱狂の中で描かれ、正義と悪、と単純には分けられず、どう転がるかわからない構図が見事でした。
十市: 物語だからこう展開したほうが気持ちいい、というだけにはしたくありませんでした。最初の頃から、子供たちが一旦盛り上がり、そこからもうひと展開するという構想はありましたが、「小学生が悪者をやっつける」ということ自体非現実的になりかねないので、細かな展開は決めきらず、登場人物を慎重に観察して書き進めました。
── : 終盤には、ある登場人物の受けた心の傷に焦点が当たります。
十市: その傷をただ物語の材料として消費してはいけないと思って、資料も読み込みつつ、とにかく丁寧に考えようと心がけました。最終的には、その子がどのくらい立ち直っているのか本当のところはわからないけれど、今はこういう姿で立っていますよ、という見え方を意識しています。物語上は完全に立ち直った姿が見られたほうがスッキリするかもしれないですが、そこで嘘っぽい安心を入れるのは不誠実というか、実際に似た経験をした子と同じ思いを持っていてほしかったので。
── : これまでの読書歴は?
十市: 推理小説好きの親の本を理解はしないまでも一緒に読んでいたので、刷り込まれている部分があるかもしれません。成人してからは、トマス・H・クック、ロバート・ゴダードなど、海外の決まった作家の作品がほとんどです。読者としてはひ弱で読了に至らないことも多いのですが、かといってなんでも読めるようになると、いつかそうした読者を切り捨てる側になっていそうで、それは少し怖いと思っています。
── : 今後の意気込みを教えて下さい。
十市: ミステリに限らず、脳を鷲掴みされて読んでいることを忘れるような読み物を目指しています。なので、普段本を読まない人にも楽しんでもらえると嬉しいですね。