本格ミステリを対象とした公募長編新人賞として歴史を刻んできた鮎川哲也賞。近年、話題作が続く同賞ですが、今年の第30回は、選考委員絶賛、満場一致の受賞作が誕生しました。本作が初めて完成させた小説だったという著者の千田理緒さんに、今の思いと今後についてお話を伺いました。
――この度は鮎川哲也賞ご受賞、おめでとうございます! まずは率直な感想をお聞かせください。
千田:本が出た今もいまいち信じ切れていないところがあります。長い夢を見ているような気分ですが、嬉しいのは凄く嬉しいです。
――魅力的な「五色」の謎や凶器消失など本格ミステリとしての面白さと、介護施設を舞台にしたお仕事小説の要素、そしてユーモアに満ちた温かい筆致が同居しているところが新鮮でした。
千田:ミステリを書きたいとずっと思っていたのですが、トリックが思い浮かばずにいました。それが、実家に帰った時の祖母の偶然の一言からアイデアが出てきたんです。また、実際に介護の現場で働く中で思いついたものもあります。利用者の方々の会話や行動が、大きなヒントになりました。
――介護の現場の描写も非常にリアルに感じられました。こちらはご自身の経験が反映されているのでしょうか?
千田:介護の世界は世間ではキツイもの、という印象があると思いますが、面白い面もあるんです。作中にも書きましたが、日々、謎解き的な要素があります。なんでこの人は今日に限ってこういうことをしたんだろう、といったことを考えたり。それは凄く楽しい側面でもあります。
ただ、元気な人でも突然亡くなるということがあるので、それが仲良くなった人だったりすると、やはり寂しい気持ちになります。
――最後の場面はどうなるのだろうとハラハラしていたのですが、サブトリックは完全に盲点でした。
千田:「五色の謎」だけでは弱いかなと思っていて、他に何かできないかと考えていました。
――謎の解決とともに登場人物たちの関係性が変わるという展開も、印象的です。
千田:推理するだけの話ではなく、他の要素も入れたいと思っていました。介護施設の仕事のことを入れたのもそのためです。推理小説に恋愛要素はいらないかとも考えたのですが、それが必要な形でプロットに絡めていければいいのかな、と。
――小説を書くようになったのはいつからですか?
千田:遊びで、という意味では子供の頃から書いていました。狐が好きだったので、狐が冒険したり、戦ったりという内容です。子供の頃や学生時代は完結する話が書けず、風呂敷を広げてそのまま、という感じでした。ちゃんと小説を書こうとして、最後まで書いたのは今作が初めてでした。
――応募時も受賞時も「本格ミステリとは」と検索したそうですが、鮎川賞に応募しようと思われたのはなぜだったのでしょうか?
千田:作品が書きあがったタイミングで、ちょうど応募の締め切りが来ていたんです。ただ、規定を見て「本格ミステリとは」と思い、これは本格ミステリなのだろうか、と悩みながら応募させていただきました。
――読書歴を教えてください。
千田:子供の頃は児童書を読んでいましたが、気に入った本を何度も繰り返し読んでいました。あと家にディック・フランシスの本が2冊あって、これも繰り返し読みました。『大穴』と『興奮』です。この人の他の作品も読みたいと思い、集めだして、かなり読み込みました。
他のミステリ作品を読むようになったのは実は最近のことなんです。家の近くに図書館があることに気付きまして、じゃあ行ってみようかな、と。
鮎川賞の選考委員の先生方の本や受賞作も読みましたが、どれも面白くて……。
千田:それでは最後に、目標とする作家さんや、今後のご執筆の予定をお聞かせください。
千田:すべての作家さんが目標ですが、西澤保彦先生が特に好きですね。変わった設定の出てくる作品も、いずれ書ければと思っています。次作は「動物」にまつわるミステリを予定しています。