ヒット作を生み出し続ける『このミステリーがすごい!』大賞で、
優秀賞のひとりに輝いた三好昌子さん。
受賞作は、二十五年の執筆活動の末に辿りついた、人の縁を巡る伝奇小説でした。
インタビュアー: 『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞のご受賞、おめでとうございます。選評や解説では、時代小説としては申し分ないが、ミステリーと言えるのかと検討もされていますが、なぜこの賞に応募されたのですか。
三好: まず、ミステリーの賞に普通のミステリーを送っても、競争相手が多すぎて目立たないと思ったのがひとつ。 そもそも、どこまでがミステリーなんやろって思うんですよ。たとえば今日の取材も、私を知りたくていらっしゃったのですから、私自身が謎だということでしょ。人に出会うことや、新しいことを始めるのも謎です。
インタビュアー: それで伝奇小説で応募されたのですね。受賞作『縁見屋の娘』の主人公である口入屋の娘・お輪は、代々「男児を産まず二十六歳で死ぬ」という祟りを背負っています。謎の修行者・帰燕と共に、悪縁を払う術を探す途中で、天狗や生霊が出てきます。
三好: もともとSFが好きで、中でも、半村良さんのような時代SFをここ十年ほど投稿していました。普通の時代ものを書かれている方は大勢いらっしゃるから、私は私にしかできないものを書きたいと思ったんです。
インタビュアー: 今回の作品を書かれるにあたり、テーマは決めていたのでしょうか。
三好: この作品は、お輪の立場から見れば恋愛ものとして読めますが、親と子の物語でもあるんですね。自分の子供が小さかった頃、子供を失う夢をよく見たんです。川のそばで子供の名前を呼びながらぼろぼろに泣いて目が覚めて、隣の子供の寝息を聞いて、ほっとしてまた泣いて。書いているときは無意識なのですが、読み返してみると、一番弱い存在である子供たちを守れるような社会にしてもらいたい、という想いがありましたね。
インタビュアー: そういったメッセージが押しつけがましくない形で伝わりました。
三好: 基本的にはエンターテインメントにしたいんです。昔、仕事と育児の両立がうまくいかなくて落ち込んでいたときに、田中芳樹さんの『創竜伝』を読んで気分が楽になって。エンターテインメントは人を救えると感じたので、そこにはこだわりたいです。まず楽しんでもらってから、感じてもらいたい。文章も大切にしています。
インタビュアー: 執筆歴は二十五年とのことですが。
三好: 最初に小説を書きたいと思ったのは小学生の頃だったんですけれども、何を書いたらいいのかがまずわからない。そのときの、自分は空っぽだという感覚がずっと残っていて、若いときは挑戦できませんでした。三十代半ばぐらいになって結婚と出産を経てから書き始めて、今はその延長ですね。
インタビュアー: 書き続けるための秘訣はあるのでしょうか。
三好: もう生活の一部ですね。デビューまでの期限を決めたり無理なら筆を折ったりという話も聞きますけれども、受賞しようがしまいが書き続けようと思っていました。三回目に松本清張賞の最終候補に残って落ちたときは、五十歳を過ぎていたこともあり、さすがにこたえました。でも、おかげでちょっとは強くなったと思います。この先何があっても、書いているか、書くための材料を探しているかですね。
インタビュアー: 材料探しはどのようなことをされているのですか。
三好: 好奇心が旺盛なもので、いろいろと習い事をやってきました。少林寺拳法と居合道は、将来アクションを書くときに役に立つと思います。今やっているのは太極拳と着付け、水墨画。杖術もやってみたいですね。小説を書くということに関しては、これまでやってきたことが全部役に立っているので、今でないとだめだったんだなって思います。これからも常に新しいことを取り入れていきたいです。
インタビュアー: 今後のご予定は。
三好: 考えているところですが、次作も伝奇ものですね。二回目の清張賞の最終に残ったときから、アイデアが湧くとまず主人の意見を聞くようになりました。長篇は荒海にひとりで船で乗り出すようなものなので、どこに行っちゃうかわからないんですよ。そういうとき羅針盤みたいに、そのテーマなら登場人物がこういう行動をしたらおかしいだろう、ってアドバイスしてくれたおかげで、今回の作品も書き上げられました。本にする過程で多くの人が関わってくださったのは、嬉しかったですね。応募段階ではひとりなので、「孤独なルームランナー」と言っていました(笑)。趣旨に即して意見をいただけるのはありがたいです。