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特集

コロナ禍の今、自分に正直に生きること  『「違うこと」をしないこと』文庫化記念 吉本ばななさんインタビュー

取材・質問文=瀧晴巳
お答え=吉本ばなな
写真=Fumiya Sawa

“自分を生きること”が難しい今。吉本ばななさんが教えてくれる人生の道しるべ。お守りのような本。

コロナ禍の今、自分に正直に生きることの具体的な方法を教えてくれる。
「違うこと」をしないこと』文庫化記念。吉本ばななさんメールインタビュー。


「違うこと」をしないこと角川文庫表紙画像

「違うこと」をしないこと
著者 吉本 ばなな
定価: 682円(本体620円+税)
発売日:2021年11月20日


――『「違うこと」をしないこと』には、ひとりひとりの人が、自分に正直に生きるための具体的な方法が書かれています。ひとことでズバリと的を射た、とてもいいタイトルだと思うのですが、ばななさんが「そうか、結局大切なのは「違うこと」をしないことなんだ」と気づいた、きっかけのような出来事があったら、教えてください。

吉本:『バガボンド』というまんがや、甲野善紀先生がよくおっしゃっている、「運命は完璧に決まっているが、同時に完璧に自由」という言葉について考えていて、これまでの人生や薬物(違法ではない)の影響下で自分が感じたことを考察してみて、つまり、人生が、宇宙がその人にその瞬間に要求している調和ある行動や言動って一種類しかないってことだな、と思い当たりました。
その一瞬の積み重ねが人生なんだな、と思います。
「違うこと」をしても別に死んだり(あるかもしれないけれど)するわけではなく、ただ人生がブレたり不鮮明になったりするだけです。そうしたら、プリミさんのおっしゃるように、設定を上書きすればいいだけです。


――今の時代は、みんなが少しずつ、本来の自分とは違うことをして、どんどんズレてしまい、そのせいで生きづらくなっている気がします。人が「違うこと」をしてしまうのは、どのような原因があると思いますか。

吉本:環境や他者からの影響を、シャットアウトするわけでもなく、受け入れるでもない中庸さが大切なのだと思いますが、身体性が低いほど、それができなくなるように思います。
身体の声をよく聞くことが第一歩かもしれないと思います。


――「違うこと」をしないようにしようと思っても、環境や人間関係をいきなり変えることは難しく思えます。何から手をつけたらいいのか、わからなくても、本来の自分に戻るために、まず、できることって何でしょう。

吉本:前の質問の答えとかぶってしまいますが、やはり身体の反応をよく見ることだと思います。頭は楽しいけれど、身体は苦痛を訴えているな、とか、この人といると喉が渇くな、とか。


――家族や恋人に「愛されたい」と思うことも、「違うこと」をしてしまう原因になりがちです。人が期待する自分になろうとしてしまう罠から抜け出すには、どうしたらいいと思いますか。

吉本:期待する自分になれたら、なにができるようになるのかを考えてみるといいと思います。ますます不自由になるだけで、場も調和しなくなります。
調和というのは、個々が個々の役割を果たしてこそ生まれるものです。そして調和とはみんながにこにこしていることではなく、宇宙のハーモニーみたいな意味です。
それよりは自分らしく生きて、家族や恋人の新しい扉を開けてあげる方がいいのではないでしょうか。


――ヤングケアラーの人など、自分がしたくなくても、それをせざるをえない人たちが、本来の自分を取り戻すために、できることって何でしょう。「違うこと」とわかりつつも、それを受け入れざるをえない人たちが、少しでも自分を取り戻すために軌道修正するやりかたはあるのでしょうか。

吉本:ほんとうにたとえばヤングケアラーが全員、間違っているのかどうか、わからないと思うんです。
虐待に近い状態であれば、大人は手をさしのべるべきだし、心からしたくてしている人だったら、ある程度続けた方がいいかもしれない。そしてその時期地獄だと思っても、その経験が後にものすごく生きるかもしれない。
全ては個別に対応するべきことで、名前をつけてひとつにしてしまうと本質は見えなくなると思います。


――学校や会社、あるいは結婚生活など、今いる場所がつらいと感じた時、そこを立ち去って、次に移っていいものかどうか、タイミングを見極めるのって難しい。これは自分にとって「違うこと」だという潮時みたいなものを、ばななさんなら、どうやって判断しますか。

吉本:私は身体に聞いてみます。もうその場所にいられないかどうか。実は別に原因があるのかもしれないので、それを探ってみたり。
単に疲れがたまっているのか、根本的にその場所にいることが自分の心身に害をなしているのか。したいことのためにがまんできるのか、そんなことどうでもいいと思えるのか。
少し冷静になるためにその場を離れて、心の声を聞いてみます。相手のあることなら、相手と交渉したり、自分のあり方を変えて実験したりします。衝動的には動かないことが多いように思います。衝動的に動くと、また同じテーマがやってくる確率が高くなるような気がします。
タイミングを逃したら、また次を待てばいいので、とにかく自分と環境をよく観察します。


――この本の中でもおっしゃっている「自分というものの初期設定を変えると、人生が変わる」というのは、目からウロコの視点でした。そもそも初期設定が間違っているから、「違うこと」ばかり引き寄せてしまう。しがらみを断ち切り、本来の自分に戻るためにとても有効な方法だと思うのですが、初期設定を変えるにあたって、気をつけるべきことは何だと思いますか。

吉本:赤ん坊の時から環境がズレている可能性だってあるので、どこから初期設定がズレたのか、じっくりと振り返ってみることだと思います。そして意に沿わないことがあれば、どこをどう変えたら人生が変わるのかを見つけることです。
「違うこと」というのは引き寄せたりするような、外部にあるものではないと思います。あくまで自分の行動にまつわるもので、内側から出てくるもの、というふうに捉えています。


――「違うこと」が続く時って、身体の感覚も鈍っている感じがします。身体からのサインを見逃さないために、ばななさんが心掛けたり、目安にしていることはありますか。また、不調な時のメンテナンスの仕方があれば、教えてください。

吉本:身体に問題があれば、身体をメンテナンスすることによって、その部分はクリアできるわけですから、マッサージ、整体、ロルフィング、CS60などなど、いろいろな施術の中で自分に合うもの、合う先生を選んで受けるといいと思います。
体力があれば、海に入るのもいいし、山に登る、土いじりをするなどもいいと思います。それから瞑想など、心を休めることも、身体の好調に結びつくと思います。


――この本では、スピリチュアルなことが、ばななさんにとって幼少期から、ごく自然に身近に感じられるものであったことが、具体的な体験を通して語られています。これまで小説の中で表現してきたことを、ひとつの方法論として、話してみようと思われたのは、既存の常識や価値観だけでは立ち行かなくなった時代の変化もあるような気がするのですが、ばななさんは、時代の変化について、どんなふうに捉えていますか。

吉本:オファーがあってしたお仕事ですので、自分からさあ語ろう! と思ったわけではないです(笑)!
今の子どもたちって、お金にもこだわらないし、上下関係や礼儀にもこだわらないし、性別も気にしないし、いろいろ問題はあれど、いいなと思います。
その人たちが社会を作るようになった頃には、やはりいろいろ問題はありそうですが、多くのことが平和になるといいな、と感じます。
あとは政治や社会の問題、長く続く不況の問題、そういうことが大きな原因なので、そういうことがひとつひとつ解決されていくと生きやすい人が増えると思います。


――世の中には、さまざまなスピリチュアルなメソッドが溢れていますが、本物と偽物をどうやって見分けたらいいでしょう。不安になると必要以上に頼ってしまいそうで、スピリチュアルなものとの適切なつきあいかたのコツみたいなものが知りたいです。

吉本:その人に心から合っていれば、なんでもいいのではないでしょうか?
ただし、他の人を決して勧誘しないでほしいです。自分がいいと思っても。それにつきます。


――ばななさんが繰り返し名前を挙げる、カスタネダは、ヤキ・インディアンの呪術師と出会い、現代文明とは別次元のものの見方を学んだと言われます。ばななさんにも、実在するスピリチュアルな人たちとの出会いによって、これまでご自身が考えてきたことが確信に変わるようなことがあったのではないかと思うのですが、具体的にひとつ、挙げることができれば、教えてください。

吉本:ホドロフスキー監督に直接お会いしたのは、大きな経験でした。
ご高齢なのに、思想が不安でブレていないのもすばらしかったです。お金という大問題をアートによって全く気にならないところまでクリアしていて、感動しました。
これ以上取材が続いたらぶっ倒れるぞ、とちゃんと人間臭く文句を言っているところもすてきでした。自伝に出てくるむちゃくちゃな人たちとのむちゃくちゃな人生はほんとうだったんだな、と思いました。また、今の若い奥さまがむちゃくちゃすてきな人で、彼の人生の凄みを感じました。私もこうして生きていこうと思いました。


――これだけさまざまな分野が行き詰まり、変化が求められている時代になるとスピリチュアルなものには、これまでの常識に縛られない新しい知見があるのではないかと、つい期待してしまいます。ダライ・ラマ氏をはじめ、これまでばななさんが会ってきた、この世界を俯瞰したまなざしで見つめることができる人たちに共通していることはありますか。また、心にとめている言葉、新しい気づきを与えてくれる言葉があったら、教えてください。

吉本:尊敬できる全ての人たちに共通していたのは、文句をいう前に自分を変えろ、という思想です。自分の内面が徹底的に平和であれば、どんなことも問題にはならない、ということです。そこで必要なエネルギーが「愛」と呼ばれるもので、到達が不可能でも、そこ(内面の平和)に向かっていくんだという姿勢が人生なんだと思います。


――気の滅入るニュースが溢れている昨今ですが、ちまたに溢れている情報やネットニュース、SNSなどとどんな距離感でつきあっていますか。過剰に悲観的にならないために、心掛けていることはありますか。

吉本:普通に暮らすことです。掃除して、食事して、家族や友だちに会い、嫌な人には会わない、嫌な場所には行かない。


――町や施設が老朽化によって変わることはしょうがないと思いつつ、 画一的な駅前の様子や、使い勝手の悪い図書館など利益優先で本来の姿を失ってしまうことが増えている気がします。「違うこと」をしていることの大規模バージョンという感じがして、そういう中で、ひとりひとりができることって、何でしょう。

吉本:不景気、不況が大きな原因だと思います。自分にとって何が敵なのかを自分なりに見つめることや、自分なりの快適さをお金をかけずに作ることはできると思います。


――ばななさんの小説は、翻訳され、さまざまな国の読者に読まれてきました。日本と海外、違いを実感されるのは、どんなところですか。日本が「違うこと」をしてるんじゃないかという気さえして、一体、何を見失っているんだろうと。

吉本:日本は今やいろいろな意味で貧困な国になってしましました。TVを観ていると思想面でも貧困な人が多くてびっくりします。
でも、そうでない人もたくさんいます。黙っているだけで。そこに希望を感じています。
海外の人は、自己紹介をちゃんとできるのがいちばん大きな違いだな、と思います。学歴や職歴を言うだけじゃなくて、売り込みでもなく、ひとりの人間として意見を持っているという印象があります。


――文庫化にあたり、大人はもちろんですが、生きづらさを感じている若い人に、この本がもっと届くといいなと思っています。ばななさんにも、息子さんがいますが、今の若い世代に感じること、希望の持ち方について、ひとこといただけたらと思います。

吉本:若い世代は、現実の体験が足りないから足場が弱い感じはしますが、変えていこうという意志が少しずつ出てきているように思います。それから差別についても、環境破壊についても、学ぶ姿勢のある人が多いです。
小さい希望ですが、希望があると思います。


――ありがとうございました。

ホドロフスキー監督(※アレハンドロ・ホドロフスキー。1929年生まれ。チリ出身の映画監督、演出家、詩人、俳優、作家。『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』『サンタ・サングレ/聖なる血』『DUNE』など。)

作品紹介



「違うこと」をしないこと
著者 吉本 ばなな
定価: 682円(本体620円+税)
発売日:2021年11月20日

かけがえのないあなたの人生を生きるための、 吉本ばななさんからの贈り物
「違うこと」とは、
“その人の生き方の中で、今ここでするべきではない”こと。
→→「なんか違う。」その直感がそう教えても、義理とかしがらみ、習慣に縛られて、我慢したり、そんな風に思う自分を責めたりしていませんか。自分を生きるって、むずかしいこと。これをすれば幸せになれるとか、これをやめないと不幸になるとかではありません。自分を生きるためには、まずは自分に正直であること。本来の自分を生きるには違うことをしないことが大切なのです。
その生き方のヒントがこの本にはあります。文庫化にあたり、書下ろしも充実。新たに25問、読者からの質問にばななさんが答えます。文庫版おわりにも書下ろし収録。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000156/
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