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特集

男子の生態を知る指南書としても【はらだみずき『高校サッカーボーイズU-18』インタビュー】

撮影:ホンゴ ユウジ 取材・文:高倉 優子

小学生の武井遼介が、サッカーを通して成長していく姿を描いた「サッカーボーイズ」シリーズ。高校生編の完結となる最新刊はらだ みずき『高校サッカーボーイズ U-18』が発売されました。
著者のはらだみずきさんに、シリーズものを書く楽しさや苦労をはじめ、作家人生における本作の位置づけなどについてお聞きしました。

〝草小説家〟からの転機

── : 小学生編からスタートした「サッカーボーイズ」シリーズも、本作『高校サッカーボーイズU‐18』で主人公の遼介が高校三年生となり、高校生編もついに完結を迎えました。デビュー作『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』を上梓されたのが二〇〇六年ですから、約十二年にわたり、今シリーズを書き続けてこられたことになります。その間、はらださんご自身の環境も大きく変わられたそうですね。

はらだ: はい。書き始めた頃はまだ会社員で、ただ小説を書くのが好きな「草小説家」でしたから(笑)。創作することがとにかく楽しくて、「遼介が高校生になるくらいまで書けたらいいな……」などと漠然と考えてはいましたが、まさかこんなに長いシリーズになるとは思ってもいませんでした。

── : これほど長く続いたサッカー小説は他にないと思うのですが、書くことになったそもそものきっかけを教えてください。

はらだ: 長男が所属していた小学生のサッカークラブのコーチになったことですね。僕自身、高校までサッカーをやっていましたが、いざコーチになってみるとわからないことだらけ……。指導書や関連書籍を読み漁って猛勉強しました。そのときの経験をはじめ、審判や選手の保護者、サポーターといった様々な立場に立ってみたことでサッカーがより客観的に見られるようになりました。また自分が実際に体験したことを生かせば物語にできるかもしれないと思って書き始めたんです。

── : 「草小説家」から一転、プロの小説家になられた際、周囲の反応はいかがでしたか?

はらだ: もともと小説家になりたいと公言していたわけでも、投稿していたわけでもなく、こっそり習作していただけなので、みんな驚いたと思います。仕事を辞めて専業作家になると告げたとき、親からは「狂ったのか?」と言われました。家族もいるし、会社では責任のある職に就いていましたからね。僕自身もそこに留まるべきかチャレンジすべきか迷いましたが、思い切って夢への道を歩み出すことに決めたんです。

男子の生態を知る指南書としても

── : 小学・中学生編は、デビュー作から『サッカーボーイズ卒業 ラストゲーム』までの五作です。この世代の物語を描くご苦労はありましたか?

はらだ: 書けなくて辛いとか、困るといったことは一度もなかったですね。自分の書いた文章を読みながら感極まってしまうことはありましたけど(笑)。ジュニアサッカーの魅力や少年たちの置かれた環境について書きたいという気持ちが強かったです。

── : 意外な反響もあったそうですね。

はらだ: 嬉しかったのはサッカー少年のお母さんたちが読んでくれたこと。女性はサッカーのことや、もっと言うと男の子のことをあまり知らないわけですよ。このシリーズを読んで、男子の生態や息子の気持ちがよくわかりました、と。

── : 高校生編は完結編となる本作と、『高校サッカーボーイズU-16』『風の声が聞こえるか サッカーボーイズU-17』『高校サッカーボーイズU-17』と改題して六月に角川文庫より刊行予定)の三作です。書く上で、何か意識されたことはありますか?

はらだ: シリーズとしては一度完結してますので、別の小説のつもりで書き始めました。心がけたのは、サッカー小説ではあるけれど、競技を通じて見えてくる夢や人生といったテーマについても描きたいな、と。

── : 高校生になってからの遼介は、なかなか努力が報われず、苦しい日々が続きますね。

はらだ: 編集者に「なぜ、はらださんの小説はこんなに切ないんですか?」と言われることや、読者の「もっと遼介を活躍させてあげてほしい」という声を聞くこともあります。でも僕自身や二人の息子のサッカー人生を振り返ってみると、切ない経験のほうが圧倒的に多いんです。たとえば長男は高校最後の公式戦で、ピッチの外に水を置く係でしたから。やっぱり僕はキャラクターに自分や息子たちを投影して書いているのだと思います。

── : 個人的には、遼介の恋愛のエピソードももう少し読みたかったですが……。彼は最後まで硬派でしたね。

はらだ: じつは僕も高校時代、サッカー部を引退するまでは女性とは付き合わないと決めて貫いたんです。息子たちも僕の影響を受けたのか、同じようにサッカーに集中していました。期待に添えなくてすみません(笑)。

リアリティを持って書くこと

── : ピッチの中の息遣いや流れる汗といったプレー中の描写はもちろん、フォーメーション表が掲載されていたりと、実際にサッカーの試合を観戦しているような臨場感が味わえるのもこのシリーズの魅力ですよね。

はらだ: ありがとうございます。本気でサッカーをやっている子たちが読んで、ゲームの運び方やフォーメーションについて「こういう考え方もあるのか」といった気づきになれば嬉しいなと思いながら書いているんです。やっぱりリアリティが大切。じつは次男が高校生になるときに、ちょうど高校生編を書き始めたんです。だから彼の試合を見ていて参考にさせてもらったシーンがたくさんあります。逆に試合を見ないとこの作品は書けなかったのかもしれません。

── : なかでも思い入れのあるシーンはありますか?

はらだ: 『風の声が聞こえるか サッカーボーイズU-17』の中に、スパイクが壊れた遼介が応援席へ向かうシーンがあるんですが、あれは僕が観戦した高校生の試合で似たような場面に偶然遭遇したんですね。それをヒントに描くことができました。すごく印象的だったので。

 また遼介が内側側副靭帯損傷のケガを負うシーンがあるんですが、僕自身がケガしたときに書いたものです。あちこちケガしましたが膝まで痛めてしまって……。あれはきつかった。ただし、医者の言葉を細かくメモしておいたこともあり、その点でもリアルな描写ができたのはよかったと思います。まるで小説に書くためにケガしたようですよね(笑)。

楽しむことがスポーツの本質

── : 完結編は希望が感じられる心地よい読後感でした。どのように着地するかはけっこう悩みどころだったのではないでしょうか。

はらだ: そうですね。ただ最後は希望を持たせつつ読者の想像に委ねたかったんです。どんなに高い壁が迫っていても、サッカーを楽しむことができれば幸せだろうし、楽しむことがスポーツの本質だと僕は思うんです。

 スポーツに携わっていても、そのことに気づいていない人がいるように思えます。「スポーツってなんだろう?」という問いに、正面から向き合うべきではないでしょうか。

── : 近年、スポーツ界のパワハラ問題なども取り沙汰されていますよね。

はらだ: ジュニアサッカーでもそうですが、勝ったチームのコーチが怒鳴っているのを見て、そういう指導法がいいのだと旧体質を支持する人もいる。小説を通して少しでもスポーツに対する理解を深めていけたらとも思っているんです。

── : ちなみに、シリーズ続編を書きたいというお気持ちはありますか?

はらだ: 彼らを書き続けたい、という気持ちは強くありますが、さてどうでしょう。サッカーの小説はこれからも書き続けるつもりです。

── : それでは最後になりますが、「サッカーボーイズ」シリーズは、はらださんにとってはどのような存在ですか?

はらだ: 僕の夢を叶えてくれた作品です。大好きなサッカーがテーマだったからこそ書き続けてこられたと思います。作品の中でも書きましたが、好きなものには情熱をかけられる気がします。夢を持つことの尊さにも触れているので、サッカーやスポーツに興味がない女性にもぜひ読んでいただきたいですね。

ご購入&試し読みはこちら▷▶はらだ みずき『高校サッカーボーイズ U-18』
・シリーズ第1巻→『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』

>>特設サイト


はらだ みずき

1964年千葉県生まれ。2006年『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』でデビュー。シリーズ化され、最新刊の『高校サッカーボーイズU-18』まで合計8作がある。

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