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特集

ラストの衝撃は自分でもひどい! と思いました――小説現代長編新人賞受賞作『スイート・マイホーム』

取材・文:編集部

小説現代長編新人賞で選考委員を「ここまでやるか」と戦慄させた受賞作『スイート・マイホーム』で鮮烈なデビューを飾った神津凛子さん。
期待の新人にお話をうかがいました。

── : 初めて小説を書かれたのはいつ頃でしょうか?

神津: 中学生の頃に書いていたのを別にすれば、四年前に書き始めました。書き上げたのは受賞作で三作目です。

── : 四年前、何があったのでしょう?

神津: 三人目の子どもが生まれて、子育てで家にいる時間が長くなりました。そのとき、世に長く〝残る〟仕事がしたい、子どもに誇れる何かを残したいと思いました。やり残したことは何かと考えて、小説に行き着きました。

── : 本作では、理想の家を買ったはずの家族が、不可解な現象に巻き込まれます。発想のきっかけは?

神津: 自分が住宅を購入したことがきっかけになったと思います。家の中の見えない場所に何かが潜んでいたら怖いなと思って書き始めました。一年ぐらいかけて執筆したのですが、書いている間は、登場人物の物語が常に頭のどこかにありました。彼らがピンチのときは「早く何とかしなきゃ」と苦しみながら書いていました。

── : 受賞作とデビュー前の作品とで、書き方に違いはありますか?

神津: 初めて登場人物に感情移入しないで書いた、という点が違います。それが受賞につながったのかもしれません。

── : 執筆開始時から、ストーリーの詳細は決まっていたのでしょうか?

神津: 実はプロットを全く立てずに書きます。書きながら物語が見えてくるというか。最初はぼんやり舞台と登場人物が浮かんでいて、それを基に書き進めると、徐々に登場人物の背景や本心、ストーリーが見えてきます。初めから登場人物たちが生きている世界が成立していて、作者である私はそこを覗きに行って言葉にしている感覚です。

── : 登場人物たちがそれぞれ〝秘密〟を抱えていて、ミステリーとしても楽しめる作品です。トリックやどんでん返し的な要素は、書きながら調整していったのでしょうか?

神津: プロットを立てないと言いましたが、本当は、頭の中では最初から物語が全部できていたのかもしれません。ただ、その物語を、映像を見るように登場人物たちと一緒に認識しながら、文章に書き起こしていくんです。書いていると段々「こういうことだったんだ」と見えてきます。物語の最初の読者が自分という感覚です。書き終わった後、遡って修正をしたり辻褄を合わせたりといったことは、ほぼしていません。

── : 本作をそのような執筆方法で書かれたとは驚きです。それにしてもラストシーンは衝撃的でした。

神津: 登場人物が、あのラストまで勝手に行き着いていました。登場人物の誰かに感情移入していたら、あのラストは出てこなかったかもしれません。書き終わってから読み返して、自分でもひどい! と思いました。

── : メインの視点人物が男性なのは何か狙いがありますか?

神津: 意識したわけではなく、書き進める際に見えていた映像が男性視点だったせいか、自然とそうなりました。

── : 本作の一番の読みどころは?

神津: 真実が見えていたのは登場人物の中でただ一人という点です。その人物が、書いているときと、読み返してみての印象が違うのに、自分でもびっくりしました。

── : 長野が舞台の小説です。

神津: 生まれも育ちも長野なので、長野での暮らしの実感や体感がにじみ出ているかなとは思います。長野を描いていきたいという思いはどこかにあります。

── : これまで読んできた作家・作品を教えてください。

神津: スティーヴン・キングが好きで、影響も受けていると思います。日本では、宮部みゆきさんや京極夏彦さんの作品が好きです。キングの作品では『クージョ』が一番印象に残っています。スーパーナチュラルな要素は入っていない作品ですが、理不尽な感じや、ただ怖いだけではなく泣ける部分にも惹かれました。

── : 受賞の連絡を受けたときの感想は?

神津: 応募したこと自体を忘れていて、電話を受けたときは新手の特殊詐欺かと思いました(笑)。

── : 今後のご予定は?

神津: 次の作品を執筆中です。今年中に出せればと思っています。シングルマザーが主人公の、おそらく本作同様に息苦しい話です。それ以降も、大好きなスティーヴン・キングの作品のように、怖いだけじゃなくずっと心に居座り続ける作品を、ジャンルにこだわらずに書いていきたいです。


神津 凛子

1979年長野県生まれ。歯科衛生専門学校卒業。歯科衛生士。2018年、『スイート・マイホーム』で第13回小説現代長編新人賞を受賞。翌19年、同作にて作家デビュー。

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