くすっと笑えてエッチなパロディーの名手として有名な田中圭一さんが、自身のうつ経験を下敷きに、うつ病からの脱出に成功した人たちをレポートしたマンガ『うつヌケ』。周囲とはなかなか話し合えない「うつのリアル」が描かれた内容が好評を博し、ベストセラーになっています。
そのベストセラー化を記念し、インタビュー集『サブカル・スーパースター鬱伝』の著者であり、プロインタビュアーの吉田豪さんとの対談イベントが開催されました(実施日・2017年2月22日)。その内容を再構成し、三回にわたってお届けします。多くの職業の人にインタビューしてきた吉田さんが考える「病みやすい」職業とは?
田中 圭一                        吉田 豪

田中 圭一                 吉田 豪

『サブカル・スーパースター鬱伝』をマンガでやりたかった

吉田:『うつヌケ』、売れてますよね。

田中:おかげさまで発売2ヶ月の時点で12万部を超えました。ぼく、吉田さんの『サブカル・スーパースター鬱伝』が大好きで、実はあれをマンガでやりたいなと思ったのが執筆のきっかけなんです。それで今回のイベントでもお話しできたらなと。

吉田:ありがとうございます。

田中:ちょうど自分がうつから抜けられるかどうかという時期に、いろいろな本を読みました。そのなかで、『サブカル・スーパースター鬱伝』は名だたるスターたちがカミングアウトしているだけでなく、「もう大丈夫です!」という話よりも「どう付き合っていくか」が語られているので、ものすごく気が楽になって。

吉田:そんなに実用的な本じゃないですけど(笑)。

田中:たとえば杉作J太郎さんの場合、気持ちが落ちるとアイドルやアニメにハマって脱出する、なんて話はためになりましたよ。

吉田:あの人、毎回やばくなるとアイドルとかアニメにハマって抜けるんですよね。無意識に正解を出すんですよ。家で大声出しながらアニメのモノマネして、そのうち大声出しながら外を歩き始めて……というふうに。

田中:大声出したり、運動で汗を流したりするのは健康にいいはずですよね。危ない人に見えるかもしれないけど(笑)、脳を活性化させるから。でも、好きなことに熱中するのが必ずしもうつにいいわけではない。『うつヌケ』の取材で大槻ケンヂさんにインタビューしたときに、「心療内科の先生からオカルト禁止令を出された」という話がありました。

吉田:大槻さんはオカルト大好きですもんね。

田中:幽霊とかUFOとかUMAとかって答えが出ないから悩みが深くなりすぎちゃうんですよね。だから、考えすぎちゃうからやめろと。

心が弱ってるとオカルトにハマりやすい?

吉田:あの手のものは、そもそも、ビジネスでやってる以外の人はガチで病んでることが多いですよね。

田中:ハマりやすい人が病みやすいというのもあるのかな? 言われてみたら、ぼくも昔からオカルト大好きでした。小学校3年のときに「現代の怪奇」という特番をやっていたんだけど、毎回本当に怖かった。一番怖かったのが、ソ連で一軒家を借りた女の人が毎晩悪夢に悩まされている話。 

吉田:どういう話ですか?

田中:窓から気味の悪い女の人がずっとのぞいていて、彼女は起きるたびにその絵を描くんだけど、絵に描かれた顔が日に日に変わっていく。それで取材班が1分に1枚シャッターが落ちる方法で撮影したらフィルムにうつった顔がにゅーーーんって不気味に崩れていく……という。怖すぎてしばらく寝られなかったんだけど、あとで周りに聞いても誰もそのエピソードが放送されたのを覚えてなくて二重に怖かったなあ……。って、このままだと、うつじゃなくてオカルトの話になっちゃう(笑)。

吉田:田中さんはUFOとか見たことあります?

田中:ないですね。でも、ぼくUFOやUMAはいてもおかしくないと思うんですよね。たんに見たことがないだけで。ただ、幽霊だけは「脳のバグ」と言われることもあるし、いないのかなあと思ったりして。
吉田さんは幽霊って信じます?

吉田:ぼくは霊感全然ないんですけど、それでもたまに場所によっては、「ここはなんかすごくイヤな気がするな」と思うことありますね。

田中:あーー、あるある。

吉田:掟ポルシェという男は非常に霊感が強くて、一緒にイベントで地方に行ってホテルに泊まるときとかも「豪ちゃん、部屋替わって」なんて言ってくる。彼が、たまには夫婦旅行でもと思ってお金ないのに奥さんと温泉街に行ったらそこがものすごい霊のメッカで、二人とも寝ながら金縛りにあったことがあるそうです。嫁から「せっかく金払ってこんな目にあうなんて」とさんざん怒られて、そのうえ家に帰ったら電気がとまっていて、さらに怒られたとか。

田中:後半は霊の怖さじゃない(笑)。

吉田:そういう霊感の強い人はいるみたいですけど、まあオカルトにハマってる人はだいたい心が弱ってますね。ぼくはUFOを見た経験を語る人は、ドラッグのせいなんじゃと思ってますけど。●●●●さんとか××××さんとか。

田中:なるほど(笑)。たしかに、心が健康なときは「オカルト怖い」って思っても、それをえんえん考えたりはしないですしね。その瞬間はとらわれても、次の日には違うことを考えてる。

日本全体が弱っているから、アイドルブームが起きた

吉田:これ、アイドルにも言えると思ってて。

田中:心が弱ってるとアイドルにハマりやすいと?

吉田:そうそう。ここ最近のアイドルの盛り上がりについて総括を頼まれたときに、よく言ってます。AKBに端を発するアイドルブームって2010年までも盛り上がってきていましたけど、ピークに達したのは2011年以降なんですよ。

田中:ああ。東日本大震災ですね。

吉田:つまり日本全体が弱っていたことで、それまでアイドルオタじゃなかった人の心にもすっぽりアイドルというものが入ったんですよね。モーニング娘。が出てきて流行ったときもバブルが弾けて不況になってからだから。バブルのときはセクシーアイドルみたいなのしか流行らないし、国民的な存在にはならなかった。

田中:アイドルが人気のときは国がやばいのか……。それでいうと、戦争でやばいときにアイドルが歌を歌って世界を救うという「超時空要塞マクロス」は理にかなったアニメだったんだな(笑)。

吉田:とくにわかりやすいのが「ももいろクローバーZ」で。とある知り合いの編集者は「吉田さん、ももクロとかいうアイドルにハマってるらしいですね」とものすごくバカにしてるふうだったのに、簡単に説明して別れたら、その後「吉田さん、すみませんでした。……涙が止まりませんでした!」って謝ってきて。

田中:急だな!

吉田:それで、ももクロにハマっちゃって、さらに地下アイドルにもハマっちゃって、完全にアイドルオタクになりましたね。後からよくよく話を聞いたら、彼、離婚危機だったんですよ。

田中:あ〜〜。

吉田:完全に離婚することになって、しかもうつにもなって。でも、アイドルの現場でヲタ芸を打つと、うつにいいらしい。運動にもなるし、大声も出すし、何よりも「役に立ってる」と感じられるみたいですね。「俺がいないとこの子は死んでしまう」と思うと生きていられる。

田中:なるほど?

吉田:ただ、アイドルがスキャンダルを起こすとさらにダメージを受けちゃうんだけど。

田中:はは(笑)。

人気商売がゆえの苦悩

田中:アイドルという職業も大変ですよね。ちょっと恋愛するだけでも制約がある。

吉田:うん。アイドルがまた病みやすい職業ですからね。

田中:ぼくらだって、ちょっと炎上すると世界からフルボッコにされた気分になるじゃないですか。アイドルでスキャンダル発覚したら生きた心地しないですよね。

吉田:本名で活動してるのに、未成年喫煙を事務所が発表して解雇し、学校からも退学処分を受けて親からも怒られて、18歳から風俗をはじめて、いまはAV女優……なんて子すらいますね。

田中:うわー、それはひどい。

吉田:浮き沈みが多いし、基本もうからない商売だから。

田中:それでいうと、マンガ家や文筆業もそれに近いところがあるかなあ。マンガや小説よりも音楽のほうが実入りが少ないんですかね? JASRACが徴収してるお金がちゃんと作曲家に入っているのか問題になったりもしたし、基本事務所にとられちゃうイメージもある。

吉田:バンドマンの場合、ギャラの仕組みを聞かされずに仕事してることが多いですね。大儲けしてもあまり入らないんですよ。有名税の税額が高すぎるパターンになって、それでどんどん病んでく。

田中:なるほどなあ。マンガ家や小説家は個人事業主なので、お金の流れは明確ですね。

吉田:カブキロックスの氏神一番さんは一時期ものすごい病んでるのに人生相談にのる企画を続けていて、脳内ではずっと「お前はそんなにえらい人間か」と叱責の声が聞こえてたらしい。

田中:ひえー。

吉田:コンサートでもMCでしゃべる気力がないから、あらかじめ録音してそれを流して後ろ向いてたら非難されたり。

田中:それは事情を知らない観客だったら怒るでしょ(笑)。そこで「疲れてます」と手をあげられないのがやばいですよね。

吉田:リリー・フランキーさんも、自分のうつがやばくてもずっと人生相談連載続けてましたからね。

田中:うつだからこそ人の役に立ちたいのかも?

吉田:リリーさんの「週刊プレイボーイ」での人生相談、ボクが構成でお手伝いしてるんですけど、いまだに3回に1回くらいはガチで本当に本格的にヤバイ人からの相談があるんですよ。取材後もずっとメールが一方的に送り付けられてきたりとか、けっこうよくありますよ。

田中:リアクションしたらまたいっぱいきちゃうし、無視すると気持ちがすっきりしないし、なかなかややこしいですよね。リリーさんご自身は、まだ「最中」ですか?

吉田:だいぶ抜けたと思いますけどね。一時期は食べものの味がわからなくて、ピーク時の中森明菜のように常にタバスコをかけてましたね。

田中:人気商売は、明日の自分のポジションが保障されてないから、不安がどんどんたまってくんですよね。この業界、新興宗教にハマる人も多いですけど、そういった不安が宗教に走る一因なのかもしれない。それに、宗教にはコミュニティがあるから、ある種互助会みたいな部分もある。気持ち的にも安心だし経済的にもそうだし、二重に魅力的なんでしょうね。

吉田:まさにそういうケースが今、芸能界をにぎわしていますね。

田中:幸福の科学の……、って今度は新興宗教の話で盛り上がっちゃいそうなのでこれくらいにしておきましょう(笑)。

(つづく)

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書籍

「 うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」

田中 圭一

定価 1080円(本体1000円+税)

発売日:2017年1月19日

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    書籍

    「サブカル・スーパースター鬱伝」(徳間文庫カレッジ)

    吉田 豪

    定価 810円(本体750円+税)

    発売日:2014年11月7日

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